舞台の上で、
なんかボソボソ喋ってるけど、全然聞き取れない。
もうちょっとハッキリ喋って欲しい。
新しく買ってきたビールを片手に、ぼーっと私は見ていた。
「何か因縁とかあるのかしら」
ブルマの発言は正しい。
因縁どころか元は一人のナメック星人なのだから。
「行くぞ!とぉっ!!」
アレだ、ナッパのやってた奴の下位互換だ。
「わっ!?」
「きゃぁっ!?」
地球人レベルでは凄いパワーだ。
亀仙人の帽子が飛び、プーアルがぶっとび掛けてランチに掴まれ、ウーロンがずっこけて、ブルマが髪を押さえている。
他の観客も各々大変な事になっている。
ま、私には効かないんですけどね。
この程度のパワーなど、宇宙では日常茶飯事だ。
怯みもしなければ、よろけもしない。
全くのノーリアクション、ノーダメージなのだ。
まぁ、仕方ないよね。
私ってば、この時代だと相当な強者だし“バシャ!”仕方な……バシャ?
「あ」
紙カップは握ったまま、ビールだけ巻き上がり、全部溢れてしまった。
「きゃー!?」
「うわーっ!?」
「あ゛ーっ!!」
観客が悲鳴をあげる中、私も悲鳴をあげる。
なんてことだ、私のビールが、
「……あ゛、あああ゛」
これは許される事ではない。
断固、抗議すべきだ。
「ぐ、ぎぎぎ……ッ!」
だがしかし、私は我慢できる女だ。
ここは冷静に、アンガーマネジメントだ。
大丈夫、怒ってない。
ふぅー、怒ってない。
怒ってないったら、怒ってない。
紙コップを握りつぶし、青筋を立てながらも、私は冷静さを保っている。
「クウラちゃん、大丈夫?」
ブルマに声を掛けられて、我に返る。
ふ、ふぅ、危なかった。
あやうくキレる所だった。
「ふぅ……ッ、ぐっ、大丈夫。ま、またビール零れちゃっただけ、だから……!」
「……あちゃー。後で買いに行こ?ね、今は我慢できる?」
「……うん」
横でウーロンが何か言いたそうな顔をしているが、無視する。
なんてしている間にも試合は進んでいる。
舞空術で宙を飛び、気の弾丸を放つピッコロ。
それを弾きながら接近し、ピッコロを蹴り飛ばした神様。
「す、凄まじい……!強い、強すぎる……!」
亀仙人がそう口にする。
確かに地球の現環境だと強すぎる。
かろうじて無事だった焼き鳥を口に含みつつ、サングラスを整える。
アンガーマネジメントに成功した私は、試合を冷静に見る。
戦闘は五分五分に見えて、ピッコロが有利か。
もっと互角になると思っていたけれど、想像以上にピッコロが強い。
……うん、強くない?
このままやってたら、ピッコロが勝ちそうなぐらいだ。
よしやれ、ピッコロ。
神様の顔をぶん殴ってやれ!
そう思っていたのだが、突如二人は手をとめた。
おい、なに止めてんだ!
いけ!ピッコロ!
神様をボコボコにしろ!
「△I∂φOI:LΞ、L:OII△ΞI▷φ……!」
「◽︎L:Λ……!OIΞ▷L:φXI▽O:!!」
あ、急に公共語以外で喋り出した。
こりゃあれだ、神様の故郷、ナメック星の言語だ。
「ふ、ふたりとも、何を喋っておるんだ?」
「なんだってんだ……?」
二人がそんな言葉で話すものだから、観客はポカンとしている。
そんな中、ブルマが私の脇腹を突いた。
「ね、クウラちゃんは何を喋ってるのか分かる?」
「……あれは、地球外の言語。宇宙のとある星で使われてる言語」
流石にナメック星うんたらは言わない方がいいか。
公開できる情報としては毒にも薬にもならないことしか言えない。
「え、何を言ってるのか分かるの!?翻訳できる?」
「言語は分かるけど、何喋ってるかは分からない。ごめん」
がたっと、亀仙人やランチ、ブルマまでずっこけた。
だってナメック語ってナメック星人しか使ってないんだもん。
勉強しても使う機会ないし、勉強してなくても仕方なくない?
「けっ、なら思わせぶりなこと言ってんじゃねーぜ。使えねー」
ウーロンの言葉に手か足が出そうになる。
だが、私が殴ればコイツは即座に豚ミンチになってしまう。
それはできない。
我慢していると、舞台の上で動きがあった。
神様が舞台に小瓶を置いたのだ。
「
あ、そういえばそういう展開だったな。
凄まじい吸引が神様の手から放たれ、ピッコロを封印すべく引き寄せる。
それは亀仙人の師匠が生み出した秘技であり、格上すら封印できる秘術。
ただし、自分より強者に使用すれば、術者の命を削るリスクのある技でもある。
多分、私も食らえば封印される……術者は確実に死ぬが。
だが、そもそも私に相対した術者が
構えられた瞬間に、相手を殺害するので問題ないのだ。
どれだけヤバイ技も使われる前に止めれば問題ない。
だからまぁ、格上狩りできるクソ技ではあるが、格上には通用しない性質もある。
というか、この技には致命的な弱点がある。
「バカめ!
「なぁっ!?」
そう、相手も術を習得していれば、反射できてしまうのだ。
「は、はねかえしたーっ!?」
亀仙人も驚いている中、神様がその仮初の肉体ごとピッコロに引っ張られていく。
「お、おおおおーっ!?し、しまった!まさか、こ、こんな結果になるとはーっ!?」
神様がその肉体……借りていた地球人の肉体と分離した。
そして、本来の老いたナメック星人の姿となる。
「孫よ!私は死んでも構わん!こいつを倒し、世を清めてくれーい!」
結構余裕があるのか、色々と喋ってる。
そのまま神様はピッコロに誘導され、小瓶へと封印されてしまった。
静けさが、舞台に戻った。
そこには倒れた人間と、勝ち誇った笑みを浮かべるナメック星人だけが居た。
「ふ、ふふふ……!この程度の技で俺を倒そうとは……俺に何度も同じ手が通用すると思った貴様の負けだ!くっくっく!」
ピッコロの勝利宣言と共に、審判がテンカウントを進める。
だが、既にシェンの肉体に神様は存在しない。
起き上がった所でただの人間であり、勝ち目はない。
そして、勝利はピッコロ……マジュニアの手に渡った。
その手に、神様を封じ込めた小瓶を持ちながら。
そんな試合の終わりに、亀仙人は冷や汗をかいていた。
「……すまん、少し悟空たちと話がしたい。ちょっと行ってくるわい」
そうして、亀仙人はその場を離席した。
待合室で悟空らと、神様とピッコロの話やら何やらをするつもりだろう。
「……大丈夫かしら」
ブルマは心配そうな顔で舞台を見ている。
何も分からずとも、何か良くない事が起こっているのは分かっているのだろう。
私はそんなブルマの肩を手で叩いた。
「ま、大丈夫、大丈夫。いざという時は私が何とかするから」
励まそうとしていると、私の言葉を1mmも信用していないウーロンは顔を顰めている。
「無責任なもんだぜ、この酔っ払い宇宙人はよ」
「おう」
その言葉にランチも同意して頷いた。
……まぁ、こいつらは私が強いって事知らないもんね。
我慢我慢。
「……うん、クウラちゃんありがとう」
それに対してブルマは良い子だ。
ちゃんとお礼が言えるし、私の発言を信じてくれるのだから。
「取り敢えず、次の試合までにビール買い足してくる」
「……まじで呑気だもんな」
そりゃ呑気にもなるよ。
だって、この時代の地球の強者ってクウラ軍の雑用よりも弱いんだもん。
私には地球の危機よりも、ビールが大事なんだ。
ビール、ビール。
そそくさとその場を後にして、私はビールを買い足した。
という訳で補充したビールを飲みながら、中華まんを齧る。
美味い。
凄まじい満足感を感じつつ、舞台に上がる孫悟空とピッコロ。
この天下一武道会の決勝戦、〆である。
舞台の裏から亀仙人、チチ、クリリンや天津飯が顔を出している。
心配で見ているのだろう。
対して観客席のブルマやランチ、ウーロンやプーアルも心配している。
そう心配せずとも孫悟空が勝つんだけどね。
その事実を知っている私は、安心してビールを喉に流すことができる。
いえーい、さいこーだ。
「……へっ、オラもちっとばかし本気でやらなきゃキツいかもな」
舞台の上で悟空がそんな事を言いながら、シャツを脱ぎ始めた。
あ、そういえば重い服を着てるんだったな。
リストバンドも靴も確か、重いんだっけか。
ずんっ、と音が響いて舞台の石板が割れた。
……あんなに重かったっけ?
「フン、俺も本気を出させて貰う」
ピッコロも合わせてマントを脱ぐ……これもまた、大きな音を立てて、地面に落ちた。
舞台の床を砕くほどの重量。
どれだけの重さなのか。
互いにそんな重りを身につけたまま戦っていたのだ。
……あれ?
ピッコロも?
というか、そんなに重いもの身に付けてたのか?
「覚悟は良いか?孫悟空」
「へっ、何の覚悟だ」
「無論、地獄を見る覚悟だ!ずぁっ!」
瞬間、戦いが始まった。
あまりにも素早い応酬に観客がどよめく。
私には見えているが……中々、強い。
というか天津飯と戦ってた時、すごい手加減してたんだな悟空。
ちらと舞台奥の天津飯を一瞥すれば……流石にショックを受けた顔をしていた。
ま、そりゃそうか。
手も足も出ずに負けた相手が、実は本気ですら無かったのだから。
「はははぁーっ!」
ピッコロが宙に飛び、気の弾丸を連射した。
地上にいる悟空に向かって降り注ぐが、悟空は耐えていた。
一つ一つの気の量が少ないのだろう。
大したダメージにはなっていないようだ。
そんな気弾が降り注ぐ中、悟空が構えた。
「かめはめ……波ぁっ!」
そして、かめはめ波をピッコロに放った。
「甘い!そんな技など!」
ピッコロは全身を捻り、かめはめ波を弾き返した。
だが、その隙に悟空は地面を蹴っていた。
「だぁ!」
「ちっ!」
空中で悟空が蹴りを放ち、ピッコロは受け止めきれず……墜落した。
舞台の石板を砕き、それでもピッコロは受け身を取った。
「な、なんて試合じゃ」
ぼそりと呟いた亀仙人の言葉は耳に届いた。
確かに、思っていたより高水準だ。
孫悟空もピッコロも、想像していたよりも遥かに強い。
地上に降りた二人が拳をぶつけあい、攻撃を避け合う中、私はそんなことを考えていた。
「これで終わりだ!木っ端微塵にしてやる!」
瞬間、ピッコロが地面を蹴って飛び上がった。
大気が歪んで見えるほど禍々しい気が彼を覆う……気を読む力がない私から見えても、何らかのパワーを溜めている事が分かってしまう。
「完全に消えてなくなるがいい!くらえ!」
瞬間、頭上から途轍もない光線が降り注ぐ……が、私は全く危機感を抱いてはいなかった。
理由は、既に悟空が構えていたからだ。
「とっておきだ!超……かめはめ、波ぁーっ!!」
先程よりも巨大なかめはめ波を悟空がぶっ放した。
「な、なにぃっ!?」
そのままピッコロの気功波と相殺し……いいや貫通して、ピッコロへ直撃した。
「ぐあああーっ!?」
凄まじいエネルギーに衝撃が観客席まで広がる。
風が巻き上がり、ブルマやウーロンがのけぞっている。
だが、私は微動だにしない。
しかも、今回はビールも中華まんもノーダメージだ。
予め、エネルギーを放出してバリアを張っていたからだ。
私は同じ失敗を何度もしないのだ。
ちなみにバリアは簡単な技能で、複雑な技じゃない。
単純に身体からエネルギーを放出して覆うだけ。
特別なエネルギー操作の技術を必要としない、そんな技だ。
私でも出来る。
はたして宙にいたピッコロは、舞台へと着地した。
服は既にボロボロ……頭に被っていたターバンも焼け焦げて消失していた。
「お、おのれ〜っ!この俺様に、ほんの一瞬とはいえ無様な真似を……!ゆるさんぞ、貴様はバラバラにしてやる!」
「さすがだな……とっておきの超かめはめ波だったのによ。えらいパワーだ」
「ぬかせ……!すぐに息の根を止めてやる!」
そうして向き合う二人を見て、観客席がざわつきだす。
ターバンが焼けて、ピッコロの頭にある触角が露出したからだ。
私の隣にいるランチも目を何度か瞬いていた。
「あ、あいつ……似てやがるぜ」
「え?」
「ピッコロ大魔王に……!」
「そ、そんなっ!?」
ブルマが驚く中、似たような会話が周りからも聞こえる。
マジュニアという選手が、ピッコロ大魔王に似ているという話が……そこかしこから。
そんな声を聞き、ピッコロが腕を振り上げた。
「似ていて当然だ!この俺は……ピッコロ大魔王の生まれ変わりだ!世界中に知らせるんだな!孫悟空の息を止めれば、再びこの俺が貴様らの王になると!」
その宣言を皮切りに、観客席から悲鳴が聞こえ始めた。
「う、うわーっ!?」
「ひいーっ!?」
「逃げろ!逃げろーっ!」
観客の誰もが逃げ出す中、最前席にいた私達だけが残った。
天下一武道会の決勝は誰も居ない中、ピッコロと孫悟空の二人っきりの戦いになったのだ。
……いや、正確にはもう一人いたな。
『さ、さあー!大変なことになりました!マジュニア選手はあの、ピッコロ大魔王だったのです!』
進行役のアナウンサーは残っていた。
「……プロね」
「それは同感」
ブルマの言葉に同感しつつ、舞台へ視線を戻す。
「くくく、ゴミどもが減って、静かになったな」
「へっ……わりぃがみんな離れてくれ。その方がオラもやりやすい」
そんな言葉を聞いて、クリリンや天津飯、亀仙人も私達の居る客席に戻ってきた。
……ふと、振り返る。
マジで誰も居なくなっている。
キッチンカーまでも、だ。
そ、そんな……!
じゃあビールのお代わりは出来ないってこと?
中華まんのお代わりもなし?
だ、大事に飲み食いしなきゃ。
ちびちび……。
「あのー……ブルマさん?」
「なに?クリリン」
「クウラさんってば、ずっとこんな感じなんですか?」
「ええ、そうなのよ」
「……なんというか、大物ですね」
クリリンの言葉に無言で同意する。
まぁ、この時代なら私は大物だ。
そこにいるピッコロが何をほざこうが、私には勝てないのだ。
だから、心配する必要もない。
ビールがうまい。
私は地球の命運をかけたバトルを見ながら、中華まんを口にした。
あ、ピッコロ大魔王が巨大化した。
ウケる。