絶望ばかりの世界に希望をぶち込む話   作:エドアルド

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悪霊

 

 ロドス艦内の廊下を1人のヴァルポの少女が歩いていた。右手にはボロボロのぬいぐるみ『モルテ』を持った彼女の名はシャマレ。幼いながらもロドスで呪詛師と呼ばれる職分の補助オペレーターとして軽めの任務に出ている。

 

 そんな彼女は今、導かれる様に目をトロンと惚けさせていた。とても正気とは思えないがそれでもフラフラと歩いていた。そんな彼女にすれ違う人間は不思議とおらず廊下も普段よりも薄暗かった。何よりも今は誰もが寝静まった夜の時間だ。

 

 シャマレはとある扉の前まで来るとその扉の電子ロックが勝手に解除され中に入っていく。その扉の上には『感染生物処理室』と書かれている。ここはロドスにおいて主に感染者の遺体を処理する場所として使われている。

 

 鉱石病(オリパシー)は最終的に全身が源石(オリジニウム)結晶に置き換わり新たな感染源となってしまう。その場合、他者に感染または鉱石病の悪化を防ぐ為密閉された空間へと隔離し無ければならない。

 つまるところこの場所はロドスにおいて鉱石病患者の最後を看取る場所だ。

 

 そんな場所に来たシャマレは中で足を止める。彼女のぼんやりとした視界の中、複数の影が映る。それは黒いモヤに覆われた大小様々な人型のナニカであった。

 確かに人型ではあるのだが薄らと見える瞳と吸い込まれそうな闇のような少しだけ開かれた口だけの姿がどうしようもない嫌悪感と恐怖を駆り立てる。だが少しだけ悲哀を感じさせた。

 

 ナニカはシャマレに向かって掠れた音を出しながらゆっくりと近づいて行く。そして遂に触れそうになった時、一閃。シャマレからナニカを遠ざけるように刃物が空を切った。ナニカはそれに驚き後ずさる。刃物を振るったのはいつの間にかシャマレの手から抜け出ていたモルテだった。

 

「……あれ、私。ひっ!?」

 

 それがきっかけだったのかシャマレの惚けていた瞳がしっかりと開かれ、正気に戻る。いつの間にか意識を失っていたのに気付くのは早かった、そして思考を回し始めるよりナニカが目に入る。

 ナニカを目にした途端彼女は凄まじい嫌悪感を感じまた、突如として現れたそれらが恐ろしかった。

 いきなり見知らぬ場所で目を覚ましてあまつさえ得体の知れないナニカがそれも複数目の前に存在しているとなれば戸惑いも驚きも恐怖もするだろう。

 

「あ、悪霊!?」

 

 それが自分が知る悪霊のようなものだと気付いてからのシャマレの行動は早かった。素早く周りに視線を走らせ、この場から一刻も早く逃げる為に出口を探す。

 しかし、それよりも早く悪霊たちがシャマレに向かって我先と手を伸ばし焦がれるように近づいた。

 

「そこまで」

 

 ナニカが触れるより先に後ろから優しい声が響いた。

 

 その手は届かず。暖かく半透明で光り輝く半球状の壁に阻まれる。その内にいるシャマレは先程まで感じていた恐怖が遠ざかり逆に安らかさを感じていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 その声で我にかえる。シャマレが後ろを振り返ればそこに居たのはメタトロンであった。

 メタトロンはシャマレの横を通り過ぎ悪霊たちの前で止まる。その事にシャマレはメタトロンを止めようと声をかけるが途中で声は萎んでしまった。

 

「あ、あんた危な──」

 

 

 

 ──迷いし魂に、導きの手を

 

 

 

 洗礼詠唱と呼ばれるそれは、祈り。

 

 ──渇いた魂を満ち足らし、飢えた魂を良きもので満たす。

 

 迷える魂をあるべき場所へ還す安寧に導く(うた)

 

 ── 深い闇の中、苦しみと(くろがね)に縛られし者に救いあれ。

 

 言ノ葉が響く度に影は晴れ闇が遠ざかる。

 

 ── 正しき者には喜びの歌を、不義の者には沈黙を

 

 悪霊はかつての人だった頃の姿を取り戻し穏やかな顔を浮かべる。

 

 ── 去りゆく魂に安らぎあれ(パクス・エクセウンティブス)

 

 洗礼詠唱が終われば穏やかな顔をした悪霊、否、かつてこの場所で死んで行ったもの達の魂は光の粒子となって散った。

 この場所で鉱石病(オリパシー)によって亡くなり、恨み辛み無念、未練、執着、様々な想いによって霊体のまま彷徨い磨耗し長年苦しめられ遂には霊感の強いシャマレへと手を出してしまった彼らをあるべき場所へと還した。

 

 迷える魂を還したメタトロンの姿は暗い一室にあっても陰りは無くあまねくすべてを照らす太陽のようだった。

 そんな姿にシャマレは見惚れていた。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、え……うん

「それなら良かった」

 

 メタトロンに声をかけられたことでシャマレは我に返った。だがそれと同時に頬を染めてつい、視線を逸らした。

 

「あなたな霊感が強いようですね。これを付けておきなさい」

「これは?」

 

 そう言うとメタトロンはシャマレの服に淡く弱い光を発する白い羽根のアクセサリを取り付けた。

 

「それは私の羽根を材料に祈りを込めたアクセサリです。本来なら悪霊蔓延る地ですら浄化するものですが、これは貴方の身を守る程度のものです。どうやら貴方には貴方の悪霊との付き合い方があるようですからね」

「……ありがとう」

 

 シャマレにとって悪霊とはただの悪しき存在では無く幼い頃からいた隣人だ。畏れこそあれ怖がる事はせず、いるのが当たり前なのだ。故にこの言葉は初めてモルテを一個人として尊重し存在を否定しなかった。それがシャマレにとってはとても嬉しかった。

 

「気を付けなさい。もし、貴方が本当の意味で悪しきものへと変わった時私は貴方を容赦なく浄化します。……そうならない限りはシャマレを支えてくださいね、優しい誰かだった人」

 

 その言葉にモルテはこくりと頷いた。

 それがしっかりと嘘では無い事を()()()()()()メタトロンはたちあがるとシャマレの手を取って歩みを合わせながら歩き出した。

 

「何時までもここにいる訳には行きませんからね。戻って眠りましょう」

「……わかった」

 

 握られた手に意識をもって行かれながらも返事をしたシャマレは何故か高なっている胸の鼓動を感じていた。

 ちなみにモルテは()()()極限まで気配を消していた。

 

 そしてしばらく歩くとシャマレに与えられた部屋の前に着いた。

 

「ここですね」

「うん」

「それではゆっくりと眠ってください」

「……

 

 部屋に着いたメタトロンはシャマレの手を離し眠るように言い含めるがシャマレは咄嗟にメタトロンの手を握り直してしまう。

 

「どうしたのですか?」

「あ、……えっと、その、…………一緒に寝て欲しい。少し怖いから」

「……ええ、良いでしょう」

 

 シャマレは咄嗟に一人で問題なく眠れるのに嘘をついてまでメタトロンとまだ一緒にいたいと思ってしまった。シャマレ自身にもなんでこんな事を言い出したのかわからない。メタトロンに助けられてからというもの、明らかに何かがおかしい。けどその理由がシャマレにはまだわからなかった。

 

 シャマレが嘘を言っているのは理解しつつもそれが悪いものではないと()()判断したメタトロはそのまま了承した。

 

 2人は仲良く揃って部屋に入って行くのだった。




今回の被害者

シャマレ
危機的だったところを助けられ無事に初恋を奪われる。モルテの事を一個人として扱ってくれることも高ポイント。今のところ自分が恋している事には気づいてない。


メタトロン
幼女すら毒牙にかける恐ろしい存在。ひとえにテメェーがシャマレの危機を救ってその美しい顔面で殴りつけ神秘的な光景を見せたせいだが。
今回モルテの事を見極めるために擬似的に自分の目を妖精眼にしてた。
ちなみに本来洗礼詠唱は型月世界の聖堂教会の信仰に基づく人類最大の魔術基盤を利用し、ただ力づくに周囲を浄化する。信仰というルールを押し付ける摂理の鍵そのものなのだがこの世界においてはメタトロン自身へと向いた信仰とサンクタ人の信仰、そして微かに残っている先史文明による信仰、そして自分自身の能力をフル活用して無理矢理成立させている。なので正確には型月の洗礼詠唱と似て非なるアークナイツ世界独自の洗礼詠唱になる。

モルテ
なんかやべーやつに目の前で同類のようなものが消し飛ばされた上に脅された。ただシャマレの事を心配しての行動なのでそこまで気にしてない。それはそれとして洗礼詠唱には恐怖を覚えた。
シャマレの恋心を察知して気配を極限まで消して見に徹した。ちなみにメタトロンがシャマレにご無体な事を働いたら包丁で斬りかかるつもりだった。シャマレ絶対守るマン。
この後シャマレはメタトロンの羽に包まれながら幸せそうに眠っていたので特に動くことは無かった。
本作品では精神に作用するシャマレのアーツで源石に保存されていた適当な誰か達の断片的な精神が源石の外に流出合体、結果モルテとなったという独自設定である。

悪霊
モルテとは違いマジモンの霊的存在。今回は源石で死んだものたちが命の温もりを求めた結果霊的能力が高いシャマレに干渉、あと少しでシャマレは仲間にされていた。モルテのファインプレーである。まあ、仲間にされててもメタトロンがどうにかするので結果は特に変わらなかった。モルテは泣いていい。
メタトロンの洗礼詠唱で無事に天に召された。
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