ガッツリネタバレあるのでネタバレ注意です!
それでも良いって人はどうぞ!
ロドス艦内のとある通路をロドスの最高幹部の一人であり、医療部門の総責任者ケルシーは駆けていた。普段のまったく動かないポーカーフェイスはどこへ行ったのか顔を歪ませながら全力で駆けていた。
事の発端はドクターによる艦内放送。その内容は要約してしまえば『オペーレーター「メタトロン」がロドスを辞める』というものだった。
その放送を聞いた瞬間今まで処理していた書類を放って自分でも気付かぬうちにケルシーは走り出していた。
「はっ、はっ、はっ」
荒く息をしてとにかく目的地まで愚直に走るその姿は普段の彼女を知る人間が見れば驚愕に思考停止するほどだろう。
それでも彼女は走る。それ以上に大切な事がある。
(なぜだ?メタトロン……お前は、お前も私の前から居なくなるのか?もう一度数万年の孤独に戻るのか?嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!使命は投げ出せない投げ出したくない。でもあんな辛い思いはしたくない。お前だ、お前があの時、私をもう一度、AMa-10でも学者でも士爵でも修道士でもないただの“ケルシー”にしたんだ)
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思い出されるのはメタトロンがロドスへとやって来た時の事。
その日は珍しく採用担当のものが体調を崩したまたま手隙だったケルシーがメタトロンとの面接をしていた。メタトロンの面接はこれといった特別な事はなく順調だった。だがそれが変わったのは面接が終わろうとした時だった。
「……今までよく頑張りましたね」
彼がそう呟いた瞬間ケルシーの動きが完全に止まった。
その事にケルシーは驚きはすれど冷静だった。しかし、彼女を守る盾であり矛のMon3trを動かせないと気付くと彼女は焦り始めた。一切の抵抗の手段が封じられたのだ。
(Mon3tr!?私だけでなくMon3trまでもが動かないだと?いったい何をした?いや、何をするつもりだ?)
そんな彼女の様子を欠片も気にかけずメタトロンは彼女の横まで来ると並ぶように座り彼女の頭に手を伸ばす。
(精神干渉系のアーツか?彼の経歴は問題無かったはずだ、トランスポーターとしての評判も上々で後ろに誰かがいるという情報も無かったはず。対処を。Mon3trは、動かない。体も無理だ。監視カメラは、担当のものが気付いても間に合わない。何か、なにか無いのか………………私はこんな所で終わるのか?)
少しずつ迫る彼の手を見ながら彼女の脳は何とかして解決策を練るが結局はそんなものは出ず。ついにメタトロンの手が頭に触れた。
(……これはどういう事だ?)
しかし、ケルシーに訪たのは死という終わりでも精神干渉のアーツでも無かった。メタトロンはケルシーの頭を自分の膝まで運ぶとケルシーの頭を撫で始めたのだ。俗に言う膝枕だ。
「貴方は偉いですねケルシー。ただ一人数万年の時を『存続』の使命のために屈する事なく歩み続けました」
「な……ぜ」
いつの間にか動くようになっていた口を無意識に動かし驚愕を口に出した。『存続』それは先史文明において未来へと続く道標になりうる可能性を秘めた数多の計画の総称。そしてケルシーもまたその『存続』の使命を帯びた存在だった。
だが『存続』は先史文明においての計画でありその発端は数万年前、つまるところテラに住む存在は例外を除いてその存在すら知らないはずなのだ。なのにメタトロンはそれを知っていた。
「辛かったでしょう。苦しかったでしょう。何より寂しかったでしょう」
その言葉に瞠目する。それはいつも胸の奥底の底にしまい込んでいた感情。感情の発露は『使命』に支障をきたす要因でしかない。だから見ないように、考えないように、出ないように、悟られないように、知られない様に、心の奥底の底に秘匿した。
「立ち塞がった苦難は数知れず、負った傷は数知れず、出会い別れ失う事幾星霜、貴方はここまでやって来た」
少しずつ隠してきたはずの感情がケルシーの中で膨れ上がる。
──駄目だ
その言葉はケルシーの今までの努力を踏みにじりその心をドロドロに溶かしてしまう甘い甘い甘美なる毒。
聞いてはいけない。理解してはいけない。共感してはいけない。
だがケルシーの意思に反して優しくするすると心地の良くメタトロンの言葉は耳に入る。
「ですがもう大丈夫。私がいます。
「……あ」
その言葉ケルシーの最後の心の枷を優しく崩した。
目から今まで堪え忘れていたはずの涙がこぼれ落ちる。忘れようとしていた寂しさが胸を締め付ける。
ただ一人テラの大地で愚直にいっそ狂気にも似た精神で歩み続けていた。
「夢、希望、絶望、苦難、挫折、かつて歩んだ貴方の物語。その物語に私も加えてください。一人きりの物語程寂しいものは無いでしょう?」
「わ、私は……」
「
「……あ」
その言葉が必死に崩れないよう押しとどめていた最後の砦を崩した。
「うっ、あ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
涙はよりあふれ止まらず、頬を濡らして地面まで落ちていく。喉からは今までの全てを吐き出すかのように叫びが響く。
「……っ、つら、かった!」
「えぇ、知っています」
「く、くるっ、しっ……かった!!」
「えぇ、貴方は苦しんだ」
「お、おらくる、もっ、いなくっ、なってぇ!」
「かけがえのない人を無くしたのですね」
「それでも!がん、ばった。けど!み゙んな!わたしを!……おいてくんだぁ……」
「私はいなくなりませんよ」
いつの間にかメタトロンの姿は変わっていた。それは小さき神としての姿、10の恩寵、136万5000の祝福、72の翼、36万5000の輝く眼、49の宝石、そして王冠を持つ。曰く「人間が想像し得るもっとも高貴な天使の姿」を晒した。
あまりの美しさ、あまりの高貴さ、人に在らざるその姿にケルシーは目を奪われる。
「
「いなく、ならないのか……?」
「ええ、無論です」
「わたしはっ、幸せになって、良いのか……?」
「ええ、私が幸せにしましょう。貴方は報われるべき人なのだから」
ケルシーはこの時、未来を得た。とびっきり明るくて、とびっきり幸せな。何故なららメタトロンの異名の一つは『契約の天使』。契約の為ならあらゆる奇跡でもって契約を遵守するのだから。
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走り続けてどれ程が経ったのか、遂にケルシーは廊下を歩くメタトロンを見つけた。メタトロンは楽しそうに迫り来る多数のオペレーターの猛攻を躱している。
「Mon3tr!!」
その声と共にケルシーの脊髄から現れたのは発光する黒と緑の鉱物のような物質で構成された菱形の立方体。それが体積を増やし、爬虫類のような歪な姿へ転じていく。鋭い鎌のような四本の鈎爪と長い尾を持つそれは宙に浮かびながらケルシーの背後に顕現する。
「行け!」
「(クソボケに怒っている鳴き声)」
ケルシーの指示と自らが感じた怒りに従ってMon3trはメタトロンに襲いかかる。
「Mon3tr、貴方も来たのですね」
「(怒りの咆哮)」
Mon3trはその爪でメタトロンに斬り掛かるがメタトロンはその爪を難なく避けその場から離れていく。
「ふふ、こちらですよ」
「メタトロン!!」
「(憤怒の叫び声)」
「逃がさないから!!」
「待ってよ!」
離れていくメタトロンを追いかけて行くオペレーターとMon3tr。彼女らに続いてケルシーは再び走り出そうとして足を止めた。
いつの間にか肩に手が置かれていた。それは目の前で逃走劇を繰り広げているはずのメタトロンだった。
「安心してケルシー。これはちょっとした戯れ。
「……もう、二度とこのような事は辞めて欲しい」
「ふふっ、そこは信頼して欲しかったのですが」
「……それは」
そう言われはケルシーは罪悪感を抱く。自分はメタトロンを疑っていたという事実に。
「ですが、ええ、形の無い口約束を信じられないというのも理解します。不安に思う事は何も悪い事では無いですから」
まるでケルシーの心情全てを理解したかのよなメタトロンの言葉にケルシーは少しだけ心が軽くなる。
「そうですね……折角ですし貴方が私をより信じられるように根拠を出す事にします。もしあちらの私を捕まえられたら何でも言う事を聞いてあげましょう」
「何でも……」
メタトロンの提案が出た瞬間ケルシーの脳内には様々な願いが浮かんでは消えていく。そして最終的に1つに絞られる。
「…………指輪が欲しい。君と私のだ」
「えぇ、良いですよ」
了承の言葉と共にメタトロンが背中を押し出す。
「捕まえてくださいね」
ケルシーは勢い良く走り出していた。その顔は普段のケルシーを知る人物であれば幻覚と勘違いするようなとても珍しい表情だった。
とりあえずケルシーは熱すぎる顔を全力で走る事で誤魔化した。
今回の脳焼かれ人物
ケルシー
自らの抱えていた様々な感情、特に寂しさを埋めてくれて、今までよく頑張ったねと褒めてくれて、さらに一緒にいてあげるとまで約束してくれた主人公により無事脳を焼かれる。
なお、この後メタトロンはわざとケルシーに捕まりケルシーはお揃いの指輪を手に入れた模様。