ここは宇宙のとある惑星。
惑星フリーザNo.79。
「何だと、ナッパ。フリーザ様の姉だと?」
「あぁ、そうだぜ、ベジータ。フリーザ様には姉がいらっしゃる」
オレは眉を顰めながら、スキンヘッドのサイヤ人……ナッパの言葉に耳を傾ける。
数年前の惑星ベジータ崩壊後、王子であるオレと共に行動しているサイヤ人だ。
そんなナッパを横目に、オレは窓の外に映る大型宇宙船を指差した。
「あの宇宙船がそうだというのか」
「俺も何が目的かは知らねぇがよ。フリーザ様と会談するそうだ」
「……フン。フリーザ様も弟、という訳か」
あの恐ろしいパワーを持った非情なフリーザ様……チッ、フリーザですら、姉という家族には情があるという事だ。
でなければ、態々、自身の拠点に呼びはしないだろう。
「……ベジータはクウラ様に会った事がないのか?」
「クウラ……フリーザ様の姉の名前か。会った事などない。それがどうした?」
オレが腕を組みながらナッパを睨むと、奴は少し驚いたような顔をして引き笑いをした。
「へへ、そうか。なら仕方ねぇな」
「なんだ。何が言いたい?ハッキリ言え、ナッパ」
「おう、そう焦るなよベジータ。クウラ様はな……」
ナッパが指を立てた。
「フリーザ様よりも強いんじゃないか……って噂だ」
「なに?それは……ありえんな。バカも休み休み言え」
認めたくないが、フリーザの戦闘力はこのオレを大きく上回っている。
戦闘民族サイヤ人の王子である、このオレを。
そんな奴が、そう沢山居てたまるか。
そう思い口にしたのだが──
「いっぺん見てみろ、ベジータ。スカウターがなくても分かるぜ……あのヤバさは」
「……良いだろう。貴様がそこまで言うのなら、見てやろう」
そこまで言うナッパの自信に苛立ちつつ、オレは興味を感じて居た。
オレはこの惑星に着陸する宇宙船、そしてその中に居るであろうフリーザの姉、クウラを一眼見るべく移動を始めた。
巨大な軍事施設の廊下を早足で歩いていれば──
「よう、ベジータ。何をそんなに急いでいるんだ?」
「……チッ、キュイか」
紫色の肌をした宇宙人、キュイがそこに立って居た。
オレのことをライバル視している、自惚れた鬱陶しい奴だ。
「消えろ、キュイ。オレ達は今、急いでいる」
「あぁ?何だってんだ?フリーザ軍は今、厳戒態勢だ。目的も分からんサイヤ人“なんか”を素通りさせる訳にはいかんな」
「厳戒態勢だと?ふざけた事を。オレはそんな事、聞いちゃいない」
「オレはフリーザ軍、次期幹部候補だ。だから、教えられているのさ」
「チッ、鬱陶しい奴だ」
次期幹部の座だと?
フリーザからの評価など、どうでもいい。
だが、こうして自惚れて自慢げにしているのは腹が立つ。
機会があればブッ殺してやりたいぐらいだ。
だが、ここでコイツを殺せばフリーザ軍へ反旗を翻した事になる。
そうなれば、確実にオレは死ぬだろう。
ムカッ腹が立つが、ここは我慢するしかない。
「それでベジータ、何の用だ」
「フン、オレはフリーザ様の姉を観に行くだけだ」
「っ、ク、クウラ様を……か?」
オレは片眉を上げる。
キュイの戦闘力はオレには及ばんが、ナッパよりは上だ。
そして、フリーザの野郎に忠実な部下であるコイツが、フリーザの仲間であるクウラに怯える理由はないように見える。
「あぁ、そうだ。どんな顔か見てみたくてな」
「あ、あぁ……そうかよ。いいぜ。行けよ、ベジータ」
随分と物分かりがいい……。
ナッパを引き連れて、キュイの横を素通りし──
「だ、だがよ。ベジータ……万が一にも、クウラ様に粗相を働くんじゃねぇぞ。いや……一目見れば、そんな事も思わなくなるだろうが」
そんな言葉を後ろから掛けられた。
思わず、舌打ちをする。
なんだコイツらの怯えようは?
自分の知らないモノに怯えて、過剰に持ち上げる仕草ほどムカつくものはない。
「行くぞ、ナッパ。早くしろ」
「あ、あぁ……分かったぜ、ベジータ」
キュイの方へ振り返っていたナッパを急かし、オレ達はその場を後にした。
そして、拠点の高層階。
宇宙船が着陸し……そこから人が降りてくるのを見た。
女……は、居ないな。
恐らく、クウラの部下達か。
しかし……フリーザ軍に比べて、クウラの部下は大した事ないな。
技術者ばかりで、戦闘員もそれほど強くはなさそうだ。
例外として、あの青い肌で金髪の奴。
アイツだけは例外だ。
恐らく、ギニュー特戦隊……その隊長と同程度の戦闘力はあるだろう。
オレより遥かに強いのは違いない。
……少しは認めるか。
アレほどの人材を部下にしているのだから、クウラも相当の──
ゾクリ、と背筋に冷たいモノが走った。
クウラの部下達が膝をついた。
しかし、フリーザ相手ではなく、自身が乗ってきた宇宙船に、だ。
そんな無礼、普通ならばフリーザは許さない。
この場で皆殺しにされても、おかしくはない筈だ。
だが、フリーザは何も言わず待ち構えて居た。
黙って、宇宙船へ目を向けて居た。
そして、宇宙船から……一人の宇宙人が降りた。
肌が紫色の、尻尾の生えた女。
「なっ……!?」
フリーザよりも体格は上だ。
だが、それでも小柄。
ナッパよりも小さいだろう。
そんな体格、そして女だと言うのに……。
「な、言ったろ。ベジータ」
「……チッ」
オレは思わず舌打ちをした。
バカげた威圧感を感じたからだ。
スカウターでは測っていない。
あんなもの測れる気がしない。
なんだ、アレは?
なんだ、あの女は?
バケモノの姉は、もっとバケモノという事か。
「……ナッパ、行くぞ」
「おっ、良いのか。ベジータ」
「構うな。一目で十分だ」
苛立ちながら、オレはその場を後にした。
恐怖を感じた訳ではない。
だが、もし、万が一……オレの視線に気付いた時……いいや、恐怖ではない。
サイヤ人の王子であるオレが恐怖を感じる事など──
「そんな事、あって良い筈がない……!」
悪態を吐いた。
自分の誇りを守るために、感情を上塗りしたかった。
◇◆◇
惑星フリーザNo.79。
大型会議室。
こちら側には私の側近であるザーボンさんとドドリアさん。
あちら側には姉であるクウラ、そしてその側近であるサウザーさん。
私と姉は椅子に座っているが、その側近達は立ったままだ。
礼節、そして立場を示すためだ。
「フリーザ。これ、お土産」
「え、えぇ、どうも……」
姉が小さなコンテナを差し出した。
目で合図をすれば、私の側近であるザーボンさんが恭しく受け取った。
「クウラ様、こちらには何が入っているのですか?」
「惑星クウラの……えっと、どこだったか忘れたけど、そこで取れたカニみたいなやつ。美味しかったから」
「そ、そうですか」
「多分まだ生きてるよ」
「っ……!?」
思わず頭を抱えそうになった。
この姉、戦闘力は飛び抜けているが、几帳面さのカケラもない。
適当な行動方針で生きている。
「クウラ様、惑星クウラNo.31、ダルメシアンの物ですよ。それとカニではなく、ロブスターです」
見かねた彼女の側近が口を挟んだ。
それに姉が頷いた。
「へぇ、だってさ。フリーザ」
「……えぇ、そうですか」
だってさ、ではない。
全く、この姉と話していると頭が痛くなりそうだ。
「あ、ザーボンとドドリアの分の手土産もあ──
「そんな事より、ここに呼んだ意味を覚えていますか。姉さん」
これ以上、話が変な方向に脱線する前に無理矢理戻す。
「覚えてるよ。偶には家族で懇親会を──
「違います。真面目な話をしに来たんでしょう?」
「懇親会も真面目な話だと思うけど」
「パパはそんな事、望んでませんよ」
「そうかなぁ……案外、家族が恋しくなってるかもよ?」
ピクピク、と眉間がヒクつく。
まったく、イライラさせるのが上手い姉だ。
机を叩き割りそうになるのを我慢しながら、努めて笑顔で口を開く。
「姉さん、話を戻しましょう。フリーザ軍の規模も大きくなりましたね?」
「そうだね」
「対して姉さんは軍という程の規模ではありませんね」
「まぁ、大所帯にするつもりもないし」
姉が手元のグラスに入っている水を飲んだ。
その自然体の様子に、また腹が立ちそうになる。
「規模が小さければ不便な事もあるでしょう」
「そうかな?」
「フリーザ軍から戦闘服を購入したり、物資の購入をしたり……」
「あ、確かに。結構、フリーザには助けてもらってるね」
……自覚はあるのか。
まぁ、結構な価格で売っていることで、フリーザ軍も潤っているから問題はないが。
重要なのは恩を感じさせる事だ。
姉は恩を感じている……それが重要なのだ。
「どうでしょう?フリーザ軍の傘下になりませんか?」
「傘下に?」
姉が水を飲む手を止めた。
「えぇ。物資を購入ではなく、配給しても構いません。情報の共有だって密になりますよ」
「……それをして、何の得があるの?」
「今、言ったでしょう。物資や情報、装備だって提供できると──
「ううん。私が、じゃなくて……フリーザに何の得があるの?」
思わず、舌打ちしそうになる。
この姉、人をイラつかせるぐらい腑抜けた態度を取っているが、別に頭が悪い訳ではない。
自身の損得に関しては鋭く、騙すのも一苦労……チッ、厄介な姉だ。
「ええ、そうですね。少しは私の指示で働いて貰おうかと──
「え、いやだけど」
短い否定の言葉に、声を荒らげそうになる。
だが、何とか喉に押し込んだ。
文句の一つや二つ、脅したって良い。
だが、それも口にできない。
この姉……クウラは私の姉に相応しい戦闘力を持っている。
この姿ですら……私のフルパワーと同程度の力を発揮できる。
しかも、しかもだ。
彼女の配下に潜り込ませた部下からの話では、更に『もう1回』私よりも多く変身できるという。
バカげた話だ。
だが、嘘とは言い切れない。
それどころか、姉ならばそれぐらいするだろうという確信があった。
そして、今現在の姿で互角ならば、もしも姉がその真の姿となったら。
間違いなく、このフリーザよりも強いだろう。
幸い、この姉は私を家族として見ている。
多少、無理を言っても怒りはしない。
だが、この姉は読めない。
怒りのラインを踏み越えた時、自身がどうなるのか……考えても無駄だろう。
「まぁ、いいでしょう。では、これまで通りで」
「うん。そっちの方がいいよ」
腹立たしいが、無理を言い過ぎてはどうなるか分からない。
無理はしなくていい。
姉が敵対しないのであれば問題ない。
宇宙の帝王はこのフリーザだ。
軍の規模も、統率も、影響力も……この私が優っている。
ならば、それでいい。
姉が如何に強かったとしても、私の方が上だ。
腹立たしいが、今はそれでいい。
いずれ、いずれは私の配下にしてやる。
その時を楽しみに待っておくとしよう。
「ザーボン、美容パックに興味ない?」
「は、はぁ……?」
……人の側近に鬱陶しく絡んでいる姉の姿を見て、私はため息を吐いた。
◇◆◇
「く、くそっ、ベジータの奴め」
オレは涙を流しながら、廊下に座り込んでいた。
急にトレーニング・ルームに現れたベジータは、妙に苛立っていた。
そんなベジータ、そしてナッパにオレは訓練と称してボコボコにされてしまった。
あんなの訓練じゃない。
ただのイジメだ。
涙を擦りながら、鼻水を啜る。
泣くな、泣くな。
自分でそう言い聞かせても涙は止まらない。
悔しさと、体の痛みと、情けなさ。
それらが入り混じる。
こんな事だから『弱虫ラディッツ』なんてバカにされるんだ。
そんな中、足音が聞こえた。
オレは思わず、柱の陰に隠れた。
こんな情けない姿、ベジータ達に見られたらバカにされてしまうからだ。
だから、このまま、やって来た誰かが通り過ぎるまで待っていようと──
「あれ?」
誰かが、柱の裏に居たオレに気付いた。
「なっ」
それは肌が紫色の女だった。
この惑星フリーザNo.79で見ない顔だ。
普段は出先にいる奴なのか。
少なくとも、フリーザ様の部下か。
「……大丈夫?」
膝を下ろして、女がオレと目線を合わせた。
「……だ、大丈夫だし。あっち行け」
そう強がると、殺気が飛んできた。
ビクッと背筋を伸ばす。
飛ばして来たのは、女の後ろに居た……肌の青い奴だ。
い、いつから居たんだ?
最初からか……?
「こら、サウザー。子供に殺気を飛ばさないの」
「ですが……はい、すみません。クウラ様」
こんな強そうな奴を叱れるなんて……もしかして、すごい立場の人なのか?
だが、クウラ……クウラ?
名前を聞いた事がない。
「……クウラ様。この
「ん?そうだね。でも、フリーザの部下なのは違いないでしょ?差別は良くないよ」
フ、フリーザ様を呼び捨てに!?
「フ、フリーザ様には様付けしないと、酷い目にあうぞ!」
思わず、そう忠告する。
すると、またサウザーと呼ばれた男が眉を顰めたが──
「うん?いいの、いいの。私、フリーザのお姉さんだから」
「あ、姉……?」
あの、フリーザ様の姉!?
思わず視界が回りそうになる。
自分より遥か上の立場、強さを持つフリーザ様の……姉!?
即座にオレは膝をついた。
「す、すみません。今まで、無礼を……」
「え?いいよ。だって、君、私の部下じゃないし」
「しかし……フリーザ様の姉だと……」
「いいんだよ、私が気にしてないから」
何故か笑みを浮かべているフリーザ様の姉……クウラ、クウラ様に困惑する。
そんな立場の高い人が何故、こんな場所にいるのか理解できない。
「……クウラ様。少しよろしいですか」
「え?なに、サウザー」
「そろそろ、出立の時間となります」
「えぇ……?まだ全然、散策出来てないよ?」
「……しかしですね。明日までに惑星をもう一つ、支配する予定でしたかと」
「あ……あー、そうだっけ?」
「そうです」
彼らの発言を聞きながら、どうするべきか迷っていると……目の前の、クウラ様が立ち上がった。
「それじゃ、私は仕事だから」
「え、えぇ、はい。ご武運を……?」
「うん、ありがと。ラディッツくんも頑張ってね」
「は、はい!」
そう返事すれば、満足そうに手を振ってクウラ様は離れて行った。
優しそうな人だったな。
それに凄く強そうだった。
あんな人も居るんだな……なんて、思って──
「……ん?」
違和感に気付いた。
クウラ様は『ラディッツくんも頑張ってね』なんて言っていた。
腕を組んで、思考を巡らせる。
「オレ、あの人に自分の名前を言ったか……?」
遠く、クウラ様の背中を見ながら……オレは疑問に首を傾げた。