あらかじめご了承を
「断ち切ることはできないんだアンジェラ」
光となり消えようとした時、まだ仮面をつけた友が自分の剣を握った。
「このまま自分勝手に断ち切れないんだよ!!」
仮面を被った彼の剣が自分に向かって振られた。それが都市で生きたアンジェラが見て聞いた最後の景色だった。
気づいたら彼女は見知らぬ路地にいた。目の前には絶命寸前の知らない男が倒れていた。
「どこかしら、ここ」
狭い路地を抜け、大きな通りに出て前後上下左右確認する。自分が今まで招待状を介して見た景色に似ている。
(いえ、似ているだけね。だってこの文字見たことないもの)
自分のそばにある建物に掲げられた看板には読めない文字が書かれていた。
(困ったわね。これじゃあ私が今どこにいるのかわからない•••いや)
ゆっくり目を閉じる。思い出すのは掃除屋を接待した時。彼らは未知な言語でコミュニケーションをとっていた。しかしそれが言語であったため解析できた。
現在彼女は図書館の外にいるが、その力を使えることが直感わかった。
「•••デパート?」
文字は読めて意味も理解できたが、理解できなかった。合計100万年生きたアンジェラにとって、視界に入る全てが未知だった。ふと振り返り、倒れてるはずの男に目をやる。しかし男の死体どころか、血液すらなかった。あるのは宙を舞う光るページのみ。
(どういうこと?)
宙を舞う光るページには見覚えがあった。自らの図書館にて接待を行い、ゲストの絶命時にその場を舞っていた光るページ。
「•••まさか」
手を広げ、先ほど殺した男の本を念じる。手に重さを感じ、確認すると男の本が握られたいた。
(図書館の力は健在、というより若干の強化が入ってる?)
すぐに本を開いて彼の知る情報を見る。
日本
小国
戦争
妖術師
妖刀
契約者
終戦
神奈備
編集・分類される前の乱雑な内容だったが、自分の現在地を知るには十分の情報量を得た。
そして出た結論は、今自分は元いた都市とは全く異なる世界に来てしまったということ。
「ん?」
本を握る自分の手を見る。その大きさは手にある本の半分以下の大きさだった。まじまじと自分の手のひらを眺める。
「この大きさ」
そばにある窓ガラスを除くと、体長が半分近くになった自分が写っていた。この状況に最も適した言葉を探す
「•••転生?」
現状に適切な言葉を見つけても戸惑いは消えなかった。
「それはそれでこれはこれ」
友人の口癖を唱え無理やり割り切った。
知らない土地にて彼女が必要とするものは情報故、派手に動いた。そのほうが注目され、価値の高い情報が自らよってくる。都市災害のランクが上がっていった図書館がそうだったように。
戦後、まだ混乱期とも言える日本。裏社会、表社会問わずあらゆる組織が情報を求めた。そんな中情報を独占している少女がいるという噂。「少女」と聞いて興味を持つ人間は少なかった。たかが噂、しかしその噂が広まるのと行方不明者の数は比例した。
噂はあっという間に広まった。
ことは思い通りに運び、彼女は単独で
「はっ•••ふぅ•••」
『自覚』から約2ヶ月、あり得ない速度で『噂』として成長しあらゆる情報を取り揃えたアンジェラの視界は歪んでいた。
(まさかこの間戦った時に何かされた?じゃあ、すぐに、これをどうにか、しないと)
2ヶ月の間彼女は情報を返り討ちにすること、集めることに全ての時間を消費した。その間彼女は食事と睡眠をとっていなかった。
機械として行い続けた100万年もの反復作業。それに対し人間に近づいたのはたかが数日程度、完全に人間になったのはほんの一瞬。彼女のそれは疲労と睡眠不足、栄養失調によるものだ。2ヶ月何もしないのに動けていたのは、彼女が元機械だったからとしか言いようがない。
自分の体調に異変を感じ取り人目に入らない場所、一面の自然世界に足を踏み入れたのだった。
(だめ、倒れる、せめて、綺麗な場所がいい)
狭まる視界の中、彼女の目には小さな建物が入った。そこには清潔そうな木目の段差があった。おぼつかない足取りで段差に近づき、そこに倒れ込む。
ーーーーー
音が脳につながった時、体は暖かかった。目を開けずに意識を触覚に集中させる。まずわかったのは自分にやわらかい物に包まれていること。
(感触の違いからおそらく上下のもの別々のもので分かれている。頭に置かれているこれもまた違うもの。これって布団と枕?)
触覚から聴覚に集中する。遠くに地を叩く音が聞こえる。しかしそれが徐々に近づいている。アンジェラは息を殺す。ローランとの短い時間の中、未知の空間にて何もしないことが最も適した動きだと考えついたアンジェラは引き続き目を閉じる。ゆっくり近づいているそれが敵か味方かわからない。
"ペタ、ペタ、ペタ"
『それ』がアンジェラの枕元まで近づく。衣連れが起きないようにゆっくり本を取り出す。
(いいわ、かかってきなさい。あなたの目的が何かわからないけど、遅れを取らない"バチンッ"
「は?」
2ヶ月で身につけた瞬発力を用いて布団から飛び抜ける。布団のそばには小さな人間がいた。小さな人間
「赤ん坊?」
情報として持っていたが(ちゃんとしたものは)見たことのないため困惑していた。
「お、起きたか?」
入り口の奥から 大きな男が姿を現した。
「起きたか嬢ちゃん」
その男はとても疲れたような顔をしていた。敵意を感じないため本を握るだけでとどめていた。
"グゥ〜"
おかしな音が部屋に響く。音はアンジェラの方から聞こえる
「あ、腹減ってるんだな。ちょっと待っててな」
"ドタドタドタ"
男が見えなくなるとその代わりのように赤ん坊がアンジェラに近づいた。
「あぅ〜」
精一杯伸ばした手がアンジェラの手に触れ、本を握る。本から手を離すと赤ん坊は本を奪い取り齧り始めた。未だ現状を理解しきれていないアンジェラはそれを眺めることしかできなかった。
「ほら、持ってきたぞ」
戻ってきた男は、持ってきたお盆とそれに乗せられた食べ物を差し出す。
「•••これは?」
「おにぎり、具材を用意する時間がなかったから塩おにぎりだな」
ん、と差し出されたおにぎりにアンジェラは手を伸ばす。触って熱さを感じるが、迷わず口に入れる
「•••!」
何の感慨もなく口に含んだそれに、今まで口にしてきたものとは明確に違いがあった
「あ、」
その味を感じた。
おにぎりを食べ終えてから赤ん坊の面倒を見させられた。腹が立つことにその間父親と思われる男は寝ていた。
そして赤ん坊も寝たのは太陽が完全に沈んでからだった。
(そろそろ出て行かないと)
この家の住人は頭がおかしいと思った。
明らかに怪しい見ず知らずの自分を躊躇い無くもてなし、そして隙を見せる男に対してそう思った。縁側に出て地に足をつけ森に進む。
「どこいくんだ?」
背後にした縁側から男の声が聞こえた。
「どこって•••出ていくだけよ。あぁ安心して、別に何も盗んでないから」
「それは心配してねぇさ。そうじゃなくて行く当てはあるのか?」
「ないけど」
「じゃあどう生きるんだ?」
「•••さぁ?適当に生きるわよ。2ヶ月は不眠不休で活動できるのはわかったしそれをうまく活用するわ」
いつの間にかそばに寄ってた男がアンジェラの肩に手を乗せる。
「•••『助けて』って言わないのか?」
「?、なんで?」
心底不思議だった。自分は別に助けを求めたつもりはなかった。少し劣化した記憶力で屋内での記憶を振り返るが、自分は一切その素振りを見せなかったと認識してる。肩に手を乗せる男の顔を見上げる。
「•••なんであなたがそんな顔をしてるのよ」
男は悔しそうな、苦しそうな、泣きそうな顔をしてた。
「嬢ちゃん、お前、•••いくつだ?」
「多分•••4、5歳?」
「•••親は?」
「いなくはないけど•••、いや実質いないわね」
脳の電子設計元のカルメン、そして創造主であるアイン、この二人はある意味両親と言えなくはないだろう。まぁこれまでそう認識してきたことが無いからいないと言ったが。
「人を•••殺したことは?」
「逆に聞くけど無いと思う?」
男の顔が余計曇り、肩に置かれた手の力が強くなったこともわかった。アンジェラは少ない対人関係の経験を掘り起こし、上手い放れ方を考える。
「じゃあ、私なりの恩返しと思ってちょうだい」
「•••何をだ?」
「あなた達に危害を与えず、何もしないでここを離れることを」
肩を握る手を優しく解く。難しくはなかった
「それじゃあ。あ、おにぎりありがとう。美味しかったわ」
一切の嘘を含まない本音を言って、止めてた足を動かし始める。片足が木々と庭の境界を越える。残った足を持ち上げた時、手を握られた
「名前•••嬢ちゃんの名前は?」
「私の名前?アンジェラよ」
「アンジェラ•••か。家が無いんだな?」
「えぇ」
「じゃあ•••家で暮らせ」
「何を言ってるの?今日初めて会ったばかりの、明らかに怪しい私を家に置くだなんてバカなの?」
「そうだよバカだよ俺は。でも、ここでお前を放す方がもっとバカだ」
「•••お互い私が家にいることのメリットが無いわ」
「お前にはチヒロを見てもらえて、俺は家族が増える。お前は家とご飯と安全を手に入れられる。これをメリットと言わずなんと言う」
「私がいつ助けてって言ったのよ。赤の他人の、私のためって言いながら本当は自分のためなんでしょう?」
「っ!•••そうだよ!俺のエゴだよこれは!!悪いか!!」
両手でがっしりアンジェラを掴む。
「お前のことは全く知らねぇよ!でも半日一緒にいた!他人じゃないんだよもう!お前が人を殺すのも、一人で生きて行く事も、感情を無くすことも、お前と出会っちまった以上嫌なんだよ。だから、頼む。お前を、救わせてくれ•••」
あっていた目線が伏せられる。彼の髪しか見えない。家の中から赤ん坊の泣き声が聞こえた。アンジェラは彼の手を再び解き、今度は家の中へ向かった。男は彼女の後に続く。家の中に入って先ほどまで教わった彼女はチヒロを抱き上げる。
「•••後悔するわよ」
「ここで、•••ここで見捨てる方が、後悔する」
「•••あなたの名前は?」
「!」
アンジェラの言葉に反応し、男は彼女を息子もろとも抱きしめる。
「俺は六平国重、こいつは六平千鉱。だから、お前は六平アンジェラだな。適した漢字もつけないとな」
「•••カタカナでいいわよ」
子供は初めて家族を知った
ーーーーーーーーーー
青を基調とした空間、社会科学の階で6人の男女が机を囲んでいた。
「どうやら爻龍組は毘灼に上納金を納めることでその名前を使用許可を得ていたみたいだね」
「組長の体内には妖術の種が仕込まれてたわ。でも仕掛けられていたのは組長だけ、他全員の体には妖術のよの字もなかったわ」
「仕込まれていた妖術は松の物。組長の裏切りが確定した瞬間にその種子が育つようにセットしていたみたいです」
「裏切る前にチヒロ君が切っちまったもんな。•••そういえばホドちゃんはどないしたん?あの子もこの会議に参加する予定やったやろ?」
「組員全員分の、情報をまとめてから、来るみたいだから、今日は来れない、見たいよ」
「姉さん食べるかしゃべるかどっちかにしなよ」
階長のケセド、身体構造を分析する自然科学のティファレト、妖術の解析を行う技術科学のイェソド、足を組む柴、おにぎりを咥えるアンジェラ、そしてケセドのコーヒーを飲むチヒロ。
「読み込みが足りてないせいでまだ全部はわからないけどとりあえずこんな感じだね」
「松の妖術ってことは•••」
「間違いなく襲撃に来た3人の1人ですね」
シルクハットをかぶる禿頭を思い出す。
「ホドも含めて、読み込み終わるまで情報が増えないのなら今日はここまでかしら?」
「そんなら俺から一つ報告があるわ」
柴が手を挙げて話し始める。
「ヒナオちゃんから連絡があった。妖刀の目撃情報を得たとのことや」