TS転生クウラちゃんは平穏に生きたい   作:WhatSoon

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#17 熱戦・烈戦

惑星クウラNo.2。

そこは地球よりも小さな惑星だが、それでも星は星。

広大な空き地の上で、私はブロリーと向き合った。

 

 

「さ、ブロリー。手合わせしよっか」

 

 

視線の端には監視塔。

ここから数十キロ離れているが、望遠装置でここまで見えているだろう。

サウザーとパラガスが見学中の筈だ。

 

そして、私は視線をブロリーに戻した。

何もせず、ただ無言で私を見ている。

 

 

「あれ?戦わないの?」

 

「……お、おれ……人と戦う、よくない」

 

「なんで?」

 

「傷付ける、から……」

 

 

ブロリーの言葉に私は目を瞬いた。

彼は生まれながらの強者だ。

これまで対等な相手や、格上と戦った事がないのだろう。

故に、戦う=傷付ける、という方程式が出来上がってしまっているのか。

 

 

「私の心配してるの?」

 

「え、あ……うん」

 

 

根が優しい子なのだろう。

だがしかし、その気遣い、私には不要だ。

 

 

「大丈夫だよ。私の方がブロリーよりずっと強いから」

 

 

ぴくり、とブロリーの片眉が動いた。

……やっぱり子供といえどサイヤ人か。

 

 

「ほら、訓練すると思ってさ。やってみない?」

 

「……でも」

 

「んー、じゃあさ。私に勝てたら、美味しいものあげちゃおうかな」

 

「……美味しい、もの」

 

 

私の言葉にブロリーは嫌々ながら、ようやく構えた。

といっても、子供特有の流派もへったくれもない構えだ。

獣のように指を突き出し、いつでも飛びかかれる……というエサを目の前にしたケモノのような姿だ。

 

それでも攻撃はしてこない。

……優しい子なんだな、この頃は。

 

私の脳裏にはピッコロをサッカーボールにして、ベジータを岩盤に叩き付け、高笑いしてる半裸の巨漢が思い浮かぶけど。

 

 

「ほら、おいで」

 

 

私が手招きすると……やっと、ブロリーが動き出した。

 

 

「……たあっ!」

 

 

突き出されたのは、速度も遅い拳……ま、それでも人間基準だとプロボクサーのパンチ並みの速度だけど。

 

私の肉体強度は高い。

それは凄まじい攻撃力を実現する筋肉や、何も通さない防御力を実現する皮膚だけではない。

単純な反射神経も、だ。

 

私は武闘家ではない。

相手の攻撃を予測して避ける事などできない。

だが、反射神経のみで攻撃を見切り、回避する事ができる。

 

つまり、撃たれた弾丸や、拳を目で見て、どうやって避けるか判断して、そこから回避をしても間に合うという訳だ。

 

敢えてギリギリで避けた私を見て、ブロリーは少し顔を引き締めた。

 

 

「だっ!」

 

 

次もパンチだ。

だけど、先程とは桁違いの速度。

コンクリートの壁すら突き破るであろう速度と力。

それでも、私はすれすれで避ける。

 

 

「…………っ!?」

 

 

ブロリーは驚いた様子だ。

さもありなん。

今まで人と戦った経験もなく、原住生物には回避された事すらなかっただろう。

 

 

「ほらほら、攻撃を当てられないと勝てないよ?」

 

 

敢えて煽るように、鼓舞するように口にする。

ブロリーは私の言葉を聞いて、遠慮するような顔から……真剣な表情に変わった。

 

 

「だぁっ!!」

 

 

拳を連続で突き出してくる。

武術的な攻撃ではない、拳を武器に振り回す原始的な連続攻撃だ。

 

私はそれを連続で避けながら、後退する。

一歩後ろに下がれば、ブロリーも一歩前に出てくる。

 

 

「だぁあッ!!!」

 

 

……やっぱり、サイヤ人だな。

 

遠慮なく力をぶつけられる相手を見つけて、ブロリーは獰猛な笑みを浮かべている。

私に対する遠慮はどこに行ったのか、そこら辺の宇宙人なら一発一発が即死になるような攻撃を連打してくる。

 

 

「しゃあッ!」

 

 

しっかし、攻撃が速いし鋭い。

これ本当に戦闘力3万か?

なんかどんどん速くなってるし。

 

気の所為かな?

 

 

「がぁああああっ!!」

 

 

いや、気の所為じゃないわ。

明らかに速く、強くなってる。

力を隠してたのか、それとも発揮する機会が無かったからなのか。

悟空やら地球人のように、体の奥底に戦闘力を無意識に押さえ込んでいたのだろう。

そのリミットを少しずつ外しているのだ。

 

 

「だりゃあっ!」

 

 

ブロリーが飛び上がり、私に向かって大振りに拳を振り下ろした。

ま、当たらないけど……振り上げた拳は地面にぶつかり、地表を砕いた。

 

うーわ、すごいパワー。

30万は確実にある。

 

……あれ?

下手したらサウザーよりも強くないか?

 

 

「がぁっ!うがあっ!」

 

 

いや、というかまだ底が見えないんだけど。

爆発的に戦闘力が上昇していってる。

ねぇ、これ大丈夫?

なんかヤバくない?

 

 

「ぐがあっ!」

 

 

というかブロリーの目、焦点あってなくない。

歯を剥き出しにして、正しく凶戦士って呼べるような顔になってるし。

 

というか今の一撃、明らかにサウザーよりもヤバいって。

 

私もただ避けるのも余裕なくなってきたし──

 

 

「だぁぁああああッ!!!!」

 

 

え、ちょっと、何これ?

まだ速くなんの?

これ3万とか30万とかじゃないって。

300万ですらない。

少なくとも1000万はあるって。

 

というかまだ勢いを増して──

 

 

「うぎゃっ!?」

 

 

声を上げたのは私ではない。

ブロリーだ。

 

 

「あっ、やば」

 

 

攻撃を避けきれなくなった私が、咄嗟に尻尾で引っ叩いてしまったのだ。

 

ブロリーは錐揉みしながら吹っ飛んで、岩壁にぶつかった。

そして、砕けた岩壁の破片に埋もれてしまった。

 

戦闘力1億近い私の咄嗟の反撃だ。

そう、咄嗟の反撃とはいえ凄まじい破壊力だ。

 

即死とはいかないだろうが、骨の数本は折れていてもおかしくはない。

 

 

「あー……やっちゃったかなぁ……大丈夫かな……?」

 

 

心配しつつ、私はブロリーを掘り起こすべく、岩壁へと向かい──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し遡り、惑星クウラNo.2。

未開地区監視塔C42。

 

 

「サウザー様、ほ、本当に大丈夫なのでしょうか?」

 

 

同席しているパラガスへ目を向け、その発言に眉を顰める。

 

 

「くどいぞ、パラガス。クウラ様を疑うというのか?」

 

「……い、いえ」

 

 

私はパラガスの煮え切らぬ態度に舌打ちをしそうになる。

しかし、そこで怒りを発散する事に意味はない。

 

あくまで冷ややかに、視線を拡大モニターへ向ける。

クウラ様と、サイヤ人の子供……ブロリーが向き合っている様子を。

 

そして、私はパラガスを一瞥した。

 

 

「私は貴様が野心高い男だということを知っている」

 

「な、なんの事やら……」

 

「あそこのサイヤ人の息子の潜在能力を信じており、真の意味でクウラ様に忠誠を誓っていないだろう」

 

「何をおっしゃいます、そんな事はありません……!」

 

 

どうだか。

サウザーは再びモニターへ目を向けた。

 

既に手合わせという名の争いは始まっていた。

ブロリーの攻撃を回避し続けるクウラ様の姿が見える。

 

その様子に満足して、パラガスへ視線を戻す。

 

 

「クウラ様は貴様の野心に気付いた上で、側に置いている。それを頭に置いて、身の振り方を考えるといい……私はクウラ様ほど慈悲深くはないぞ」

 

「……ええ、肝に銘じておきます」

 

 

表面上は……いや、実際に理解はしているのだろう。

だが、それでもこの男は漠然と、自分の息子こそが宇宙最強なのだと信じている。

理知的な理解と信心から来る妄執は別という訳だ。

 

それが私には気に入らなかった。

 

瞬間、背後から威圧感を感じた。

 

 

「なんだ……?」

 

 

慌てて振り返れば……サイヤ人のガキ、ブロリーがクウラ様を相手に攻撃を仕掛けている。

だがそれは先程までの生っちょろいものではない。

嵐と見紛うほどの猛襲……一撃一撃、私が当たれば怪我では済まない攻撃。

 

 

「な、なんだと……?」

 

 

スカウターを起動すれば……100万という数字が目に映った。

 

 

「バカなっ!?」

 

 

乗り出して、遠く離れたクウラ様とブロリーへ目を向ける。

あんな子供が私より強いだと!?

そんなバカな話があって堪るか──

 

 

「ブ、ブロリーが!?な、なんと……クウラ様は、暴走したブロリーさえも……っ!?」

 

 

しかし、驚いているのは私だけではなかった。

パラガスも同様だった。

……なるほど、ブロリーがあれほどの力を持っていれば、増長するのも理解できる。

 

 

「……チッ、まぁいい」

 

 

狼狽えるパラガスを見て、私は幾分か落ち着いた。

目の前で驚愕している第三者が居れば、驚きも引っ込むというものだ。

 

そして──

 

 

「想定外ではあったが……クウラ様の勝利は変わらん」

 

 

ブロリーの戦闘力が跳ね上がっていく。

目の前の強者を乗り越えんと適応し、成長を続けている。

だが、それでもクウラ様に遠く及ばない。

 

目に映す事も難しくなるほどに攻撃速度は速くなり、クウラ様はそれを避ける。

 

そして──

 

爆ぜるような音がして、ブロリーが吹き飛んだ。

 

 

「ブロリー!?」

 

 

パラガスの悲鳴に近い声が聞こえた。

だが、親が子を想う悲鳴というよりは、信じていた力が劣っていたという事実に対する驚愕に聞こえた。

 

 

「ふっ、勝ったな……」

 

 

瓦礫に埋もれて動かないブロリーを横目に、私はクウラ様を見た。

少し苦い顔をしている……恐らく、あの反撃は意図したものではなく、咄嗟の反撃だったのだろう。

 

相変わらず、なんとも甘い。

だが、それでこそクウラ様なのだ。

 

強く、美しく、慈悲深い。

人を振り回すような性格でもあるが、そこは愛嬌だ。

……時折、本気でムカついてはいるが、この気持ちは変わらない。

 

私は勝ち誇った笑みを浮かべ、床に座り込んだパラガスを見下す。

 

 

「パラガス。クウラ様を迎えに行くぞ。用意を──

 

 

その瞬間、凄まじい威圧感を感じた。

いや、威圧感だけではない。

それは実体を持って、監視塔の窓ガラスを軋ませた。

 

 

「な、なに……っ!?なんだ!?」

 

 

視界をクウラ様の方へと向ける。

……そこで、私は……クウラ様の前にブロリーが立っているのを見た。

 

 

「あ、ありえない……!」

 

 

スカウター越しに見てしまったのだ。

鳴り響くアラートが、私の心を表しているように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あーよかった。

ブロリー無事だったんだ……と、思ったのも束の間、当の本人は明らかに暴走していた。

髪の毛が放出されるエネルギーで跳ね上がり、目は白目を剥いて血走っている。

歯を剥き出しにして、体は筋肉の膨張で一回り大きくなっている。

 

……サ、サイヤ人ってこんな形態変化あったっけ?

(スーパー)サイヤ人……じゃないもんね、黒髪だし。

 

大猿化でもないし、なんだこれ……?

 

 

「がああぁあああッ!!!」

 

 

ブロリーが雄叫びと共に私に飛びかかった。

かなり速い。

さっきとは比べ物にならないぐらい、速い。

 

回避……いや、回避しても、追撃がくれば避けられない。

ならば迎撃しかない。

 

 

「ふんっ」

 

 

私は迫り来るブロリーの腕を避けて、顎を蹴り上げた。

最早、ブロリーの力の上限を探るつもりはなかった。

ここが打ち止めだ、いや打ち止めにしなければならない。

顎を蹴り上げ、脳を揺らし、気を失わせようと──

 

 

「が、あ、あぁあああッ!!」

 

「え、うそっ」

 

 

よろけはしたが、気を失ってはいない。

大したダメージを受けているようにも見えない。

 

 

「がぁッ!」

 

「はっ」

 

 

思いっきり尻尾で叩いて、地面へ転がす。

 

 

「あがっ、ぐあっ!」

 

 

それでも即座に受け身を取り、私へ飛び掛かる。

 

 

「いいかげん、しつこい」

 

 

即座に顔面をブン殴る。

ブロリーは後退りしたが、倒れはしない。

 

単純な力や速度では私に劣るが、タフネスは尋常ではないらしい。

 

加減は必要ない、か。

私はエネルギーを込めて、手を突き出す。

 

 

「ばっ」

 

 

エネルギーは質量へと変わり、大気を揺らした。

大地が揺れて、砕ける。

 

 

「がぁっ!?」

 

 

真正面にいたブロリーはその衝撃をまともに受けて、それでも持ち堪えようとした。

なるほど、その肉体ならば耐えられるだろう。

だが私の狙いはブロリーではない。

 

 

「っ、ぉお!?」

 

 

その足元だ。

大地が割れ、足場が不自由になった今、正面からのエネルギー波にブロリーは足を滑らせた。

 

 

この瞬間を待っていたのだ。

 

 

私は地を蹴り、飛び上がり……ブロリーに向かって飛び蹴りを放った。

空を引き裂く程の速度で放たれた、その一撃は……空中で防御体勢すら取れないブロリーを吹き飛ばした。

 

 

「ぐ、お、おお、お゛おお!」

 

 

地面を数回跳ねながらもブロリーはなんとか踏み止まった。

そして、私の方を睨み付けた。

 

……いや、あの。

 

 

「……すっごいタフ」

 

 

両腕の骨を折ったつもりだったが、目立った怪我はない。

まだまだ戦えるようで、再びファイティングポーズを取っていた。

 

……というか、またさっきより強くなってない?

瓦礫の山から起き上がった時よりも、だ。

サイヤ人の、本質か……?

強い敵と相対すれば、するほど……サイヤ人は強くなる。

私という格上の敵と出会って、ブロリーは脅威的な速度で強くなっていってるのだろう。

 

そうじゃなきゃ、最初からもっと全力出していていいし……。

 

 

「お、おぉ、おおぉおお!!」

 

 

なんて考えていたら、ブロリーが雄叫びを上げて地面を踏み締めた。

また突進してくるのだろうか、どうやって迎撃しようか、そう考えていると──

 

 

「かぁッ!!」

 

 

口からエネルギー砲を発射してきた。

手からじゃなくて、口からだ。

 

いや、ナッパも原作でやってたし出来るのは知ってるけど、口からって。

緑色のエネルギーが熱と質量へ変わり、私のもとへ飛んでくる──

 

 

「ふんっ」

 

 

が、私はそれを頭上へと蹴り飛ばした。

受け流すとかそういうのではなく、純粋なパワー差による蹴り上げだ。

 

エネルギーの塊は頭上、空中で爆発して霧散する。

凄まじい音と光が満ちる中、それを見上げる。

 

なんか花火みたいだな。

にしては色も一色だし、眩し過ぎるけど。

 

一瞬そんな事を考えて、ブロリーの方へ目を向けると……既に私へ肉薄していた。

 

 

「だぁっ!」

 

 

拳が来たので、回避して肩をぶん殴る。

 

 

「が、あぁっ!!」

 

 

両手で掴みに来たので、鳩尾に膝蹴りをぶち込む。

 

 

「ぐ、お、おぉッ!?」

 

 

引っ掻いてこようとしたので、その腕を掴んで投げ飛ばした。

 

短時間で数度の応酬。

ダメージは確実に与えている……筈なんだけどな。

 

弱ってる気配がない……というか、どんどん速く力強くなっている。

ヤバイな、サイヤ人。

戦いの最中、強くなっていく……っていうのは知ってたけど、殴っても殴っても弱らないどころか強くなるって……相手側からしたらこんなに理不尽なのか。

 

追いつかれる──

 

とは流石に思わないけど、これ以上は加減が難しくなる。

 

一度思いっきり強く当たって、気絶でもさせて戦いを終わらせよう。

可哀想だが、そろそろ私も疲れてきたし。

 

 

地面を蹴り、エネルギーを放出する。

私に投げ飛ばされて、空中へ吹っ飛んでいるブロリーに追いつく。

 

 

そして、尾を振り上げてブロリーを地面へと──

 

 

「がぁっ!」

 

 

尻尾が、掴まれた。

 

 

「へ?」

 

 

蹴り飛ばそうとか、振り払おうとか、そういう事を考えるよりも早く──

 

 

「だああぁぁあぁああッ!!!!!」

 

「うわ、あっ……!?」

 

 

私は地面へと叩きつけられた。

大地が砕けて、私は地面に減り込む。

ちょっと、痛っ……え?

 

痛い?

 

痛みを感じたのなんて何十年ぶりだろうか?

圧倒的な体の強度を上回る痛みを与える存在など、そうは居ない。

だから痛みなんて私と無縁なものだと思っていた。

 

 

「が、あぁああ゛あああ゛ッ!!!!」

 

 

凄まじい雄叫びと共に、私に馬乗りになったブロリーが拳を振り上げた。

 

 

「ちょ、待っ──

 

 

そして、私の顔面を直撃して地面に叩きつけてくる。

 

 

「へぶっ」

 

 

痛みから出た声ではない。

喋ろうとしていた口元を拳で防がれた所為で変な声が出ただけだ。

 

だが痛いのは事実。

 

 

「お゛ぉッ!がぁ!だぁっ!」

 

 

痛、痛いっ。

 

子供に上乗りになられて、小突かれてる気分だ。

……あ、いや実際にそうなんだけど。

 

 

「かぁッ!」

 

 

痛っ。

 

というか容赦がなさ過ぎる。

私ってブロリーの父親の上司なんだけど。

いくら正気を失ってるとはいえ、こんな殴る事ある?

酷くない?

 

 

「しゃッ!があッ!!」

 

 

ちょ、痛いっ、痛いって。

 

……なんかもうムカついてきたな。

 

私は自分が聖人君子だと思ってない。

殴られたらムカつくし、攻撃されたら反撃したいと思うタイプだ。

復讐や報復は絶対にするし、舐められたままで終わりたくない負けず嫌い。

痛みがあるならば、尚更だ。

 

だから……そう、もう加減はしない。

 

 

「だあ゛ぁ……あッ!?」

 

 

瞬間、私はブロリーの腕を掴んだ。

そしてそのまま、体を膨張させ……変化させる。

体の内部から外骨格が生えて、戦闘ジャケットを突き破る。

頭頂部の髪が集まり甲殻へと変わる。

口元を覆うようにプロテクターが生み出されていく。

 

 

「調子に乗るなよ、クソガキが……!」

 

 

女性らしい姿から、巨躯の怪物へと姿が変わる。

これが私の最終形態だ。

 

 

「な、あ……あ、っ!?」

 

 

正気を失って暴走し、私をボコスカ殴ってた癖に、今の私を見て困惑していた。

まぁ、仕方ないか。

 

姿形が原型をとどめていないのだから。

 

なんとか私の腕を振り払おうと押したり引いたりしているが、どうにかなる力の差ではない。

握る力を込めれば、骨が軋む音すら聞こえてくる。

 

 

「サービスタイムは終了だ……!」

 

 

ジャキン、という音を鳴らして、私の口元をマスク状の外殻が覆った。

 

そうすれば、声色も変わる。

思考もより攻撃的に、無慈悲に。

体躯も大きく、暴力的に。

 

意識が攻撃的になり、高圧的な言葉が口から漏れ出ていく。

 

そして私は、ブロリーの腕を掴みながら……大地を踏み締めて立ち上がった。

当然、身長差によってブロリーは持ち上がり、宙吊りになる。

 

 

「お、お……!?だっ、だぁ……っ!!」

 

 

驚いて怯えても、そこはサイヤ人か。

腕を引っ張られ宙吊りになりながらも、私に向かって蹴りを繰り出してきた。

先程までなら、私もよろけていただろうが……。

 

 

「ふん……」

 

 

痛みはもうない。

衝撃は全て受け止めて、無効化している。

 

攻撃は効かない。

寧ろ、攻撃した側のブロリーが拳を痛めている。

 

 

「っ、ぐ!あ゛あッ!」

 

 

蹴り、頭突き、身を捩りながら、掴まれた腕を振り解こうとがむしゃらに攻撃を仕掛けてくる。

だが、ほんの少しもダメージを受けない。

 

第五形態となった私に、今のブロリーではダメージを与える事は出来ない。

戦闘力数千万と、十数億の差はそれだけの差を生み出す。

 

 

「そんなに放して欲しいか?なら、放してやろう」

 

 

私はブロリーを掴んでいた手を放す。

そうすれば、自由となったブロリーが私の前で地面へと落下する──その瞬間に。

 

 

「そらっ!」

 

「ぐ、おごッ!?」

 

 

ブロリーの鳩尾に拳を叩き込む。

そして、腹に拳を突き刺したまま地面を蹴り、ブロリーを引き摺り──

 

 

「うぉオッ!?」

 

 

断崖絶壁の岩壁に叩きつけた。

壁にブロリーがめり込み、岩壁に亀裂が走る。

 

 

「まだだ……っ」

 

 

だが、これで終わりではない。

 

拳をブロリーの腹部に突き刺したまま、岩壁を抉りながら持ち上げていく。

 

 

「ご、が、あがッ!?」

 

 

ガリガリと音を立てて、岩壁が砕けていく。

小さな山を震わせながら、そのまま持ち上げて……今度は地面へと、叩きつけた。

 

 

「うが……ぁ、あ……ぐッ!?」

 

 

地表を砕き、地中へ埋め込むように叩きつけ……それでも拳はブロリーの腹部を捉えている。

 

 

「……ぐ、ぅぐ……っ」

 

 

……まだ意識があるのか。

ならば──

 

 

「力の差を、思い知れ……ッ!」

 

 

更に全力を込めて、地面にめり込んでいるブロリーへ力を込めた。

 

瞬間、大地が裂けた。

ブロリーは地中へと埋まり、大地は力を込めた方向へ真っ直ぐに引き裂かれた。

 

瞬間、大地が揺れた。

身体が大地に埋まっていて、四肢を惑星に固定されたブロリーに力を受け流す術もない。

この地、大陸、惑星すらも揺らす衝撃が、ブロリーに直撃した。

そして。

 

轟音と衝撃。

惑星全体が揺れるほどの一撃に、静寂が訪れた。

 

 

「……ふん」

 

 

私は拳を開き、そのままブロリーを持ち上げる。

がらがらと瓦礫を落としながら、地中から気を失った子供が姿を現した。

 

微動だにしない。

完全に白目を剥いて、気を失っていた。

 

 

「…………」

 

 

……気を失っている。

うん、気を失ってる、よね?

 

……え?

これ死んでないよね?

 

 

「…………」

 

 

地面にブロリーを転がして、胸の辺りを抑え込む。

 

……いや、微かに息はある。

良かった。

 

流石はサイヤ人、しぶとい──

 

っていやいや、子供相手に私は何をムキになってたんだ?

 

 

「……むっ」

 

 

こんなの手合わせ〜じゃなくて虐待じゃん。

ちょっと手強かったからって、キレてボコボコにするって大人気ない……を、通り越して人間のクズじゃん。

いや宇宙人だけど。

 

 

「…………」

 

 

冷静になってくると、自分のしでかした事に表情筋が強張る。

血の気が引いてくる。

 

マスクとプロテクターの下で、頬を引き攣らせて──

 

 

「クウラ様!」

 

 

サウザーの声に私は振り返った。

視線の奥にはパラガスが小さく見えており、監視塔から慌てて来た事が窺えた。

 

 

「サウザーか。ブロリーをメディカルマシーンへ」

 

「承知致しました。あと、これを」

 

 

サウザーの手には赤いマントが握られていた。

クウラ軍……というかコルド系列で宇宙人が好んで身につけるマントだ。

 

それを私は受け取り、体に巻きつけつつ……第四形態へと戻る。

外骨格が砕けて、肉体が収縮し、頭部のプロテクターは髪へ戻る。

 

そうすれば裸体にマントを巻いた痴女の完成だ。

いや、痴女じゃないけど。

 

 

「ブロリー!」

 

 

そんな事をしていれば、ようやくパラガスが到着した。

地面に転がるブロリーを見て、どうすべきか分からず右往左往している。

 

……あの、私もしかして、やりすぎちゃいました?

 

いや聞かなくても分かる。

これは「やりすぎ」だ。

 

子供相手に手合わせと称しながら、ぽこぽこ殴られた程度でブチギレて半殺しにしているのだから。

どう考えても、やりすぎ。

どう考えても、大人気ない。

 

……め、めちゃくちゃ恥ずかしい大人だ。

ダサ過ぎる。

 

顔が熱い。

 

 

「サ、サウザーはブロリーをメディカルポッドへ。パラガスも同伴すれば良いんじゃないかなぁ……うん、うん」

 

「はっ、クウラ様は?」

 

「……えっ、えーっと、そう……んと、つ、疲れたから休ませて貰おうかなぁって」

 

「承知致しました」

 

 

疲れた、というのは嘘だ。

実はまだ全然疲れてはいない。

殴られた所も怪我になってないし。

 

ただ、メンタルは別だ。

一刻も早くこの場から逃げ出したい。

恥ずかしいんだ。

裸にマントも恥ずかしいけど、何より子供に癇癪起こして半殺しにしたって事実が恥ずかしい。

穴があったら入りたい。

 

 

「そ、それじゃあとよろしく」

 

 

表面上だけ取り繕って、私は気を失っているブロリーから逃げ出した。

この勝負、勝敗があるとしたら私も負けだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステーションに戻ると、兵士達は慌てた様子で作業をしていた。

床に機材やらが倒れて、薬品やら食事が落ちている。

 

先程の私の攻撃による衝撃は、巨大な地震となって惑星全土を襲ったのだ。

 

……じゃ、これ私の所為か。

 

 

「…………へ、へへ」

 

 

黙っとこ。

こそこそと兵士達から隠れて、私は自室に入った。

 

 

「取り敢えず、服……」

 

 

宇宙人は裸族が多い。

あれこれ見せても気にしない奴らばかりで、服を着る方が少数派だ。

 

でも、私には人間としての前世の記憶があるし、見せたくないし。

 

クローゼットを開けて、服を取り出そうと考え……私は、とんでも無いことに気付いた。

 

 

「……あ、ぁ!?」

 

 

息を呑んだ。

取り乱さずにいられたのは、ただの幸運でしかない。

 

 

「そ、そんな……!」

 

 

こんな悲劇が許されて良いのだろうか。

許されて良い筈がない。

 

 

「そんな、ばかな……っ!」

 

 

だけど、誰かに憤る事はできない。

 

 

「どうして……!?」

 

 

なぜならそれは、私が招いた事なのだから──

 

 

「わ、私のお気に入りが……!?」

 

 

地面に落ちて、粉々に砕けたマグカップを見て……私は床に崩れ落ちた。

 

 

「……う、うぅ」

 

 

そして、もう二度と惑星クウラNo.2で、ブロリーと手合わせしない事を誓ったのだった。

ぐすん。

 

 

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