TS転生クウラちゃんは平穏に生きたい   作:WhatSoon

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#19 サウザー

最近はちゃんと訓練してる。

サボってません、頑張ってます、私。

 

メキメキと強くなってる実感がある。

目に見えない物を積み上げていても楽しくはないが、目に見える物を積み上げるのは楽しい。

実感があるというのは良い事だ。

 

私の戦闘力を測る為に作られた特注品のスカウターが、ついに私の戦闘力を測れなくなった。

元々、第五形態になれば測れなかったけど、いつもの姿でも測れなくなったのだ。

 

特注品のスカウターの上限は1億と少し。

つまり、私の生身での推定戦闘力は1億オーバーとなったのだ。

 

やったね。

 

そして、第五形態への変身で戦闘力は10倍以上となる……ので、多分、最近の体感だと15倍ぐらいなので、少なくとも15億はある。

でも、多分、20億ぐらいある気もする。

 

まぁ、よくわかんないけどね。

 

1億以上の数値を測れる測定器を、科学技術部が作成中らしい。

スカウターみたいな持ち運び式の小型にせず、大型のマシンにすればキャパシティも増やせるかもしれない……らしい。

 

まあ、それも先のこと。

強くなってる実感があるのなら、それでいい。

 

最近はブロリーも一緒に訓練してる。

300倍の重力は少しキツそうだけど、なんとか適応している。

すごい。

クウラ軍の戦闘力No.2、サウザーですら耐えられなかったのに……感心する限りだ。

 

でも、ここ最近、手合わせはしてない。

適当に受け流してる。

 

ブロリーは手合わせしたがってるけど、周りの全てを吹っ飛ばしてしまう。

少なくとも惑星クウラNo.2では手合わせ禁止だ。

 

そんな訳で私の訓練は順調で、ブロリーとも訓練を通して友好を深め……パラガスも良い感じに組織に馴染んできている。

 

良いことだらけ?

そうでもない。

 

私は、別の重力室……旧式の重力室で床にへばりついているサウザーを見た。

 

 

「サウザー、大丈夫?」

 

 

この部屋の重力設定、最大値である100倍。

私にとってはちょっとした負荷程度だが、それに耐えられず、サウザーは立ち上がる事すら出来ずにいる。

 

 

「い、いえ、ご心配、なく……っ!」

 

 

膝をついて、大粒の汗を流すサウザーを見て、私は口元を窄める。

 

そう、最近、サウザーの様子が変だ。

私がブロリーとの訓練を日常的にやるようになって、変になってしまったのだ。

 

やけにハードな訓練を自分でするし……それで疲労を蓄積してって、私がいつもどーりに押し付けようとした書類を放置するし──自分のはちゃっかりやってるのに──手伝ってくれないし、困っているのだ。

 

文官から戦闘民族に目覚めてしまったのだろうか。

私は悲しい。

 

 

「ま、ほどほどにね……」

 

 

私はサウザーに手を振り、重力室を出た。

 

サウザーも強くなってるんだけどね、昔よりも。

でも、ここ最近は伸び悩んでる。

というか、ここが限界なのだろう。

 

普通の宇宙人が鍛錬した所で、星を一撃で壊すような力は得られない。

鍛錬すれば力がすぐに倍増するような事なんて、ありえないのだ。

じゃなきゃ誰も彼も惑星を爆破するトレーニー塗れになっちゃう。

 

それが常識だ。

私やブロリーが異常なだけだ。

 

しかし、今のサウザーは見ていて痛々しい。

訓練訓練って、自分にできない領域になんとか足を踏み入れようとしてボロボロになってるだけだ。

 

なんとかならないものか。

 

 

「──という訳でね、どう思う?」

 

「どうと言われましても……」

 

 

ここはクウラ軍の食堂、声を掛けたのはレモだ。

クウラ軍がコルド軍の一部だった頃から、ずっとクウラ軍を支えているベテランの老兵。

こういった男の意地、みたいな話を聞くにはうってつけだ。

 

パラガスに聞いても良かったんだけどね。

サウザーとパラガス、仲が悪い訳じゃなさそうだけど、互いを牽制し合ってるぴりぴりとした関係だから。

勝手によそで弱味のようなものを握らせたくない。

 

 

「サウザーは強くなりたいって思ってる。でもそれって変じゃない?今まで、そんな事なかったのに」

 

 

私の言葉にレモが少し悩ましげな顔をした。

 

 

「最近、クウラ軍に入った……ブロリー、でしたっけ?彼が子供であるにも関わらず、凄まじい戦闘力を持っているから、サウザー様も焦っているのでしょう」

 

「焦ってる?なんで?」

 

「サウザー様はクウラ軍のNo.2。その立場が危うくなるからだと思いますがね」

 

「……うーん、サウザーが?地位とかそういうの、気にするタイプじゃないと思うんだけどな」

 

 

昔からサウザーからは出世欲を感じられないんだよね。

私の側に居てくれているけど、別にそれ以上を望んでいないというか……権力を別に欲しがっているようには見えないというか。

 

 

「サウザー様も男という訳です。プライドというものがあるんですよ、彼にも」

 

「プライド、ねぇ……」

 

「そうです、プライドです。大事なんですよ、男には」

 

 

ぽっと出のサイヤ人のガキに戦闘力で負けているのが、そんなに許せないのか。

……うーん、サウザーってそんなに器小ちゃかったっけ?

 

 

「……でも、このままだとなぁ。大変なことになっちゃうし」

 

「……大変なこと、ですか?」

 

 

レモが首を傾げて、私は頷いた。

そう、大変な事だ。

このままサウザーが訓練にのめり込んじゃうと、マジでヤバい事になる。

 

 

「そ。クウラ軍の危機だね」

 

「そ、そんなに……!?」

 

「そんなに」

 

 

言い過ぎではない。

私の権威は失墜し、クウラ軍の人員は路頭に迷う。

それほどの危機だ。

 

 

「なんとかしないとなぁ……」

 

 

私は顎に手を当てながら、ため息を吐いた。

そう、このままでは拙いのだ。

だから、うん。

 

やっぱり、呼び止めに行くか。

これも上司の仕事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……!はぁ……っ、くそっ!」

 

 

私は重力室で100倍の重力に晒され、地に這いつくばり息を荒らげていた。

身体を痛めつけるような鍛錬、精神を削る強烈な負荷……それらは成長を約束させる物ではなかった。

 

 

「…………っ」

 

 

この十数年間、私は諦めていたのだ。

宇宙の女帝であるクウラ様の下で居られれば良いと、流されるままずっと隣に立っていられると、そう漠然と考えて生きてきた。

だが、その結果がこのざまだ。

 

己より強く、若いサイヤ人。

いずれ、クウラ様の横に並び立つだろう。

 

クウラ様の横に並び立つことを望みながらも諦めてきた私を、嘲笑うような現実。

 

 

私は──

 

クウラ様が幸せならば、それで良いと思えるほどに聖人ではない。

 

 

クウラ様に並び立ちたいと思った。

強く、美しく、それでもどこか頼りなく、頼りになる、そんな矛盾すらはらむ彼女の側に立てたら、どれほど素晴らしいことか。

 

私は、側近という立場に甘えて、本質を忘れていたのだ。

 

そうして研鑽を怠り、ここに至る。

新たに入った配下に立場を追われる焦りを胸に、床に転がっている。

 

情けないものだ。

私ともあろうものが。

 

 

「……くそっ」

 

 

数日前に見上げたクウラ様の目を思い出す。

鍛錬する私を見て不可解に感じ、“どうしてそんな無駄なことを?”と問いかける眼。

 

両手で床をついて、何とか身体を起き上がらせる。

内臓が押し潰されるような感触。

これが100倍の重力。

 

だが、クウラ様もブロリーも、300倍の重力を相手に訓練している。

 

この程度で音を上げては、追いつく事などできない。

 

遠い、遠い、遠いものに手を伸ばす。

その為ならば、たとえ、どれだけ苦しもうとも──

 

 

「は…………っ」

 

 

瞬間、急に重力が平常に戻った。

機械の不具合か、意図的に誰かが機械を停止させたのか。

 

何が起こったのか分からないまま、過度な負荷から解放された私は、身体を弛緩させて床へと──

 

 

「サウザー」

 

 

抱き止められた。

うつ伏せに倒れたから、抱き止めた者の姿は見えない。

 

だが、クウラ軍で私のことを呼び捨てにするような女性など、私は一人しか知らなかった。

 

 

「……クウラ様、何用ですか?」

 

 

情けない姿を見せた。

何故こんな事をしたのか。

羞恥心と疑問が渦巻く中、私はクウラ様に問いかけた。

 

対して、その答えは──

 

 

「もうやめよっか」

 

 

何とも、答えになっていないものだった。

 

 

「鍛錬を、ですか?」

 

「もちろん。それ以外ないよ」

 

「……私が強くなることに、反対するのですか?」

 

「そうじゃないけど。まぁ、そう思ってくれていいよ。だから、やめよう?」

 

 

クウラ様の言葉に思わず、顔を顰めた。

敬っている、慕っている、それでも素直には頷けない。

 

 

「それは、命令ですか?」

 

「いや、お願いかな」

 

 

命令であれば、何も考えずに受け入れる事ができた。

力の立場も上であるクウラ様の命令ならば、私は受け入れる事しか出来ないからだ。

 

だが、お願い、とやらであれば。

やめること、やめないこと、それらの選択の責任は私に委ねられる。

 

何とも、慈悲深く、厳しい。

傲慢な命令ではないことは、必ずしも楽なものだという訳ではない。

 

 

「…………」

 

 

答えもしない私の姿を見て、クウラ様の小さな吐息が漏れた。

 

 

「はぁ……なんで?サウザーはさ、どうして強くなりたいの?」

 

 

クウラ様の言葉に私は少し惑い、それで……建前を口にした。

 

 

「強くあらねば、この地位を保てません。ブロリーやパラガスなどに、クウラ軍のNo.2を譲るつもりはありませんから」

 

 

出世欲、そして保身。

私本来の欲望よりも、普遍的な欲望……だからこそ、納得してくれるだろうと──

 

 

「それ嘘だよね」

 

 

あぁ、どうしてこうも。

普段はああも抜けているのに、こういう時に限って鋭いのか。

 

いいや、そうか。

クウラ様は重要な場面では一度も外した事がない。

今がただ、クウラ様にとって重要な場面だという事だ。

 

 

「嘘ではありません。事実、私はこの地位を気に入っていますから」

 

「……んー、まぁ確かに。全部が嘘って訳じゃなさそう。でも、話してない事が一番大切だと思うんだけどね」

 

 

どこまでも鋭く、私を暴く。

思わず顔を上げて、クウラ様を見上げる。

 

そこには何とも言えない表情で立つ、クウラ様が居た。

慈愛の女神などではなく、部下に悩む一人の女という……そんな、顔だ。

 

クウラ様は私のような部下を相手にして、関わり方に悩むような奇特な人なのだ。

 

 

「……私はクウラ様のお役に立ちたいのです」

 

「それも本当だけど、本音じゃない」

 

 

自分が本音だと思い口にした言葉を、クウラ様は否定した。

しかし、確かにそうか。

どこか浮き足立つような言葉だと、自分でも感じた。

 

では、何故?

何故、私はクウラ様の役に立ちたいのか?

それはクウラ様の為なのか?

 

いや、違う。

我欲だという事を、私はよく知っている。

 

 

「……言えません」

 

「……あ、そう?言えない?」

 

「はい」

 

 

口が裂けても言えまい。

クウラ様の側に立っていたい、並んでいたい。

ただそれだけなのだ。

 

クウラ様は、己より遥か高みに居る。

確かに常識知らずで怠慢で、抜けた所もある。

だが、その視点は私とは違う。

他の誰とも違う。

 

クウラ様は慈悲深い。

だが、それは他の誰をも同格と認めていないからだと私は考えている。

 

彼女は満遍なく、全てを見下している。

何事も遠くの景色であるかのように、達観している。

 

だからこそ、何事にもマイペースに、誰にも靡かず、他人に優しい。

 

それは孤高であり、孤独でもある。

 

そんなクウラ様の隣に立ちたい。

遥かな強者であり、遥かな超越者であるクウラ様の“特別”になりたいなど。

 

そんなことを、言えるはずがない。

 

 

「……そっか」

 

「……はい」

 

 

沈黙が続く。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

気まずい空気の中、僅かに揺らぎ──

 

 

「…………ぐすっ」

 

 

鼻を啜る音が聞こえた。

 

私ではない。

だとすれば誰か。

 

勿論、クウラ様である。

 

 

「……クウラ様?」

 

「………ぐすん」

 

 

ぐすんぐすんと口にしているが、目に涙は浮かんでいない。

私は思わず顔を顰めた。

 

 

「嘘泣きですか」

 

「……えっ、そ、ソナコトナイヨ?」

 

「……何故、そのような真似を」

 

 

私が咎めると、クウラ様は真面目な表情を浮かべた。

 

 

「アカデミー賞モノの私の演技を見破るとは、流石はサウザー」

 

 

あかでみぃ賞とやらが、なんの賞かは分からないが、クウラ様は大根役者だろう。

私は呆れて、ため息を吐いた。

 

 

「はぁ……真面目な話をしているのではなかったのですか」

 

「失敬だな。してるよ、今も……サウザーが悩みを話してくれないから、悲しくて泣いちゃっただけだし」

 

「泣いてないでしょう」

 

「悲しいのは事実だし」

 

 

鼻を鳴らして口を曲げるクウラ様を見て、私は呆れてしまう。

 

 

「……はぁ。単純な話ですよ。私はクウラ様の側に立ちたい。それだけです」

 

「……え、嘘っぽい」

 

「今気づいたのですが、クウラ様……取り敢えず私の意見に「嘘っぽい」とか言って、引っ掛けようとしてるだけでしょう」

 

「ぎくっ」

 

 

クウラ様がおよよ……と萎びながら、私の前で膝をついた。

 

 

「それと、本音です。全てでないとしても、クウラ様の役に立ちたいから鍛錬しているのです」

 

「……なら、別にしなくていいよ」

 

「……何を仰っているのですか?」

 

 

拗ねたような顔をするクウラ様を見て、私は眉尻を上げた。

 

 

「別に強いから、力があるからサウザーを側に置いている訳じゃないから」

 

「……そうですか。そうですね、私の力などクウラ様に比べれば無に等しいと──」

 

「そういう訳じゃない。力だけが価値じゃない。強いことは価値があることだけど、それだけが価値観の全てじゃないから」

 

「……クウラ様」

 

 

クウラ様は服の裾を払いながら、床に座っている私を見下ろした。

 

 

「サウザーは口煩いけど。面倒ごとから逃げる私の背中を押してくれる。私のして欲しい事を見つけてくれる。だから、側に置いてる。役に立つからね」

 

 

真正面から向けられる瞳に、私は思わず照れ……いや、待て。

 

 

「口煩いですか?」

 

「あ、いや、その……ちょっとした言い回しのミスというか。えっと、規律正しいって感じというか」

 

「……………」

 

「お、怒ってる?」

 

「怒ってません」

 

「ゔっ、それ怒ってる人の台詞じゃん」

 

 

わたわたと慌てるクウラ様を見て、私は自分が悩んでいるのはバカらしく思えてきた。

 

それに、そうだ。

クウラ様の価値観からすれば、強さなど大したものではないのだ。

であれば、私にできる事は他にある。

クウラ様のために、側に立つために出来ることが。

 

 

「……まぁ、いいでしょう。無理な鍛錬は確かによろしくない。控えましょう」

 

「あ……わ、分かってくれた?良かった」

 

 

ふふ、とクウラ様は笑いながら私の手を引いて、立ち上がらせた。

……細く滑らかで小さな手だが、こんな手が握られれば……私の何倍も強い力を生み出すのだという。

 

私では力になれない。

それでも、クウラ様のために出来る事はあるだろう。

 

親愛なる女帝を前に、私は改めて忠誠を誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クウラ様、これは?」

 

 

クウラ様の机に、書類の束が置かれている。

凄まじい量で、机自体が見えなくなっている程だ。

 

私は眉間が痙攣するのを必死に堪えつつ、クウラ様を見た。

 

 

「あ、えっと、その、ほら、いつもはサウザーがしてくれてるじゃん?」

 

「……クウラ様が期限内に終わらせないので、仕方なく代行権限で承認していますね」

 

「うん。だからその、サウザーが訓練に集中して、残業してくれなくなったから……こんな事に」

 

「……私の所為、ですか」

 

 

びきびきと青い筋が立つ。

努めて笑顔を保っているが、限界は近い。

 

 

「いやぁ、ここの仕事が溜まっちゃうとさ、クウラ軍全体に波及するから。食料関連の承認も遅れちゃってるし、遅れると食事の質も落ちるからね。早く承認して欲しくて……」

 

 

別に、だ。

別にこの仕事は私の仕事ではないのだ。

クウラ様が期限内に終わらせないから、仕方なく、そう仕方なく、私が熟していたに過ぎない。

それをクウラ様は、こんな物言いをするとは。

 

 

「クウラ様」

 

「うん?」

 

「…………」

 

「あっ……はい」

 

 

クウラ様が何かを察したように、姿勢を正した。

 

 

「自分でしましょう」

 

「え!?でも、こんなにあるし、終わらない──」

 

「自分でしなさい」

 

「でも、サウザーが処理すれば5分の1の時間で終わるのに──」

 

「いいから、やれ」

 

「はい」

 

 

クウラ様が今度こそ本当にべそをかきながら、椅子に座り、書類仕事を始めた。

 

 

「うう、どうしてこんな目に……」

 

「仕事をサボるからでしょう」

 

「私が何をしたって言うんだ……」

 

「何もしていないから、こんな目に遭うんです」

 

 

部下から送られた書類に目を通し、決議の可否を問われている。

一枚一枚をめんどくさそうに捲りつつ、少しずつ進めていくクウラ様を前に……私はため息を吐いた。

 

 

「終わるまで、見守ってあげますから」

 

「……手伝って?」

 

「……はぁ、少しだけですよ?自分で出来る事に意味があるのですから」

 

 

私はクウラ様の机から書類を手に持ち、クウラ様を見下ろした。

上目遣いをする仕草は確かに整った容姿に裏打ちされた可憐さがあるが……なんとも、腹立たしいものだった。

 

 

 

 

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