気の探知、というものがある。
これは私達クウラ軍、及びフリーザ軍で使用されている戦闘力を計測するスカウターと同様のことを、自前の……なに?技術?で行うものだ。
全ての生命が持つ“気”、私達が言うと“戦闘力”とか“エネルギー”になるんだけど、それらをコントロールする技術に地球人は長けている。
隠れた敵をスカウターも使わず見つけたり、スカウターを使われても見つからないように気を抑えたり。
そういった技術に関しては、力の差があろうとも侮れるものではない。
さて。
まぁ、何故そんな事を考えているか……なのだが。
「………むむ」
私は前回の宇宙遊泳 (片道切符)で大いに反省した訳だ。
気を探知出来ないせいで自分の母船を見失い、帰る事すら出来なくなった。
迷子ではないが、宇宙で孤立した訳だ。
断じて、迷子ではなく、ちょっとしたトラブルなのだが。
うん。
じゃあスカウター最初っから付けておけば?という話ではあるが、そうとも言ってられない。
第四形態ならば確かにスカウターを使えばいい。
だが、第五形態になると頭部はプロテクターのような外骨格が剥き出しになるため、物理的に装備しづらい。
というか、私の無造作に溢れるエネルギーの余波でぶっ壊れてしまう。
よって、第五形態ではスカウターが使用できない。
これは致命的だ。
もし気をコントロールできる敵を相手にした場合、逃げられたら追いかける事すらできない。
その時は惑星ごとぶっ壊せば確実に殺せるが、いつでもそんな荒技で解決する訳にもいかない。
なので、私は早急に気のコントロールを覚える必要があるのだ。
のだが──
「……むむむっ」
私は目を閉じて、周りを探る。
何も見えない中……第六感で……見える──
訳がない。
「……無理でしょ」
そもそも何?
気を探るって何なの?
私の脳裏にある原作の記憶、そこから生み出されたイマジナリー・ミスター・ポポ曰く──
『目だけでものを見ようとするから、いけない。気配や空気、それと勘。見るでなく感じる、これだいじ』
なのだが、これがなんとも抽象的だ。
気を感じる器官がある訳じゃないし。
『おまえ、雑念多い。それでは気、探れない』
うっさいな。
黙れ、イマジナリー・ミスター・ポポめ。
空中にイメージとして浮かんでいるミスター・ポポをかき消して、私はため息を吐いた。
上手くいかない。
私ってば武道の才能が無いんじゃないか?
生物としてブッチギリで超越しているだけで、戦う才能は無いみたいだ。
そも身体を動かすのが下手だ。
ちょっと前に惑星クウラの一つでお呼ばれした社交界でも、ダンスも下手過ぎて壁際で飯食うだけだったし。
こんなので小難しい技が使える訳もなく。
私にできるのはエネルギーを放出してビーム撃ったり、思いっきりブン殴ることぐらいだ。
なんだかなぁ。
不器用なのかなぁ、私って。
「はぁ……ん?」
口をへの字に曲げながら、重力室を出ると……サウザーが待機していた。
「お疲れ様でした、クウラ様。成果は……よくないようですね?」
「……分かる?」
「お顔を見れば」
そんなに情けない顔をしているのか、私は。
タオルを受け取って汗を拭きながら、口を尖らせる。
「そもそも、こんなの無理なんだって。サウザーもできないでしょ?」
「……いえ、私も多少ならば見えますが」
「でしょ?やっぱ……え?出来るの?」
「まぁ……はい。多少は、ですが」
「はぁ?」
サウザーは裏切り者だったらしい。
敵だ、コイツ。
私のことを裏切りやがって!
「……クウラ様、お気を悪くなされたのでしたら申し訳ありません」
謝らないで欲しい。
まるで私が癇癪を起こしているみたいじゃないか。
寛大な心で許してあげよう。
「別に気にしてない」
「しかし」
「気にしてないから」
「なら良いのですが」
何だその目は。
やれやれ仕方ないなーって顔をするな。
「でもさ、どうすれば出来ると思う?気のコントロール」
「気のコントロール……でしたら、得意な星の住民を見つけて、その技術を接収するというのは?」
接収って……サウザーは私が教えを乞う、ってのを納得していないんだろうな。
まぁ、自分の上司が誰かに師事している所なんて見たくないよねー、それは分かる。
「気のコントロールが上手い宇宙人……ヤードラット星人とか?」
「あぁ、そういえば居ましたね。現在、フリーザ軍が侵略中だそうですが」
「……あ、そっか。ギニュー特戦隊が侵略中、なんだっけ?」
私は顎に手を当てつつ、思い出す。
ギニュー特戦隊。
フリーザ軍の精鋭であり、隊長のギニューが率いる凄い奴らだ。
小っ恥ずかしいファイティングポーズを見せてきて、それで私の反応が鈍いと勝手にショックを受けるため、気を遣わざるをえず……ちょっとばっかしめんどくさい奴らだ。
「そうです。ヤードラット星人は不思議な術を使います。現在も侵略に対して、その不思議な術とやらで抵抗しているそうですが、時間の問題ではありますね。侵略完了には数年かかるかと」
「ふーん……じゃあ、なしかな。フリーザとはいざこざしたくないし」
侵略中の惑星に手を出すと、フリーザに気を使わせちゃうだろうし。
最悪の場合、宇宙の帝王同士の姉弟喧嘩が始まってしまう。
それは避けたい。
「クウラ様は弟君を本当に大切にしていらっしゃる」
「大切……まぁね。家族は大切にしなきゃね」
いくら宇宙規模の大悪党とはいえ、弟は可愛いものだ。
致命的な別れが起きるまでは、仲良くしていたい。
……感情論とは別に、宇宙船の用意とか、スカウターの用意はフリーザに頼まないといけないしね。
喧嘩しちゃったら、クウラ軍の装備の質が落ちてしまう。
「しかし何故、急に気のコントロールなど会得しようと思ったのですか?何かお考えがあるのですか?」
「……ま、私も高みを目指そうと思ってね」
決して、宇宙空間に取り残されたのはトラウマになってるとは口に出しても言わないが。
「なるほど。素晴らしい向上心です。流石はクウラ様です」
戦闘力というか力というか、強さに関しての話ならば、サウザーはこうして素直に敬ってくれる。
他はなんか最近、杜撰な扱いになってるけど。
こうして素直に尊敬されると、ちょっとむず痒いんだけどね。
「それで、えーっと、今日の予定は?」
「これから惑星クウラNo.2に戻り、新たな採用枠の面接となります」
「……そうだったね」
惑星クウラNo.2、そこは私達が補給拠点などにしている惑星で、原住民は既に皆殺しになっている。
めちゃくちゃ抵抗してきた戦闘民族で、損得を無視して最後の一体まで襲いかかってきたので……まぁ、私が星の表面ごと焼き尽くした。
結果、禿山みたいな惑星が出来ちゃったので、勿体無いと思い、私達の拠点としたのだ。
そんな惑星クウラNo.2で、クウラ軍の最終面接が行われる。
ちなみに最終の面接官は社長ならぬ軍団長だ。
しっかし、最終面接。
これが本当に面倒で。
宇宙のならずものコルド一族の長女、クウラの軍に入ろうとする奴ってさ、どんな奴なの?ってワケで。
まー、これがもう、碌でもないカス揃いで困る。
戦闘力が足りないとか、知力不足とかならまだしも、野蛮な奴らが多いのなんの。
というか、それどころか、私を殺して成り上がろうとする自惚れ野郎まで居る始末。
そういうバカは両腕両足と鼻をへし折って宇宙に放逐する必要があるわけで、手間が掛かるのだ。
あーめんどくさ。
でも、私が最終面接しないとカスが軍に入って来ちゃうかも知れないしなー。
「……面接が終われば、どこかにバカンスに行かれては?例えば、そう、クウラ様のお気に入りの“地球”などは」
不機嫌そうな私を宥めるべく、サウザーが提案してくる。
でも、地球はダメだ。
前回も「原作介入しないぞ!」と意気込んでいたのに、全然介入しちゃったし。
多分そんなに大きく流れは変わらないとしても、色々と干渉しているだろうし。
……うん?
干渉しちゃってるなら、現状ちゃんと原作通りに進んでるか観に行った方が良いのかな?
でも、それってリスクあるよね。
それこそ台風の中、田んぼが大丈夫か観に行くようなもので、リスクに上乗せしてリスクを重ねるような感じ。
それは流石にやめといた方がいいよね。
「……行く」
でも、我慢できないので行く。
だってさー、我慢してたんだよ?
くっそ不味い宇宙料理を食べてさ。
前回の来訪で買っといたゲームも100周近くクリアして飽きてきちゃったし。
一度、地球の娯楽を摂取してからだと、宇宙の食事も遊戯も陳腐に見えてしまう。
悲しいかな、私は地球の重力に惹かれた哀れな宇宙人なのだ。
「でしたら、今日の面接も頑張れますね?」
「……まぁ、うん」
何でこんなガキをあやすような言い方するんだ。
バカにしてんのか、サウザー。
しかし、ここで怒って地球へのバカンス予定を潰されても嫌なので、怒りは飲み込んでおく。
私が大人でよかったな、サウザー。
まったく。
「私はクウラ様の手となり足となり、多くの星を侵略して見せましょう!邪魔するものは皆殺しに致します!」
「……あ、うん」
惑星クウラNo.2、巨大拠点の一室。
自信満々に語る戦闘民族さんを前に私は無表情に頷いた。
そして、サウザーがそんな私を見て、額に手を当てて頷いた。
「では、ゴシャム様。結果は追って知らせます。ご退室を」
何をどう思ってか自信満々な候補者がドヤ顔で部屋を退室した。
静かになった部屋で、サウザーはため息をひとつ吐いた。
「クウラ様、あの方は──
「いらない」
「でしょうね。不採用とさせて頂きますが……ああいうタイプは暴れますが、如何しますか?」
「サウザーの方で処分しておいて。余裕でしょ?」
「畏まりました」
はぁ、私って人望ないのかな。
マジで戦闘狂いの野蛮なカスどもしか来ない。
酷いもんだ。
私が質問する「もし侵略対象の惑星に住む原住民が、無抵抗に降伏したらどうする?」って質問に対して──
「反抗の芽を摘むために、根絶やしにします!」
「見せしめに半数を殺します!」
「そんなクズどもはクウラ様の配下に相応しくないので、皆殺しにします!」
とかなんとか。
命を何だと思ってるんだ。
命は代えの利かない資源なんだぞ。
そうそう容易く殺すような野蛮人は、我が軍に不要だ。
若干グロッキーになってる私が眉間を揉んでいると、サウザーが頷いた。
「お疲れの所申し訳ありませんが、次で面接も最後となります。よろしいですか?」
「あ、うん。いいよ、さっさと終わらせよう」
私が頷くと、サウザーがスカウター越しに連絡を入れた。
外で待機している別の配下へ連絡しているのだろう。
机に置かれた水を飲んでいると、部屋の扉が開いた。
最後に面接に来たのは──
「……んえ?」
見覚えのある子供だった。
子供、といっても最初に会った頃より大きくなっていたが。
「こ、候補No.12!ラディッツです!よろしくおねがいします!」
……うん、ラディッツだ。
孫悟空ことカカロットの兄、ラディッツだ。
まだ幼さが残ってるけど。
いや、何でここに?
「……あー、君ってフリーザ軍に所属してなかったっけ?」
私の言葉にサウザーが目を瞬いた。
この子供のサイヤ人と、私に面識があることに驚いたのだろう。
いや、サウザーも会ったことあるでしょ……忘れてるのか。
まぁ、私や、サウザーに比べれば戦闘力が低過ぎるし、覚えてなくても仕方ないかな。
しかし、ラディッツは私に覚えられていた事が嬉しかったようで、満面の笑みを浮かべていた。
「は、はい!でも、こちらで受かれば転職しようと思って!」
簡単に言う。
フリーザも自軍に保有しているサイヤ人が、勝手に私の軍に移ったら困るだろう。
そんな事もわからない……のは仕方ないか。
サイヤ人だし、子供だし。
「うーん、ま、いっか。じゃあ質問していくけど……戦闘力は?」
「1000です!」
自信満々に答えているが、実際に他の宇宙人に比べれば高い方だ。
だが、サイヤ人の平均としてはまだ低い。
まぁそもそも子供だし、そこは仕方ないけれど。
「では、えーっと……もし侵略対象の惑星が降伏してきた時、侵略者であるラディッツくんはどうする?」
「え?うーん──
何て答えるだろうか。
まぁ、何と答えてもイチャモンを付けて不採用にするけど。
フリーザといざこざ起こしたくないのもあるけど、原作に介入したくないんだよなぁ。
というかそもそも、何でクウラ軍に面接に来ているんだ、ラディッツ。
私が内心ため息を吐いていると──
「クウラ様の配下となるのであれば、下僕となるよう迎え入れるべきです!」
……困ったな。
今日の面接者の中で、一番マシな回答だ。
「……ほう」
ほう、じゃないよ。
感心しないでよ、サウザー。
ここでラディッツを迎え入れるのはダメなんだよね。
彼には悟空やピッコロと戦ってもらって、ベジータ達にドラゴンボールの存在を教えてもらう必要があるし。
「……うーん、でも足りないかな」
別に嫌いって訳じゃないけど、全宇宙のためにも仲間にはしたくない。
私の言葉にラディッツがショックを受けたような顔をした。
うげっ、子供のそういう顔見るのちょっとダメなんだよね。
やめてやめて。
ちょっとばかしダメージを受けている私に、サウザーが片眉をあげた。
「クウラ様、戦闘力ならば1000もあれば十分かと」
サウザーの言葉にラディッツが表情を明るくした。
いやね?
確かにね?
うちの軍は武闘派って訳じゃないから、戦闘力1000を切ってる人もいるけどね?
ここでラディッツを迎え入れたら原作崩壊、地球滅亡、宇宙崩壊まっしぐらだ。
何としても言い訳を考えなければならない。
私はラディッツに目を向けた。
「ラディッツくんの戦闘力自体は問題ないかもしれないよ?」
「そ、それなら──
「でもね。うちの軍はチームワークが大事なの」
「……チームワーク?」
何とか言い訳を振り絞る。
出来るだけラディッツが傷付かず、サウザーも納得するような言い訳を。
「そう。個人の力量も大事だけど、仲間と事を成し遂げるには連携が必要だから」
「で、でも俺は……」
「別に私もラディッツくんが嫌いって訳じゃないよ。だから、もう少し強くなって、もう少し人に優しくなれたら……その時はまた来てね」
私のお祈りメール (口頭)に直撃したラディッツはしょんぼりとした顔で部屋から出て行った。
その直後、サウザーが私の方へ顔を向けた。
「よろしいのですか?」
「え?何が?」
「ラディッツと言ったか、あの子供……未熟ですが、見所はありました。素行の荒いサイヤ人とはいえ、教育できる範疇だと私は思いました」
「んー、まぁ、そうだけどね」
サウザーの言ってる事なら正しい。
なんか私の知ってるラディッツより丸くなってたし、別に軍に入れてもいい基準ではあった。
でもダメなんだよね。
個人の資質じゃなくて、これからやって貰わなきゃならない事があるし。
手元に置いてたら、情が湧きそうだし。
歯切れの悪い私の返事に、サウザーは少し目を伏せた。
「いえ、クウラ様が望まないのであれば結構です。私から言う言葉は何もありません」
「そっか。ならいいけど」
気を利かせてくれたサウザーを横目に、私は頷いた。
ラディッツにもサウザーにも悪い事したなぁ、とちょっと反省。
ま、ちょっとだけね、反省。
それはそれとして、地球へのバカンスが楽しみだ。
今回は何をしようかな。
インスタント食品をいっぱい買いたいな。
あ、あと新作のゲームも欲しい。
あとパフェ食べにいこう、カレーも。
「……ふふん」
私の脳内は既に地球のことでいっぱいで、ラディッツのことはすぐに思考の隅っこに追いやられていた。
◇◆◇
惑星クウラNo.2。
本拠点グレート・クウラ要塞内部。
「クウラ様の配下になるには、力が必要なんだ。それと、チームワーク……頼れる部下とか?」
オレ、ラディッツは惑星クウラNo.2の要塞を歩きながら考えていた。
あの日、あの時、強烈な閃光のようにオレの脳を焼いたクウラ様。
あの方の下で働くことこそが、オレの望みなのだと教えてくれた。
だからこそ、今日まで頑張って訓練してたし、色々な惑星を侵略した。
ベジータやナッパの野郎に馬鹿にされても、泣かないように頑張ってきた。
だけど、ダメだった。
オレはクウラ軍に入る資格はないという。
それでも、オレのことを嫌いじゃないと言ってくれた。
軍に入るには何が必要かも教えてくれた。
「オレ、もっと強くなる。強くなって、クウラ様に認めてもらうんだ」
そのためには力が必要だ。
それと、信用できる部下も。
信用できる部下……だめだ。
フリーザ軍の奴らはサイヤ人ってだけで見下したり、怯えてきたりする。
なら、同じサイヤ人を部下にするべきだ。
でも、サイヤ人の生き残りはベジータやナッパ……オレなんかより数段強いやつだ。
しかも意地悪だ。
あんな奴らを部下には出来ない。
「……あれ、待てよ?」
そういえば、オレの弟は別の惑星に送り込まれていたな。
ということは、惑星ベジータの崩壊から生き延びている筈だ。
そいつを部下にすれば──
「……くっくっく。オレってば運がいい」
まずはオレ自身、強くなる。
強くならなきゃ、サイヤ人は従わない。
辺境の星に送り込まれた質の悪いサイヤ人だからオレよりは弱いだろうが……圧倒的な戦闘力の差を見せなければ従わないだろう。
だから、強くなる。
「……そしてクウラ様に認めて貰うんだ。くくく、完璧な作戦だ」
オレは拳を強く握り、笑みを浮かべながら宇宙船ポッドに乗り込んだ。
新たな目標、だが現実味のある目標に向けて足を進めるために。