作戦会議を終えて28時間後、電話が鳴り病院を後にした。
ーーーーー
双城はとある廃城を拠点としていた。その拠点には妖術師を含む多くの護衛が防衛を行なっていた。
4人はすでに侵入し、何人か本にしていた。これまでは出会った敵を皆本に変えていたが、今回は1人だけ本に変えず情報を吐かせて逃した。
「殺さへんの?」
「基本情報を司る『文学の階』が2人体制になったことで効率が落ちてリアルタイムでの情報整理に期待できない。だから直接話を聞いた方が早かったわ」
再び作戦を立て直す。妖術師を避けて地下2階を目指すか、正面から堂々と侵入して地下2階を目指すか。
「堂々と侵入して、初めに戦力を削った方が後々楽にならへん?」
「でもシャルを連れて逃げられる可能性があります」
「そうね•••まぁ、作戦通り。私と柴で離れの倉庫を目指す」
「俺たち2人は地下2階を目指す。でもチヒロが言ったように逃げられる可能性もあるから、こっそり入るか」
「そうだね。2人とも気をつけて」
「あなた達もね」
ーーーーー
「ここやな」
「結構ボロボロね」
アンジェラの本から深紅の棘が伸び、柴はシンプルに手足を動かしてる。2人は倉庫に向かいながら、倉庫へ妖術師含む護衛達を蹴散らしながら向かう。
「さて、こん中に雫天石の研究やらが入っとると」
「雫天石は自然物で、それの技術利用。それらを踏まえて分類は自然科学と技術科学ね」
「ティファレトちゃんとイェソドの2人はこれから大変やろな〜」
その場の状況に似合わない軽い会話を行いながら倉庫に手を伸ばす。
「柴、あなたはチヒロの方へ加勢を。あの2人でも大丈夫かもしれないけど、念のためね」
アンジェラが扉のノブに手を掛けて開く。中から髪を団子にまとめた男がアンジェラに手を伸ばし、彼女の頭に触れた
『アンジェラ』
久しぶりに見た友の顔
『お前が自由を望んだ!お前のせいで!!』
裏切った友の叱責
『アンジェラ』
笑顔で自分を撫でてくる父
『あん•••ジェら?』
死にかけの父の顔
『姉、さん?」
困惑の目で見てくる弟
『ふッ、ハッ、ふ~ッ』
成人祝いにもらった刀を振り上げる自分
『ハッ、フッ、ハッ』
息が荒くなる自分
『姉さん!!!』
怒りの目、荒げた声で非難する弟
そして
そして
そして
「アンジェラちゃん!!」
気づいたら柴に抱き抑えられていた。
「し、ば?」
「よかった、大丈夫か?」
荒がった息をゆっくり整える
「何が、起きたの?」
「この男が君の頭に触れて、そんで数秒固まっとったよ」
正面に目を向けると
「•••
今自分が見たものは数秒に収まりきらない量だ。しかし側から見ていた柴がそういうならそうだったのだろう。
気を取り直して蹲る男をじっくり見る。
「大丈夫かアンジェラちゃん」
「大丈夫、少し混乱してるだけ。ところで、彼生きてる?」
「生きとるよ。ギリギリ」
その男を観察すると見覚えがあった。
その男は先日自分が撃ち抜いた2人の男の片方によく似ていた。
気づいてすぐに敵討だと理解する。
「•••ごめんなさい」
自己満足な謝罪を行なって、男の首を落とした。すぐに紙となって図書館に収蔵される。
「脳の信号に干渉してくる精神感応の妖術だったわ。その応用でトラウマを見せてきたんでしょうね」
「脳の信号を•••それって」
「十中八九、この間私が殺した男の兄弟でしょうね」
「そうか•••でも、実際には殺してないんやろ?」
「えぇ、仮死状態で図書館に保管されている。だから厳密に言えば死んでないわね」
アンジェラと彼女の図書館に登録されている者が殺した人間は誰も死んでいない。
彼らは皆、本と言う形になって図書館で眠っている。
そして彼らの生殺与奪の権はアンジェラが握っている。
「•••今の彼の妖術で見せられたトラウマ」
「?」
「トラウマの8割が、3年前のあの日の出来事だったわ」
それを聞き柴はアンジェラの頭を優しく撫でる。
「アン「違うの」?」
「悲しいわけでも、苦しんでるわけでもないの」
「私の記憶の9割はトラウマと言ってもいい、忘れたい出来事で構成されてるわ。でも、今の力で呼び起こされたトラウマの8割はあの日の出来事だった。私の記憶の1割にも満たない、『あの日』が呼び起こされた。それを、
ーーーーー
廃城内で待ち受けていた護衛の数と質が想定よりも多く、太郎が俺を抱えて廃城の奥へ引いた。
『大丈夫か?』
消音対策のため声に出さず画面に映された字を見る。文字を見て頷く。
『アンジェラたちは終わったらしい。すぐ来るだろ』
姉さんを含み顕現中の司書達は距離を問わずお互い思念を飛ばし合う、テレパシーが使える。
どうやら太郎はテレパシーで姉さん達が無事情報を回収できたことを知ったのだろう。
『一旦引くか?引いて、このまま2人と合流して立て直すか?』
文字を読んで首を横に振る。ここで引いたらシャルを助けるのが余計に遅くなる。
『お前、大丈夫じゃないだろ』
「!•••大丈夫だよ」
『いいや、大丈夫じゃないな』
太郎が俺の腕を掴む
『動きがぎこちなかった。お前休んでないな?』
「•••」
図星だ。シャルを取り戻すため、俺はできる事をした。体を動かし、戦闘のシュミレーションを行い、刀を振った。
『ここでじっとしてろ。柴が来るまで時間を稼いどく』
太郎が立ち上がる。同時に俺の頭が撫でられる。
大事にされている自覚はある。そしてそれがコンプレックスでもある。
3年前、毘灼を追って妖刀を取り戻すためにどのような行動に出るかを話し合った時、全員俺が戦う事を反対していた。
いや•••各階代表司書の人達は静観してたから全員ではないか。
しかしそんな諍いの中、姉さんが反対派と俺の意思を汲んだ折衷案を出した。
「チヒロを図書館に登録する。そうすればチヒロは戦いに出ても問題ないんじゃない?」
「それをして、どうなる?」
「図書館に登録されている人間が殺した人・壊した物は本と成り、そのまま図書館に収蔵される。これは以前にも話したことがあるわよね?」
「•••うん、聞いてるよ」
「でも、本に成った人間は厳密には死んでない。彼らは皆『本』という形の仮死状態になってるの。だからチヒロを図書館に登録する、その上で既に登録されている妖刀淵天と契約させる。そうすれば」
「チヒロくんは前線に立って戦って、その最中人を殺してもそいつらは死ぬ訳じゃない」
「付け加えるなら、図書館に登録済みのチヒロが死んでも本と成って私の図書館に収蔵される。だから私たちは安心してチヒロを戦いに送り出せる」
それは俺と反対組への折衷案・譲歩案と見せかけた俺への強制案だった。この案を選ばなきゃ俺を戦わせないと言ってると同義だ。
決議以降、俺は元から図書館に登録されている妖刀淵天とそれ以外の武器は全て姉さんの図書館に登録されている物を使っている。
「•••姉さんが死んだら、図書館の本になってる人たちはどうなるの?」
「その場合彼らは私と一緒に死ぬわ。もちろん司書達もね」
不公平だと思った。
当たり前だが柴さんは俺を守る。そして基本前線に立たない姉さんはおそらく司書の皆んなに俺を守るよう命令してるはず。俺が死なないように、図書館に収蔵されることがないようにしているのだ。
優先的に守られている俺以外、図書館に登録されていない柴さんも、図書館の主であり蘇生対象外の姉さんも、その姉さんと一蓮托生の司書の皆さんも、殺す覚悟・殺される覚悟を持っている。
俺だけがそれを持っていない。
俺の存在意味はあるのだろうか?
•••いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
姉さんと柴さんなら合流はすぐだ。
太郎の言うとおり一旦引けばいい。
それが最善のはずだ。
それでいいんだ
ーーーーーーーーーー
「私にはエノクっていう兄弟のような、親友のような、運命の片割れのような、まぁそんな感じの存在がいたのよ。エノクは私と同年代のはずなのに、見えているものが私と違っていたわ」
いつだったか、開放された自然科学の階にいる時ティファレトさんが言っていた。
「なんで、今その話を?」
「エノクと似たようなことを考えてそうだから」
同じくらいの身長の彼女が俺の頭を撫でてきた。
「エノクは守られるべき子供のくせに、守られることを拒んで自らを身を捧げた」
「俺がエノクさんと似てるんですか?」
「守られるだけが嫌だって所」
「•••なんでわかったんですか?」
「妖刀淵天は図書館に、細かく言うと技術科学・芸術・自然科学に登録されてる。そして現在淵天と契約しているのは貴方。まぁ要するにあなたの心情はある程度筒抜けなわけよ」
「?!•••それ、姉さんは」
「多分気づいてるんじゃない?何も言ってないから確信できないけど」
顔が熱くなるのがわかった。それを見たティファレトさんは笑った。
「私を含め司書達はアンジェラを介してあなたの成長を見てきたわ。それと共にアンジェラも変わった。あの子は貴方を亡くしたくないし、本にしたくない。それなのになんでアンジェラが妥協したと思う?その気になればあなたを黙らせて自分の、図書館を顕現させるプランを実行できたのに。そっちの方がもっと安全だったのに」
「•••そっちの方がより情報を集めることができると思ったから」
「違うわ、貴方に期待してるのよ」
「!•••そうですか?それにしては姉さんはいつも白けてるっていうか、冷めてるって言うか」
「見守ってるの、だってアンジェラは多くを知らないから。だから状況に応じた選択肢が少ないの。でも貴方なら自分の知らない物を見せてくれるって、自分ではできないことをするって期待してるの」
ーーーーー
「お前とアンジェラは似てるよ。どこがって、論理的で真面目なところが。ま、それはお前の母さんとの共通点だな」
だからこうなりやすい、と言って父さんが両目の外端に手を置いて視界を狭める
「俺の教えを大事にしてくれてるのは、嬉しい•••嬉しいよ。でも、そればっかりはダメだ。俺と同じになっちゃうのは、お前が『お前』として生まれてきた意味がなくなっちまう。だから」
顔端に添えられた手の形を変える。開いたり、丸めたり、じゃんけんしたり
「こんなふうに、状況に応じて、臨機応変に、柔軟に、冷静に、指の形を変えてみろ。•••ってか大体!、俺にできなくてお前ができることが多すぎるんだよ!」
「•••洗濯、掃除、料理、勉強」
「勉強は理系科目なら全然いけるぞ!」
「じゃあ文系科目、金魚の世話、洗い物」
「洗い物は俺でもできるぞ!」
「たまに割るじゃん」
「たまにだぞ!ほんと〜にたまにだ!!•••文系で思い出したけど、お前の初めて話した言葉が『ね〜ちゃ』なの許してねぇからな」
「なんの話?」
「何してるの貴方達」
「アンジェラのせいで初めての言葉が『パパ』じゃなかったこと」
「いつの話してんのよ」
「•••かあ〜、っぺ!お前らほんとそっくりだよ!向けてくる目がさ!」
ーーーーーーーーーー
(状況に応じて、臨機応変に、冷静に、柔軟に)
武器を取り出そうとした太郎の手を押さえ、そして前に立つ
断ち切ろう、全てを
「ごめんなシャル」
部屋に金魚の群れが泳ぎ始める
「
経緯
「アンジェ•••」
「何?」
「(・ω・)?」
「何よ」
「Σ(*゚д゚*)ハッ、お姉ちゃん!」
「•••本当に何?」
「いや〜な。これからチヒロもおしゃべりするようになるだろ?」
「そうね、いつになるかは知らないけど」
「だろ?だからその時のために、これからしばらくお姉ちゃんって呼ぶからな!」
「•••わかったわよ」
以降アンジェラのことをお姉ちゃんと呼ぶ国重
「お姉ちゃん!今日の夕飯は!?」
「お姉ちゃん!洗濯物取り込んだぞ!」
ついには柴も呼ぶようになった
「お姉ちゃんお土産持ってきたで〜」
「なんであなたもそう呼ぶのよ」
「六平に頼まれたんよ」
そしてその時は突然来た
「•••ね〜ちゃ」
あまりにも突然だったためアンジェラ含む3人は固まった
「な•••なんでパパじゃないの!?」
「そこかい。チヒロくんこの人は?」
柴が自分を指差す
「いば〜」
「チヒロチヒロ!!俺は?!俺!?」
赤ん坊のチヒロが期待の目で見てくる国重を見る
「•••チゲっ!」
父を『国重』と呼んだチヒロに3人が再び固まる。
「•••チヒロ。そうじゃないでしょ?」
アンジェラがまだ幼いチヒロに訂正を促した。
「?•••おくいら!」
『六平』と呼んだ。
パパ、もしくはお父さんと呼ばれるだろうと考えていた、期待していた3人の不意を突いた。
ふと3人は思い出す。
柴と国重はここしばらくアンジェラのことを『お姉ちゃん』と呼んでいた。
柴は2人からそのまま『柴』と呼ばれていた。
しかし国重に対してアンジェラはそのまま『国重』、柴は『六平』と呼んでいた。
「•••理にかなってるわね」
「ぢひろ〜!!!!」
大泣きを始めた国重がチヒロに抱きつく
「ゆるさねぇ•••ゆるさねぇからな2人とも!!」
「•••これって私たちが悪いの?」
「•••まぁ百歩、千歩、万歩譲って俺たちが悪いんやない?」
「このやろ〜!!!」