ブルマの実家に居候させて貰って、三日が過ぎた。
その間にブルマと一緒にスイーツ巡りに出かけたり、ショッピングも楽しんだ。
……化粧品やら服やらは分からなかったが。
ともかく、この三日で随分と仲良くなった。
友達と言っても差し支えないだろう。
うん。
そういえば、友達と呼べる関係は初めてだ。
……いや、ぼっちじゃないよ?
でもさ、サウザーとは仲が良いと言っても上司と部下だし、フリーザは弟だし。
他の面々もどこか私に対して畏れを抱いていて、遠巻きな関係になってしまっている。
だから、ちゃんとした友達は初めてだ。
あぁ、あと私がブルマの実家でシャワーを浴びている間にウーロンとかいう豚が覗きをしようとしたそうで、ブルマにボコボコにされていた。
……凄く性的嗜好のストライクゾーンが広いよね、感心したよ。
肌が紫色で尻尾生えていようと、見た目が女なら発情できるらしい。
びっくりだ。
そういう訳でウーロンは私に対する接近禁止令が出ていた。
ので、もっぱらプーアルの方を可愛がっていた。
プーアルは可愛い。
こっちは小動物みたいだし、スケベじゃないし。
宇宙に持って帰って飼いたいぐらいだ。
まぁ、そんな訳で。
「お世話になった。ありがとう」
私が頭を下げると、ブルマの横から母親が顔を出して来た。
「いいのよ〜、いつでも来ていいからね!また来てね!ブルマが寂しがっちゃうから」
「もう、母さん!」
ブルマに咎められて尚、おほほと笑っている。
そんな母親とブルマを他所に、ブルマの父親、ブリーフ博士が口を開いた。
「わしも同意見じゃ。また来てくれ」
「ありがとう」
「あの宇宙船ポッドとやらも、もう少し調べたいしの」
ブリーフ博士が言っているのは、居候二日目に庭へ移動させた私の宇宙船ポッドについてだ。
ブリーフ博士はこの宇宙船ポッドが大層気になっていたようで、許可を出したら色々と調べていた。
カプセルコーポレーションで、宇宙船が開発される日も近いのかも知れない。
そうしてブリーフ博士と話を終えた私は、ブルマへ目線を向けた。
ブルマも母親にイチャモンをつけおえたようで、ようやく私と視線があった。
「このスカウター、借りておくからね。ちゃんと返して欲しかったら、また来ること。いいわね?」
「うん。ちゃんと返して貰いに、また来る。地球に来た時は、ここに寄るようにするから」
「ならよし。宇宙に帰っても元気でね?」
「ありがとう、ブルマも。元気で」
ブルマと軽くハグをする。
ちなみに私は細心の注意を払って、だ。
そうして私はリモコンを操作して、庭に置いてある宇宙船ポッドを操作した。
……ポッドが開いて、中に乗る所を見られている。
なんかちょっと気恥ずかしいんだけど。
「それじゃ、さよなら」
「ううん、“またね”」
「……またね」
私が手を振ると、見送りに来ていたブルマも、ブルマの両親も、プーアルもウーロンも手を振ってくれた。
そうして私は地球を後にしたのだった。
◇◆◇
「はぁ〜〜〜〜〜〜っ………」
「神様、しっかり」
ポポの言葉に気を落ち着かせながら、息を深く吐いた。
地球から途轍もなく強大で、邪悪な気が離れていく。
世界の危機が去ったのだと思えば、安堵の息も吐きたくなるだろう。
「はぇー、神様もため息つくんか。なんかあったか?」
ここは天界。
稽古をつけている少年、孫悟空へと視線を戻した。
「お前にはまだ分からんだろうが、気の探知が完璧になれば分かるだろう。私の気苦労もな」
「ふーん、なんかすげぇ奴でも居たんか?」
「あぁ。だが、この星から離れていく。少なくとも危機は去ったという訳だ」
「へぇ……そいつ、神様よりつえーのか?」
「私にも勝てん相手ぐらい、いるだろう。それだけ世界は広いということだ」
「おどれぇたな」
孫悟空は驚きながら、何度か頷いた。
我が分体、ピッコロ大魔王を倒した少年、孫悟空。
彼は確かに強いが、この地球の神である私には僅かに劣る。
人の身でありながら神へ迫る実力を持っているが……。
「だからこそ、そんな脅威にも勝てるように鍛錬すべきという訳だ。ほれ、瞑想をしていたんじゃなかったのか?」
「あ、いっけね。ふひ〜〜〜……」
孫悟空は座禅を組んで、瞑想を始めた。
彼の単純な身体能力であれば、私に勝る。
だが、私の方が気の扱いが上手く、武術に長けている。
逆に言えば、気の扱いを覚え、武術を極めれば私に勝るということだ。
私は視線を頭上に上げる。
まだ感じている、強烈な気。
もし牙を剥けば、世界を滅ぼしうる脅威。
それに打ち勝つには──
「明日から、修行も厳しくしていくぞ。よいな?」
ピッコロ大魔王の残した分身だけではなく、その先を見据えて……より強くならなければならない。
世界はきっと、この少年の肩に乗っているのだから。
◇◆◇
太陽系の外側。
超大型母船にて。
そこで私は──
「…………なんでこんな目に」
「クウラ様。反省の色が見えませんよ」
サウザーに監視されながら、始末書を書かされていた。
内容は軍の備品、その紛失に関する反省。
最新型のスカウターをブルマに渡した私は、叱責を受けているのだ。
この軍で最も偉いのは私なのに。
そも、軍の備品を紛失した場合の規則を作ったのは私だ。
まだ荒くれものが多かったクウラ軍にて、備品の横領が多発していたため、罰則を設けたのだ。
まさかそれが自分に降りかかるとは思えなかった。
「そもそも、なんでこんな大事にしてるの?軍の備品は私のものだと思うけど」
「軍の備品は軍のものです。クウラ様個人のものではありません」
きっぱりと言われて、私は口元を歪めた。
「でも、スカウターぐらい良いじゃん」
「よくありません。それに、クウラ様のスカウターはクウラ様の戦闘力に耐えられるよう作られた特注品です。普通のスカウターぐらい、ではありません」
「そうなの?」
そうだったんだ。
普通に軍の備品で余り散らかしているスカウターと同じ扱いにしちゃった。
「ですので、せめて宇宙船ポッドにある予備の旧式スカウターを渡せば良かったのです。何故そちらを渡さなかったのですか?」
「…………」
「……もしかして、ですが……クウラ様。予備のスカウターを既に、勝手に売った……と言いませんよね?」
サウザーは笑みを浮かべながら……眉間に皺が寄ってる。
なまじ顔が良いから、威圧感が凄まじい。
「……え、えへっ?」
「クウラ様っ!」
「そ、そんな至近距離で怒鳴らなくても聞こえてる……」
ちらとサウザーの顔を見ると、凄い形相になっていた。
「どうやら、始末書は2枚必要なようですね?」
「……はい」
どうしてこんな目に。
ガミガミと叱られながら、私は口元を窄めて……目線を逸らした。
庶務室に連行され、軟禁されてから三日が経過した。
「まぁ、こんなもので良いでしょう。受理しておきますが……今後は勝手に、軍の備品を売ったり譲渡したりしないように、お願いいたします」
サウザーが私の提出した始末書と、反省文の束を持ちながら鼻を鳴らした。
「……うん」
指が痛い。
そもそも書類なんて電子で良いのに、なんでわざわざ手書きで反省文を書かされたんだ。
こんなの体罰でしょ。
体罰反対!
上層部には、クウラ軍のクリーンな運営を求む!
あ、私がトップか。
軍規を改定して、反省文は電子文書での受け取りを許可するように明記しよう。
うん。
新たな決意を胸に、私は執務室から出る。
サウザーめ。
私の買って来たカレーを美味そうに食べてた癖に、購入費がスカウターをブルマに質へ出した金だと知った瞬間に手のひら返しやがって。
これはやけ食いしなきゃ気が済まない。
カップラーメンでも食べよう。
そうと決まれば食堂へ行かねば。
できれば玉座の間で食べたかったが、この間、粉末のコーンポタージュを玉座に溢した所為で、サウザーから玉座の間で汁気のある飲食を禁止されている。
しゃーなしの食堂。
玉座の間に置いてある段ボールからカップ麺を二つ手に取り、食堂へ向かう。
何故、二つか?
勿論、二つ食べるからだ。
そうして右手にカップ麺、左手にカップ麺を携えた私は食堂へと到着したのだ。
◇◆◇
クウラ軍は、コルド大王が保有していた私用の軍隊が元となっている。
といっても、戦闘員の殆どはその素行の悪さからクウラ様によって処分されている。
文官の奴らも盗みやら横領なんかで処刑されている。
だから、元コルド軍から残った奴は少数だ。
クウラ様の戦闘力を恐れて大人しくしてる奴や、素行の良い文官達だけ。
俺、レモもその一人だ。
そして、後者でもある。
俺は戦闘員じゃない。
裏方の仕事をしていて、今はクウラ軍の事務をしている。
仕事の内容は色々だ。
長い勤続年数のお陰で、何でも卒なく出来るから、何でもやらされている。
宇宙船のマニュアル操縦だってお手のものだ。
料理だって、それなりに出来る。
「ふぅ……さて、めし、めしっと」
仕事上がりの俺は夕食を食おうと、食堂まで来ていた。
まぁ、ちと混んでるが座る席はあった。
券売機で食券を買い、食事を受け取り、席につく。
今日の日替わり定食は……なんだ、昆虫食かよ。
ぶよぶよとした白い幼虫に少し顔を顰める。
クウラ軍の食堂は担当の調理当番によって、食事の質が大きく変わる。
んで今日はハズレだな。
無論、日替わり定食じゃなくて、指定メニューならクオリティに大きく差が付くことはないんだが……その分、割高だ。
別に節制しなきゃならない訳じゃないが、やすいに越したことはない。
だから俺は、こうして日替わり定食を注文するのが日課になってる訳だが……。
「同席していい?」
「ん?あぁ、いいぞ」
声をかけられて、反射的に頷く。
食堂も人でいっぱいだった。
空いてる席はここしか無かったのだろう。
そう考えて頷いて、そのまま視線を上げれば──
「……っ!?」
息を呑んだ。
そこにはこの軍で最も偉くて、最も強い、クウラ様が居たからだ。
新参のクウラ軍の兵士は、クウラ様のことを真の意味で恐れてはいない。
話の分かる上司で、ちょっと我儘で、それでも優しい強者だと思っている。
だが、古くからクウラ軍に居た……特にコルド大王の下から移籍した古参の兵士は、クウラ様のことを恐れている。
へらへらと笑みを浮かべながら、何やら大きめのカップ状の容器を机に置くクウラ様を見て、俺は息を呑んだ。
「な、なんのようですかい?」
「用事?ないよ。カップ麺食べたかったのに、席がなかっただけ」
箸を手に取り、パチパチと器用に鳴らしている。
見た目の年齢も、成人しているか、していないか、微妙なぐらい若く見える。
覇気のない笑みを浮かべながら、姿勢を崩す姿は決して強者に見えない。
だが、古くからクウラ軍に居た兵士は覚えている。
軍規を犯した兵士が爆殺される様子を。
拳一つで上半身を吹き飛ばされる様子を。
目から放つ光線で蒸発した様子を。
覚えているのだ。
彼女の機嫌を損なえば、処刑される。
それは俺たち古参の共通認識だ。
そう怯える俺に、クウラ様の視線が向いた。
「……というか無理に話しかけて来なくてもいいよ?上司と同席させられて、ただでさえ、ご飯も食べづらいだろうし」
そう思うなら別の席に行って欲しい。
喉まで言葉が出かかったが、飲み込む。
「ははは、いや、そんなことは……」
苦笑するしかない。
絶対的な強者を前にすれば、意見など言える筈もない。
取り繕って、飯を口にする。
しかし、極度の緊張から味がしない。
そうしていると、甲高いアラーム音が鳴った。
思わず背筋がピンとした。
どこの誰のバカが鳴らしたのか……そう思っていると、クウラ様がスカウターを弄って……アラームを止めた。
「よしよし」
そうして、手元のカップ状の容器を開けると……凄まじく良い匂いがした。
思わず目線を向けると、その容器にはヌードル状の食べ物が入っていた。
レーションのようなものだったのかと、俺は思いつつ……いいや、レーションにしては美味そう過ぎるなと考え直した。
「いただきます」
クウラ様は何か言いつつ、箸でその麺を取って口に運んだ。
ずるずると啜るような音が響くと共に、クウラ様は笑みを浮かべていた。
「うーん、これこれ……」
そんな仕草を見ていると、見た目相応の……いや、それよりも幼い少女にすら見えてくる。
だが、その実、老兵である自分よりも歳上であり、何万倍も強いというのだから恐ろしいものだ。
俺が勝手にビビってると、クウラ様が箸を止めて目を向けてきた。
「ん?気になる?」
「い、いやぁ、気になるといえば気になりますが……」
嘘を吐くのは失礼に当たる。
確かに気になりはしているのだ。
何を食っているのかサッパリ分からないのだから。
「これは、カップ麺。お湯を入れて数分で出来るインスタント食品だよ」
「お湯を入れて数分……」
やはり軍用のレーションみたいなものか。
それにしては美味しそうだし、実際にクウラ様も美味そうに食べているが。
「……あげようか?二つ持ってきてるし、席代ってことで」
クウラ様がもう片方の手をつけていないカップ麺とやらを渡してくる。
「あ、ありがとうございます……は、ははは」
んなことされたら、断れる訳がねぇんだよな。
甘んじて、震える手付きでカップ麺を受け取った。
そして蓋を開けて……鼻腔を擽る匂いに唾液を飲んだ。
俺はさっきまで食事に使っていたフォークを手に取り、カップ麺の中に突っ込み……そして、口に含んだ。
「……っ!?」
美味い。
奥深い味とは言い難い、独特な塩味と辛味。
ここまで身体の「美味い」を直接刺激してくるような、ストレートなものは初めて食べた。
「美味しい?」
「は、はい。美味しゅうございま、っす」
「はは、語尾が変になってる。おもしろ」
クウラ様に笑われたが仕方あるまい。
それだけ美味で、それだけ感動したのだから。
こんなものがお湯を入れて数分で出来ると言うのだから、驚きもする。
「これはどこで購入を?」
「ん?んー、それは秘密」
「秘密、ですか?」
「噂になったりして、悪い奴らに荒らされたくないからね」
「それは、仰る通りですね……」
クウラ様の言葉はもっともだった。
食事に対する欲求は、誰もが持ち合わせている。
クウラ様を恐れぬ不届きものが、その惑星に攻め入れば……最悪の場合、このカップ麺が食べられなくなってしまうだろう。
「クウラ軍の科学者達は、これを作れるようになって欲しいんだけどね。フリーザ軍から買ってるまずーいレーション、食べたくないし」
「ま、まずいですか」
クウラ様はカップ麺を啜りつつ、俺へ目線を戻した。
「そう思わない?食べたくないでしょ、あのまずいレーション」
「それはまぁ、確かにそう、ですね……」
これに同意するということは、フリーザ軍のレーションを不味いと言っている事に等しい。
それはある意味恐ろしいことで。
だとしても今、目の前にいるクウラ様を優先するべきだと俺は判断した。
カップ麺を啜りながら、俺は頷き続けた。
「……ん、ごちそうさま」
そうして、戸惑いながら緊張している俺よりも早く、カップ麺を食べ終えたクウラ様が席を立った。
「ごめんね、食事の時間を邪魔して」
「い、いえいえ、そんなことは」
確かに邪魔はされている。
しかし、俺だけではない。
周りにいる兵士達も気が気ではないって顔色だ。
だが、そんなことを指摘できる訳がない。
クウラ軍は軍に所属している兵士のものではない。
兵士も含めて、食事も、権利も、空気すらも、全てクウラ様のものだ。
だから何も言えない。
「そっか。じゃあ、お仕事頑張ってね……レモ」
手を振り、クウラ様が去っていく。
咄嗟にあれこれと言いそうになったが、幸か不幸かクウラ様はすでに席を離れていた。
皆はクウラ様が居なくなって安堵の息を吐き、少し冷めた料理を口にし始めた。
だが俺はまだ、固まったままだった。
それは仕方のない話だろう。
「クウラ様……俺なんかの名前、知って、覚えてたのか」
ぽつりと漏らした言葉は喧騒に飲まれて、消え失せた。
そして、目線を下げて……少し湯を吸って太った麺を口にした。
明日からも頑張ろう、なんて柄にもないことを考えていた。