フリーザと初めて邂逅してから結構な時が流れた。
老いたつもりはないが、惑星間移動のコールドスリープとか色々で、もう何か正しい時間の流れが分からなくなってきていた。
って、なってたのが数年前。
コルド大王、というかパパ上に「宇宙船ポッドではなく、大型宇宙船を使え」と言われた。
メディカルマシーンとか居住空間、要らないけど玉座とか、そういうのが備え付けられてる宇宙船だ。
宇宙船ポッドより少し遅いけど、充分な速度が出る。
けどさぁ……あの大型宇宙船って、一人乗りじゃなくて、管理する人が必要になるじゃん。
パパ上や、フリーザは部下が沢山いるから、それで大丈夫かも知れないけど、私には部下が居ないから。
とか言ってたら、パパ上から何人か部下に使えと人材を貰った。
ついでに大型宇宙船も。
そして、パパ上の大型宇宙船内にあった自室の中身を全て移されてしまった。
そこまでされると断れないし、断る理由もない。
めんどくさいなぁ、と思いながら大型宇宙船で占領する予定の星へ移動する事にした。
しかし、まぁ、確かに快適だった。
ベッドはフカフカだし、事務作業しながら星間移動できるし。
そうして、侵略予定の惑星に到着したのだが。
「……何してるの?」
「え、はっ!クウラ様!」
私の前で兵士達が並んでいる。
フリーザ軍と同様の戦闘服を着た、宇宙人達。
その足元には、原住民の死体が転がっていた。
緑色の血を撒き散らして、身体に大穴が空いている。
兵士達の腕に装着されたエネルギーブラスターによる痕だ。
私が視線を戻すと、兵士達は頷いた。
「我々の統治を拒む者達でしたので、見せしめに致しました!」
視線を下げる。
2メートル弱の身体の宇宙人と、その半分……1メートル程の大きさの宇宙人。
人型ではないから、分からないが。
恐らくは幼体だ。
子供の死体だ。
「……そうしろ、って私が言った?」
「い、いえ……ですが、コルド大王様の下では……ク、クウラ様?」
別に怒ってはいない。
だって、私も侵略者の一人だ。
それどころか親玉だ。
罪のない宇宙人を殺した事だってある。
だから、怒っていない。
そう、怒っていない。
「し、しかし……す、すみません、クウラ様」
「何故、謝るの?」
「な、なにかお気に召さないか、かと……」
「大丈夫。怒ってないから」
そう、怒ってはいない。
こんな事で怒る訳がない。
怒る資格がないのだから。
だが。
指を立てた。
「へ?」
瞬間、紫色の光線が兵士の……私と話していた男の胸を貫いた。
「ぐ、グウラ、様……?」
何が起きたのか、恐らく理解していないだろう。
その身体から力が抜けて、地面に崩れた今も尚、理解できていない顔をしていた。
「勝手をする奴は、私の部下に必要ない」
瞬間、周りの兵士達が体を強張らせた。
抵抗しても無駄だと悟っているのだろう。
「……これ以上、殺すつもりはないから安心していい」
私の言葉に安堵……した者は居ないな。
まだ恐怖に顔を引き攣らせていた。
「でも、次に勝手に殺しを行った者は殺す。何処に逃げても殺す。確実に私が殺す。分かった?」
そう訊けば、兵士達は頷いた。
まったく、小学生の引率じゃないんだから。
あまり私を苛立たせないで欲しい。
こんな事ならやっぱり一人で来るべきだったか?
……いや、そうか。
私の判断ミスか。
コイツらは元々、コルド大王の部下だった。
宇宙の地上げ屋、侵略者の配下だ。
倫理観なんて無いし、人を殺すことに躊躇いはない。
ならば、最初から教育しておくべきだったのだ。
圧倒的な力と恐怖で、私の思想に従うよう教育すべきだった。
……だから、これは私のミスだ。
八つ当たりで部下を殺して、勝手に苛立っている場合では無い。
「……はぁ」
自己嫌悪しながら、私は顔を横へ向けた。
巨大な都市が、目に映っていた。
◇◆◇
3日後、新たな『惑星クウラ』が誕生した。
惑星内の戦闘兵器を破壊し尽くし、瓦礫の山を作った。
その星の戦士とも戦った。
偶々、私の部下が殺した宇宙人の父親だったらしい。
相当、怒っていた。
力の差は歴然だと理解して尚、私に立ち向かった。
だから、殺さず従える事などできなかった。
殺さなければ何度でも歯向かう事が理解できたからだ。
眩しいな。
私には、自分より強い相手と戦う気概はない。
私はその宇宙人を、慈悲を以て殺した。
腹パン。
一撃で腹を貫き、内臓を粉砕した。
死体は可能な限り綺麗に残してあげたかったが、やはり加減は難しい。
その男は、この星で最も力ある戦士だったようだ。
原住民達は屈服した。
年に一回、その星に回収ポッドを落とすから食料か宇宙共通通貨を詰めて送り返すよう命令した。
アレだ。
みかじめって奴だ。
回収ポッドは結構な大きさで、何本も落とす。
星々の原住民が飢える程には落とさないが、それなりの負担になるだろう。
だが、それを拒めば、この星を破壊し尽くす、と伝えた。
いや、破壊する気はないけどね。
脅しだ。
そうして、新・惑星クウラから離脱する事になったのだが──
現地で略奪行為を働こうとしていた、バカな部下を三匹、粛清した。
何で勝手な事をするのかな。
そいつらの戦闘力は500から1000程度。
対して私の戦闘力は、『この姿』でも8000万はある。
文字通り、桁が違う。
だというのに、勝手をする。
バカなのか?
バレないとでも思っているのか?
流石に内心ブチギレながら、表面は冷静に……三匹を打ち上げ花火にした。
念力で宙へ飛ばし、エネルギーを内部から爆発させる技だ。
見た目は派手だが、実用性はない。
が、私に逆らうとどうなるのか「見せしめ」という意味では、これほど最適な技もないだろう。
空中で爆散し、血と臓物が飛び散った時、自分でやりながらちょっと引いた。
汚い花火だ……汚過ぎる。
オェッ。
まぁ、そんなこんなで私は宇宙船に乗り星を離脱した。
目的地はなかったが、なんとなく、その星に居づらくなってしまったのだ。
パパ上。
貰った部下だけど、クーリングオフしていい?
なんて聞きたい気分だ。
はぁ。
信用できる部下が欲しい。
地面から生えて来ないかな、信用できる部下。
◇◆◇
私が部下を7割ぐらい粛清し、新たに5割ぐらい信頼できる部下を迎えた頃。
コルド大王が正式に、フリーザへ軍を引き継いだ。
それと同時に、サイヤ人はフリーザの傘下となった。
その情報を宇宙船の玉座(現在はクッションや、オーディオプレイヤー、リクライニング機能を搭載した所為で玉座っぽくなくなったケド)で聞いた時、私はため息を吐いた。
「……はぁ、サイヤ人か」
サイヤ人。
惑星ベジータに住む戦闘民族。
猿の尻尾の生えた地球人みたいな見た目をした種族だ。
戦闘民族であり、野蛮で粗暴で残虐な奴らだ。
下級、中級、上級戦士と割り振られており、下級戦士ですら1500程の戦闘力がある激ヤバ宇宙人だ。
何より、彼等には厄ネタとして「
千年に一人現れる破壊と殺戮を好む最強の戦士……それが「
あまりにも危険過ぎる。
そんな奴らをフリーザが配下にした。
今、彼等はフリーザの下で惑星占拠の仕事をしている。
しているのだが……。
「……これはダメだな」
手元の端末で、彼等が占拠した星の情報を確認する。
大規模な破壊活動、現地住民の虐殺。
私の嫌いなタイプの宇宙人だ。
「ま、会わないように気をつけよっと」
私とフリーザは情報を連携している。
互いに不可侵領域として、どちらかが先に侵略した星に手を出すべからず……というルールだ。
だから、会う事はないだろう……と、思っていたのだが。
「姉さん、貴方にも顔合わせが必要だと思いましてね」
「……そう。どうしても?」
「どうしても、ですよ。バカなサイヤ人が手を出さないようにするには、力で黙らせた方が良いですから」
すっかり大きくなったフリーザにそう言われて、渋々頷く。
……大きくなった。
身長の話ではなく、立ち振る舞いの話だ。
大人になったんだなぁ、としみじみ思う。
そして、私はフリーザとの会話内容を思い出す。
サイヤ人は野蛮だ。
フリーザの強さを理解している現状、配下として従っているが……私に対しては敬う気持ちもない。
だから、無駄なトラブルを起こす前に釘を刺しておきたいらしい。
ふーん。
そうして、フリーザの宇宙船に乗って惑星ベジータに到着した。
サイヤ人……多分、上級戦士達が並んでいる廊下を通り抜けて、玉座の間に辿り着いた。
茶髪の巻き上がった髪。
偉そうな口髭。
戦闘服によくわかんない赤いマント。
……うーん。
何というか、滲み出ている信用できない感じ。
薄らと嫌悪感を抱くのは、コイツの本質を知っているからか。
「よ、よく来られましたな、フリーザ様。また一段とつ、強くなられて……」
「ほほ、世辞は結構ですよ」
媚びるような……いや、媚び切れてないな。
反感が少し混じった顔で、ベジータ王がフリーザへ頭を下げた。
そして──
「こ、こちらの方は?」
「私の姉、クウラです」
「あ、姉……!?」
ギョッとした顔で、ベジータ王が私を見た。
なんだその、化け物を見るような目は。
「よろしく、ベジータ王」
「は、ははぁっ……」
また、頭を下げた。
でもこれ、敬意で下げてる訳じゃないよね。
絶対アレじゃん。
頭下げさせられた!って逆恨みする奴じゃん。
サイヤ人、特に王やら王子を自称してる輩はプライドが高いんだ。
内心、面倒くささを感じながら握手をした。
そこから、惑星ベジータ内の案内をされた。
王宮内やら訓練施設やら。
そして、保育器。
サイヤ人の赤ん坊がポッドの中に浮かんでいる。
「これが私の息子でございます。名はベジータ、と言います」
「ほう、そうですか」
フリーザが自身の装備しているスカウターを操作して……少し顔を驚かせた。
スカウター。
対象の強さを測る機械だ。
モノクルのように片目に装備すれば、そのエネルギー値を『戦闘力』として測定する事ができる。
「驚きましたね。素晴らしい戦闘力です……この年齢にしては、ですが」
そして、私にチラリと視線を向けた。
私もスカウターを装備しているが、確認する程の事ではない。
起動しないよ。
だって、この子供……ベジータでしょ?
ドラゴンボールの主人公、孫悟空のライバル。
あのキッツイ、インフレ世界に順応してパワーアップしまくる才能の塊。
サイヤ人の王子、ベジータ。
測るまでもなく、強者の素養があるなんて知っている。
「で、では次の場所へ行きましょう」
私が驚かないのが、そして興味を示していないように見えるのが少し不快に感じたのか、ベジータ王が先を急いだ。
親バカ……って訳ではなさそうだ。
将来的に凄まじい戦闘力を持つ子供がいる事を示して、サイヤ人の有用性を知らしめたいだけだ。
待遇改善して欲しかったら、力じゃなくて、その野蛮過ぎる侵略体制を直すべきだろう。
そうして、惑星ベジータ内の施設を見回り──
「…………うん?」
私は王宮の外、一人の下級戦士に気付いた。
その視線は私に向いている。
強烈な反骨心。
何者にも屈服する気がなさそうな、強い心。
頬に傷のある、サイヤ人らしい黒髪の男。
「……どうかなされましたか、クウラ様」
「いや、何でもない」
私はベジータ王に手を振り、足を進めた。
先程のサイヤ人。
孫悟空にそっくりな顔、そして頬に傷。
間違いない。
アレは
「…………」
あの視線、サイヤ人を支配する余所者に対する反骨心を感じられた。
力の差が理解できない訳ではないだろうに。
しかし、まぁ……主人公達の親世代と顔を合わせれば、嫌でも原作が近いのだと納得せざるを得ない。
私はため息を吐いて、ベジータ王の後ろを歩き出した。
◇◆◇
「……何か面白い事でもありましたか?姉さん」
そう訊くと、姉であるクウラが目を瞬いた。
「どうしてそんな事を聞くの?」
「ベジータ王の話を、半分ほどしか聞いていなかったでしょう」
「……だって自慢ばかりで面白くなかったし」
「フッ、それには私も同感ですがね」
宇宙船を停泊させている拠点。
その前で久しぶりに姉と二人っきりで話している。
この姉、クウラは……正直に、本当に不服で、腹立たしい話だが、ボクよりも一回り戦闘力が高い。
戦って負けるつもりはないが、勝ったとしても無事では済まないだろう。
幸いにも、この姉は理性的で、横から何か勝手な事をしなければ敵対する事もない。
そして、部下の管理が下手で、甘い部分がある。
だから、パパはボクに軍を引き継いだ。
今では正式にフリーザ軍として、名乗っているぐらいだ。
この姉は後継者に選ばれなかった敗北者だ。
そう考えれば胸がすく。
しかし、軍を引き継げなかったと言えど、その戦闘力はボクを除いたフリーザ軍を数日で壊滅させ得る程だ。
敵対してはならない。
だが、放置するには勿体無い。
だから、利用する事にした。
今は、サイヤ人……猿どもの躾をさせようと考えている所だ。
「しかし、折角、最新型のスカウターをプレゼントしたというのに姉さんは使わないのですね」
ボクは姉さんに幾つかの贈り物をしている。
最新型のスカウターや、戦闘ジャケットなんてものも。
これは別に親愛を込めている訳ではない。
パパと同じ理由だ。
姉さんは受けた恩に対して、負い目を感じるタイプだ。
こうして色々と良くしておけば、いざという時に役に立つだろう。
実際、この女は惑星の反逆者を皆殺しにするのを嫌がってはいたが……コルド大王の頼みだからと、惑星内の住民を皆殺しにした事がある。
受けた恩を返す為ならば、自身の信念すら曲げる……そんな甘さ、愚かさを持っている。
ボクはそうじゃないけど。
「使ってるよ。侵略する時とか、人を探すのに役立つし」
なんて少し顔を顰めた姉さんに向けて、愛想笑いを浮かべる。
本当に厄介な姉だ。
だが、役には立つ。
そうだ。
ボクが利用する側で、コイツが利用される側だ。
「では、また会いましょう。姉さん」
「うん、フリーザも。元気で」
ボクが自分の宇宙船に乗り込みながら、手を振ると……それに姉が手を振り返した。
ハッチが閉まるまでの間、手を振り続けるつもりのようだが……直前、ボクは踵を返した。