間食禁止期間は半年にも及んだ。
意味もなく3時ごろになるとイライラしてしまうようになっていた。
今思い返せば、私は砂糖依存症になっていたのだろう。
血液から砂糖が抜けていくことによって、少しずつ
数日に一回、サツマイモっぽい健康的な甘い芋をおやつに貰いつつ、何とか健康的な生活を続けて──
『この検査結果なら、好きなモノを間食してもいいデス』
ついにあの、くそったれなAIに打ち勝ったのだ。
『ただし、日に2回。前回から6時間以上空けることを限定しマス。再発したらイケマセンからネ』
「……チッ」
まぁ仕方ない。
そのぐらいの譲歩はしてやろう。
大人だからね、私は。
『まーでも、ホントに気を付けて下さいネ。クウラ様、隠れて食べちゃダメですヨ』
つかこいつ馴れ馴れしいな。
最初の方はまだ礼儀正しかったのに、ここ最近はクソ生意気だ。
マジでムカつく。
「言わなくても、分かってるって」
『サウザー様も心配してましたからネ。気を付けて下さいネ』
「…………」
サウザーの名前を出すのは反則じゃん。
不貞腐れながらも、私は頷いた。
こんのクソAIが。
いつかマザーコンピュータをスクラップにしてやる。
そんなこんなで自室に帰った私は、山積みの菓子を貪っていたのだが──
「クウラ様、私に何か言うべき事はありませんか?」
ここは私の自室。
わざわざやって来たサウザーが、何故か怒っていた。
「え、なに?ないけど?」
言うべき事?
何か言う事?
サウザーが私にかけて欲しい言葉があるってこと?
う、うーん?
労いの言葉でも一つ掛けて欲しいのかな?
それともお祝い事?
でも、まだ誕生日でもないでしょ?
分かんない。
揚げた芋をポリポリ齧りつつ首を傾げる。
そんな私に対して、サウザーは少し呆れたような顔をした。
「……今、自分から言うのであれば、減刑致しますが」
「え」
減刑……つまり、罪があるということ。
私に?
というか、これって自白を促されてるってこと?
でも、自白するような事なんて──
「き、昨日はこっそり徹夜でゲームしてて、ごめんなさい?」
「その話ではありません……いえ、徹夜だったんですか?道理で今日の日中、ぼーっとしていた訳で……いや、まぁ、違いますが」
え、違うの?
「じゃ、じゃあ、部屋にこっそりチョコレートを蓄えてて、ごめんなさい?」
「……いいえ、違います」
「私が押印しないといけない書類を、こっそり、サウザーの書類棚に混ぜてごめんなさい?」
「……いえ、違います」
「応接室の花瓶を割ったの黙ってて、ごめんなさい……?」
「…………違います」
サウザーの顔に青筋が立っている。
ヤバい。
違うなら“違う”って、私が言う前に教えて欲しい。
「……え、えっと」
私が目線を泳がせつつ、次は何を喋るかと考えていると……サウザーがため息を吐いた。
「はぁ……もういいです。これ以上、一度に大量の余罪を耳にすると、私の頭が痛くなりそうですので」
「ご、ごめん」
取り敢えず、謝っとこう。
というか全部、違うのか。
クソ、言って損した。
「最近、食糧庫から食料が盗まれているのが発覚しました」
「……え?」
「一ヶ月ほど前から、何度か。食料の管理係が気付いたそうで」
「む、それは許せないね」
「……いえ、クウラ様ですよね?」
サウザーの言葉に私は困惑した。
身に覚えのない罪状だったからだ。
「し、心外なんだけど。私そんな事してないし、する訳ないし」
「……8回」
「はちかい?」
「クウラ様が食糧庫から盗んだ前科です」
「…………」
私は口篭ってしまった。
いやまぁ、確かに昔は色々としてたけどね。
最近はしてないと思うんだけど。
私も成長してるからね。
何度も同じ事で叱られたりはしないはず。
「間食禁止期間中だったからとはいえ、直接食糧庫から盗むとは……」
「し、してない」
そこまで私はカスじゃない。
ちゃんと医者の言うこと聞いて間食禁止してたのに。
隠れて何かを食べるなんて、そんな、“ちょっとしか”やってないのに。
ひどい。
冤罪だ。
「…………クウラ様」
私の否定にサウザーは眉尻を下げた。
上司に向かって何だその顔は。
その、「またいつもの言い逃れか」って顔は。
「だってしてないもん」
私の言葉にサウザーは片眉を上げた。
「……本当の事を言えば、怒りませんよ?」
譲歩されるも、冤罪だけは許せない。
私が犯した罪を咎められるのは百歩譲って許せるが、した覚えのない罪を責められるのは絶対に許せない。
「それでも私はやってない」
断固否定する。
私は私の尊厳を守るため、不当な処罰に抗う所存である。
やってないんだから、証拠も無いはずだし──
「しかし、クウラ様。目撃者が居まして」
「は?」
「聞き取り調査をした所、夜中に食糧庫へ、クウラ様が侵入していたと……証言が」
罠だ。
これは罠だ。
私の自供を促すために揺さぶりをかけているに違いない。
「食糧庫って監視カメラあるよね?そこに私、映ってないと思うけど」
「確かに、映ってはいませんでした」
「やっぱり」
「監視カメラを掻い潜り、食糧庫から運び出す何者かの痕跡は、映っていましたが」
「む。そいつが犯人に違いない。私じゃない」
そもそも、私が監視カメラの位置なんか覚えてる訳ないでしょ。
監視カメラに映ってないなら、逆に言えば私じゃないってことだ。
「……しかし、証言がですね」
「それは嘘。私をハメようとしてる。そいつが犯人に違いない」
私を嵌める為の、真犯人の策略に違いない。
私が鼻息を荒くしていると、サウザーが目線を横に逸らした。
「10件ほど、来ていまして」
「……え?そんなに?」
普通に驚いちゃった。
そんなに私を嵌めようとする輩が居るのか。
くっ、だが私は屈しないぞ。
虚偽の証言をする奴らになんて──
「ブロリーも、食糧庫に侵入するクウラ様を見たと証言しています」
「…………」
……私って夢遊病なのかな?
夜こっそり、食糧庫に侵入していて、記憶が無いのかな?
だって、ブロリーが嘘吐く訳ないし。
そりゃサウザーも自信満々で私を詰めるわ。
納得しました。
私の負けです。
……いや、納得しないけど。
やってないったら、やってないし。
「クウラ様。今、正直に言って下さるのなら、罪には問いません。それでも、ですか?」
「やってないもん」
腕を組んで、鼻を鳴らす。
自分がした事なら甘んじて……まぁ、甘んじて罪を受け入れよう。
だが、自分がしてない事を疑われるのは不快だ。
ちら、とサウザーを見る。
「…………」
凄い顔してる。
疑うような、信じたさそうな、迷ってるような。
でもまだ、疑惑七割ぐらいの顔だ。
ひどい。
だが、もう一押しだ。
もう一押しで納得してくれそうだ。
だから私は──
「サウザー……私を、信じて」
サウザーの手を掴んで、その目を真剣に見た。
どうだ、この目は。
嘘を吐いているように見えるか?
「……ク、クウラ様。そんな顔をしても、いけませんからね」
サウザーは顔を少し赤くしながら、私の手を振り解いた。
しかし、その顔に疑念はもう無いように見えた。
というか、目に見えて動揺していた。
あと恥ずかしそうにしていた。
もう、サウザーったら私の事好きすぎでしょ。
へへ。
よーし、さらにもう一押しだ。
「信じてくれる?」
「……そこまで言うのなら、不問にしましょう」
あ、『信じる』じゃなくて『罪には問わない』ね?
サウザーは十中八九私の犯行だとまだ疑っているけど、罪には問わないという訳だ。
「む……」
うーん、納得いかない。
「…………まったく」
……というか、サウザー。
何で手をハンカチで拭いているんだ。
そんなに私に手を握られたのが嫌か?
揚げた芋を素手でポリポリ食べながら、“心外だ”という顔をしておく。
「まだ疑うなら、私にも考えがある」
「……考え、ですか?」
サウザーが訝しむ中、私は強く頷く。
「私が真犯人を捕らえる」
「……あ、はい」
何だその顔は。
全く、信用していない顔をしやがって。
くそ、屈辱的な気分だ。
「絶対に捕まえるからね。そのときは疑った事、謝ってもらうから」
「……それは、まぁ、はい。構いませんが」
このクウラ様が屈辱的だと?
許せる訳がない。
犯人は絶対に捕まえて、ボコボコにしてやる。
いや、殺してやる。
じわじわと嬲り殺しにして、宇宙の
そう決意しながら、私は揚げた芋を咀嚼した。
少し時間は流れて、翌日。
惑星クウラNo.2。
「ブロリー、私が食糧庫に入っていくところを見たって聞いたけど。それ本当?」
「う、姉さん……ごめん。サウザーが、黙っている方が姉さんの為にならないって、言うから」
「いや、そこは別に怒ってない……というか、食糧庫に入った覚えがないし。覚えがないのに、ブロリーが見たって言うから、気になってるの」
私の言葉に、ブロリーは首を傾げた。
「でも、姉さん。食糧庫に入ってた」
「……それ、本当に私?」
「うん。姉さんだった……遠目だったし、暗かったけど、絶対に姉さん……というか、その」
「ん?なに?」
ブロリーが気まずそうな顔をしながら、私を下から上まで見た。
「姉さんのその格好、なに……?」
「事件を調査するときの正装だけど」
私はチェック柄のコートに、モノクル代わりのスカウター、あと火が点かないキセルを手に持っていた。
まずは形からって言うし。
「……う、ん?」
「それは別にいいでしょ」
「……まぁ」
私の言葉にブロリーは困惑しながらも納得──はしてないだろうけど、頷いた。
「で?その私……偽物はいつ、食糧庫に侵入した?」
「……ええと、いつかは忘れたけど、深夜だった。トイレに行こうと思ったら、外で姉さんが歩いているのを見つけたから、話そうと思って追いかけたんだけど……こそこそ、してて。話しかけて欲しくなさそうだったから」
「ふむ……変な様子はなかった?違和感とか」
「なかった。すごく、いつもの姉さんっぽい雰囲気だったと、俺は思う」
「ふむふむ」
なるほど、いつも通りの私っぽい、か。
相当、スマートな侵入を行ったようだ。
さぞ、見事な手際だったのだろう。
「えっと、あと、そこの……ゴミ箱に引っかかって転けてた。たぶん暗かったから」
「……ん?」
「慌てて、ゴミをゴミ箱に戻してたけど、途中で面倒くさくなったみたいで、そのまま放置してた」
……何だか間抜けな泥棒だな。
私とは似ても似つかない、ドジっ娘ぷりだ。
「それで、食糧庫から出てくる所は?見た?」
「見てない。俺、そのまま帰ったから」
「……まぁ、仕方ないか」
事情聴取を終えた私は、腕を組んで頷いた。
「……姉さん、怒ってない?」
「え?何が?」
ブロリーがおずおずと聞いてくるので、私は首を傾げた。
「サウザーに告げ口したから……」
「いや、私は犯人じゃないから」
ブロリーにまで疑われているのか。
いや、ブロリーは私が食糧庫から食糧を盗んだと確信しているのか。
「…………」
何だか、裏切られた気分だ。
これがどうでもいい奴なら傷付かないが、純粋で純朴なブロリー相手となるとダメージが入る。
私は口元をもにょもにょとさせながら、その場を後にした。
「それで、パラガスは何か知ってる?」
「……いえ、急に来て何の話でしょうか」
「実はかくかくしかじかで」
「……あの、クウラ様。かくかくしかじかと言われましても、何も伝わっておりません」
渋々、私は事件の経緯を説明した。
私に化けた何者かが食糧庫に侵入したこと。
サウザーに疑われて気分が悪かったこと。
私の話を聞いたパラガスは少し顔を顰めた。
「ふむ……その事件、解決が必要なのですか?」
「というと?」
「食料が盗まれているだけではないですか」
パラガスめ、事は些細な話ではないと気付いていないのか。
犯人が何故か食料を盗んだだけなので、まだ被害は少ないが……もしも、食料に毒物を盛られたら?
我が軍に被害が及んだに違いない。
明らかな部外者が食糧庫というインフラに侵入できてしまう現状、それが問題だ。
結構な大事なんだぞ。
なんでパラガスが分からないんだ。
お前、結構、そういう所に気が回る策略家気取りだろ。
「…………」
「なんでしょう?」
私が無言で睨むと、パラガスが目線を泳がせた。
……あ、違う。
こいつも私が犯人だと思ってるんだ。
だから、事件を真面目に解決する気がないんだ。
「……私はやってないよ?」
「……そ、そうですね。私も信じさせていただきます」
あ、くそ。
信じてない顔だ。
面倒な上司に対して、適当に話を合わせてるだけって感じだ。
マジで許せない。
部外者にここまで好き勝手されて、流石の私も──
いや、待て。
部外者なのか?
監視カメラに映っていないということは、監視カメラの位置を完全に把握しているということだ。
そして、食糧庫の監視カメラは目に見えて分かりやすいカメラの他に、壁に埋め込まれた隠しカメラも存在する。
それらの位置を完全に把握して、回避しつつ、盗みを働いた……。
普通に考えれば、身内の犯行である可能性が高い。
「パラガス。食糧庫の監視カメラにアクセスできる人は?限られてるよね」
「ええ、まぁ、はい。そうでございますが……」
「ずばり誰?」
「幹部以上の職員になります」
「……つまり?」
「私、このパラガスを除けば……サウザー様とクウラ様、ぐらいです」
チッ。
いい手掛かりだと思ったんだけどな。
犯人は何らかの正規ではない手段で、監視カメラの位置を把握したに違いない。
……監視カメラ、か。
「……そもそも、食糧庫に向かうまでの通路に監視カメラは無かったっけ?」
「ございません」
「なんで?」
私が疑問を口にすると、パラガスはため息を吐いた。
「クウラ様が仰ったのでしょう。やれプライベートな空間がどうこうと、重要箇所以外には監視カメラを付けないようにと」
そういえばそうだった。
前にAIから提案されたけど、AIに上手く活用されそうだしムカつくから却下したんだった。
「でも、あれ?逆に、なんで食糧庫には監視カメラがいっぱいあるんだっけ?別に重要な場所じゃないと思うけど」
「……それもクウラ様の所為ですよ」
「……ん?」
私、食糧庫に侵入者が出ないように監視カメラ付けるよう言ったっけ?
私は訝しんでいると、パラガスがまたため息を吐いた。
「クウラ様が何度も食糧庫から盗むので、サウザー様が設置するよう厳命したのです」
「…………」
私は目線を逸らした。
そういえばそうだった。
だから、食糧庫に侵入するの辞めたんだった。
バレるし。
「クウラ様。今謝れば、サウザー様も許してくれるでしょう。あまり意地は張られるべきではないかと」
パラガスが宥めるように、そんな事を言う。
まるで癇癪を起こした子供に対するような扱いだ。
「……やってないし」
私が口を尖らせると、パラガスがちょっと呆れたような顔をした。
ムカつく。
どいつもこいつも私を疑いやがる。
そんなに私が信用できないのか。
「しかしですね──」
「もういい。パラガスには頼らないから」
鼻を一つ鳴らして、私は部屋を出た。
パラガスは追ってきて謝罪を──する訳でもなく、書類仕事に戻りやがった。
その態度にも更に腹が立ち、大股で廊下を歩く。
犯人の手がかりが全然掴めない。
それどころか、調査を進めるほど、私が犯人だという証拠が増えていく。
やってないのに。
「…………」
どうすれば犯人を突き止められるのか。
証拠はなく、容疑者も絞れていない。
これでは、砂の中にある宝石を探すようなものだ。
どうしようもない。
であれば、どうすべきか。
「……よし」
私は一つ決心して、自室へ戻った。
惑星クウラNo.2、深夜。
食糧庫内部……そこで私は身を隠していた。
両手両足、首のリミッターを最大まで負荷を掛けて、スカウターにすら映らなくしている。
まさしく、プロの探偵だ。
勿論、食糧を盗みに来た、という訳ではない。
証拠もなく、容疑者も絞れない。
であれば、現行犯で捕まえるしかないと判断した訳だ。
私ってば、頭がいい。
現在、私は食糧庫内のコンテナの中に隠れて、穴から外を見ている状態だ。
中々にしんどい体勢ではあるが、真犯人を捕まえるためなら身体を張る所存だ。
「…………」
もそもそ。
口の中に夜食のパンを入れて、家畜の乳を流し込む。
張り込みには、これが不可欠だ。
ちなみに食糧庫の脇にあったのを、ちょいと拝借した。
盗んだ訳ではない。
後で咎められたら、ちゃんと事後報告するつもりだし。
「…………」
しかし、暇だ。
携帯ゲーム機でも持ってこれば良かったか?
いや、まぁ、この部屋、暗いし、見えないし。
かといって灯を点けたら、一瞬でバレちゃうだろうけど。
暇だし。
「…………」
というか眠たくなってきた。
普段なら部屋で、布団にくるまりながらゲームしつつ寝落ちしてる時間なんだよな。
暖かい布団に包まって……うん。
眠気を自覚したら、更に意識が朦朧としてきた。
睡眠ガスでも撒かれたのかと疑いたくなるぐらいだ。
眠い。
「…………ぐずっ」
あ、だめだ。
本格的に眠たい。
意識が朦朧としてきた。
視界がボヤけて、このまま眠って──
ごそごそ。
物音が聞こえて、私は意識を覚醒させた。
深夜、既に食堂は閉まっている。
食糧庫に誰かが来る事はありえない。
そう、泥棒以外は。
私はコンテナの中から、外を見る。
確かに、誰かが物を漁っているのが見える。
電気のついていない中、誰かがコンテナを開けて、軍用のレーションを手に取っている。
それも幾つか、手に取っては棚に戻して、新たに物色している。
まるで昼下がり、スーパーで買い物しているかのような、そんな緊張感の無さ。
しかし、後ろ姿……人影しか見えない。
このまま、コンテナの中で犯人を探る──
なんてのは、私には合わない。
「ふんっ!」
即座にリミッターを解除して、コンテナの蓋を蹴破った。
そのまま飛び出して、着地する。
「見つけたぞ、食料泥棒め。じわじわと嬲り殺して──
そこまで口にして、私の目は犯人を捉えた。
暗闇の中、それでも犯人の姿形ぐらいなら見える。
その犯人は、私のよく知る人物だった。
そう、その犯人は……私だ。
「……え、私?」
私の目撃情報が出ていた事から、何らかの手段で化けているのは知っていた。
だが、ここまで私を忠実に再現しているとは思わなかった。
身長も体型も、全部……全くの私だ。
鏡を見た時に近い、嫌な感覚がある。
ここまでそっくりだとは、思わなかった。
一瞬驚いたが、気を取り直して偽物を睨む。
「化けの皮、ひっぺがしてやる」
気を取り直して、犯人へ向き合う。
「うげっ」
犯人の方の、偽物の私はちょっと動揺しているようだ。
ちょっと間抜けヅラしてる。
知的な私に相応しくない顔だ。
人の容姿をコピーしておいて、そんな顔をしないで欲しい。
……てか、声まで私と同じだ。
なんだコイツ、どれだけ私に罪を擦りつけたいんだ。
いや、罪を擦りつけたいなら監視カメラから隠れるような真似はしない。
ならば何故、私の姿を真似ているのか。
疑問が湧くが、今はそれどころではない。
目の前の偽物をギッタンギッタンのメッチョンメッチョンのボッコボコにするのが先決だ。
私が一歩近づいた……その瞬間、偽物が逃げようと身を翻した。
「逃げるな!」
咄嗟に私はエネルギー波を偽物へぶっ放した。
……が、偽物はそのエネルギー波を回避した。
加減してたとはいえ、私のエネルギー波を避けたのだ。
こいつ……並の戦闘員じゃない。
少なく見積もっても、サウザー以上の戦闘力がある。
そう考えた瞬間。
私の放ったエネルギー波が、食糧庫の壁を吹き飛ばした。
「「あっ」」
やべ。
頭に血が登って、ついやっちゃった。
これ絶対、後でサウザーに怒られる奴だ。
……ってか、今、偽物の方も「やっちまった」って顔してたくない?
何なんだコイツは。
「……しめたっ」
私が後悔し、躊躇った一瞬の隙に、偽物の私が壁に出来た穴から外へと飛び出した。
壁の外は、建物の外。
このまま逃げられると、惑星内を隈なく探す羽目になる。
「ちっ、逃げるな!」
私はエネルギーを放出して、宙へ逃げる偽物を追いかける。
惑星クウラNo.2の空、二つの光が流星の如く引き裂く。
それは全くの同速であり、一定の距離を保ち続ける。
……速い。
この速度についてこられるのは、私の知る限りでブロリーぐらいだ。
マジで何者なんだ、こいつ。
でも、疑問は後だ。
このままだと追いつかない。
ならばどうする?
「ふんっ」
答えは背後からの追撃だ。
私は手からエネルギー弾を連射して、偽物の飛行を妨害する。
「ちょっ」
避けきれない事を悟ったのか、偽物は私へ向き直った。
そして、エネルギーをバリアとして展開して受け止めようとしたが……幾つかのエネルギー弾は直撃した。
爆風が発生し、エネルギーの余波から偽物が姿を現した。
月替わりの星から放たれる光の下……夜空で、私は偽物と向き合う。
「…………あれ?」
エネルギー弾が命中したからか……偽物の皮膚が剥げていた。
表面を覆う塗膜のような、実体の薄い皮膚。
そんな皮膚の下は──
確かに形は私と同じだった。
全くと言っていいほど、同じ。
だが、色合いが違う。
紫色の肌を持つ私に対して……偽物は、薄いグリーン色の、“メタリック”な色合いをしていた。
メタルな私。
つまり──
この偽物を、私は『メタルクウラ』とでも呼ぶべきだろうか。
「……クソが」
眉間に皺がよっていくのを、私は自覚した。