「ここが私の宇宙船。ようこそ、二人とも」
私が案内した先はメインブリッジ。
何人かの戦闘員が部屋を警備している部屋で、巨大なモニターが全面を覆い尽くし、宇宙を投影している。
「ぉ、おぉ……?」
ブロリーはその光景を物珍しそうに見ている。
「…………」
対して父親のパラガスは少し緊張した様子だ。
無理もない。
10年以上、あんな何もない惑星に居たのだから。
ブロリーに至っては、物心付いた頃からあの小惑星に居たからね。
宇宙ってものが珍しいんだろうな。
そんな事を考えつつ、視線をパラガスへ向ける。
「じゃあ、まずはパラガス。そもそも、なぜあんな星に?」
「はい、実は──
椅子に座りながら問いかけると、パラガスが過去を語り出した。
惑星ベジータで生まれたブロリーは、生まれながらに凄まじい戦闘力を持っていたこと。
そして、そのブロリーの戦闘力が息子であるベジータ王子を上回るかも知れないと考え……ベジータ王がブロリーを処分すべく企んだのだと。
そして、ベジータ王によって過酷な僻地である小惑星バンパにブロリーは追放された。
そのブロリーを追って、パラガスの宇宙船は不時着し……今の今まで遭難していた。
なんて昔話。
「ふーん、そうなんだ。それは辛かったね」
……なんか私の知ってる彼等の過去と微妙に違う気がするけど、まぁいいや。
目的は変わらない。
ブロリーを殺さず、尚且つ孫悟空へ被害を及ぼさないようにする妙案。
それが彼等をクウラ軍に引き入れて、孫悟空に会わせないよう管理することだ。
孫悟空の冒険には関わらせない。
尚且つ、殺しもナシ。
ふふふ、やっぱり私って頭いいな。
天才軍師、智将クウラ様って名乗っちゃおうかな。
「はっ、何もない惑星でっ、助けも来ず……それもこれも、ベジータ王の……っ!」
パラガスが恨み節を口にしてる。
恨んで当然だ。
というか、ベジータ王はカスだし恨まれても仕方ない。
「でも、ベジータ王は死んだよ」
「……何ですと!?」
「弟のフリーザが処分したからね」
私は机の上から銀紙に入った小さなチョコレートを手に取り、一つ口にする。
地球産の甘くて美味しいやつだ。
「なんとっ、フリーザ様が?」
「クーデターでも起こそうとしてたって。まぁ元々、従順な奴じゃなかったし……欲深い奴だったからね」
「それはそうですが……そうですか、あのベジータ王が……」
パラガスが染み染みと頷いて、少し悩ましそうにしている。
それもそうか。
無人惑星での辛い日々を生きてこれたのは、きっとベジータ王に対する復讐心という生き甲斐もあったからだろう。
それが実は、昔々に死んでたよーなんて言われたら、虚無感も感じるだろう。
なんて観察しつつ、私はもう一つチョコレートを手に取り──
「ん?」
ブロリーが私を見ている事に気付いた。
正確には私が持ってる、銀紙を外したチョコレートを見ているようだ。
「……食べる?」
私が差し出すと、ブロリーはパラガスの方を見た。
パラガスは私を一瞥して、頷いた。
「クウラ様、ありがとうございます……ブロリー、いただけ」
命令のような口調だったが、ブロリーは頷いて私からチョコレートを手に取り、そのまま口に含んだ。
「ん……んっ……んぐっ!?」
確かめるように口の中で転がし……そして、目を輝かせた。
その間、ずっと唸り声をあげていた。
なんか見てて面白いな。
ペットに餌やりしてる気分だ。
「ブロリー、礼を言うんだ」
パラガスの指示に、ブロリーは頭を小さく下げた。
「あ……っ、ありがとう、ございます……?」
「うん。どういたしまして」
うーん、こうして見ていると、惑星シャモを破壊するような、殺戮と暴虐の限りを尽くす悪魔のブロリーに成長するとは思えないな。
だって、ただただ純粋なサイヤ人の子供って感じだし。
……そういえば、ブロリーの首輪について聞かなきゃならないんだった。
「ところでパラガス。ブロリーの首ついている……その装置は?」
「あぁ、これですか。これは──
パラガスがポシェットからリモコンを取り出した。
宇宙船ポッドを操作するリモコンによく似た装置だ。
それを見た瞬間、ブロリーは怯えるような仕草で後退りした。
……なんだ?
「ブロリーは時折、我を失うことがあって……この装置で電流を流すことで抑制しています」
「……なるほど」
ちら、とブロリーを見る。
怯えた様子でリモコンを見ていた。
……電流を流して“しつけ”をするなんて。
ちょっと……うーん……まぁ、合理的ではあるけど──
「ブロリー、ちょっとおいで」
「……う、うぅ」
ブロリーは怯えながらも、私の側に近寄ってきた。
さっきチョコをあげたからか、少しは警戒心も薄れたようだ。
ブロリーの目を見る。
「…………な、なん、ですか?」
私はそんなブロリーの首輪に触れて──
「えい」
ブチッと、引き裂いた。
機械の部品が粉砕されて、パラガスの前に転がる。
「な、なにをしているのですか!?クウラ様!?」
驚愕するパラガスと、呆然としているブロリー。
そして、ため息を吐いているサウザー。
……なんでため息を吐くんだ。
私はパラガスに視線を戻す。
「だって、必要ないでしょ?ブロリーが暴走しても、そこのサウザーの方が強いし。そのサウザーより、私の方が強いし」
「な、っ、クウラ様が、ですか……!?」
パラガスは驚愕して、サウザーに視線を向けた。
……あれか、私が強そうに見えないから……私をフリーザの七光りだとでも思ってたのか?
権力だけで軍のトップに立っていると?
なんかちょっと気分悪いな、それは。
そんな私を見て、サウザーは片眉を上げつつも、パラガスを一瞥した。
「事実です。クウラ様は私よりも遥かに強く……このクウラ軍において、いえ、宇宙で最も強い御方でございます」
……いや、宇宙で最も強いは言い過ぎだけど?
「な、なんと……そこまでとは……」
驚愕して震えるパラガスを横目に、ブロリーに視線を戻す。
さっきの話を聞いても、私に対して恐怖していないように見える……ただただ、何故、首輪を外したのか分からず、驚いているように見えた。
「分かった?ブロリーが暴走しても、サウザーか私がいれば、それだけで大丈夫。電流なんか流さなくても、私が“しつけ”をしてあげる」
「そ、そう仰られるのであれば……」
パラガスは納得していないようだが、それでも頷いた。
さっきの話を聞いて、私に逆らえる訳がないといえば、そうなのだが。
「それで、パラガス。フリーザ軍に帰る気はある?それとも、私の軍に来る?」
というか、目の前でブロリーの制御装置ブッ壊された所為で断れないだろうけど。
「それは無論、クウラ様の軍に……迎えて頂けるのであれば、是非に……!」
頭を下げるパラガスを見て、やっぱり話し合いをスマートに終わらせるには、力を見せつけるのが一番だなぁと私は思った。
でも、これだけだと無理矢理従わせるだけだし、良くないか……恐怖で縛る従属関係も悪くはないが、恐怖心だけでは反抗心も生まれる。
「ついでに……フリーザ軍には今も、ベジータ王の息子が所属してるって、知ってる?」
「ベジータ王の息子……ベジータ王子が、ですか!?」
「うん。でも、惑星侵略の下働き……他の兵士と待遇は変わらない。笑っちゃうよね、惑星ベジータの王子だっていうのに、ただの下働きなんだよ?」
「そ、そうなのですか……?」
私が何を言いたいのか、パラガスが悩んで見える。
そんなパラガスに私は一歩近づいた。
「私の軍なら……働き次第で、パラガスもブロリーもそれなりの地位に就かせてあげられる。ベジータなんかよりも高待遇で、地位も高く……ね?」
「あ……あっ、ありがとうございます!」
「いつかベジータに対して復讐する機会もあげる。今はまだフリーザ軍に所属しているから、手を出せばフリーザと戦う羽目になるからね……それまでは私の下で働いてくれるよね?」
ま、実際は復讐の機会なんて用意しないけど。
嘘でも、モチベーションは大事だからね。
「しょ、承知しました!このパラガス、そしてブロリー……っ、クウラ様の下で働かせて頂きます!」
「うん、期待してるよ」
ベジータ王に対する復讐心を餌に、パラガスに出世欲を持たせる。
こうすれば、少なくともベジータに対する直接的な復讐よりも、ウチでの仕事に専念してくれるだろう。
私は話が上手く進んだ事に満足感を抱きながら、チョコレートを一つ……二つ手に取り、一つをブロリーに投げた。
ブロリーはチョコレートを手で受け止めて、私とチョコレートを交互に見た。
「あ、これ……?」
「いいよ、食べても」
「あ、ありがとうございます……」
「もっと気楽でいいよ。『ありがとう』でいい」
「ありが、とう?」
「そう」
何も知らなさそうな無垢なサイヤ人、ブロリー。
彼が悪魔にならないよう、伝説の
取り敢えずは……最低限の礼儀やら、常識を学ばせて……あとはちゃんと、私が飼い主だって教えてあげないとね。
ブロリーが口にチョコレートを運んだのを見て、私もチョコレートを口にした。
◇◆◇
惑星クウラNo.2にパラガスとブロリーを連れ帰ってから、一週間が経過した。
そこで最新の戦闘ジャケットを給付して、彼等のための部屋まで用意していた。
ブロリーは軍の文官から文字の読み書きや、礼儀について学ぶ事となった。
嫌そうな顔をしていたが、勉学をすればオヤツが貰えると習慣づける事で、何とか座学に打ち込んでいる。
パラガスは、そんなブロリーを連れて私の元まで来ていた。
「お呼びでしょうか、クウラ様」
「うん。パラガスも……仕事には慣れた?」
「はい、お陰様で」
パラガスは元々、惑星ベジータでは文官だったらしく……色々と勉強しなおせば、文官として役立つ事が発覚した。
裏方の仕事に励んでもらっている。
……ま、戦闘力も、うちの軍の戦闘兵の平均値ぐらいしかないし、わざわざ星の侵略に向かわせるのは勿体ないからね。
「ブロリーは……ん?あれ?戦闘服、新しくしたのにその毛皮、まだ付けてるの?」
ブロリーの腰には緑色の毛皮が巻かれている。
小惑星バンパでも身につけていた、見窄らしい毛皮だ。
「あ……う、っ」
私に指摘されたブロリーは視線を左右に揺らして、私から目を逸らそうとしている。
パラガスに何か指摘されないか、怯えているように見える。
……なんか訳ありっぽいな。
「大事なものなんだね。うん、良いんじゃないかな、似合ってるよ」
パラガスが何か言う前に、私は「気にしてないよ」と口にする。
そうすれば、ブロリーは安堵の息を吐いた。
しかし、何の毛皮だろうか。
ブロリーにそんな設定あったっけ?
分かんないけど、まぁいいか。
「それでその、クウラ様?私達に何のご用で?」
無言で頷く私に、パラガスが声をかけてきた。
少し不安そうな顔をしているパラガスに、視線を戻す。
「ブロリーの力を測ろうと思ってね。ちょっと戦って貰おうかなって」
「はぁ……戦う、ですか?それは、どなたと?」
「私と」
「……は?クウラ様と、ですか?」
「うん」
「…………」
パラガスがちらちらと、私の側に立っているサウザーを見ている。
これって大丈夫なのか?って顔だ。
なんだこいつ失礼だな。
サウザーはサウザーで「やれやれ」って顔だ。
こいつも失礼だな。
ブロリーはよく分かってなさそうな顔をしている。
「心配だろうし見学すればいいよ」
「え、あ、はい……そうさせて頂きますが……」
ブロリーがボコボコにされないか心配だろうし……って思って口にしたのに、パラガスは私の身を案じているようだ。
……あれ?
私が強いって話、何回かしてるよね?
舐めてんのか?
ちらっとサウザーに視線を向ける。
私から何か言うと高圧的になっちゃうし、サウザー側から何か言ってやれ……ってアイコンタクトだ。
そんな私の視線に気付いたサウザーは、私に耳打ちしてきた。
「致し方ありませんよ、クウラ様。ここ数日、パラガスの前での自分の行動を思い出して下さい」
は?
何言ってんだ?
パラガスの前で……?
……えっと。
五日前、地球産のジャムの瓶が開かなくて──というか私のパワーで無理矢理開けたら爆発しそうだったから、代わりに開けて貰った。
三日前、寝坊しちゃってパジャマ姿のまま報告を聞いた。
昨日は会ってないけど、私がB塔の共同洗濯機にお金が入ったままのワンピースをぶちこんで故障させてしまった。
会ってはないけど、パラガスも回覧板で知ってるだろう。
それぐらいだ。
……いや、確かに、まぁちょっと、うん。
頼りない感じは、あるかもしれないけどさ。
「でも私って、結構カリスマっていうか、威厳あると思うんだけど」
「…………」
サウザーが黙って複雑そうな顔をしていた。
……おい、そこは素直に頷くところだろうが。
何悩んでるんだ、まったく。
私はサウザーを睨んでいた目を逸らして、パラガスとブロリーに向けた。
「まぁ、それはともく。惑星クウラNo.2の、宇宙ステーションから離れた場所に未開発の空き地があるから、そこで戦ってみようかなって」
「か、かしこまりました。それであの、ブロリーとクウラ様が戦っている間、私は何をすれば?」
「そこ、監視塔あるからさ。そこから私とブロリーの手合わせでも見てればいいよ」
「は、はぁ……それはその、承知しました……」
何やら恐れるような挙動不審のパラガスから目線を逸らし、ブロリーを見る。
「…………?」
不思議そうな顔でこちらに視線を向けている。
私がこれからしようとしているのは格付けだ。
この数日間、ブロリーと接して思ったのだ。
この子、野生児だ。
パラガスに最低限の教育はされていたとはいえ、同年代の子供も居らず、父親としか交流していない。
情緒の発達も未熟で、獣のような性質で生きてる。
なので、ブロリーを扱うには懐かれるか、力で屈服させるしかない。
前者は……正直、まぁ、ちょっと自信がない。
懐かれる理由もないしな……という訳で、後者をすべきと判断したのだ。
ずばり、ブロリーからして私の方が上だと認めさせるのだ。
その為の模擬戦である。
まぁ、ちょちょいと捻って格付けすれば良いだろう。
ふふん、完璧な作戦だ。