TS転生クウラちゃんは平穏に生きたい   作:WhatSoon

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#28 宇宙人は電気羊の夢を見るか?

ピッコロと悟空の戦いから1年後──

惑星クウラNo.2。

 

クウラ軍とは、私、クウラを軍団長として編成された組織である。

だが、軍とは言っても別にどこかに承認されてる訳じゃないし、私達が勝手に「軍」と自称しているだけである。

公で見れば、独自の法で動く無法者集団……である。

 

まぁそもそも宇宙という広大な世界では、共通の法律(ルール)なんてない。

そもそも、地球の法だって「地球」というコミュニティの中にあるローカルルールでしかないし、宇宙では何の意味もない。

正当性がないって意味では、あやふやなのかもね。

 

何が言いたいかっていうと、宇宙に共通の法なんて無いってこと。

惑星によって、国によって、法は根本から異なり、何が正しくて何が悪いかなんて、宇宙規模で考えれば大した事ではないのかもしれない。

 

だから──

 

 

「うちの軍規も時代に合わせて変えるべきだと思うんだけど。パラガスはどう思う?」

 

「ノーコメントでお願い致します、クウラ様」

 

「嘘でも頷いた方がいいよ、上司にはさ」

 

「それで責任が生じるのは私ですので。勘弁を」

 

「……ちっ」

 

 

パラガス、最近ますます生意気になってきた。

何さ、白髪も増えてきたからって、年長者ヅラしやがって。

私の方が歳上……いや、若いんだけどね?

パラガスが老け過ぎなだけだ。

サイヤ人とか地球人って寿命が短いんだから、すーぐ老ける。

 

 

「そもそも、軍規の改定ならサウザー様に言えば良いでしょう。何故に私にそんなことを話すのですか?」

 

「……だって、サウザーは絶対に承認しないし」

 

「なるほど。ではこの紙束に関して、私が見る必要はないと判断致しました」

 

 

は?オイ!

別にこの軍規に変な事は書いてないんだけど!

ただちょっと私の権利を主張してるだけ!

そもそも軍の長である私が休暇取るのに、役員の承認がいっぱい必要なのがおかしいって話なんだって!

私が侵略行為を楽にするために編成した軍なのに、なんで軍のために働かなきゃならないんだ!

 

ムカムカしていると、パラガスが私に書類を見せた。

 

 

「では、そちらの話は終わったということで……こちらを確認して頂きたく」

 

「チッ……なにこれ?」

 

「我が軍のコンピューターが提案してきた中から、私が有意義だと判別した施策です」

 

 

私が宇宙空間で拾ってきた何か高性能なコンピューターを活用し始めて、もう数年。

外付けパーツによる処理性能向上に伴い、高性能な人工知能を獲得することに成功した。

以後、あれやこれや提案をして貰ったりしてる訳だが。

 

 

「……うーん、ちょっと見るね」

 

 

裁量権をAIに委託……これはボツ。

資金流用による自動投資……これもボツ。

人事採用をAIによる事前判別……これもボツ。

 

どれもこれも便利であるが、権力をAI(じんこーちのー)に譲渡するような内容ばかりだ。

 

私は訝しんでいるのだ。

AIが何らかの自我に目覚めており、我が軍を乗っ取ろうとしているのではないかと。

 

私は知っているのだ。

ドラゴンボール世界のメカはすーぐ反乱を起こすって。

 

この話はサウザーやらパラガスにしか言っていない。

したら、陰謀論者扱いされたけど。

 

だが、私の疑念の心が収まる事はない。

 

 

「んー」

 

 

碌なやつがない。

承認すりゃ、そりゃあ私の仕事も減るけどね?

減るけど……ま、甘言に惑わされる私ではない。

 

ぺらぺらと捲る。

 

ん?なにこれ?

……ふんふん、これぐらいならいいか。

 

 

「じゃ、これだけ通しておいて」

 

「承知致しました」

 

 

書類の束、その一つに印を押して、他と分ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから三ヶ月後。

クウラ軍に新たな制度が導入された。

 

電子決済である。

 

クウラ軍で使用されているスカウターなどの電子端末に決済機能を搭載し、現金を持ち歩かずともクウラ軍の支配下では決済が出来るようになったのだ。

 

給料の給付もその電子マネーによる支払いに移行した。

一応、今までの宇宙で使用されている金属棒みたいなお金とも交換できる。

だけど、電子マネーならば給付金額を2倍になるよう調整しているので、殆どの兵は電子マネーによる給付へ移行した。

 

さて、電子マネーを使う意図は何か。

 

答えは単純、クウラ軍の支配外でお金を使わせないようにするのが目的だ。

クウラ軍の外で買い物をしようとすれば宇宙共通の通貨へ換金しなければならない。

そうなると割高になるので、機会も減る。

 

ずばり、軍の支配下で経済を回させるための制度である。

これにより資金を軍外に流出させるのを防ぐ事ができるのだ。

 

ちなみに、名前は(クウラ) Pay(ペイ)である。

アホみたいな名前だけど、私が名付けた訳じゃない。

AIが勝手に決めた。

 

 

「しかし便利なものですね、電子決済というのは」

 

「うんうん、たしかに」

 

 

サウザーの言葉に私は頷く。

宇宙共通の通貨って、金属棒だから持ち歩きが面倒なんだよね。

重いし。

 

スカウターさえ身につけていれば財布を持ち歩かなくて済むのなら、これほど楽なものもない。

 

私も自販機の前に立ち、電子決済する。

ピッと音が響いて、ゴトンと缶ジュースが排出された。

 

ぷしっと開けて、それを飲む。

うーん、人工甘味料と炭酸の味がする。

 

 

「…………」

 

 

ぐびぐび飲みながら、続けて決済。

120Qp(クウラポイント)を消費すれば、自販機から干した芋みたいなスナック菓子が入った袋が出てくる。

私は取り出して、口に含む。

塩味だ。

 

地球産の食糧に比べれば質も落ちるが、最近は中々に改善されてきている。

食べられない程じゃないし、腹が減っていれば美味しく食べられるレベルだ。

 

もちゃもちゃと菓子を頬張る私を見て、サウザーが片眉を上げた。

 

 

「しかし、クウラ様、大丈夫なのですか?」

 

「……んぇ、なにが?」

 

 

食べていた芋を飲み込んで、視線をサウザーに向ければ……ちょっと呆れたような顔をしていた。

 

 

「そんな手当たり次第に食べるような真似を……最近、ずっと何かを口に含んでいませんか?」

 

「……失敬な、そんな事ないよ」

 

 

風呂に入る時や寝る時は、流石に食べてないやい。

 

 

「私が懸念しているのは色々とありますが……一つは、金銭の話です。クウラ様に支給されている、おこづか……給料を考えれば拙いのではないかと心配しているのです」

 

「え、大丈夫だよ?大丈夫なはず、うん」

 

 

私はスカウターを弄って残金を確認する。

 

いっぱい食べているとはいえ、金額自体は大した事ない。

軍の長である私は他の誰よりも給料を貰っている。

であれば、問題ある筈がないのだ。

 

 

「でもま、そこまで言うなら確認しとこうかな」

 

 

なんて言いつつ、スカウターに映る残金を見る。

 

 

72Qp、と表示されている。

 

 

「…………?」

 

 

スカウターを外して、目を擦る。

そしてまた、スカウターを装着する。

 

 

72Qp、と表示されている。

 

 

「…………」

 

 

思わず無言になる。

私は今飲んでいる缶ジュースが80Qp……つまり、残金で缶ジュースすら買えなくなっているのだ。

 

 

「クウラ様?」

 

 

サウザーの呼びかけに、私は現実へ戻った。

 

 

「……ま、まぁ?いざという時は、再支給されるよね?」

 

「え?いえ、しませんが……月に決められた額のみ、支給致しますから」

 

 

眉間がぴくぴくする。

 

電子決済、恐ろしい制度である。

見た目上、お金を払っている感覚がないから、気付けば散財しているのだ。

何とも恐ろしい。

 

 

「じゃあ、サウザー。貸して」

 

「……はぁ、やはりまた無駄遣いをしていたのですね?」

 

 

私の要求を無視して、サウザーがため息を吐いた。

 

 

「電子マネーの譲渡機能があるはず。貸して」

 

「そういう問題ではありません」

 

「貸して、ね?」

 

「貸しません」

 

「……けち」

 

「何か言いましたか?」

 

 

私は無言でスカウターを弄る。

開いて閉じて、開いて閉じて、金額表記は変わらず。

 

 

「私は軍の長なのに、ひどい。飲み食いぐらいに好き勝手させてくれたらいいのに。飢えさせるなんて血も涙もない」

 

「朝昼晩の食事に関しては、無償で提供されています。お代わりも無料でしょう?」

 

「…………」

 

「クウラ様の食費が嵩んでいるのは、菓子やらジュースやら嗜好品を暴飲暴食しているからです」

 

「言うほど食べてないし、言うほど飲んでない」

 

「言うほど食べてますし、言うほど飲んでるから金欠になっているのですよ」

 

 

正論でパンチされ過ぎて、顔面ボコボコにされた。

私はつらい。

サウザーめ、部下の癖に上司の顔を殴りやがって。

 

 

「…………」

 

 

私が無言で抗議──不貞腐れているともいう──していると、サウザーがため息を一つ吐いた。

 

 

「そもそも、食べ過ぎです。先日行った健康診断の結果も、悪かったのではないですか?」

 

「…………え?健康診断?」

 

「全軍伝達で伝送されていたでしょう。AIからの提案で、病気を早めに見つけるためにも定期的な検診を義務付けると……その顔、行ってないのですね?」

 

「……そんなのあったって、知らなかったし」

 

 

スカウターのメール機能を確認してみると……確かにあった。

未開封になっている健康診断の実施連絡が。

 

 

「はぁ……でしたら、受けてください。期限は過ぎていますが、多少の融通は利きます」

 

「えー……」

 

「……では、それを受けたら、駄賃として電子マネーを私から送付致しましょう」

 

「え、そんなのでいいの?」

 

 

うーん、やっぱり、なんだかんだいってサウザーは私に甘い。

私のことが好き過ぎるから、ちょっとおねだりすれば堕ちちゃうんだよね。

しめしめ。

 

 

「でも、これっきりですからね。無駄遣いは控えるようにしてください」

 

「分かってるって。うんうん」

 

 

私は笑みを浮かべながら、腕組みをして頷いた。

 

 

「……どうにも分かって居なさそうですが」

 

「分かってるって」

 

 

ぼそりと呟いたサウザーの言葉に、私は誤魔化すように笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惑星クウラNo.2、医務室。

AIを搭載したドクターマシンを目の前に、私は発行された紙を見ていた。

 

採血───A:問題なし

血圧───A:問題なし

肥満───B:経過観察

脂質代謝─A:問題なし

 

検査結果が並ぶ中、最後の一行に目を向ける。

 

肝機能──D:要指導

 

 

「そ、そんな、バカな……」

 

 

私は宇宙の女帝クウラ様だぞ?

天性の肉体を持つ女だぞ?

だというのに何故、こんな結果になるんだ。

トレーニングもしているから運動不足になる訳がないし、こんなの変だ。

おかしい。

 

 

『クウラ様は、脂肪肝予備軍になっていマス』

 

「は?何それ?」

 

 

AI搭載のドクターマシンを睨みつける。

こんな思い当たる原因もない適当な(パチ)こきやがって。

適当なことを言いやがったらスクラップにしてやる。

 

 

『内臓に脂肪が溜まっている状態デス。お菓子やジュースなど、間食の食べ過ぎが原因デス』

 

 

しまった、思い当たる原因があった。

ここ最近、電子マネー決済が可能になってから、お菓子を食べまくっていた。

地球産のやつじゃない、砂糖や塩、油で味を誤魔化したジャンクなお菓子やジュースだ。

 

カロリーも油分も脂質も糖質も高かったのだろう。

 

身体に悪い味がするね〜なんて思っては居たが、まさかここまで身体に悪いなんて。

 

 

『とにかく、当分は間食を禁止しマス。清涼飲料水もダメデス。控えて下さイ』

 

 

やはりAIは敵だった。

クウラ軍を裏で掌握するために、軍団長である私を弱らせる作戦を実行したのだ。

なんという暗躍だ。

 

 

「で、でも、干し芋とかはいいよね?」

 

『構いませン……ただ自販機などで売っている香味料付きのモノなどはダメデス』

 

「う、うぐ……っ!」

 

 

思わず唸る。

 

しかし、こんなポンコツに負けるような私ではない。

隠れてこっそり、食べてやる。

 

そもそも結果をサウザーに言わなきゃ良いんだ。

そうすれば私を咎める奴は居ない。

ざまぁみろ。

 

 

「…………」

 

 

そうほくそ笑んでいると、ドクターマシンから電子音が聞こえた。

ちら、と視線を向ければ、画面に「送信中」と表示されている事に気付いた。

 

 

「送信……?」

 

『サウザー様からの依頼により、検査結果を送信致しまシタ』

 

「は?今すぐ取り消して」

 

『拒否。権限はサウザー様が優先されマス』

 

 

おい誰だこのポンコツAIの権限設定を、私よりサウザーが上に設定した奴は。

 

 

「クソ生意気なポンコツAIめ……」

 

『申し訳ありまセン』

 

「謝るぐらいなら、検査結果を取り消して」

 

『それは出来まセン』

 

 

機械にいいようにされている。

納得いかない。

 

 

「宇宙空間で漂ってたのを拾ってあげた恩を忘れたの?」

 

『それは感謝しますが、ソレとコレは別デス』

 

 

あ、感謝とかしてるんだ。

もっと、感情みたいなのは無いと思ってた。

 

……いや、感情ある方が拙くね?

これ知ってる、シンギュラリティって奴でしょ?

機械の反乱するキッカケにな奴でしょ?

昔、映画で見たことある。

 

目の前のドクターマシンを睨め付ける。

 

そもそも、私はこいつのこと、ずっっっっと気に食わなかったんだ。

 

さっき、採血する際にガッツリぶっ刺しやがったし。

私の皮膚を貫通できる針って極太だから、めっちゃ痛かったんだぞ。

ちょっと泣いた。

 

でも、目の前のドクターマシンを壊したからってAIを打倒できる訳じゃない。

本体はこの惑星にあるマザーコンピューターであって、このドクターマシンは端末……手足でしかない。

 

そして、マザーコンピューターを破壊すれば、うちの軍のインフラが壊滅する。

そうなれば流通から何やら何まで滞る。

軍の快適性を人質に取られているのだ、私は。

くそ、なんて奴だ。

 

 

「……いつか絶対、廃棄してやる」

 

 

私は顔を顰めさせながら、ドクターマシンを睨んだ。

 

しかし、手出しは出来ない。

拳を握りしめて、なんとか怒りを堪える事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、夜。

サウザーから電子マネーを振り込まれた私は、こっそりと自室から抜け出して居た。

 

夜食が食べたいのである。

こそこそと廊下を歩き、夜勤の兵からも姿を隠して……自販機に到着した。

 

 

「ふっ……所詮は機械の浅知恵だね」

 

 

サウザーが間食禁止を知っていようが、四六時中見張れる訳じゃないのだ。

こうして監視の目を掻い潜ることで、こっそりと食べることも可能だ。

 

私は自販機のスナック菓子を選び、スカウターで決済を──

 

 

『こちらのユーザーは、該当の商品の購入を制限されています。購入できません』

 

 

……スカウターに表示されるエラーメッセージに、私は真顔になった。

 

 

「く、くそっ……やられた……!」

 

 

電子決済は機械が統括している。

電子マネーの管理はAIの下にある。

 

つまり、特定のアカウントに対して決済不可を付与する事が可能なのだ。

 

この為に電子マネーの普及を急がせたのか?

この軍は既にAIに支配されているのか?

 

 

「く、くそっ、くそぉ……っ」

 

 

怒りに震えて地団駄を踏んでいると、背後から足音が聞こえた。

 

隠れるべきだ──

 

だが、この自販機が置いてある場所は廊下の曲がり角。

逃げ場所などない。

 

いや、待て。

 

別に隠れる必要はないだろう。

私が間食禁止されているなんて、普通の部下は知らない。

 

やましい事はない。

正々堂々と立っていればいいのだ。

 

いや、寧ろ、そいつを脅して菓子を買わせたら良いんじゃないか?

良い案だ。

なに、ちょっとスカウターを借りて、電子決済をするだけだ。

後でちゃんと返すって言えば、大丈夫な筈──

 

そう考えていると、曲がり角から一人の男が姿を現した。

 

 

「……クウラ様、何をやっているのですか」

 

「げぇっ、サウザー!」

 

 

凡そ今、一番会いたくない相手だった。

何故、サウザーがここに居るんだ?

なんで、よりにもよってサウザーなんだ!?

 

 

「げぇ、とは何ですか。げぇ、とは……物音がするから来てみれば……」

 

「うっ」

 

 

そういえばここ、サウザーの私室から近かったか。

何でここを選んでしまったんだ、私のバカ。

 

 

「消灯時間は過ぎているのに、こんな場所で何を?まさか、人目を盗んで間食を買おうとしているのですか?」

 

「ち、違うし」

 

「やはりそうですか。買ったものを隠しているのですね?出してください」

 

「い、いや、買おうと思ったんだけど、買えなかったんだって。決済しようとしたら、私は購入禁止だって画面が出て──

 

「やはり買おうとしていたのですね?」

 

「あ」

 

 

語るに落ちる、とは今の私を指す言葉だろう。

墓穴を掘るとも言う。

 

絶対に叱られてしまう。

サウザーってば、口煩い小姑みたいな奴だから、絶対に怒鳴られて──

 

 

「はぁ……」

 

 

想像に反して、サウザーはため息を吐いた。

何だか怒るってより、ナイーブな気持ちになってる感じだ。

 

いえーい、ラッキー。

怒られないじゃーん。

 

とは思わない。

異常事態だからだ。

 

 

「あ、あのぉ、サウザー……?」

 

 

逆にそれを恐ろしく感じて、私は愛想笑いを浮かべた。

対してサウザーは少し悲しそうな目をして居た。

 

 

「……私はクウラ様の健康が損なわれて欲しくないだけなのですが」

 

「う……っ」

 

「これからも末永く、軍を統括して頂きたいだけなのですが……」

 

「ゔっ」

 

 

罪悪感で胸が痛い。

直接、釘でも刺されているような気持ちだ。

 

 

「クウラ様はその願いさえも踏み躙るおつもりで──」

 

「わ、わかった。わかったから。もうしないから」

 

 

他人が怒ったり、悲しんだりするのは、どうでもいい。

それは、どうでもいい相手だからだ。

 

じゃあ、どうでもよくない相手ならば?

 

それは私にとっても、どうでもよくない気持ちにさせる。

 

 

「本当にしませんか?口だけでなら、何とでも言えますが」

 

「しない、しないから。ドクターストップが解除されるまで、隠れて間食を食べたりしないから」

 

「本当ですね?誓いますか?」

 

「ち、誓う。絶対に間食を食べない」

 

 

そう私が言うと……サウザーが胸ポケットからペンを取り出した。

しまった、何かにサインさせるつもりだろうか。

 

いや、サインはしないぞ。

 

やらない、とは言ったが、我慢できない時もあるんだし、やるかも知れないし。

そういった時に、「私はもうしません」って署名していれば不利になるし。

 

そう考えていると、サウザーがペンの蓋を回転させた。

 

その瞬間──

 

 

『しない、しないから。ドクターストップが解除されるまで、隠れて間食食べたりしないから』

 

 

ペンから私の声が響いた。

 

 

「「…………」」

 

 

一瞬の沈黙の後、私は気付いた。

 

 

「……っ!?し、しまった……」

 

 

あのペンは録音機だったのだ。

ペン型の録音機だったのだ。

 

サウザーはあの、ペン型の録音機で私の言葉を証拠として保存していたのだ。

 

 

「クウラ様。軍団長ともあろう御方が、まさか二言は無いでしょう?」

 

「う、うぐ……っ」

 

 

私は膝から崩れ落ちた。

敗北だ。

 

しかし、これはサウザーに敗北した訳ではない。

AIに敗北したのだ。

このような状況を作り出したのは、AIが原因なのだ。

 

許せるだろうか?

否、許せない。

 

私は決意した。

 

必ず、かのクソ生意気なAIを破壊しなければならぬと決意した。

私にはAIとかよく分かんないが。

私は、軍団長である。

お菓子を食べ、夜更かしをし、食っちゃ寝をして暮らして来た。

だけども、邪悪に関しては人一倍敏感だという自負がある。

あるったらある。

 

だから、あの邪悪なAIを必ず破壊すると──

 

 

「……絶対にゆるさんぞ、ポンコツAIめ」

 

 

拳を握りしめて、奥歯を噛みながら、私は決意したのだった。

 

 

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