悪魔が来たりて飯を炊く   作:紅琳檎

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Page2.自炊

美味しい食事とはまず知識だろう。

そう考えたマキマは片っ端から料理本を集め、読み漁ることから始めた。

 

「焼く、揚げる、蒸す、煮る……ふぅん……火を通すだけでもそんなにあるものなんだ。 揚げ焼き……ってどっちなのかな」

 

出来上がりの写真にどんな味なのか思いを馳せながら、マキマの手は止まらない。

 

「酒を入れる理由はなんなのかな。 塩を含むならそのまま塩で良いんじゃないのかな。 同じ理由でみりんも分からないや」

 

「味噌はミネラル含有がナトリウムじゃなくてカリウムだから塩味の感じ方が違うんだ。 ふーん、人間は高血圧とか糖尿病っていうのになるから分けることも大事……」

 

「メイラード反応……香ばしさとか深みとか、読んでるだけじゃわからないなぁ」

 

「香辛料の組み合わせはテンプレートにできそうだけど、人によって辛味や苦味の許容量が違う……均一化せずに進化してきたからこそ、美味しいものを求めてきたのかな?」

 

楽しい、と感じていた。

知らないことを学ぶ楽しさと、いつかと願っていた隣人ができるのではないかという期待とに胸を膨らませて。

次は実践……と行きたいところだが、マキマは完成形の味を知りたいと思い、レシピ本の気になった料理をメモしては毎日毎日、暇さえあれば飲食店に足を運んでいった。

これだという味に出会えるまで多くの店をハシゴし、メモに纏めては新しい料理に舌鼓を打つ。

 

「日本の家庭料理本……ようやくコンプリートかな」

 

鼻の利く悪魔でよかったと、自身を褒める日が来るとは。

食べ歩きをした日には食材を買い、その日に食べた料理を自分の舌が納得するまで作り続け、ついに数冊の料理本の内容を自分好みの店の味で再現することができたのだ。

知識を蓄えていたときは楽しかったが、再現できたときには達成感と満足感があった。

それはまるで支配欲を満たしたかのようで。

この様子なら意外とすぐに誰かにご馳走できるのでは、と思うと同時に、そもそも自宅に手料理を振る舞うような仲の人間がいないことにも気付く。

 

「……お弁当。 そう、お弁当として持っていけば。 おかず交換とかいう文化があるって聞いたことがあるし」

 

そして気付く。

 

「……わあ、白と、茶色だ」

 

おかしいな、公安の仕出し弁当はもっとこう、そう彩りがあった。

ぶつぶつと呟きながら中身を詰め替えても、マキマはメインのおかずばかりの再現をしていたため、結果的に彩りは変わらず。

 

「ふふっ、お弁当……お弁当ね。 なかなか強敵かも」

 

その日は取り敢えず弁当は無かったことにして。

翌日からマキマは副菜やバランスのための、お弁当用料理本を買い集めるようになるが、マキマはまだ知らない。

こだわりが強くなければ、副菜は、買ってもいいのだということを。

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