嘘彼氏の彼と本当の幸せを掴むまで   作:type-eclipse

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 初投稿です。
 優しい言葉を希望。


ある夏の日の帰り道

 

 私――星野(ほしの)佐久耶(さくや)――は夏があまり好きでは無い。

 

 7月に入り、放課後にも関わらずまだ高い太陽から降り注ぐ日差しにどうしても辟易してしまう。

 

 初デートで貰ったレースが可愛い日傘のおかげでそれはバッチリカットされているものの、アスファルトの照り返しとむっとする熱気は耐えがたい。

 

 特に私はブラウスの透け防止と無駄に主張の強い身体を隠すためにサマーベストを着ているので、夏場は毎年羞恥心と熱中症のチキンレースを強いられている。

 

 歩きながらではしたないなと思いつつも、傘の柄を脇に挟んで鞄から取り出した水筒の麦茶を飲む。氷をたっぷり入れていたのでまだキンキンに冷えたそれは、少々味が薄まっていても火照った身体に染み渡る。

 

「星野さん大丈夫? どこか冷房効いたところで一旦涼む?」

 

 頭一つ分……は言い過ぎだけれど、身長差に伴って見下ろすように彼――神代(かみしろ)(つかさ)――が心配そうに見つめてきた。

 

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ。神代君に貰った日傘のおかげでだいぶ楽」

「そう、でも無理はしないでね」

 

 そう言って神代君は視線を前に戻した。水筒を鞄に仕舞った後、ちょっとだけ日傘を傾けて横を歩く彼を眺める。

 

 学校の他の男子が半袖ワイシャツをだらし無く着崩しながら「あちーだりー」と悪態をついているのに、神代君は長袖のワイシャツを第一ボタンまできっちりと閉めて、しかもその下に長袖のインナーまで着用している。

 

 それなのに彼の背筋はいつでもぴんと伸びているし、暑さに対する愚痴は言わないし、汗もあんまりかいていないように見える。まるで彼の周りだけ気温が低いのではと錯覚してしまう程だった。

 

 こうやって一緒に帰るような関係になる前、衣替えしてすぐの頃に暑くないの? と聞いたところ「暑いですよ。でも肌弱くて日焼け出来ないんです。すぐ赤くなってすごく痛くて……」と苦笑いをしていた。

 

 日焼け止めが年中手放せないというそんな彼の肌は、なるほど女の私が正直嫉妬してしまう程白く透き通っている。正直同じ人種だとは思えない位。数少ない露出部分である首筋や手とかを見ると、なんだかイケナイモノを見ているみたいでドキドキしてしまうのは内緒の話だ。

 

 私達がこうしている原因――というと些か悪しざまに言い過ぎている気がするけども――である平良(へら)さんはモヤシだの死人みたいだの散々な言い様だったけど、一乙女としては素直に羨ましい。

 

「そういえば星野さん」

「っ! なにかな神代クン!?」

 

 神代君が急にこちらを向いてきたので、チラチラと見ていた私の視線とバッチリかち合ってしまい、驚いて声が裏返ってしまった。

 

「? 顔が赤いですね。さっきも言いましたけど、倒れたりしたら大変ですから、ちょっとでも異変を感じたら言ってくださいね?」

「ほ、本当に大丈夫だから気にしないで! それで何かな!?」

 

 異性の肌をジロジロと見ていたなど恥ずかしくて言えるわけもないので、全力で元気アピールをしつつ話題を逸らす。

 

「いえ、次のデートですが何処に行って何をしたらいいかのご相談です。そもそもデートに行くかどうかも悩ましいですけど。もうすぐ期末テストもありますし」

「そうだね……」

 

 初デートからもうすぐ2週間。世間一般における出来立てカップルがどのくらいの頻度でデートに行くかは分からないけれど、私達であればそろそろ2回目のデートには行っておいた方が良いだろう。

 

 そんな恋人同士の会話というにはどこかズレた温度感で話しながら、パッと思いついた考えを口にしてみた。

 

「それなら一緒にテスト勉強するとかどうかな? 付き合いたてのカップルとしては地味かもだけど、学生カップルがテスト前に一緒に勉強するっていうのは普通の事だと思うし」

「いい考えだと思います。それでは場所はどうしましょうか?」

 

 話題を逸らす事には成功したようで、神代君は小首を傾げながら考えこんでいた。

 

 私にとっては実に都合の良い事だけれど、あまりにもあっさりと流してしまう彼を残念に思う気持ちもあった。

 

 ――まぁ、それも仕方ないよね。と、心の中で独りごちる。彼にとって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 うーんと唸りながら考える彼の顔を、ほんの少し低い角度からじっと見つめる。

 

 校則が緩い学校なのに、染めも脱色もしてない真っ黒な髪は肩口で切り揃えられ、前髪は暖簾みたいに垂れてて日本人形みたいだった。おまけに時代錯誤な黒縁眼鏡までかけているし、顔の造形自体も特徴らしい特徴が全くないように見える。

 

 以前神代君を呼んでもらう為.彼のクラスメイトに声をかけたら「神代? あー、知ってる知って…………あれ? でもどんな人だっけ?」と悪意なく言われてしまう程印象が薄いのが神代司という男の子だった。

 

 私だってつい最近、初デートに行くまではそんなみんなと変らない認識だった。言い訳みたいに聞こえるけど、もちろん彼にそんな印象だけを抱いていたわけではない。ただ、容姿という一点においては同様の感想を抱いていた。

 

 お付き合いを始めて隣を並んで歩いたり、向かい合っご飯を食べたりして気がついた事だけれど、それが私の……いや皆も含めて勘違いだった。

 

 暖簾みたいな前髪や大きな黒縁眼鏡(しかもよく見たら伊達眼鏡)でじっくり見ないと分からなかったけど、神代君の目はぱっちり二重の大きいアーモンド型で、まつ毛は付けまつ毛かと疑う程長い。眉の形だって悪くない……どころか黄金比を描いていた。それだけじゃなくて、鼻や唇の形や配置を見るにお顔の作りがとても丁寧なのだとわかる。こうして見る横顔は完璧なEラインだし、肌の白さはさっきも言った通り新雪か白磁の様に白く滑らか。

 

 間違いなく神代君は整ったお顔の持ち主。でも誰も気づかないのは私達の目が節穴なわけじゃない。顔の輪郭を隠す髪形や伊達眼鏡だけではなく、間近で見なければ分からないけど神代君は薄っすらとお化粧までしていた。

 

 化粧というのは基本的に顔のパーツを強調したり、反対に肌荒れみたいな見られたくない部分を隠す為にする物なのに、神代君はその真逆。自分の顔の印象を不自然にならない程度に薄くするお化粧を自分に施していたのだ。

 

 その事に気がついた時、どうしてそんな事をしているのか聞きたくて仕方がなかったけれど、その言葉は結局口をついて出てこなかった。

 

 そこまで徹底して自分の顔を隠そうとしているという事は、絶対に何か理由があるはずだし、何より――。

 

 ーー私には、そんな事を聞く資格なんてない。

 

 毎日並んで登下校をして、お弁当だって一緒に食べるし、お休みの日はデートだってする

 

 そんなありふれた高校生カップルに見えるように振る舞う私達は、その実恋人同士でもなんでもない。

 

 この関係は意思が弱く、周りに流されてばかりの私に手を差し伸べてくれた彼の善意によって成り立っている。

 

 そんな私がこうまでして隠そうとする彼の秘密を暴くなんて、恩知らずの恥知らずだ。

 

 だから私は、今日も見て見ぬふりをする。

 

 

 ――だって神代君は、私の為の嘘彼氏なんだから。

 

 

 

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