手を出すべきではなかった。
己の全てを投げ打って、平伏し、媚びるべき相手だった。
そう理解した頃にはもう、遅かった。
目前、クウラが指を立てた。
その瞬間──
死の光線が、仲間の一人の胸を貫いた。
「っ!?」
その生命を失い、身体を弛緩させ……地面へと落下していく。
「な、なにっ!?」
死んだのだ。
即死だ。
たった一撃。
それも、目で追えないほど、速い一撃で。
その事実を理解した瞬間──
「き、貴様ぁっ!」
もう一人の仲間がクウラへと飛びかかった。
その手にはエネルギー・ブレード。
生体エネルギーを力の刃と変える武器だ。
その切れ味は、この惑星で最も硬い鉱石すら切り裂く。
受け止める事は不可能──
「……フン」
な筈だった。
しかし、クウラは指一本で……受け止めていた。
刃身を押さえつける訳でもなく、ただ正面から指一本で受け止めていたのだ。
「ば、バカなっ……!そんな筈はない!」
男は再びエネルギー・ブレードを振るった。
しかし、再び受け止められる。
何度も、何度も、何度も何度も何度も。
惑星クランチで最も力量のある剣豪が振るった剣を、まるで子供の悪戯を受け止める大人のように……余裕を持ってあしらっている。
「もう終わりか?」
「……そんな、そんなっ」
エネルギー・ブレードが砕けた。
いや、クウラに砕かれたのだ。
その誇りと共に。
それを我々は黙って見ている事しか出来なかった。
何も出来なかったのだ。
「では、次は私の番だな」
「っ、ま、待っ──
ズドン!と、強烈な音がした。
クウラの拳が、剣士の腹を貫いていた。
「つまらん奴だ。棒振りしか能がないのか?」
またしても、見えなかった。
仲間が殺される過程が見えなかった。
それはつまり、我々も……己の死を自覚する前に殺される、という事だ。
「ば、バケモノかよっ!」
恐怖は伝播する。
速度自慢の仲間の一人が、後退し──
「どこへ行く気だ?」
「ひっ!?」
硬い、胸部のプロテクターに顔面をぶつけた。
その背後に、クウラが移動している事に我々も気付いた。
見えなかった。
あまりにも速い、高速移動に。
「さて──
「ま、待て!頼む!見逃してくれ!」
命乞いする彼の腕を、クウラが掴んだ。
「無意味な命乞いだな」
「ひ、ひぃっ」
そして、腕を引っ張り──
膝で、顔面を蹴り上げた。
「ぶ、ぶふァッ──
顔面から緑色の血を撒き散らす。
だが、クウラはまだ手を離していない。
「貴様は何発耐えられるかな」
「や、やべでぐれっ──
ガツン!
と骨が砕ける音がした。
「ぐばぁっ!?」
「2発」
再び、顔面に蹴りが命中したのだ。
剣士を殺した時とは違う、いたぶるように加減した一撃だ。
「ぎゃぶ……ッ!?」
そして、また、顔面に蹴りを加えて……。
「3発。たった3発か、ゴミめ」
クウラが落胆のため息を溢した。
……我々には理解できた。
仲間の一人が、死に絶えた事に。
その命が失われた事に。
顔面は陥没し、血を撒き散らしている。
そんな、かつて仲間と呼んでいた死体を、クウラは地面に投げ捨てた。
そして、我々へと視線を向けた。
「さて、次は誰にする?選ばせてやろう」
逃げる事は出来ない。
もっとも飛行速度の速い仲間よりも、速い相手だ。
ならば、もう選択肢は一つしかない。
「か、囲め!何としても奴を殺せ!この
声を上げれば、怯えていた仲間たちが武器を持ち、クウラを囲んだ。
「なるほど、全員か。それはいい」
しかし、ほんの少しも警戒していない。
構える事もなく、宙に浮いている。
そして視線を、我々へと向けた。
「まとめて殺せば、片付けも早く済む」
「ほ、ほざけぇっ!」
そこから、乱戦になる事が予想できた。
我はエネルギーを武器に込める。
全力でエネルギーを込めて、一点に集中すれば……奴の防御を突破できるのではないか。
そんな考えで気力を込める。
すまない、仲間たちよ。
我の一撃のために、少しでも時間を稼いでくれ。
その謝罪の籠った願いは──
裏切られた。
「ぁがっ」
手刀で首を刎ねられ──
「ぎゃあっ」
エネルギー波に焼かれ──
「ぎゃひっ」
尻尾で首の骨を折られ──
「あ、ああぁあっ!?」
不思議な力で爆散させられた。
炸裂した血肉が地面に落ちる頃。
そこにはもう、仲間の姿はなかった。
「あ……」
五秒も掛からず、仲間の全てが皆殺しとなったのだ。
国を守っていた頃、仮想敵として認識していた宿敵も……力量を競い合って来た奴も、我が信頼していた戦士も。
ほんの数秒で全員、死体となった。
「く、くそぉっ!」
我もエネルギーを込めたブラスターガンを構えて──
その腕を、クウラに掴まれた。
既に、我の目前に密着していたのだ。
「さて、どうする」
どうする、だと?
決まっているだろうが。
「お、お前を殺す!殺してやる!」
ブラスターガンを、密着させる。
「貴様に、良い提案をしてやろう」
「提案……だと?」
クウラの腕を握る力が強まる。
ミシミシと骨が軋む。
「このまま貴様を殺せば、統治者が根絶されてしまう。そして、惑星の支配が大幅に遅れる。それは私の望む願いではない」
「なに……?」
「だから、貴様だけは生かしてやる」
「……我だけを……だと?」
「そうだ。この私に服従するのならば、だが」
それは驚くような提案だった。
死なずに、済むのか?
この我だけが──
「……………」
「なんだ?言葉を返す事すらできないのか?」
「我の、答えは……」
我はブラスターガンを、構えた。
「これだ!」
ブラスターガンを、クウラの顔面に放った。
圧縮されたエネルギーがクウラの頭部を貫い──
「そうか、それが貴様の返答か」
無傷のクウラが、まだ我の手を握っていた。
「ならば……死ぬがいい」
「く、くそっ!侵略者めぇっ!」
瞬間、腕を引きちぎられた。
激痛が身体を貫く。
「が、ああぁあっ!?」
だが、死んでいった仲間達に比べれば!
「……っ!?」
胸元に、手を置かれた。
「貴様ら自身の、愚かな選択を恨むがいい」
そして──
光と化したエネルギーの奔流が、我の身体を蒸発させた。
◇◆◇
突然、クウラ様の宇宙船が揺れた。
原住民どもの反撃か……!?
そう逸り、私……サウザーは、甲板へ出れば……目の前に、強大な力を感じる何者かが立っていた。
「なっ……何者だ!貴様っ!」
瞬間、スカウターを起動する。
戦闘力、1,000、2,000……10,000、30,000……100,000、200,000!?
いや、まだだ!
まだ、まだ上昇を──
ボンッ!と音がして、スカウターが爆ぜた。
戦闘力が計測出来ず、こ、壊れるなど!?
「お前は主人の名すら忘れたのか?」
頭上から声をかけられた。
凄まじい威圧感。
口調は違う。
声色も違う。
姿も違う。
だが、強大すぎる戦闘力……そして、先程の言葉。
私は即座に理解して、膝を突いた。
「は、ハッ!申し訳ありません、クウラ様!」
確かに私の知っている姿とは全く違う。
その肉体も、身長も、声も、口調も!
だが、これ程までの強さを持つ者など……クウラ様以外に存在しない!
私はハッチを開き、宇宙船の内部へと入る。
そこは玉座のある場所だ。
クウラ様のための一室。
「今すぐ替えの服を用意しろ、サウザー」
「直ちに!」
私は頭を下げ、その場から離れた。
その内心にあったのは恐怖……ではない。
歓喜だ。
やはり、やはりやはりやはり!
やはりクウラ様は最強だ!
弟君であるフリーザ様よりも、遥かに!
私はクウラ様用の戦闘服ジャケットを持ち、その場に戻って来た。
「只今戻りました!クウラ様!」
「そうか。寄越せ」
「ハッ!」
私はクウラ様に戦闘服ジャケットを渡し、その場に膝をつき……視線を床へ向けた。
クウラ様は自身が着替える所を他人に見られるのを嫌う。
私達にはない習慣だが、彼女の言葉は絶対なのだ。
骨の軋むような音と、布が擦れるような音がして──
「はぁ……もう頭を上げていいよ。サウザー」
「は、はい!」
頭を上げれば……そこには普段と同様の姿、口調のクウラ様が居た。
玉座に腰を掛けて、私を見下ろしていた。
私は、息を飲み……質問を投げ掛ける。
「何があったのですか、クウラ様……!」
「惑星クランチの上層部が裏切った。私達を爆殺しようとした」
「なんと……愚かなクランチ人共め。今すぐ報復を──
「その必要はない。首謀者は全員殺した」
「……ハッ、申し訳ありません!出過ぎた真似を」
「いい。気にしてないから」
そう言いながらも、クウラ様は少し悲しそうな顔をしていた。
「……気分が優れないように見えますが」
「そうかな……そうかも。私が連れて行った文官達、全員死んじゃったからね」
「……そうでしたか」
私としては、己の力量不足で死に、クウラ様を悲しませるなど万死に値するのだが……クウラ様はそう思っておられない。
私が口出しをするべきではないだろう。
「数日後、改めて、この惑星クランチに降伏勧告をしようかな。反抗する者がいるなら皆殺しにして、服従させよう」
「ハッ、全てはお望みのままに」
私は再び頭を下げた。
数日後、惑星クランチは惑星クウラNo.129と名前を変えた。
その際、クウラ様に反抗する者は一人も現れなかった。
その様子を見たクウラ様は安堵の息を吐いていた。
……なんとも、お優しい方だ。
◇◆◇
私、怒ると自分をコントロールできないタイプなんだよね。
なーんて口にするにも恥ずかしい、思春期の子供みたいな性質が自分にはある。
甘やかされて育ったし、誰も私に勝てなかったから。
思い通りにならないと力で解決してしまう癖があるのだ。
これは良くない。
本当に良くない。
やっぱり、第五形態になるのはダメだ。
絶対にダメだ。
自分が自分でなくなるような感じがするし。
少なくとも前世の人間としての価値観は全部パーになってしまう。
コルド大王やフリーザに近い精神に変容するのだ。
いや、この肉体を持つ者としては正しいのだろうが。
でも……何だか、怖いし。
「はぁ……」
1人、玉座に腰を掛けて、ため息を吐いた。
この惑星を、秩序を守ろうとした者達。
それらを死体の山に変えたというのに……私はほんの少しの罪悪感すら感じていない。
玉座の皿に置いていた、胡桃のようなナッツを手にする。
手の中に2つ握り、カラカラと音を立てさせる。
価値観や倫理観が、肉体に引っ張られている感覚がある。
普通の地球人らしい感情が、変容してしまっている。
……まぁ、前世で普通の地球人だった期間より、コルド大王の娘で居た期間の方が遥かに長いのだから仕方ないのだろう。
胡桃モドキの殻がミシリ、と音を立てる。
この世界には死後の世界がある。
善人は天国へ、悪人は地獄行きだ。
実際、地球で死亡したサイヤ人、ラディッツは地獄に送られていた。
肉体を失い、魂だけとなり責苦を受ける。
死んだ場所によって管轄が変わるらしいけど、善悪の基準は大して変わらないだろう。
だとすれば、きっと私は──
胡桃モドキを握りつぶした。
「……あ」
中に入っていた可食部まで粉々にしてしまったのに気付き、苦笑する。
「もったいない……」
私は殻の混じった残骸から、可食部をより分けて口に含んだ。
ほんのりと、甘い味がした。