TS転生クウラちゃんは平穏に生きたい   作:WhatSoon

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#25 神様とピッコロ

舞台の上で、神様(シェン)ピッコロ(マジュニア)が向き合っている。

なんかボソボソ喋ってるけど、全然聞き取れない。

もうちょっとハッキリ喋って欲しい。

 

新しく買ってきたビールを片手に、ぼーっと私は見ていた。

 

 

「何か因縁とかあるのかしら」

 

 

ブルマの発言は正しい。

因縁どころか元は一人のナメック星人なのだから。

 

 

「行くぞ!とぉっ!!」

 

 

神様(シェン)が指を立てると、風が吹き上がった。

アレだ、ナッパのやってた奴の下位互換だ。

 

 

「わっ!?」

 

「きゃぁっ!?」

 

 

地球人レベルでは凄いパワーだ。

亀仙人の帽子が飛び、プーアルがぶっとび掛けてランチに掴まれ、ウーロンがずっこけて、ブルマが髪を押さえている。

 

他の観客も各々大変な事になっている。

 

ま、私には効かないんですけどね。

この程度のパワーなど、宇宙では日常茶飯事だ。

 

怯みもしなければ、よろけもしない。

全くのノーリアクション、ノーダメージなのだ。

 

まぁ、仕方ないよね。

私ってば、この時代だと相当な強者だし“バシャ!”仕方な……バシャ?

 

 

「あ」

 

 

紙カップは握ったまま、ビールだけ巻き上がり、全部溢れてしまった。

 

 

「きゃー!?」

 

「うわーっ!?」

 

「あ゛ーっ!!」

 

 

観客が悲鳴をあげる中、私も悲鳴をあげる。

なんてことだ、私のビールが、神様(シェン)によって零されてしまった。

 

 

「……あ゛、あああ゛」

 

 

これは許される事ではない。

断固、抗議すべきだ。

 

 

「ぐ、ぎぎぎ……ッ!」

 

 

だがしかし、私は我慢できる女だ。

ここは冷静に、アンガーマネジメントだ。

 

大丈夫、怒ってない。

ふぅー、怒ってない。

怒ってないったら、怒ってない。

 

紙コップを握りつぶし、青筋を立てながらも、私は冷静さを保っている。

 

 

「クウラちゃん、大丈夫?」

 

 

ブルマに声を掛けられて、我に返る。

ふ、ふぅ、危なかった。

あやうくキレる所だった。

 

 

「ふぅ……ッ、ぐっ、大丈夫。ま、またビール零れちゃっただけ、だから……!」

 

「……あちゃー。後で買いに行こ?ね、今は我慢できる?」

 

「……うん」

 

 

横でウーロンが何か言いたそうな顔をしているが、無視する。

 

 

なんてしている間にも試合は進んでいる。

舞空術で宙を飛び、気の弾丸を放つピッコロ。

それを弾きながら接近し、ピッコロを蹴り飛ばした神様。

 

 

「す、凄まじい……!強い、強すぎる……!」

 

 

亀仙人がそう口にする。

確かに地球の現環境だと強すぎる。

 

かろうじて無事だった焼き鳥を口に含みつつ、サングラスを整える。

 

アンガーマネジメントに成功した私は、試合を冷静に見る。

戦闘は五分五分に見えて、ピッコロが有利か。

もっと互角になると思っていたけれど、想像以上にピッコロが強い。

……うん、強くない?

 

このままやってたら、ピッコロが勝ちそうなぐらいだ。

よしやれ、ピッコロ。

神様の顔をぶん殴ってやれ!

 

そう思っていたのだが、突如二人は手をとめた。

おい、なに止めてんだ!

いけ!ピッコロ!

神様をボコボコにしろ!

 

 

「△I∂φOI:LΞ、L:OII△ΞI▷φ……!」

 

「◽︎L:Λ……!OIΞ▷L:φXI▽O:!!」

 

 

あ、急に公共語以外で喋り出した。

こりゃあれだ、神様の故郷、ナメック星の言語だ。

 

 

「ふ、ふたりとも、何を喋っておるんだ?」

 

「なんだってんだ……?」

 

 

二人がそんな言葉で話すものだから、観客はポカンとしている。

そんな中、ブルマが私の脇腹を突いた。

 

 

「ね、クウラちゃんは何を喋ってるのか分かる?」

 

「……あれは、地球外の言語。宇宙のとある星で使われてる言語」

 

 

流石にナメック星うんたらは言わない方がいいか。

公開できる情報としては毒にも薬にもならないことしか言えない。

 

 

「え、何を言ってるのか分かるの!?翻訳できる?」

 

「言語は分かるけど、何喋ってるかは分からない。ごめん」

 

 

がたっと、亀仙人やランチ、ブルマまでずっこけた。

 

だってナメック語ってナメック星人しか使ってないんだもん。

勉強しても使う機会ないし、勉強してなくても仕方なくない?

 

 

「けっ、なら思わせぶりなこと言ってんじゃねーぜ。使えねー」

 

 

ウーロンの言葉に手か足が出そうになる。

だが、私が殴ればコイツは即座に豚ミンチになってしまう。

それはできない。

 

我慢していると、舞台の上で動きがあった。

 

神様が舞台に小瓶を置いたのだ。

 

 

魔封波(まふうば)だっ!」

 

 

あ、そういえばそういう展開だったな。

凄まじい吸引が神様の手から放たれ、ピッコロを封印すべく引き寄せる。

 

魔封波(まふうば)

それは亀仙人の師匠が生み出した秘技であり、格上すら封印できる秘術。

ただし、自分より強者に使用すれば、術者の命を削るリスクのある技でもある。

 

多分、私も食らえば封印される……術者は確実に死ぬが。

 

だが、そもそも私に相対した術者が魔封波(まふうば)を発動する事が出来ないだろう。

構えられた瞬間に、相手を殺害するので問題ないのだ。

どれだけヤバイ技も使われる前に止めれば問題ない。

 

だからまぁ、格上狩りできるクソ技ではあるが、格上には通用しない性質もある。

 

というか、この技には致命的な弱点がある。

 

 

「バカめ!魔封波(まふうば)がえし!」

 

「なぁっ!?」

 

 

そう、相手も術を習得していれば、反射できてしまうのだ。

 

 

「は、はねかえしたーっ!?」

 

 

亀仙人も驚いている中、神様がその仮初の肉体ごとピッコロに引っ張られていく。

 

 

「お、おおおおーっ!?し、しまった!まさか、こ、こんな結果になるとはーっ!?」

 

 

神様がその肉体……借りていた地球人の肉体と分離した。

そして、本来の老いたナメック星人の姿となる。

 

 

「孫よ!私は死んでも構わん!こいつを倒し、世を清めてくれーい!」

 

 

結構余裕があるのか、色々と喋ってる。

そのまま神様はピッコロに誘導され、小瓶へと封印されてしまった。

 

静けさが、舞台に戻った。

そこには倒れた人間と、勝ち誇った笑みを浮かべるナメック星人だけが居た。

 

 

「ふ、ふふふ……!この程度の技で俺を倒そうとは……俺に何度も同じ手が通用すると思った貴様の負けだ!くっくっく!」

 

 

ピッコロの勝利宣言と共に、審判がテンカウントを進める。

だが、既にシェンの肉体に神様は存在しない。

起き上がった所でただの人間であり、勝ち目はない。

 

そして、勝利はピッコロ……マジュニアの手に渡った。

その手に、神様を封じ込めた小瓶を持ちながら。

 

そんな試合の終わりに、亀仙人は冷や汗をかいていた。

 

 

「……すまん、少し悟空たちと話がしたい。ちょっと行ってくるわい」

 

 

そうして、亀仙人はその場を離席した。

待合室で悟空らと、神様とピッコロの話やら何やらをするつもりだろう。

 

 

「……大丈夫かしら」

 

 

ブルマは心配そうな顔で舞台を見ている。

何も分からずとも、何か良くない事が起こっているのは分かっているのだろう。

 

私はそんなブルマの肩を手で叩いた。

 

 

「ま、大丈夫、大丈夫。いざという時は私が何とかするから」

 

 

励まそうとしていると、私の言葉を1mmも信用していないウーロンは顔を顰めている。

 

 

「無責任なもんだぜ、この酔っ払い宇宙人はよ」

 

「おう」

 

 

その言葉にランチも同意して頷いた。

……まぁ、こいつらは私が強いって事知らないもんね。

我慢我慢。

 

 

「……うん、クウラちゃんありがとう」

 

 

それに対してブルマは良い子だ。

ちゃんとお礼が言えるし、私の発言を信じてくれるのだから。

 

 

「取り敢えず、次の試合までにビール買い足してくる」

 

「……まじで呑気だもんな」

 

 

そりゃ呑気にもなるよ。

だって、この時代の地球の強者ってクウラ軍の雑用よりも弱いんだもん。

私には地球の危機よりも、ビールが大事なんだ。

ビール、ビール。

 

そそくさとその場を後にして、私はビールを買い足した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で補充したビールを飲みながら、中華まんを齧る。

美味い。

 

凄まじい満足感を感じつつ、舞台に上がる孫悟空とピッコロ。

この天下一武道会の決勝戦、〆である。

 

舞台の裏から亀仙人、チチ、クリリンや天津飯が顔を出している。

心配で見ているのだろう。

 

対して観客席のブルマやランチ、ウーロンやプーアルも心配している。

 

そう心配せずとも孫悟空が勝つんだけどね。

その事実を知っている私は、安心してビールを喉に流すことができる。

いえーい、さいこーだ。

 

 

「……へっ、オラもちっとばかし本気でやらなきゃキツいかもな」

 

 

舞台の上で悟空がそんな事を言いながら、シャツを脱ぎ始めた。

あ、そういえば重い服を着てるんだったな。

リストバンドも靴も確か、重いんだっけか。

 

ずんっ、と音が響いて舞台の石板が割れた。

 

……あんなに重かったっけ?

 

 

「フン、俺も本気を出させて貰う」

 

 

ピッコロも合わせてマントを脱ぐ……これもまた、大きな音を立てて、地面に落ちた。

 

舞台の床を砕くほどの重量。

どれだけの重さなのか。

 

互いにそんな重りを身につけたまま戦っていたのだ。

……あれ?

 

ピッコロも?

というか、そんなに重いもの身に付けてたのか?

 

 

「覚悟は良いか?孫悟空」

 

「へっ、何の覚悟だ」

 

「無論、地獄を見る覚悟だ!ずぁっ!」

 

 

瞬間、戦いが始まった。

あまりにも素早い応酬に観客がどよめく。

 

私には見えているが……中々、強い。

というか天津飯と戦ってた時、すごい手加減してたんだな悟空。

 

ちらと舞台奥の天津飯を一瞥すれば……流石にショックを受けた顔をしていた。

ま、そりゃそうか。

手も足も出ずに負けた相手が、実は本気ですら無かったのだから。

 

 

「はははぁーっ!」

 

 

ピッコロが宙に飛び、気の弾丸を連射した。

地上にいる悟空に向かって降り注ぐが、悟空は耐えていた。

 

一つ一つの気の量が少ないのだろう。

大したダメージにはなっていないようだ。

 

そんな気弾が降り注ぐ中、悟空が構えた。

 

 

「かめはめ……波ぁっ!」

 

 

そして、かめはめ波をピッコロに放った。

 

 

「甘い!そんな技など!」

 

 

ピッコロは全身を捻り、かめはめ波を弾き返した。

だが、その隙に悟空は地面を蹴っていた。

 

 

「だぁ!」

 

「ちっ!」

 

 

空中で悟空が蹴りを放ち、ピッコロは受け止めきれず……墜落した。

舞台の石板を砕き、それでもピッコロは受け身を取った。

 

 

「な、なんて試合じゃ」

 

 

ぼそりと呟いた亀仙人の言葉は耳に届いた。

確かに、思っていたより高水準だ。

孫悟空もピッコロも、想像していたよりも遥かに強い。

 

地上に降りた二人が拳をぶつけあい、攻撃を避け合う中、私はそんなことを考えていた。

 

 

「これで終わりだ!木っ端微塵にしてやる!」

 

 

瞬間、ピッコロが地面を蹴って飛び上がった。

大気が歪んで見えるほど禍々しい気が彼を覆う……気を読む力がない私から見えても、何らかのパワーを溜めている事が分かってしまう。

 

 

「完全に消えてなくなるがいい!くらえ!」

 

 

瞬間、頭上から途轍もない光線が降り注ぐ……が、私は全く危機感を抱いてはいなかった。

理由は、既に悟空が構えていたからだ。

 

 

「とっておきだ!超……かめはめ、波ぁーっ!!」

 

 

先程よりも巨大なかめはめ波を悟空がぶっ放した。

 

 

「な、なにぃっ!?」

 

 

そのままピッコロの気功波と相殺し……いいや貫通して、ピッコロへ直撃した。

 

 

「ぐあああーっ!?」

 

 

凄まじいエネルギーに衝撃が観客席まで広がる。

風が巻き上がり、ブルマやウーロンがのけぞっている。

 

だが、私は微動だにしない。

しかも、今回はビールも中華まんもノーダメージだ。

予め、エネルギーを放出してバリアを張っていたからだ。

 

私は同じ失敗を何度もしないのだ。

 

ちなみにバリアは簡単な技能で、複雑な技じゃない。

単純に身体からエネルギーを放出して覆うだけ。

特別なエネルギー操作の技術を必要としない、そんな技だ。

私でも出来る。

 

はたして宙にいたピッコロは、舞台へと着地した。

服は既にボロボロ……頭に被っていたターバンも焼け焦げて消失していた。

 

 

「お、おのれ〜っ!この俺様に、ほんの一瞬とはいえ無様な真似を……!ゆるさんぞ、貴様はバラバラにしてやる!」

 

「さすがだな……とっておきの超かめはめ波だったのによ。えらいパワーだ」

 

「ぬかせ……!すぐに息の根を止めてやる!」

 

 

そうして向き合う二人を見て、観客席がざわつきだす。

ターバンが焼けて、ピッコロの頭にある触角が露出したからだ。

 

私の隣にいるランチも目を何度か瞬いていた。

 

 

「あ、あいつ……似てやがるぜ」

 

「え?」

 

「ピッコロ大魔王に……!」

 

「そ、そんなっ!?」

 

 

ブルマが驚く中、似たような会話が周りからも聞こえる。

マジュニアという選手が、ピッコロ大魔王に似ているという話が……そこかしこから。

 

そんな声を聞き、ピッコロが腕を振り上げた。

 

 

「似ていて当然だ!この俺は……ピッコロ大魔王の生まれ変わりだ!世界中に知らせるんだな!孫悟空の息を止めれば、再びこの俺が貴様らの王になると!」

 

 

その宣言を皮切りに、観客席から悲鳴が聞こえ始めた。

 

 

「う、うわーっ!?」

 

「ひいーっ!?」

 

「逃げろ!逃げろーっ!」

 

 

観客の誰もが逃げ出す中、最前席にいた私達だけが残った。

天下一武道会の決勝は誰も居ない中、ピッコロと孫悟空の二人っきりの戦いになったのだ。

 

……いや、正確にはもう一人いたな。

 

 

『さ、さあー!大変なことになりました!マジュニア選手はあの、ピッコロ大魔王だったのです!』

 

 

進行役のアナウンサーは残っていた。

 

 

「……プロね」

 

「それは同感」

 

 

ブルマの言葉に同感しつつ、舞台へ視線を戻す。

 

 

「くくく、ゴミどもが減って、静かになったな」

 

「へっ……わりぃがみんな離れてくれ。その方がオラもやりやすい」

 

 

そんな言葉を聞いて、クリリンや天津飯、亀仙人も私達の居る客席に戻ってきた。

 

……ふと、振り返る。

マジで誰も居なくなっている。

 

キッチンカーまでも、だ。

 

そ、そんな……!

じゃあビールのお代わりは出来ないってこと?

中華まんのお代わりもなし?

 

だ、大事に飲み食いしなきゃ。

 

ちびちび……。

 

 

「あのー……ブルマさん?」

 

「なに?クリリン」

 

「クウラさんってば、ずっとこんな感じなんですか?」

 

「ええ、そうなのよ」

 

「……なんというか、大物ですね」

 

 

クリリンの言葉に無言で同意する。

まぁ、この時代なら私は大物だ。

そこにいるピッコロが何をほざこうが、私には勝てないのだ。

 

だから、心配する必要もない。

ビールがうまい。

 

私は地球の命運をかけたバトルを見ながら、中華まんを口にした。

 

あ、ピッコロ大魔王が巨大化した。

ウケる。

 

 

 

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