惑星ベジータのサイヤ人共が、フリーザ軍の傘下に降り数ヶ月が経った。
その頃、私は──
「くそ……
サイヤ人にキレていた。
叛逆された、とかそういう訳ではない。
サイヤ人は、私には直接何もしてこない。
多分、最初に釘を刺しておいたから。
あの面会は正解だったのだ。
フリーザはそういう所、偉いんだよなあ。
根回しとか、軍を管理する能力に長けてるんだよね。
話を戻すが、なぜ、私がサイヤ人にキレているかというと……。
「……また惑星ブッ壊しやがって」
最近はフワフワの毛皮クッションまで装備した玉座で、手元のタブレットを操作する。
私が移住先候補として選んでおいた穏やか〜な星々から、幾つかアイツらが破壊したのだ。
皆が豊かな星とはつまり、資源が豊富という事で……フリーザ軍の侵略対象になりやすい。
侵略、占領ぐらいなら良いのだが、サイヤ人は環境が変動するぐらい暴れるのだ。
原住民の8割を殺したりするし、文明を破壊する。
一度壊れた文明は、元に戻らない。
それこそ願いを叶える摩訶不思議なボールにでも願わない限り。
「…………はぁ」
情報端末を膝に置き、ため息を吐いた。
早くこんな仕事辞めて、隠居したい。
だが、コルド大王から軍を引き継いだフリーザが、私に仕事を振ってくるのだ。
勝手に辞めて、コソコソ隠居できなくもないが……。
「うーん……」
弟に迷惑かけたくないし。
親には育てて貰った恩もあるし。
養わなきゃならない部下がいるし。
殆どの奴らが善悪で分ければ悪人になるが、それでも情を感じている。
それに、私が占領している星々、惑星クウラの管轄がフリーザ軍になれば、確実に不幸になる人間が増える。
フリーザの統治は私に比べて冷酷だ。
いや、まぁ私も反抗する勢力を、片っ端から宇宙のゴミにしてるけど。
そう考えれば、私一人の行動で影響を受ける人も多く……迂闊に、仕事から逃げる事もできない。
やっぱり、孫悟空にフリーザが倒されて、トランクスにコルド大王を殺害されたら、こっそり逃げよう。
フリーザもコルド大王も居なくなれば、フリーザ軍も崩壊するだろう。
そうなればもう知ったこっちゃない。
なるべくしてなったのだから、私の所為じゃないよね。
私、悪くないも〜ん。
よし、そうしよう。
それまでに良い感じの星を探そう。
結局、いつも通りの結論に達した私は、惑星カタログを開き──
「クウラ様。目的地に到着致しました」
「うん?もうそんな時間?」
部下である……えっと、誰だっけ?
まぁ、コルド大王のお下がりじゃない、そこそこ信頼できる部下の言葉に頷く。
今着てるドレス風戦闘ジャケットにマントを装着し、玉座から降りる。
……マントね。
赤くてバサバサしてるやつ。
戦闘服は分かるけど、マントを着る意味は何なんだ?
コルド大王もよく着けてたけど、あれか?
威厳とかそういうのか?
まぁ、でも私の容姿は20歳弱の肌色が紫色でトカゲの尻尾が生えてる人間だ。
実際はもう100歳以上の、うん、良い歳をしてる宇宙人だけど。
容姿に威厳もクソもない。
人の容姿は第一印象で殆ど決定付けられるそうだ。
じゃあ、無理じゃん。
第一印象は背伸びしてる紫色のガキだ。
しょんぼり。
みんな実は、私が怖くて言えないだけで「似合ってない」って思ってない?
ジッと部下を見ると、怯えた顔で目を逸らされた。
なんだその顔。
爆殺するぞ。
……いや、こういう冗談はよくないな。
うん。
歳を取るにつれて、誰かを殺す事に躊躇いを持たなくなりつつある。
よくない傾向だ。
精神が肉体に引っ張られているのか……それとも、単純に私が惰性で「殺し」をやり過ぎて……慣れてしまったのか。
恐らくは後者だ。
言い訳をするつもりはないが、改善できる気もしない。
さて、今日は侵略した惑星での打合せだ。
まだ惑星クウラになってない、惑星クウラ(仮)だが……私達の戦闘力を恐れて、星の国家連合が降伏したのだ。
相手側は死者が出なくて嬉しい。
私側も無駄に殺しをしなくて済んで嬉しい。
こうして脅しのタイミングで降伏してくれると、みんなハッピーだ。
今日は星の有力者達を集めて、彼等に今後の説明をするのだ。
納得しなかったら無理矢理、納得させる事になるけど。
まぁ、そんなに酷い条約を締結させたりしないし。
久々に血を見ずに占領できそうだ。
そう思いながら、私は大型宇宙船のハッチから飛び降りた。
何人かの部下が遅れて、私に追従する。
戦闘要員ではない、頭脳に優れた私の部下だ。
コルド大王配下ではなく、私が侵略した星々から現地採用した奴らだ。
他の兵士達は待機。
降伏した相手に武器を突きつけるのは良くないからね。
たとえ、他の全員集めるよりも、私一人の方が強力な武器だとしても。
そう、私は侵略相手にも配慮できるのだ。
えらい。
なんて、自画自賛しながら私は目的地のデケェ施設に到着した。
……しかし、そこには誰もいなかった。
私は舐められないように重役出社したのに。
あれ?座標を間違えたかな──
と考えた瞬間。
閃光が視界を支配した。
うわ、眩しい。
しかもこれ、ちょっと熱いな。
目を再び開ければ、壁が、天井が、全部が木っ端微塵に吹き飛んでいた。
……あー、爆弾か。
この星の奴ら、こういうの得意だったな。
忘れてた。
宙へ浮かびながら、崩壊した建造物を見下ろす。
……これって、私の事を騙し討ちしたって事で良いのかな?
「……あーあ、酷い事するなぁ」
うわ、マントも燃えてる。
最新型の戦闘服もヒビ割れてるし、結構な破壊力だったんだなぁ。
ま、この程度じゃ私は死なないけど。
と、周りを見渡す。
この場には私、一人だ。
そう、一人……一人になってしまった。
「……あ」
連れてきた部下は、この強力過ぎる爆弾で消し炭となっていた。
「……あー」
粗暴ではなく、理知的で。
比較的、私とも価値観の認識が近く……優秀な部下だった。
戦闘力こそが全て、と思い込んでいる奴が多い中……それでも、私が重宝していた部下達が。
「…………」
全滅?
全員、死んだのか?
そう、理解した瞬間──
ブチッ!
と、私の中の何かが、キレた。
◇◆◇
「目標はどうだ!」
我々、惑星クランチの国家連合の技術を結集して作られた超エネルギー爆弾。
その威力により、侵略者どもは木っ端微塵になると思われていた。
だが──
「複数の生体反応消失!……し、しかし一名、依然、健在!」
「偶々、物か人の陰に隠れて威力が減衰したのか……?」
「いや、防爆壁の連盟議事堂すら、一撃で木っ端微塵にできる爆弾だぞ?どうやって──
惑星クランチには4種の人種が住んでいた。
国家間は表向きに国際共和の道を歩んでいたが、実際、裏ではひっそりと妨害しあっていた。
だが、その事情が一変したのは半年前の話だ。
惑星外から侵略者が現れた。
名はクウラ……数多の星を侵略してきたという。
実際、凄まじいパワーを持っており、力を示すデモンストレーションの一環で、山を一撃で木っ端微塵にした際には驚いたものだ。
宇宙からやって来た、共通の脅威。
我々、国家連合は初めて真の意味で協力し合い、最強の爆弾を用意した。
それが先程、爆発した『超エネルギー爆弾』。
我々が肉体に秘めているエネルギー、それを何千人分と集めて圧縮したものだ。
それを降伏後の調停式と嘘を吐き、不意打ちに使う事にしたのだ。
「……しかし、奴は手負の筈だ!回復する暇を与えず叩くべきだ」
隣国の代表、バナナムの発言に目を見開く。
「い、いや、しかし──」
「それもそうだ!俺は行くぞ!」
我の発言を無視して、他の奴らが外に飛び出した。
……確かに、超エネルギー爆弾が直撃した今、最後に袋叩きしにいくのは間違いない選択だ。
我も周りの奴らに合わせて、エネルギーを纏い宙へ飛んだ。
そして、宙へ浮き物静かにしている侵略者の女……クウラを囲む。
直後、血気盛んなパナップが歯を剥き出しにした。
「これで終わりだ!侵略者め、覚悟の──
「一つ、教えてあげる」
「ん?……はは……何を教えてくれるって言うんだ?」
クウラが宙で、腕を交差させた。
「私は他の『家族』に比べて温厚で、無意識のうちに力をセーブしてしまう事がある」
「貴様が温厚だと……?ふざけたコトを」
我と仲間達は、この女が何を言いたがっているのかと顔を見合わせた。
『温厚』……?
何を言っているんだ、急に現れ、力で星を支配しに来た癖に!
「だが、もう一つ『次』の姿に変身すると、その甘さはなくなり……加減も利かなくなる」
「へ、変身、だと……?」
瞬間、莫大な圧迫感が体を包んだ。
堪えなければ地面に叩き落とされそうな程の、エネルギーの嵐。
「歯向かって来た者に、加減は必要ない」
空気が震える中、遂にクウラの姿が変わり始めた。
「かぁあっ……!」
身体が筋肉質なものに変わる。
骨格ごと身体が一回り、いや、二回り大きくなる。
「な、なんだ、この変化は……何が起きている!?」
巨体となった身体に耐え切れず戦闘服ジャケットが砕けて、その内部から白い甲殻が姿を現した。
生えていた髪が勝手に束になり、彼女の顔を覆った。
そして、髪は白いマスクのようなものへ変わる。
歪むような音がして……クウラは『変わった』。
「ふぅ……待たせたな」
体長は我々よりも大きく。
強靭な肉体に、プロテクター状の白い甲殻を身に纏っている。
そして、頭部はフルフェイスのマスクに覆われ、四本の角が生えている。
骨格すら原型を留めていない。
辛うじて、元と同様なのは剥き出しとなった口元ぐらいか。
恐ろしい形相となった怪物が、我々の顔を一瞥した。
「今から行うのは理不尽な怒りの発露だ」
「は……?」
「正当性が貴様らにあるのは理解している。だが、それでも私の怒りが収まらん」
変身する前の、不気味な穏やかさのある口調は失われていた。
声色も一段と……いや、かなり低くなっている。
我々は誰一人として、手を出す事すら出来ずにいた。
◇◆◇
コルド大王は、一族の中から突出した突然変異者だった。
その娘である私も、息子でもあるフリーザも。
変身能力を持つ我々は、普段の力を制限した形態から、段階を分けて全力を発揮する姿へと形態を変える。
子供のように小さな第一形態。
巨体とツノを持つ第二形態。
後頭部が伸び化け物のような姿となる第三形態。
複雑さを捨て、人間に近くなる第四形態。
フリーザはその第四形態を真の姿としている。
そして、普段は力に制限を掛ける為に第一形態でいる事が多い。
対して私は、常に第四形態でいる。
母体の特徴を多く引き継いだ私は、フリーザよりも第四形態が人間に近い姿となっている。
故に、自身の前世の記憶との兼ね合いや、利便性を考慮して、普段から第四形態を維持している。
ならば、私は常に真の力を発揮しているのか。
答えは否。
私はフリーザよりも1回、多く変身できる。
「…………あ、わ」
驚愕や怯え、恐怖の籠った視線が私に集う。
それはそうか。
先程の、言うなれば『弱そう』でもある第四形態とは異なり、この姿は異形に近い。
盛り上がった甲殻はプロテクターとなり、手足や胸部を覆っている。
頭部にも感情を表に出さないマスクを覆っている。
そして、何よりもその体躯。
女性らしかった肉体は、性別を感じさせない筋肉質な姿へと変わっている。
身長も、約2倍。
巨体と言っても差し支えはない。
正直に言えば、この姿にならずとも彼等を殺す事は容易い。
この姿になれば……計測はしていないが、戦闘力は10倍以上となる。
そんなものは過剰戦力だ。
蟻に爆弾を投げる、愚かな行為でしかない。
この姿の真価は別にある。
力だけではない、理由。
それはこの姿になる理由であり、私がこの姿になりたがらない理由でもある。
単純に言おう。
思考が戦闘者に相応しいものになる。
自我はそのまま、思考が好戦的になってしまう。
人を殺す事になんの躊躇いも生まれなくなり、加減の必要性も分からなくなる。
そして、何より情を失う。
事実、変身前は感じていた『部下を殺された怒り』よりも今、『自分に歯向かう愚か者達への怒り』が勝っている。
それは私ではない。
そう否定したい。
暴力的な姿こそが本性なのだと、私は認めたくないのだ。
だからこそ、私は普段から第四形態のままで……この姿にはなりたくない。
だが、今は……今だけは、情を捨て、怒りのままに力を振るいたかったのだ。
そう思えてしまう程、私は怒りに満ちていた。
力を、エネルギーを肉体に込める。
大地が揺れ、地表が砕ける。
大気が震えて、空間が歪む。
本来、エネルギーを、戦闘力を、気を感じ取れない者達ですら……この私の力をプレッシャーとして感じ取っているだろう。
「な、なんだ……なんだぁ!?」
私を囲んだ、この惑星の戦士達の表情が歪んだ。
彼等の誇り、そして己の身を守る力……それらが無意味である事を悟ったのだろう。
バカな奴らだ。
歯向かわなければ、死なずに済んだものを。
だが、これは貴様らが始めた戦いだ。
貴様らが売った喧嘩だ。
だから──
「さぁ、始めようか」
歯を、噛み締める。
瞬間、私の露出していた口元が、プロテクターに覆われた。
逆ギレともいう