試合は進む。
巨大化したピッコロ大魔王の中から悟空が脱出して、神様を封じ込めていた瓶を取り出した。
そうしてそれを天津飯に受け渡し、天津飯が蓋を抜く事によって……神様が姿を現したのだが。
「…………」
ビール片手に肉まんを食う私を見て、怪訝な顔をしていた。
なんだ?
地球の神様とはいえ、文句があるならブン殴るぞ。
そう睨むと、神様は何も見なかった事にして舞台へと向き直った。
何なんだコイツ。
文句あるならハッキリ言えよ。
お前のせいでビールを一回溢してんだからな、こっちはよ。
舞台では元通りになったピッコロと孫悟空が戦っている。
足から、かめはめ波を撃つ姿を見て、ちょっと笑いかけたのは内緒だ。
神様は孫悟空に加勢しようとしているが、悟空はそれを受け入れない。
彼に取って観客がいなくとも、ピッコロとの戦いは天下一武道会の決勝戦なのだ。
「降参しろ!もうおめぇに勝ち目はねぇ!」
「ほ、ほざけ……っ!許さん……っ!許せんぞ!貴様!」
そうして試合は進む。
攻撃の応酬……悟空の方が有利に見える。
だが──
「ピッコロ大魔王様の最後の賭け、その身に受けるがいい……!」
ピッコロが全身に力を込め始めた。
あれは体に残っている気を全て放出して、自分の周囲を爆破する必殺技……所謂、爆発波という奴を狙っているのだ。
「なっ!?に、逃げろ!逃げろーっ!!みんな今すぐここから離れるんだ!」
悟空の判断は正しい。
ピッコロの全力の爆発波ならば、この周囲一帯は吹き飛ぶだろう。
天津飯やクリリンはまだしも、ランチやブルマは即死だ。
「い、いかん!こりゃとんでもない!」
亀仙人も震えている。
Z戦士でも無事ではすまない。
一般人なら即死確定、とんでもない事態だ。
まぁ私は焦ってない。
だってこれ、原作で何とかなった場面でしょ?
大丈夫大丈夫。
「何やってんだ!はやく逃げてくれ!うんと遠くへ逃げてくれったら!」
「ご、悟空さはどうする気だ!?」
私の横にいたチチがそう問いかければ、悟空は笑みを浮かべた。
「オラは堪えて見せる!ここで耐えて、試合に勝つ!」
そんな悟空を相手に神様が舞台へと乗り出した。
「バカを言うな!いつまで強情をはっているつもりだ!こんなのもの試合などでは──
「かあああああああッ!!!」
瞬間、ばちばちと稲妻が鳴り響いた。
ピッコロの内にある気が飽和して、現実に干渉しているのだ。
その様子を見て、悟空が顔を青ざめた。
「だ、だめだ!もう逃げらんねぇ!みんなが脱出する時間が……!天津飯!」
悟空の言葉に合わせて天津飯を見た。
あー、そういえばここ、気功砲で地面に穴を空けて避難するシーンだったな。
天津飯の見せ場だよなー、と思っていると──
「す、すまない……お前との戦いで、俺は既に気を使い果たしている……!」
え?
「なっ!?ど、どうすりゃ……!」
悟空の顔が青ざめている。
「こ、これで終わり?死んじゃうの……?あ、あはは」
ブルマもこの世の終わりって顔をしている。
え?
これ何とかなる展開じゃないの?
ピッコロが爆発して、悟空以外のみんなが死んで終了?
そんな訳なくない?
誰かが解決策を見つけて……解決、するんじゃ?
……ないの?
ちらと周りを見渡すが、呑気にビールなんて飲んでいるのは私だけだった。
誰も彼もが絶望と諦めに満ちていた。
「ふ、ふははは……!貴様も死ぬが、周りも死ぬ!安心しろ!寂しくないよう、皆殺しにしてくれる!」
ピッコロの言葉を耳にして、私は呆然とする。
「……あー」
えーっと……誰も解決策ない感じ?
じゃあ……うん、私が何とかするしかないか。
「んー……みんな、私の後ろに」
めんどくさいけど。
ビールを飲み干して、紙コップを投げ捨てる。
「え、クウラちゃ──
「いいから、はやく」
いつピッコロが爆発するか分からない。
私の言葉にランチやブルマ、ウーロン、チチは困ったような顔をしながらも私の背後へ向かった。
天津飯やクリリン、亀仙人と神様は文句一つも言わず、私の背後に移動した。
……こっちの奴らは何となく、私が強者だと見破っていたのだろう。
うーん、リミッター付けてる筈なんだけどな。
やっぱり地球人の、気の探知ってよく分かんないな。
「サンキュー!クウラの姉ちゃん!」
悟空は感謝を口にして、ピッコロへと向き直った。
私のことを信用してくれているのだろう。
「お、おい!これどーすんだよ!」
ウーロンが後ろから何か言ってるが、無視して中華まんを一気に口の中に頬張る。
今ここで食べないと両手が空かないからだ。
すると、クリリンが声を上げた。
「ク、クウラさん!何するつもりですか!?手伝えるなら、俺も手伝いますっ!」
「
「わぁーっ!?何言ってるか、さっぱり分からない!?」
そう言うなら、中華まんを食べ終わるまで話しかけないでくれよ。
ごっくん。
「……よし」
エネルギーを体に集める。
力を込めすぎるとリミッターを壊しかねないし、外すか一瞬迷ったが……この程度の状況なら、リミッター越しのエネルギー出力でも問題ないか。
「な、なんだぁ……?」
「す、凄まじい気じゃ……!」
後ろで亀仙人が何か言っているが、無視する。
今それどころじゃないし。
「……チッ!」
ピッコロも何か舌打ちしているが、私は気に留めず、エネルギーを身体にまとう。
その直後──
「もういい!貴様だけでも消し飛ぶといい!孫悟空ーっ!」
ピッコロが両手を広げて、貯めていた全力の気を一気に放出した。
四方八方を焼き尽くす熱と、吹っ飛ばす力が、嵐のように放出される。
爆ぜる音が鳴り響く。
瞬間、私は一歩前に出て両手を広げた。
……万が一にも範囲漏れがあったら嫌だからね?
「ふんっ」
私も全身からエネルギーを纏うように放出させて、ピッコロの放った爆発波と相殺する。
エネルギーが衝突して、ばちばち!とスパーク音が鳴り響く。
「わ、わーっ!?」
「な、なんとっ!?」
あ、いや、思ったより楽勝だな、これ。
相殺とか言わずに全然打ち消せるわ。
「きゃあーっ!?」
「うわあ〜っ!?」
凄まじい光と音に、背後から悲鳴が聞こえる。
でも、大丈夫そうだ。
私のエネルギーフィールドに阻まれて、熱や衝撃は到達しないだろう。
そして、一瞬の光の後──
私の後ろを除く、辺り一帯が吹き飛んでいた。
天下一武道会の会場も含めて、全てが吹き飛んでいた。
「……ふう」
「す、すげぇ……!?」
後ろからクリリンの賞賛が聞こえる。
おうおう褒めて良いんだぞ。
ちらと背後を見ると、ブルマやランチ、ウーロンやプーアルは驚愕の顔をしていた。
いや、クリリンや天津飯、亀仙人も、か。
そして──
「ご、悟空……いや、やっぱり!悟空──っ!!」
クリリンの歓声に、ピッコロは驚愕した。
「な、なにぃっ!?」
ピッコロが視線を下げたその先に、孫悟空は立っていた。
道着をボロボロにしながらも、無事だったのだ。
「へっ……どうだ!オラの、勝ちだ!」
「ば、バカな!この俺の、全力の、一撃を……!?」
ブルマやランチ、亀仙人が歓声を上げる中、最後の戦いが幕を開けた。
まぁ、すぐに終わったんだけど。
「だりゃあっ!」
「ぐ、お、おぉお……っ!?」
気を使い果たしたピッコロに対して、まだまだ元気たくさんの悟空。
勝負になる訳もなくピッコロはボコボコにされて……最後の反撃となる騙し討ちすらも防がれてしまったのだ。
『孫選手の勝ちです!天下一武道会の優勝は、孫悟空選手ーっ!!』
そうしてアナウンサーがしっかりと締め括り、戦いは終わった。
孫悟空がピッコロに勝利し、世界の平和は守られたのだった。
その後は神様がピッコロを殺そうとして悟空に止められたり、何やらあった。
「なぜ、俺を……!」
「おめぇが死んだら神様も死んじまうもんな。それにまた……オラはおめぇと戦いてぇからな」
「く、ははは!その甘さが命取りだ!次に会った時、それが貴様の命日だ!はーははははっ!」
仙豆を悟空から食わされて復活したピッコロが逃走し……神様に悟空が次の神様になってくれと頼まれたり、断られたり。
結局、悟空は筋斗雲にチチを連れて、その場を離れようとした。
賞金とか貰わなくて良いんだろうか、なんて思いつつ筋斗雲に乗る悟空の背を見ていると──
「っと、さっきはサンキューな!クウラの姉ちゃん!」
「ん?あ、うん。まぁ、これぐらいは手伝った方がいいと思ったから」
「よくわかんねーけど、あんま戦いたくなかったんだろ?なのに、助けて貰ったからさ……」
「まぁ、あんまり力は使いたくないね。ここには休暇で来てるし」
私の言葉に、横にいた神様が額に手を当ててため息を吐いていた。
何なんだ、その「傍迷惑な……」って顔は。
迷惑かけた覚えはないぞ、私は。
というか、守ってやったのに何だその態度は?
ビールの恨みはまだ続いてるんだぞ。
お?やんのかオラ。
「ま、とにかくサンキュー!今はまだ勝てそうにねぇけど、次会ったらまた手合わせしてくんねぇかな?」
「まー、うん。いいよ。手合わせしたければ、別にしてもいいし」
「あんがとな!じゃ、みんな、またな!」
言いたい事だけ色々と言って、悟空がチチを連れてその場を後にした。
これで次に会うのはいつか。
あんまり集まらないんだっけ?
なんて考えていると、そそそと後ろからブルマが近付いてきた。
「ね、クウラちゃん」
「うん?どうかした?」
「クウラちゃんって、やっぱり強かったのね……?」
「まぁ、そこそこね」
私はそんな事を言っていると、横からクリリンが顔を出してきた。
「ブルマさん騙されてないでください。“そこそこ”なんてものじゃないですって」
「……やっぱりそうよね?天津飯はどう思う?」
「む、俺か……?俺は、だな──
天津飯が私を見て、顔を顰めた。
「少なくとも、俺に測れる相手ではあるまい」
「そんなに……?」
「だから言ったじゃないですか、ブルマさん!この人、かなり強いんですって!」
なんだか私を他所に、強さ会議をしている。
そんな事してもハッキリした強さなんて測れないと思うけど。
ドラゴンボールの強さ会議は大体不毛な結果に終わる。
前世でもよくあった話だ。
やれゴジータが、やれベジットが、なーんて不毛な話なのだ。
「……あ!そうだ、スカウター!持ってきてたんだった、忘れてたわ!」
「スカウター、ですか?」
「そう!人の強さが計れる宇宙由来の道具よ!」
「へーっ!そんなのあったんですね!じゃあそれで測れるじゃないですか!」
ブルマがスカウターを付けて、クリリンや天津飯を見る。
……あんまり見て欲しくないんだけど。
もう今更、原作に影響がどうとかは言えない気がするが、やっぱあんまり干渉するのは良くない事態を引き起こしそうだし……。
鍛錬はしてるけど、別に死闘がしたい訳じゃないんだよ私は。
セルやら魔人ブウやらは、バトルジャンキーであるサイヤ人に任せたい。
私は隠居して、優雅に暮らしたいんだ。
南国の島、ココナッツミルクを飲みながら海を見るようなバカンスで余生を──
「え、ええーっ!?」
なんて現実逃避をしていたら、スカウターを付けたブルマが声を上げた。
「うわっ、どうかしましたか?」
「あ、あ……」
「あ?」
「あんた達って思ってたより弱いのね……?」
ずこ、とクリリンがずっこけた。
「な、なんて事を言うんですか!ブルマさん!」
「だ、だって……クリリン、あんたの強さ……数値上だと、クウラちゃんの二十分の一以下よ?」
「そ、それはクウラさんがおかしいんです!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人から目を逸らして、私はその場をこそこそと離れる。
あんまり騒がれても反応に困る。
そんな中、ウーロンと目があった。
「ひえっ」
ウーロンは私を見ると、まるで猛獣を見つけたかのように顔を青ざめさせて、ランチさんを盾にしていた。
さっきまで散々言ってたし、後ろめたいのだろう。
ランチさんの方は……気にしている様子はない。
まぁ、この人はいつでも本音で喋ってるだけっぽいもんな。
「別に怒ってないから気にしなくていいよ」
「いや、でもよぉ……」
「呑気だったのは事実だし」
私の言葉にランチが頷いた。
「そりゃあんだけ強けりゃ呑気にもなるか」
「そういうこと」
私の言葉に納得するランチと、文句言いたげな豚。
まぁ、そこは甘んじても受け止めよう。
「……というか、みんな何の話をしてるんだ?」
こっそり戦いが終わった後に、病院から帰ってきてたヤムチャが不思議そうにしている。
まぁ別に改めて何か言う必要はないだろう。
無視だ、無視。
振り返ると、ブルマとクリリンはまだぎゃいぎゃいと騒いでいた。
天津飯は少し呆れた様子だ。
「ブルマ、とりあえずお腹が減ったから帰ろう」
「え?あ、そうね?確かに、こんなとこに長居しても仕方ないもんね」
私の言葉にクリリンも頷く。
「そうですね。俺もお腹が空きましたし……帰りましょうか」
「そうそう、お腹空いたし帰ろ」
「……でもクウラさん、観客席でずっと何か食べてませんでした?」
「……?それがどうかしたの?」
「あ、いや、なんでもないです……はは」
クリリンの愛想笑いに首を傾げつつ、私達はその場を後にした。
天下一武道会も終わり、孫悟空の冒険もひと段落がついたのだ。
まぁ、これから先の方が長い戦いになるのだろうけれど。
それはまた別の話……だろう。
今はただ、平和を享受したい。
そんな気分だった。
がつがつ、むしゃむしゃ。
「……よく食べますね、クウラさんって」
ばりばり、もぐもぐ。
「……ええ、そうね。というか、今さっきカニを甲羅ごと食べてなかった?」
ばくばく、ずるるる。
「……なんかこの感じ、悟空を思い出しますね」
もぐもぐもぐもぐ。
……何で食事してるだけなのに、勝手に思い出語りの餌になってるんだ?
困惑しながら、私はビールを飲む。
やっぱり紙コップよりも、ジョッキだ。
キンキンに冷えたビール、これが犯罪的に美味い。
中華料理を食べながら、喉に流し込む。
っく、おおおおお〜っ!!喉越し!!!
「……ブルマさん。クウラさんって、なんだか思ってたより随分と愉快な人なんですね」
「ええ、まぁね。ちょっと目を離せないというか、そんな感じもするけど」
「あー、それは分かります。黙ってたら美人なんですけどね……」
ん?
話を聞いてなかったが、クリリンから美人と言われちゃったみたいだ。
いやぁ、だがすまん。
私には心に決めた男性が……居ないけど、それはそれとして地球で恋人を作るつもりはないんだ。
その気持ちには応えられないよ、ごめんネ……!
ばりばり、むしゃむしゃ、ぐびぐび。
豚の丸焼きを独り占めしながら、ビールを飲み込む。
……この場の会計はブルマが払うと聞いている。
人の金で食う飯、飲む酒は美味い。
最高のスパイスだ。
「というか、泥酔してません?顔真っ赤だし、言動も変になってますし」
「あー、いや……言動は割といつも通りな気がするけど……確かに、なんだかこう、ちょっとアレかもね……」
何か言ってるけど、私は気にせず、ビールを呑んだ。
あー、本当に美味しい。
このまま地球に移住したい気分だ。
地球の飯、酒、さいこ〜っ!!
ぐびぐび〜っ!
翌朝、ホテルにて。
「う、うが、がががが……!」
私は強烈な頭痛、吐き気、寒気、胃もたれ、胃痛、眩暈に悩まされていた。
二日酔い、という奴だ。
脳みそがぎゅーってこねこねなってて、あっぱらぱーな感じになってる。
このクウラ様が気分が悪いなんて!
頭痛がする、吐き気も……!
「クウラちゃん、水買ってきたわよ」
「あ、ありがとう、ブルマ……あなたは、命の恩人……」
「おおげさね」
泣きながら私はペットボトルをひったくり水を一気飲みする。
500mLではなく、2Lのペットボトルだ。
浴びるように水を飲む。
だが、この渇きは潤う事はない。
砂漠に水を流すがごとく、悉く無意味なのだ。
「う、うう……ベッドに戻る……」
「お大事にね?……二日酔いにお大事に、って言うのかしら?」
看病してくれるブルマに感謝しつつ、布団を顔まで被る。
脳みそがカチ割れそうなほどの痛みに耐えつつ、私は一筋の涙を流した。
私が何をしたっていうんだ。
どうしてこんな目に遭わなきゃならない。
何も悪い事はしていないっていうのに。
結局、二日酔いは二日どころか五日も続いた。
つまり、地球滞在期間の殆どを、私はベッドの上で過ごしたのだ。
ぐすん。
もう二度とお酒は飲まない。
アルコールは猛毒だ、あんなもの飲む奴の気がしれない。
ぼろぼろと泣きながら、私は禁酒を誓ったのだった。