人の思考は肉体に引っ張られる。
これは私の持論だ。
人間としての前世の価値観も、この肉体に引っ張られている。
人を殺しても罪悪感が湧かない……まぁ、湧きにくいとか。
暴力を振るう事に躊躇いがないとか。
そういうの。
そういうものに私は折り合いをつけて生きている。
だって仕方ないもん。
私は自分ではどーにも出来ない事に関して、深く悩まない事にしてるのだ。
しかして、横暴な肉体と、地球人としての記憶。
この二つが作用しあって今、私は──
「も、もゔ限界……!!」
机に置かれた、生のカニを見る。
わしゃわしゃ動いてる。
これを食事として出されるのはもう、無理だ。
無理無理無理無理無理無理無理無理!
せめて火を通せ!
火を通して味付けしろ!
ぐ、ぐぎぎぎぎっ!
クウラ軍……まぁ一応、規模は小さいけど軍扱いになっている私の部下達。
一つの大型宇宙船を拠点に、共同生活をしている訳だ。
そんなクウラ軍の料理長が、故郷に帰った。
この軍が嫌になった!という訳ではなく、ちょっとした里帰りだ。
一ヶ月ほどね。
私が許可を出した訳だ。
彼以外にも料理できる奴が居るから大丈夫と聞いていたので。
しかし、しかし。
代理に任命した料理人の食文化が、私と合致しなかった。
そいつ、爬虫類っぽい宇宙人なんだけど、物を食うには鮮度が一番大事!って感じの食文化だったのだ。
私も最初に聞いた時は「確かに鮮度は大事だよね」って同意していたが、出て来た料理が踊り食いオンリーだったので考えを改めた。
こんなの料理じゃねーよ!
鮮度鮮度って限度があるんだよ、バカ!
加減しろ!
私は生のカニを食いちぎり、玉座を立った。
息抜き部屋兼玉座の間を怒りのまま出ると、サウザーが慌てた様子で私に駆け寄って来た。
「い、いかがされましたか、クウラ様」
「私、もう限界!美味しい物が食べたい!」
「で、では……あの惑星クウラNo.27に行きましょうか。辛い料理の──
「やだ。甘い物が食べたい!」
もうひっくり返って床に転がり暴れたい気分だ。
それぐらい、限界に達していた。
今すぐ、今すぐチョコパフェが食べたい!
ケーキが食べたい!
前世の記憶の片隅に残ってるスイーツが食べたい!
……あ、そうだ。
食べに行けば良いじゃん!
「サウザー、私ちょっと出掛けてくる」
「え?あ、はい?では、用意を──
「私一人で行くから。ついて来なくていい」
「い、いえ、しかしですね……?」
「いいったら、いいの!」
横暴に振る舞い、サウザーを蹴散らし、私は宇宙船内の出撃ハッチに到着した。
「じゃ、サウザー。三週間後ぐらいには帰ってくるから」
「し、しかしクウラ様……侵略のご予定は……?」
「いい感じにしておいて。無理そうだったら、別に遅らせてもいいから。私が何とかするし」
「コ、コルド大王様やフリーザ様に叱られま──
キッ!
何が何でも止めようとしてくるサウザーに苛つき、私は目からビームを出した。
「うわっ!?」
そして、彼の足元を焼いた。
「このまま、この宇宙船で暴れられるのと、私が出掛けるのを笑顔で見送るの。どっちがいい?」
「こ、後者です!整備班、一人用のポッドの準備急げ!」
うん。
サウザーは物分かりが良いから好きだ。
こうして私は用意された宇宙船ポッドに乗り、大型宇宙船から射出された。
目指すは……地球だ。
宇宙人が急に来て、地球人達が怯えないかって?
大丈夫、そんなの杞憂だ。
ドラゴンボール世界では肌が緑色の奴だって「ちょっと肌色悪いよねー」ぐらいで見過ごされているんだぞ。
肌が紫色で尻尾生えてるぐらい、あの星の人間なら珍しいなーぐらいで済むだろう。
待っていろ!
地球!
美味しいものを求めて!
……あ、原作には関わったらダメだよね。
避けとかないと。
何かの影響で、孫悟空とかに悪影響でて……孫悟飯がセルに負けたり、ブウが倒せなかったら宇宙規模で拙いしなぁ。
やっぱり地球には行かない方が──
まぁ、いいや!
こっそり甘い物食べて帰って来るだけだし、影響なんてないでしょ!
気をつけてれば大丈夫でしょ〜。
◇◆◇
ここは地球。
地上から遥か上空に浮かぶ、神殿。
「なっ……何と……!?」
「神様。ちょっと……どうかしましたか?」
ポポの言葉に頷き、空を見上げる。
遥か遠くから、強大な力を持つ何者かが迫り来ている。
「強大な……邪悪な気を感じぬか?ポポ」
「あ、ホント。確かに、凄い怖い気が」
まさか、この空の向こうに、これほど強大な力を持つ者がいるとは……。
我が分体、ピッコロ大魔王よりも……遥かに。
「神様、どうしますか?」
「……どうもこうもない。我々に出来る事など」
凄まじい速度で、まるで流れ星のように迫り来る強大な力。
そこから感じ取れるのはドス黒い邪悪さ。
「願うしかないのだ、ポポ。その強大な者が、暴れ回らないように」
「……神様。もし、そいつが暴れたら──
「この
雲の上、天界からだからこそ見える。
一筋の光がこの星へ、迫って来ていた。
◇◆◇
ドカン!とデカい音がして、宇宙船ポッドが荒野に着地した。
周りに……うん、人は居なさそうだ。
態々、着地地点を操作した甲斐があった。
「ん、んんん〜……」
背伸びしながら息を吐いて、宇宙船ポッドの外に出る。
コールドスリープしてたから、あんまり実感ないけど7日程経過してる筈だ。
行きと帰りで合計14日……3週間で帰ると言った都合上、滞在できるのは7日が限界か。
それ以上遅れると、サウザーに叱られてしまう。
サウザー、昔は私の言う事全てを肯定するイエスマンだったのに、時間が経つにつれて私に意見するようになって来たからな。
やれ夜更かしするなとか、書類仕事をギリギリに終わらせるなとか、ゲームをし過ぎるなとか、隠れて食糧庫を漁るなとか……。
多分、私を我儘な子供だと思ってる。
私の方が歳上なのに。
地面を踏み締める。
ここが地球、我が第二の故郷……ま、正確には違うけどね。
私の知ってる地球には、願いを叶えるドラゴンボールなんてないし。
視線を下げる。
服装は戦闘ジャケット……ではなく、惑星クウラの一つで購入した、地球文化に近い服だ。
尻尾を隠せるよう、ちょっと大きめのスカートのワンピース。
……うん、どこからどう見ても、肌の色が紫色の地球人だ!
……肌の色が紫色なの、結構、変じゃないかな?
いや、大丈夫、大丈夫。
緑色で頭から触覚生えてるナメック星人ですら運転免許取りに行けるぐらいだし、紫色ぐらい大丈夫でしょ!
ポジティブ思考は私の数少ない取り柄の一つなのだ。
「さ、ここから近い街は……」
スカウターを使用して、生物の持つ戦闘力を探知する。
……いや、ね?
自力で気を探知できたら良いんだけどね?
そんな器用な事は、私には出来ない。
何度か「気を探知してみよう!」とウンチャラやってみたけど、全然ダメだった。
気を探知ってなに?
そんな器官、身体にないけど?
ってか、それもうエスパーじゃない?
どうやってんの?
だからぁこうして、スカウターに頼っている訳だが──
「うん、あった。ここから西に60kmね。飛べば直ぐかな」
地面を蹴り、宙へ浮く。
「よ、っと」
エネルギー……地球で言うなら気を纏う。
莫大なエネルギーを推進力へ変え、私は宙を蹴った。
地球上の戦闘機よりも遥かに速い速度で、飛行する。
そして、飛行しながら流れる景色を眺める。
うんうん、地球だ。
人を食わない植物に、白い雲、ちゃんと青い空。
一つしかない太陽に、青色の海。
あと、でかい恐竜。
私の知ってる地球だ。
……あ、いや、恐竜は居なかった気がするけど。
やっぱりドラゴンボール世界の地球って、私の知ってる前世の地球とはちょーっと違うんだよなぁ。
そのまま数分。
街が見えてきた。
「あー……やっぱり、私の知ってる地球とは違うなぁ……」
半円形の建物、変な形をしたビル。
どうみても動物っぽい顔をした人。
小さな恐竜を散歩させてる貴婦人。
地面から浮いてる車。
それらを上空から眺める。
「……ま、いいや。取り敢えず、ちゃんとした喫茶店か、レストランで美味しいもの食べよっと」
私は人に見つからないよう、人気のない裏道に降下した。
◇◆◇
私の名前はブルマ。
世界的に有名な企業、カプセルコーポレーションの一人娘だ。
ま、良い所のお嬢様ってだけじゃなくて、私自身も凄い科学者だけどね。
そんな私も年齢的に、学業からは逃げられない。
そんな学校からの帰り道、私は変な人を見つけた。
「……ちょっと、何よ。あれ」
肌が紫色の女が、街中……地べたに、呆けた顔で座っていた。
何というか「困ってます!」って顔だ。
まぁ、私には関係ないけど。
見ないふり、見ないふり………………はぁ。
エアバイクを停止させて、その女の方へ近付く。
「あんた、そんな所で何してんの?何か困ってる?」
昔はこういう時、見て見ぬフリをしてたんだけど。
孫くんの影響かなぁ。
一緒にドラゴンボールを探したり、レッドリボン軍と戦ったり──私は直接戦ってないけど──まぁちょっとだけ人助けもしたり。
私ってば影響されやすいのかも。
悪い事じゃないと思うけど。
私が声を掛けると、紫色の肌をした女が顔を上げた。
……あら、思ったより可愛い。
「……お゛」
「お?」
「お金がなくて……チョコパフェ食べようと思ってたのに……門前払いされちゃって……うぅ」
「へ、へぇ……?」
想像よりも、しょうもない内容だった。
いや、お金がなくて腹ペコなら大変だけど、この女の子、見た感じ裕福そうな服を着てるし、お小遣いを家に忘れた〜とかでしょ。
目を瞬いて、私はため息を吐いた。
「どうしてお金持ってないの?家にでも忘れちゃった?」
「……お金は持ってるんだけど、ここで使えるお金じゃなくて」
そう言いつつ、女の子は手元に銀色の棒を出した。
それを一本、私は受け取った。
「……何これ?」
「一応、私の所で使ってるお金なんだけど……」
「この棒が?」
光で透かしてみたり、軽く振ってみる。
中身が詰まった金属……延べ棒みたいな物かな。
しかし、これ、何の金属だろう。
鉄じゃないし、銀でもないっぽいし。
まぁお金の代わりって言ってるし、貴金属だろうけど。
「……少し調べても良い?」
「うん、いいけど……うぅ」
ポシェットの中から多機能小型コンピュータを取り出し、金属の棒をセットする。
そして、コンピュータにインプットされたデータを確認するけど──
『イッチ、ナシ。タイオウ、ナシ』
と画面に表示された。
「えっ?なにこれ……!?」
この金属と一致する元素はなし。
地球のものと一致しないということは、つまり……まだ人類に発見されていない、新たな金属という事になる。
思わず、先ほどの女性に食い付く。
「こ、これ……!何で出来てるの!?」
「さ、さぁ……?私も知らない」
「どうしてこんな物を、あんた持ってんのよ〜!」
「ちょ、わ、わっ」
思わず肩を掴んで揺すってしまった。
数秒して冷静になり、手を離した。
「これ、どこで手に入れたの!?あんたそもそも何者なの!?」
「え?あー……」
紫色の肌をした女は頬を指で掻いて、困ったような顔で頷いた。
「信じて貰えるか分からないけど……」
「大丈夫!私、多少の事では疑わないタイプだから!」
だって、尻尾の生えた子供と、願いが叶う球を求める旅をしていたのだから。
つい最近だって、一人でレッドリボン軍を壊滅させちゃったし。
そう思っていたのだけれど──
「実は私、宇宙人なの」
出てきた言葉に……まぁ、納得する。
「あー、なるほどね。だからあんた、そんな色の肌してるのね」
「……思ったより、すんなり受け入れるんだ?」
「まぁ……色々あるのよ。色々とね」
ここ最近、特に自分の『常識』と思っていた事をぶっ壊される事が多々あったので、もう何だか何でも受け入れられる気がする。
私は乾いた笑みを引っ込めて、手元の銀色の棒を彼女に渡す。
「で?これの価値って宇宙ではどれぐらいなの?」
「えっと……どれぐらい?うーん」
そこで私は気付いた。
彼女は宇宙人だという。
この地球のお金の価値についての理解も浅いのではないだろうか。
「そうねぇ……なら、パンが何個買えるの?これ一本で」
だから、分かりやすい例えを出したつもりだったが──
「1000個は買えるかな?」
「へ?」
1000個って事は……?
パンが一つ100ゼニーだとしたら……10万ゼニー!?
単純にパンの価値が宇宙だと安いかも、とか色々、ちゃんと計算は出来ないけど、この銀の棒一本の大体の価値は分かった。
この子、宇宙のお嬢様なのかしら?
さっき手元に同じ棒を何本も持ってたし……。
「……う、むむむ」
私は腕を組んで悩む。
そして、自分の財布を鞄から出した。
この未知の金属……正直、喉から手が出るほど欲しい。
科学技術の発展に活かせるかも知れないし。
だから、そう。
互いの利益がある取引として──
「よし!あんた、名前は?」
「え?クウラ……」
「そう、私はブルマよ」
「……え?ブルマ?」
「そうよ。何?文句あるの?」
「え、いや、ないけど……そっか、いやブルマか……」
紫色の肌をした女の子……クウラちゃんが腕を組んで何やら神妙な顔をしている。
が、それを無視して私は財布から1万ゼニー札を10枚出した。
「クウラちゃん、その宇宙のお金、私に売ってくれない?」
「え?」
「これ10枚でパンが1000個は買えるわ。チョコパフェも300個は食べられるんじゃないかしら?」
「いいの?」
瞬間、クウラが目を輝かせた。
こうして見てみると、年相応の女の子っぽい。
「もちろん!むしろ、ちゃんと両替できてるか心配なぐらいだけど……」
「ううん、凄い助かる……!」
こうして私は宇宙通貨の銀の棒と、この地球のお金を交換した。
……私の財布はすっからかんになったけど、まぁ、仕方ない。
これでも同年代ではかな〜りお金持ちの方なんだけどね。
あ、でも……この不思議な金属を父さんに見せたら、その分のお金立て替えてくれるかも?
地球の通貨を手に、笑顔を浮かべているクウラに声を掛ける。
「買い物の仕方は分かるの?」
「大丈夫、ありがとう」
「なら良かった」
返答に頷いて、エアバイクに乗る。
そして、耐塵用のゴーグルをかけた。
そこに、クウラちゃんが口を開いた。
「ありがとう、ブルマ……絶対、どこかでお返しするからね」
「いいのよ、別に。でも、ありがとね」
あんまり期待してないけど、私は頷いて、手を振った。
宇宙人なんて、珍しい出会いだったな。
……どうせだったら、チョコパフェだったかに同行して、宇宙の話でも聞いておいた方が良かったかも。
宇宙船の話とか、色々聞くべきだったなぁ。
なんて、気付いたのは家のベッドに寝転がってからだった。
……あの口ぶりなら、またいつか会う事もあるかもね。
私は両手を組んで、ベッドで寝返りをうった。
翌日、新聞の端っこに『大食い女王あらわる!?パフェ、50個完食!』という記事を見て、苦笑した。
「……は、ははは」
あの娘、孫くんみたいな大食いキャラだったのね。
評価ありがとうございます。励みになります。