「ブルマ、お客さんよ」
「お客ぅ?私に?」
私は首を傾げながら、母さんの言葉に椅子から立ち上がった。
明日は世界最強の武闘家を決める天下一武道会。
そして、孫くんやみんなと集まる日だ。
そんな前日だけど、気の早い誰かが来たのだろうか。
そう考えて、私はエレベーターに乗って一階へ。
そのまま玄関へ向かうと──
「あっ、クウラちゃんじゃない!」
「久しぶり」
紫色の肌をした美少女が、そこに立っていた。
前回と違っておしゃれしているようで両手両足、首に宝石がはまった金色のアクセサリーを身につけている。
衣服はゆったりとしているが、女性らしいもので……どことなく、エキゾチックな見た目だ。
「本当に久しぶり〜!というか、なんで来なかったの?借り物も返せなかったじゃない」
「ちょっとお仕事が忙しくてね……あ、これお土産」
「お土産?」
クウラちゃんから渡されたのは金属製の箱だ。
それを促されるまま開けると……中には黒いスポンジが詰まっており、中心に宝石があった。
「えっなにこれ?宝石?」
「そう、ウルトラアメジスト──だっけ?最近行った星で拾った」
「拾ったって……これって凄く価値のあるものじゃないの?」
「場所によっては。でも私が拾った星では、道端にも落ちてたから大した事ないよ」
「そうなの……?」
「うん」
私は宝石を手に取り、光に翳す。
紫色の石が虹色に煌めき、乱反射する。
凄く綺麗だ。
「ありがとう、大事にするわね。それで……スカウターを返さなきゃ、なのよね?」
「うん。返してくれる?」
「それは勿論。でも持ってきてないから、置いてある部屋まで来てくれる?」
「分かった」
私が案内すると、クウラちゃんはそのまま後ろについて歩いてきた。
エレベーターに乗りながらも、私はクウラちゃんに話しかける。
「というか全然見た目変わってないわね……」
「まぁ、うん。私の種族、人間より長生きするからね。ちょっとやそっとでは老けない」
そう言われると、失礼かもしれないが、年齢を聞きたい欲が出てくる。
しかし、先ほどの返答から話したがっていない事をなんとなく察して私は話を打ち切った。
「でも、クウラちゃん。どうして急に来たの?何か他にも用事があったり?」
「……ちょっと面倒なことから逃げたくて。現実逃避」
「現実逃避……?何かあったの?悩み事?」
エレベーターを降りて、廊下を歩き始める。
同時にクウラちゃんが少し渋い顔をしていた。
「私が世話している男の子がいるんだけど、私のこと、すっごい求めてきて……」
「え」
急にとんでもない話が飛び出してきて、絶句してしまう。
いやでもしかしそうか。
クウラちゃんは少し抜けている印象はあるけど、見た目はかなりの美人だ。
世話をしている男の子……というのはよく分からないが、ボーイフレンドぐらい居るだろう。
「……ブルマ?」
私は努めて笑顔を浮かべて、クウラちゃんに目線を戻した。
「いや、なんでもないわ……へー、そういう事もあるのねぇー……あ、あはは」
そもそも勘違いかも知れないし、勝手にそういうことを想像するのも悪い──
「うん。すっごく疲れるから、あんまりしたくないのに……毎日したいしたいってうるさくて。嫌じゃないんだけど、しんどくて」
いや、やっぱりこれダメだ。
思わず、顔が熱くなる。
私も歳頃の女である。
そういう恋話は好きだが、流石にちょっと生々しいにも程がある。
「クウラちゃん。そういう話、あんまり人にしない方がいいわよ……」
「え?なんの話?」
「だからその、そういう……その話だけど」
ぼそぼそと耳打ちすると、クウラちゃんは片眉を上げた。
「え?いや普通に、手合わせ……あ、プロレスごっこの話だけど。何かダメ?」
「……大人にもなってプロレスごっこ?」
「まぁ、弟みたいなものだから。そういう歳頃なんだと思う」
「……そう」
思わず、衝動的に頭を叩きそうになった。
勘違いした私が悪いのか?
いや、そんな事ない。
絶対にこんな思わせぶりに話してきたこの子が悪い。
わざとなのだろうか?
……いや、目の前で不思議そうな顔をしているのを見ると、そうとは思えない。
私はため息を一つ吐いた。
そんなこんなで自室に帰ってきた私は、引き出しからスカウターを取り出した。
「はいこれ。貸してくれてありがとね」
クウラちゃんは受け取ってから、そのまま服のポケットに突っ込んでいた。
随分な扱いに苦笑する。
スカウターはどう考えても高級な電子機器なのだが、そんな雑に扱って良いのだろうか。
そう訝しむ私に、クウラちゃんは視線を戻してきた。
「ブルマ、解析は上手く行った?」
「まぁねー、ちょっと待ってね……じゃん!」
私はズボンに装着している小型のバッグからモノクル状の電子機器を取り出し、顔に装着した。
「それは?」
「私が開発した地球産のスカウター、って所かな。といっても主に言語翻訳機能と、地球規格の通信機能を付けただけなんだけどね」
「……すごい。旧型じゃなくて、こっちの複製できたんだ?」
「ふふふふ、私って天才だから」
「うんうん、すごい。天才」
「そ、そう?」
ちょっとした冗談染みた自負に対して、本気の賞賛を投げられて……ちょっと照れる。
小さく手をぱちぱちと叩くクウラちゃんを見て、ふと思い出した。
3年前……当時、読めなかったけど、クウラちゃんのスカウターが彼女自身を測定したら……物凄い桁数で文字の羅列が出ていたような……?
「…………」
気になって、そのまま私のスカウターを起動する。
そうすれば、クウラちゃんの強さが数値として測定される。
宇宙の言葉ではなく、地球の言葉で……。
1、10、100……まだ増える。
1,000、2,000、3,000……!?
えっ!?
4,281!?
ギョッとする。
普通の人間相手に測定すると5も出ない。
ということは、人間換算で……900倍ぐらい!?
クウラちゃんが!?
「ん?どうかした?ブルマ?」
「え、あー……クウラちゃんってさ」
「うん?」
「もしかして、実はけっこー強かったりする?なんてね、はは、ははは」
ぴくり、とクウラちゃんの肩が跳ねた。
「……もしかして、そのスカウターで測った?」
「ご、ごめんねー、気になっちゃって」
「ううん、別に怒ってない。いいよ」
私の謝罪にクウラちゃんは腕を組んで、視線を逸らした。
なんとなく、言い訳を探しているような顔に見えた。
そして、私に視線を戻した。
「どれぐらいの数値が出たか分かんないけど……宇宙人だと、それぐらいが普通なの」
「え、そうなの?」
「うん。宇宙って結構、過酷な環境だから」
「あー……たしかに。なるほど」
私は宇宙に行った事などないが、宇宙空間がどれだけ過酷なのかは知っている。
真空で、凄く寒くて、誰もいない。
そう考えれば、宇宙人の平均値が人間の何百倍になってしまうのも納得できる。
しかし、非戦闘員であるクウラちゃんで4,000か……本物の兵士だったり、戦闘員だと1万とか越えるんじゃないかな。
まだ孫くんやら、ヤムチャ相手に測定してないけど……1万とか出るのかな?
ピッコロ大魔王とかも1万ぐらいあるかも。
何となく、そんな事を考えながら、私は話題を切り替える。
「それで、クウラちゃん。地球には何日居るつもり?」
「んー、今回は一週間ぐらいかな」
「宿は?」
「まだない。野宿する予定」
「なら、今回もウチに泊まっていけば?父さんも母さんも、歓迎してくれるだろうし……あっ」
そういえば、と私は思い出した。
「ブルマ?」
「あー、いや……あのね?明日からちょっと、用事があって。少し遠出するのよね」
「つまり居ないってこと?」
「うん……天下一武道会って、武道家達が集まる大会に孫くん……私の知り合いが沢山集まってくるの」
クウラちゃんには申し訳ないが、私の予定は天下一武道会が優先だ。
孫くんにも久々に会いたいし……私のことを放っておいて修行の旅に出た
私は視線をクウラちゃんに戻した。
「母さんと父さんは居るから、別にここに泊まるのは問題ないと思うけど……あっ、そうだ──
友人を放って遠出せずに、尚且つ予定を達成する方法を思いついた。
「クウラちゃんも天下一武道会観に行かない?多分きっと面白いからさぁ」
つまり、予定にクウラちゃんを組み込めばいいのだ。
地球への観光というのなら、天下一武道会は結構面白い催しだと思うし。
「……うーん」
私の言葉にクウラちゃんは少し悩む様子を見せた。
こういった武道だの、血生臭い催しは苦手なのだろうか。
女の子だし。
「嫌だったら、別にここに居ても良いけどね。父さんと母さんには言っておくし」
気を遣わせまいと口にした言葉に、クウラちゃんは首を横に振った。
「うん、でも行ってみようかな。気になるし」
「そう?誘っておいてなんだけど、無理しなくてもいいからね?」
「無理はしてない。ちょっとした事情があってね、行かない方が良いんだけど」
「……え?行かない方が良いの?じゃあ、やっぱり無しにする?」
「ううん、行く。行かない方がよくても、行く。楽しそうだし」
……誘わなかった方が良かったのかな?
でも、今更、やっぱり行かない方が良いだなんて言えないし。
クウラちゃんが納得しているなら、まぁいいのかな?
◇◆◇
ブルマ邸に来た翌日。
私とブルマ、そしてウーロンとプーアルの二人と二匹は西の都から飛行機に乗り、パパイヤ島まで来ていた。
生憎の雨の中、空港からタクシーに乗り換えて移動すること1時間ほど。
目的地が見えていた。
『天下一武道会』と書かれた看板を掲げる、武道寺だ。
天下一武道会。
世界中からありとあらゆる分野で最強の武道家が集まり、強さを競い合う夢の武道大会である。
原作でも話の大きな節目として何度も登場しており、私にとってはちょっとした聖地巡礼のようなものだ。
本来なら原作に介入すべきではないので、万が一にも干渉しないよう、そもそも来るべきでもないのだが──
まぁ、その、一回ぐらい観ておきたいし。
ファンとしてはね。
しかし、しかしだ。
戦闘力を抑えるリミッターも装備しているし、変装用のサングラスまで掛けている──ブルマは何故か頬を引き攣らせていたけど。
これで印象に残らない筈だ。
我ながら頭がいい。
そもそも、観客に混ざるだけだし。
別に大会に出ちゃおうという訳でもないし。
そんな懸念するような影響など、発生しないだろう。
うん、うん。
まぁ、ミーハーな自覚はある。
それでも、個人の快、不快に従って素直に生きるのが私のモットーでもある。
あ、あと真面目な理由もある。
天下一武道会では武道の達人が集まる。
フィジカルモンスターである私は戦いにおいて、素の力で事足りてしまっているため、いつまで経っても武芸が身に付かない。
これを機会として、一度しっかりと、ちゃんとした武術を目に収めたかったのである。
そうして私はタクシーを降りて、武道寺の前に到着したのだが……まだ雨は降っている。
私とブルマは傘を差して、プーアルを側に──ウーロンは私と接触禁止命令が出ているためブルマ側に置き、会場前へ向かう。
するとブルマが誰かに気付いたようで少し小走りでそちらへ向かった。
「久しぶり!二人とも」
「あ、ブルマさん!」
声を返したのは傘を持つ黒髪の美女だ。
その隣にはサングラスをかけて、スーツ姿の老人。
「こりゃ久しいのう。随分と綺麗になりよって」
スーツ姿の老人はブルマの尻に手を伸ばして──
「こら!尻を触ろうとするんじゃない!」
肘鉄を顔面に喰らっていた。
「い、いぢぢ……性格は変わっとらんのう……」
「余計なお世話よ、スケベじじい」
気心知れた様子に私は若干の疎外感を感じながら、はたから見ていた。
まぁ別に羨ましい事はないが。
同じ真似をすると、老人の顔面が吹き飛んじゃうだろうし。
そんな呆けている私にブルマは気付き、目線を向けてきた。
「クウラちゃん、こっちの女性がランチさんで、こっちのエロじじいが亀仙人」
「あら、どうも〜ランチです!」
「ど、どうも……」
黒髪の女性、ランチが頭を下げてきた。
合わせて私も頭を下げる。
相手側はフレンドリーだが、何とも私は距離感を掴みにくい。
元々、私は根が人見知りなのだ。
別に陰キャって訳じゃないが。
交流関係の広い陽キャな自覚はあるが、初対面相手には微妙に緊張するし、それが威圧しちゃダメな友人の友人というのが何とも距離感を掴みづらい。
あと別に陰キャではない。
部下でも、侵略先の宇宙人でもない。
機嫌を損ねたらダメな友人の友人など、ここ100年は居なかった。
どう接して良いのか分からないのである。
困った。
環境が悪い、私は悪くない。
フレンドリーなオーラを放ってくるランチから目を逸らし、私はエロじじいと紹介された亀仙人を見た。
「…………」
無言で何かを考えるような顔で、こちらを見ている。
それはブルマにセクハラしていた時のような、軽薄な様子ではなく、どこか思慮深い賢者の姿だ。
亀仙人は武術の達人である。
亀仙流の師範であり、孫悟空やその親友クリリンの師匠である。
後の、というか既にパワーインフレに置いていかれた存在ではあるが、こと武術という技術においては孫悟空すら上回る達人だ。
私は今、リミッターを装備しており戦闘力も誤魔化せている筈なのだが、それでも力を見抜いているのだろうか。
流石は孫悟空の師匠──
「随分と綺麗な姉ちゃんじゃの。何カップ?」
違った。
エロじじいだった。
「やめんか、エロじじい!」
「ぎっ!?」
ブルマに拳骨を喰らって、頭を押さえて蹲る亀仙人。
そんな姿を見て、私は頬を引き攣らせる事しかできない。
ウーロンしかり、亀仙人しかり、どいつもこいつも、肌が紫色で尻尾の生えている女に発情するなど、ストライクゾーンが広過ぎる。
まぁでもこの世界、獣っぽい見た目をした人間やら、公式設定で鼻のないやつ、恐竜みたいな人もいるからね。
肌が紫色ってぐらいだと、ちょっと珍しい風貌の人間判定なのだろう。
これ知ってる、多様性ってやつだ。
私はぼんやりとそんな事を考えながら、ブルマがぎゃいぎゃいと怒っている様子を眺めていた。
Q.何故、クウラはサウザー達の前と比べて態度が硬くなっているのか?
A.陰キャだから。