ポケモンが全然出てきません。ただ主人公ミサキとスイレンがのんびりするだけの短編です。そういうのがOKな方はどうぞ。
一部リーリエへの不満が書かれております。リーリエが大好きすぎる方は、読まない方が良いかもしれません。
せせらぎ丘
ミサキはかれこれ3時間以上、こうやって湖に釣り糸を垂らしている。が、ヨワシはおろかコイキングさえもかからなかった。
「ミサキさん、釣れますか?」
「いいや、全然です」
おっとりとした声で話しかけてきたのは、隣にいるスイレンだ。このせせらぎの丘を管理する少女であり、島めぐりをするトレーナーに試練を課すキャプテンの1人だ。水ポケモンの使い手であり、いづれはハナダシティのカスミに挑戦し、水ポケモンマスターになるのが彼女の夢だ。声のようにおっとりとして年齢以上に落ち着きのある少女であり、若干内気な性格をしている。そのためミサキと気が合ったのか、2人は時々こうやって一緒に釣りをしたり、ご飯を食べたりしている。
「そういうスイレンさんは?」
「んー、 私も全然です」
2人はこの3時間というもの、これだけの事を口にして、また釣りに戻る。これを繰り返していた。
2人の間に流れる沈黙が静寂に変わり、自然の放つ微量な音と交わる。風の音、風と水がこすれる音、葉っぱと葉っぱがこすり合わさる音。それらが放つ匂いや肌に当たる感触を、いつも以上に鮮明に感じ取る事ができた。 それはミサキにとって、とても贅沢な時間だった。彼女は元来内気で独りを好む性格だ。しかしだからと言ってそれが人間嫌いとか、人と関わるのが嫌だとか、そういうわけではない。いわゆる『独りが好きだがぼっちは嫌い』というヤツだ。 ミサキいわく自分のこのような性格は非常に面倒臭い。しかし持って生まれたものを面倒臭いと言っても、何かが変わるわけでもない。 しかしこうして気の合う友人と呼べる人の隣にいるだけで、こうして美しい自然や音の中に身を置いているだけで、ああ、自分はこのままでいいんだ。っと思える。なんだか自然と笑顔がこぼれる。こういう感覚は久しぶりのような気がする。
女の直感は当たるとはよく言ったものだ。初めて試練を受けに来たミサキを見た時、「この子とは気が合いそうだ」とスイレンは思った。口数が少なく、おっとりというよりも、少しオドオドしていて、常に周りを警戒している。なのにポケモンを出した瞬間、人が変わったように活発的になる。しかし警戒心からの用心深い様子見、覚悟を決めた大技を出す時の決断力、何よりも、ポケモンたちへの優しく的確な声かけ。試練を行っているミサキを見ながら、スイレンはこの子のことをもっと知りたい。自分とこの子は、きっと仲良くなれる。と信じて疑わなかった。
「ミサキさん、どうですか?アローラは」
「どうしたんですいきなり」
「なんとなく、聞いてみたくなったんです」
スイレンはいつものようにおっとりとした口調で、いつも以上に釣り糸を見ながら言った。ミサキは少し考えてから、
「空気は美味しいし、食べ物も美味しいし・・・。あ、でも、私都会っ子だから、まだちょっと慣れない部分もありますね」
「そういえばミサキさんはカントー地方出身でしたね。やっぱり田舎は不便ですか?」
「不便、なところもあるけど・・・。なんか人と人との距離が近すぎて、逆に接し方がわからないというか・・・」
「フフフ」
「あ、いや、その図々しいとか、いやというわけじゃ・・・」
「わかっていますよ」
ほら、やっぱり。 っと予想通りの反応にスイレンは、思わずクスリと笑った。そして
「私も同じですから」
っと小声で返す。
「そうですか・・・」
やっぱりという言葉を声に出さず、ミサキもクスリと笑った。2人はまた釣り糸に集中する。再び沈黙が訪れた。
ミサキはスイレンのこの微妙な距離の取り方が心地よかった。決して深入りしないが、かといって相手をないがしろにしているわけでもない。素っ気ないように見えて、冷たくはない。なんともいえない絶妙なこの距離を取ってくる人はなかなか珍しい。 例えば一見大人しそうに見えるリーリエだが、常に真っ直ぐ我が道を歩いている。気が弱く、オドオドしているように見えて、芯が強く、自分の言ったことを曲げない強さがある。そこは尊敬さえしているが、かと言ってリーリエの事が好きか、親友かと問われればそうではない。別に嫌いではないのだが、純粋で前にしか進めないタイプの彼女はおっとりしているようで、かなり強引で、時にそれはわがままに思える事すらある。また本人はまったくこれを認識していないようで、尚更タチが悪い。こういう女子は男子には受けが良い傾向にあるし、本人の意思に関係なく人を惹き付ける魅力があるのも事実であるが、ミサキにとってそれは他者の理屈であり、自分にとってはまったく受け入れがたいものだった。
ククイ博士は尊敬できる大人だが、押しが強く、図々しく感じる時がある。一緒にポケモンを貰ったハウは、いつもテンションが高く、正直着いていけない事が多い。2人ともミサキの話に耳を傾けてるようで、自分の事ばかりで、さっさと結論を出して次へ行ってしまう。自分がシャッキとしてないのが悪いのか、それとも男性というものは本来そういう生き物なのか? 未だによくわからない。この2人とリーリエはなんだかんだで馬が合っているようで、なんだか自分だけが取り残されているように感じる事もある。
結局それから2時間以上粘ったが、魚は釣れなかった。
「ポケモンは頭がいいですからね。釣り糸垂らした人間を見かけたら、自分から釣られには来ないでしょうね。捕獲目的ならともかく、私達は食べるのが目的だったんですから」
「それもそうですね」
帰り際、暗くなっている空を見上げながら、スイレンとそんな話をした。少し肌寒くなっていたが、気持ちの中はなんだかポカポカしていた。1日座っていておしりは痛いのに、楽しい事をたくさんやり遂げたような、そんな充実感が身体中に溢れていた。
「じゃあまたね、ミサキ」
「スイレンも、またね」
せせらぎの丘の前にあるポケモンセンターの前で2人は別れた。それぞれの今日が終わろうとしている。ミサキとスイレンは日常へと帰って行った。胸を過る寂しさと虚しさが、今日という時間がどれほど素晴らしく、贅沢なものだったのかを絶えず語り掛けてくるのだった。
あとがき
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。ナガレボシです。
今回はほんわか日常回を書いてみました。みなさんにとっての贅沢な時間とはどのような時間でしょうか? 今回はミサキにとっての贅沢な時間を描く事はできたものの、かなり私情が混ざっていたのも事実なので、万が一にでも不快に思われたのならごめんなさい。同時にそれも短編としてはありと割り切っていますが。
それでは、ここまでのおつきあい、ありがとうございました。