行きつけの銭湯から出てきた双城は眼前のビルを見上げる。
「戦争前、妖術師は幻とされていたのはそれまで『妖術師は表社会に干渉しない』という暗黙の了解があったから。だがしかし、戦争での活躍でその存在が確定したことで以降妖術師の仕事は白日の元で晒されることとなった。そんな異能力者が蔓延るようになったこの日本が未だ滅んでないのはお前たち、『
「•••準備完了の4文字を長々と143文字にすんのお疲れさん」
見上げた屋上には先日見た柴と薊を除いた6人がいた。
神奈備から選出された6人で構成される『対刳雲特選部隊』。双城を殺したところで事態は変わらないと神奈備上層部は考えていなため、戦力を大勢投入しない選択をした。
妖術師と妖刀に明確な差があるため、必要なのは確かな戦術だ。
(こいつらは精鋭だが、できれば他2人もいてほしかったな)「まぁいい。『
「
両手を合わせた梓弓の詠唱と共に双城の足元が盛り上がり、上空へ飛ばされた。彼女の妖術により宙を浮く戦場が生まれ、空中戦が始まる。
(街への被害を無くすためか。まあいい。乗ってやる!)
近接を行う者は空を飛び双城と同じ足場に立ち、カザネと梓弓は彼らとは別の足場にいる。
「『鳴!」
「やばっ」
足場を操る梓弓が近接組の防御のため足場の形状を変える。具柄が双城に急接近し、硬化した拳と刳雲をぶつけ合う。
「
背後の隙を狙い隊長の萩原が短刀を放物線状に放つ。それを察知した双城が具柄に距離を取らせて振り向く。
「結」
「
氷で留められた短刀が振動を行い、氷を破壊し双城へ迫る。刀で薙ぎ払い、足元に刺さったコケシに気づく
「
卯月の詠唱と共にコケシから紐状の物が伸びて拘束される。ふと頭上から気配を感じる。
「っ、鳴!」
コケシを足場ごと破壊し、すぐに動く。すると今さっきまでいた場所に巨大化した笠原の両手がクレーターを作った。
再び短刀が双城の目前まで迫っていた。
間をおかず続く攻撃を見て思う
(こいつら•••そんなに"溜め"が怖いか?だが、)「"溜め"なくてもこれならできるんだよ、降!」
双城のそばにいた4人が濡れる。
「はっ!鳴!」
水を介した雷撃を喰らった4人は六平姉弟の言葉を思い出す
『水を伝う電気の性質を利用した広域攻撃、刳雲の基本戦術です』
『おいおい、それくらって大丈夫なのかよ俺たち』
『さっき見た通りその降と鳴の合わせ技で死人は出てなかったでしょ?十分耐えられるんじゃない?かなり痛いと思うけど』
『おい』
(アンジェラの言った通り、痛ぇじゃねえか!)
あらかじめ言われていたため心の準備は行なっていても痛い物は痛い。苦しむ彼らを見て双城は"溜め"を始める。
(でも見事に乗ってきた!!)
『ところで、万全の鳴はどう避ければいいの?』
『その場に材料は揃ってるはずです。降で出た水が』
「飛べ!!」
萩原の合図でさらに上空へ飛ぶ3人。しかし"溜め"はすでに終えている。
「逃げても無駄だ!!鳴!!」
「磁戒!!」
萩原が生んだ衝撃で足場が双城と水を宙に残して押し下がる。
『水を伝う電気の性質を利用する。刳雲の基本戦術よ』
「なっ!」(俺の鳴が全部水に流れて躱わされた)
万全の鳴を放ったことで十数秒のインターバルが生まれる。
「畳みかけろお!!」
六平国重と父と言った男の顔を思い出す
ーーーーーーーーーー
「ところでアンジェラちゃん。さっき教えてくれたこと以外に私たちが気をつけるべきことってある?」
病院にいた時、チヒロを含む男衆がトイレに行って2人きりになり梓弓がアンジェラの髪を弄りながら聞く。
「気をつけるべきこと?」
「そうそう!さっき基本情報教えてくれたでしょ?言っちゃえば取説みたいなもんでしょ?」
「まぁ、そうね。当時の国重が知ってた事ね」
「でもさっき言ってた『本領』ってゆ〜やつ。それに該当しそうなもの知らない?」
「•••チヒロ以外の契約者が淵天以外の妖刀を使ってるのを見たことないからなんとも言えないわよ」
「あ〜そうだよね。ごめんね」
考えてみれば当然だ。戦後妖刀を握った契約者の姿が一切なく、話も聞かなかった。それはつまり戦後妖刀は六平国重の手元にあって、契約者たちに再び使わせなかった。彼女が知らなくてもおかしくない。
「別に謝らなくても。あ、でも•••ん〜」
「お、心当たりあるの?」
「•••真打でしか見たことないけど。•••いや、あれはちょっと違うか?」
「?」
「ん〜•••真打は遠隔で周囲の情報を得る力があった。見方を変えると『遠隔操作』、に該当するのかしら?」
「遠隔操作•••」
「そう。だから、もしかしたら妖刀は遠隔操作が可能なのかもしれないわね」
真打に言及したことも気になったが、それ以上に遠隔操作が可能な事実に驚いた
「•••それだと、刳雲を先に回収して双城と引き離しても意味無いってこと?」
「意味ないってより•••危ない?言ってしまえば相手がスイッチを握る爆弾を手に持つ、みたいね。だから引き離すだけにとどめて回収は後回し、双城を殺すことを優先すべきよ。それに加えて、刳雲の力を考えると下手に双城と刳雲の直線上に入らないほうがいいかも」
「そっか、•••教えてくれてありがとうね」
「•••ところで貴方、私の髪で何やってるの?」
「結んでるんだよ〜。よし、できた!」
梓弓が手を離す。手元に鏡を召喚したアンジェラが自分の髪を写す。
「三つ編みじゃないわね•••何結び?」
「変形ポニーテール!知らない?」
「•••今まで三つ編みしかしてもらってこなかったから新鮮ね」
ーーーーーーーーーー
梓弓が聞き出した情報は当たり前だが部隊の全員にも共有された。そのため彼らは皆妖刀の回収ではなく双城の殺害を優先していた。
「具柄!鉄化強めてこっちこい!!」
「あい?!」
「結」
落水が全て凍結する。
「降と結のコンボがあってもおかしくないか」
卯月が投げたコケシが双城の足元に刺さる。コケシを壊そうと腕を動かすが巨大化した笠原の手がそれを妨げる。
「くそっ、俺も戦わせろよ!」
足場を司る梓弓のそばで待機しているカザネが言う。
「ダメだよ、君は奥の手なんだから!」
双城の体から微弱な放電が行われる。
「まだインターバル終わってねぇぞ!」
「『本領』ってやつか?まぁいい、せっかくの電気だ。使って、っ?!」
双城から出る電気が強まったのがわかった。
「笠原あ!!手ェ離せ!!」
その叫びを聞いた笠原は手を元の大きさに戻し、彼の意思とは別に体が双城と距離を取らされる。と同時に双城は如縛による拘束を破壊し萩原の眼前に迫っていた。
萩原は傍らにいた具柄を突き飛ばす。
「っ!」
「なっ、おい!!」
伸ばした右腕が双城によって切り飛ばされる
「カザネ!!!フェーズ移行!!使え!!」
言われてすぐに整える。
「
左腕が切り飛ばされ発動を妨げられる。
全員が
双城が全員を見て刀を持ち直す。
足場を担当する梓弓に向かって刀を振る。
先程までの戦場にいた4人が動く。
梓弓の服が引っ張られる。
カザネが梓弓を庇う。
「がっ?!」
別の足場まで殴り飛ばされた双城が顔を上げる
見覚えのある青い刺繍の入ったスーツを着た黒い毛皮の男
先の男と同じスーツを着て、血管が体表を覆い尽くした男
白を基調としたスーツと上着を羽織り、黒い物体を握る女
青を基調とした服装で大鎌を持つ男
見覚えのない4人が特選部隊を守るように立っていた。
道を阻み、妖術師2人をいっぺんに殺した女を思い出す
「は!蒼白な彼女の手下か?」
彼らは答えなかった。代わりに拳を、武器を握り締め迫ってきた。