悪魔が来たりて飯を炊く   作:紅琳檎

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Page3.部下

数年の月日が経ったある日。

悪魔討伐と自炊をひたすらに繰り返していたマキマは昇進を重ね、気付けば公安退魔特異課で新設の部署を預かることになってしまっていた。

 

「忙しくなるのは望ましくはないけど、部下がいれば、ついにお弁当のおかず交換とかできるかも……」

 

なお世間一般では上司のそれに付き合うのは嫌悪される原因であり現代ではパワハラに該当するが、そもそも支配の悪魔であるマキマにはそんな概念はない。

特に悪意なく距離感の近い美人な女性上司であれば、部下になる男性職員はご褒美にはなるのかもしれないが。

 

「退魔4課……なんとなく縁起が悪いなぁ」

 

姉(認めたくない)を彷彿とさせる数字に辟易としながらもメンバー集めの手は止めない。

各地で確認されている魔人や協力的な悪魔、配属待ちの新人や過剰人員になりそうな課からの引き抜き……経歴を辿るだけでも精一杯なほどの作業量に、思わず天井を仰ぐ。

 

「失礼します」

「? ……はい、どうぞ」

 

ノックと、聞き覚えのない若い男の声。

入室を許可すると、マキマの苦手とする顔に傷のある男と、まだ未成年であろう青年が入室してきて、思わず苦い顔をする。

 

「お前、俺の顔見るたびにその顔するの止めたらどうだ」

「岸辺さんは怖いから苦手です。 お弁当も受け取ってくれませんし」

「高齢者に差し掛かるオッサンにお前の弁当は重いし油っぽいんだよ。 もう少しヘルシーなら考えてやる」

 

おや、とマキマは今までのリップサービスとは違う返答に顔を上げた。

公安最強のデビルハンター、岸辺。

顔に傷のある初老の男性であり、マキマの正体を突き止め警戒を怠らない、現状では日本最後の砦……だが、このマキマは総理大臣と契約して日本国民の命をストックにしていないし自分勝手に支配の権能を振るってもいないので実は無駄な警戒であった。

 

「内容を見直したら受け取ってくれるんですか? 二言はないですよ?」

「二言はない。 というよりそんなに食わせたきゃこいつに食わせてやれ」

 

視線を向ければ、青みがかった黒髪を結った端正な顔付きの青年……ちょうど手元の資料で見ていた、配属待ちの新人。

 

「早川アキです。 銃の悪魔を殺したくて公安に入りました。 新設4課に配属を希望します」

「……渡りに船だけどいいのかな? 銃の悪魔討伐はまだ居場所の目処も立ってないし、見つけても討伐作戦にはかなりの実績が必要だよ。 つまりそれだけ危ない目にも合うし、その前に死ぬことだってもちろんある」

「……俺はあいつを殺せるなら死んでもいい、ですけど、その前に死ぬ気はありません。 強くなって実績も積むし、そのためなら何でもします」

 

この子は意外とすぐ死んじゃいそうだな、と勘が働くマキマは同時に、死なせないためには何をすればいいだろうとも考えた。

実際問題、銃の悪魔は既に死んでいるのだが……今の早川アキを支えている復讐心を折ってしまえば、きっと彼は2度と立てなくなるだろうとも。

 

「……俺が直々に鍛えた。 すぐ現場で通用するようにな」

 

ついと視線を向けると、まだ言うなというように岸辺は首を横に振った。

公安の一部で銃の悪魔の末路は共有されているマル秘案件なので、岸辺もまだアキに伝えるのは早いという判断なのだろう。

 

「そうですか。 では公安4課、通称「特異課」の初期メンバーとして早川アキくんを歓迎します」

「よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。 ところでアキくん」

 

「好物は何かな? 私は定食スタイルなら基本何でも好きなんだけど、最近は揚げ物にハマっててね、トンカツと唐揚げと海老フライをお弁当で持ってきてるんだけどよかったら食べてみない?」

 

「ゴキゲンな学生飯か」

 

何が何やらと混乱するアキ、おかず交換ができそうで満足そうなマキマ、許容量超えの油を想像して苦々しげな岸辺。

三者三様だが、どこか良い方向に転がりそうな雰囲気をそれぞれが感じていた。

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