エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-   作:あんだるしあ(活動終了)

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最終話 孵るセカイ

/Victor

 

 ミラとミュゼが世精ノ途(ウルスカーラ)を発った。

 

 何故だろうな。ずっと成し遂げたかったことを成し遂げたはずなのに、達成の清々しさや爽快さを少しも感じない。

 本当に、私はどこまで弱くなってしまったんだか。

 

「ヴィクトル、それ、何ですか」『透けてる~!?』

 

 全員の視線が私に集まった。さすがに居心地が悪い。苦笑するしかなかった。

 

 みっともない姿は見せたくない。心残りはここで全て断ってしまおう。

 歩いて行って、エリーゼとイバルを同時に両腕で抱き寄せた。

 

「君たちのおかげで思いがけず父親の真似事ができた。感謝してるよ。本当だ」

 

 君たちが大きく成長する様を、そばで見守ることができた。エルもフェイもまともに娘として見ようとしなかった私に巡り来た、奇跡のようなチャンス。君たちが叶えさせてくれた。

 

 二人を離して、エレンピオス勢を見返した。アルヴィン、ジランド、セルシウス。

 

「それが正史世界と分史世界のルールってヤツか」

「知っているなら話は早いな。そうだ。エレンピオスに本物の俺がいる以上、私は消える。フェイもだ」

「なんだよそれ……聞いてねえぞ!」

 

 言えばためらう者もこのメンバーには多かったからな。君みたいに。

 俺が覚えている〈オリジンの審判〉の時を考えても、他の方法を探す猶予はなかった。黙っているしかないだろう?

 

「ジランド。セルシウス。エレンピオスを頼む。源霊匣(オリジン)を」

「言われるまでもねえよ。そのためにこいつを生み出したんだからな」

 

 ジランドはセルシウスに視線を流す。セルシウスは肯き返した。それだけ主従仲が良好なら、源霊匣(オリジン)開発と普及については心配しなくてもよさそうだ。

 

 私としても、ただ消えてやる気はさらさらない。

 これが私の、最後の、世界への反抗だ。

 

「ユースティア」

 

 この場で私を除いて唯一骸殻を使える少女に呼びかける。

 

「ここに〈カナンの道標〉がある。持って行け。〈審判〉を超えろ」

 

 断界殻(シェル)が完全に消えて、〈私〉が消えてしまう前に。

 

 ユースティアは一粒だけ涙を流して、夜光蝶の銀時計を取り出した。蒼黒の殻がユースティアの体を覆った。構える両手には〈鍵〉の力を宿したフリウリ・スピア。

 

 そんな顔をしないでくれ。私はこれっぽっちも後悔していない。未来を憂えてもいない。これだけの人間がいるんだ。先行きが明るくないはずないだろう?

 

 

 ヒュッ――ドス

 

 

 ユースティアが消えた、かと思ったら、いつの間にか胸をフリウリ・スピアに貫かれていた。

 やはり速い。さすがは兄さん、貴方の娘だ。

 

 抜かれる穂先には、白金の歯車の集合体――〈最強の骸殻能力者〉の道標。

 よかった。間に合った。これで〈ミラたち〉の悲劇も回避できる。

 

 体が透けて消えていく。光が降り注ぐでも、荘厳なファンファーレが鳴り響くでもない。これくらい呆気ないほうが、私にはちょうどいい。

 

 フェイをふり返る。私と同じように、全身が少しずつ透けて消えていっている。

 

「先に行く」

「うん。すぐ行く」

 

 返されたのは、まぎれもない笑顔。私だけに向けられた。

 

 ああ、呆気ないなんてことはなかった。最高の終わり方じゃないか――――… … ……

 

 

 

 

 

/Fay

 

 パパ、先に行っちゃった。

 

 ユティちゃんは、パパだった〈道標〉を懐に入れて、パパが立ってたとこに落ちた二つの〈道標〉も拾い上げた。

 

 みんな悲しくさせちゃったね。ごめんね。でも、わたしも行かなくちゃ。ジランドさんが言った通り、それがルールだから。

 

「アル。前にわたしのこと、大人だって言ってくれたこと、あったよね。今のわたし、どうかな? ちゃんとホントのオトナになれたかな?」

「っ――ああ。今のお前、最っ高に立派だよ」

 

 よかった。これでアルが言ってくれたこと、ウソにせずにすんだ。

 

「ユティちゃん。ゴメンね、辛い役させちゃって」

「……『オリジンの審判』は必ず超える」

 

 強く〈道標〉を握り締めるユースティア。うん、あなたならきっとダイジョウブ。あなたにはアルも、ジランドさんもセルシウスも付いてるもんね。「今度」は独りじゃないもんね。

 

 あと心配なことって言ったら……うん。念のため。オネガイしておこ。

 

「クレインさま、ローエン」

「はい」

「……何だい?」

「エレンピオスには〈妖精〉がいるの。大きすぎる力のせいで、籠の中のウサギになった本物の〈妖精〉」

「それは向こう側にいるという、もう一人のフェイさんのことですか?」

「正解。さすがローエン」

 

 二人の前まで歩いて行く。

 

「きっと向こうのフェイは、非力で独りぼっちの女の子だから、正しいこと、人に優しくすること、教えてあげて? ほっとくと本当、ダメな子にしかなれないから」

「――分かった、必ず」

「約束します。きっともう一人のフェイさんを見つけてみせます」

 

 ローエンと、指切り。それに、クレインさま、と、も……

 

「フェイ?」

 

 ああ、だめだ。これ以上近寄ったら、泣いちゃう。

 

 出会わなきゃよかったなんて絶対に言わない。フェイリオ・メル・マータが見つけた恋。パパでもない、ルドガーでもない、ジュードでもない。愛しい人。

 出会えてよかった。一緒にいられてよかった。好きになれてよかった。

 

 でも一つだけ心残りがある。

 クレインさまが正史のフェイを好きになっちゃったらどうしようって。

 

 同じ〈わたし〉でも、やっぱり、腕もくちびるも奪られたくない。わたしだけのものにしておきたい。

 

 でもクレインさまに「他の人を好きにならないで」なんて言えない。フェイのワガママでクレインさまのキモチ、縛りたくない。

 

 泣いちゃうから、離れて、手だけ振って。

 

「またねっ」

 

 笑顔で、サヨナラ。




 最後の最期。消えるという運命を受け入れ、再び黒と白の父娘はいなくなりました。

 大きく変わった歴史がその後どうなったかは、この先にエピローグを入れる予定がありますのでそちらをご覧になってくださいませ。
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