ムクちゃんに幼馴染み生やせ   作:Switch2外れた

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第1話

 

 ガキの頃の話だ。仲良くなったばかりの女の子にグイグイ手を引かれて、気づけば薄暗い地下水道に。ギョッとして周囲を見渡せば、ボウ──と灯る妖しい光。浮かび上がるたくさんのヒトモシ。

 淡く紫がかった彼女の黒目が、炎に照らされ艶を帯びる。変化に乏しいその相好が崩れ、にへらと笑みを形どり──俺は泣いた。

 

 こいつ完全に憑りつかれてるわ。と。

 

 下手に霊感がある人間──とりわけ子供は、ゴーストポケモンの被害に遭いやすい。それゆえ彼女はゴーストに憑かれ、そして今俺を(いざな)ったのだろう。

 友情の縁を繋いだ共通点(霊感)は、今や一蓮托生命綱。ただし向こうから引く手数多。ガキ一人じゃ手に負えない。

 

 俺は泣いた。咽び泣き、泣き喚いて、泣きじゃくった。

 ぶっちゃけ俺を巻き込むんじゃねえよ一人で死んでろと思ったが、遺すには口汚い言葉だったので仕方なくなにか名言を口走ろうとして、嗚咽に邪魔をされ何も言えなかった。ままならない現実にまた涙した。

 

 わんわんぎゃあぎゃあさめざめ泣いて、泣き続けて──最終的に疲れて眠った。意識を引くその疲労感を、当時の俺は死とはこんな感覚かと誤解したものだ。

 

 結局のところ全部俺の早とちりである。

 

 彼女は霊に憑かれるどころか霊を使う側の──ゴーストポケモン使いとしての図抜けた才能に満ちていたし、俺をあの世に(いざな)ったのではなくお気に入りの隠れ場(スポット)(さそ)ってくれただけ。

 

 起床してそれを把握した後、俺たちの関係はますます深まった。なにせとんでもない無様を晒した──あるいは晒させられた?ややこしいな──相手である。尊厳と共に遠慮を無くした俺は、自らの失態を掻き消さんとその子に構いまくった。その日以降も。毎日毎日。

 

 結果として、俺たちの関係は友人から幼馴染に名を変えるぐらい長く続いている。その契機が間違いなくこの日にあったことを思えば、いい思い出だった。と、強がりも込みでそう締め括りたい。

 

 

 ……締め括りたい。締め括りたいが──そうもいかない。

 その日のトラウマは、やはり今でも、俺の心に暗い影を落とすことがある。

 

 具体的にはその幼馴染と喧嘩した時とか。

 

「……ムク」

 

 返事はない。ただの屍のようだ──と言うには、その瞳は冷たすぎた。

 

「……む、ムクちゃん。ムク……さん?」

 

 変わらずの無言と、凍てつく視線。もはや物理的に気温が下がってるんじゃないかと本気で疑うほど。

 ガラルのフリーザーかよ。なんて普段通りの軽口も、冷えて縺れた舌では紡げない。

 

「……ク、クソッ……ムク、様!何をそんなに怒ってらっしゃるんですかねえ!」

 

「……言わないとわからない?」

 

「わかんねえッ──いや、わかんないです。教えて欲しいなあ……」

 

 トラウマが落とす暗い影。言わずもがな、このクソ女に逆らえないこと。認めたくないが──なぜって怖いからだ。当時の誤解は払拭され、トレーナーとしての腕は客観的に見て並んでいる。膂力は──あのシローと同じ血筋だ。言及は避けるとして──ともかく、現在の俺たちは概ね対等と言っていいはずである。

 

 だが、あの目。というか、表情というか、雰囲気──てかつまり顔!怖い。もう飾らずに言うけど。

 長い付き合いだ。その些細な表情の変化も読み取れるようになったが、この場合それもマイナスに働く。いつもの無表情とブチギレ無表情が区別できてしまうのだ。それも兄妹ともども無駄に整った顔面で、これもまた怖さの一助である。

 

 それ故に平身低頭。怒られる心当たりがないなどと関係ない。俺は伏して──もちろん比喩。実際はベンチに座ってる──言葉を選んだ。

 

「いやぁ……親愛なる幼馴染たるロジくんとしてはですね。可愛い可愛いムク様の花のかんばせ、できればニッコリいつでも満開であって欲しいなあって思うんですけど……」

 

 媚びに媚びた言葉。人によってはむしろ神経を逆撫でする愚策に見えるだろうが、そこは幼馴染の経験がある。

 ムクはこれで可愛げのある人間だ。無表情で誤解されがちだが、こういう褒め殺しも有効な手段──

 

「──っていう、意図が透けて見える」

 

「……滅相もないっす」

 

 一言一句違わず思考を言い当てられてんのおかしいだろ。霊感が強いとそんなことも……いや、霊能力者も一種のサイキッカー。なら不思議ではない……のか?

 

「別に超能力じゃない。……はぁ。ロジ、昨日のカナリィの雑談配信は?」

 

「え、もちろん見たけど……」

 

 なんだかんだで緩む空気。やはり有効な手段のようだ。

 

「36分からカナリィは何の話をしてた?」

 

「36分?たしかZAロワイヤル、の──」

 

 言われて浮かび上がる心当たり。完全に虚を突かれ反応を隠せなかった。

 そして再び圧力を増す瞳は、それを見逃さなかったらしい。というより、一度空気を弛緩させたのも(わざ)とだったのだろう。マズい。マズすぎる。

 

「『マズい』って顔した。それで、心当たりは?言ってみろ」

 

「……」

 

 ほんの僅かに姿勢を変え、すぐさま立ち上がれるようにした。チラりと遠くを見る。太陽はほとんど沈んでいる。もうじき夜。()()()()()()

 もちろんエロい意味じゃなく、金とポイントを。ZAロワイヤルだ。呼び出されたこの公園は、今夜の開催地に含まれる。

 

「……自白するつもりなし。そう。()()()()

 

「俺はわかんないかも……」

 

「カナリィはこう言ってた。珍しくロワイヤルで負けた。それも、()()()()()()()()()()

 

 あまり知られていないが、ロワイヤルで獲得できる賞金コインは日を跨いで持ち越せる。普通ならリスクが高まるだけだからそんなことしないが、俺はちょっぴりグレーな戦法を使うので、運営に注目されないよう、コインの換金には人より手間を掛けている。

 それ故に、俺はロワイヤル開始時点で多くのコインを所持しているのだ。それをバトルで根こそぎ奪う、という制裁(おしおき)を、ムクはよくチラつかせていた。

 

 あくまで脅し。実行はしない。普段なら。

 だが今回はカナリィ関係──カナ友の端くれとして、ムクの愛情がどれだけ異常かは知っている。

 

 かなりキレてる。ダジャレとかじゃなく。ガチで。

 

「周りにトレーナーがいないのに、ポケモンがなぜかダメージを受け続けていく」

 

 太陽は、やはりほとんど沈んでいる。街灯が光を灯し、それでも拭えぬ剣呑さ──ロワイヤルの開催を待つトレーナーたちの闘志が、宙に満ちるようだった。

 

「回復の薬を使ってもなぜかムダ。遠隔攻撃かもって駆け回ってもトレーナーはいない。とうとう戦闘不能になったから、なにか病気かもってポケセンに急いだら──『交代の制限時間を超過した』って。()()に負けた判定になった」

 

「……のろい、だろうな」

 

 もちろん怪談話ではない。ゴーストタイプの技である。

 

「ゴースト使いでもなきゃ、わかんないのは仕方ないぜ。しかし完全に身を隠して判定勝ちなんて、信じらんねえ卑怯者もいたもんだ」

 

「カナリィを疑ったりしない。というか、あたしは一人、そういう卑怯者を知ってる」

 

 ムクはゆっくりと立ち上がった。応じて俺も腰を上げる。

 日は沈み切り、後はシステム上の夜が訪れるのを待つばかり。ZAロワイヤルの開始まで、既に秒読みだ。

 

「室内に籠って、安全地帯からのろいで削り勝つ。どくどくやサイコキネシスも混ぜてもいいかも。誰かさんが、得意げに言ってた」

 

 ダラダラ動画見てる時の発言だし、ワンチャン聞き逃してたりしないかと思ったが、流石にダメか。

 

「……同じ戦法の別人かもじゃん?」

 

「そんなやついる訳ない。……最初に聞いた時から、ちょっと卑怯すぎてどうかと思ってた」

 

 言ってネストボールを取り出せば、頭の上がらない幼馴染というだけではない。才あるトレーナーとしての、プレッシャーが重く圧し掛かる。

 

「鉄は熱いうちに打て。燃やしてボコして、叩き直す」

 

 シャンデラが降り立つ。互いのスマホロトムがロワイヤルの開始を告げた。

 

 恐怖で震える手を動かし、応じてボールを手に取った。

 負けない。今日こそは。幼馴染より配信者を優先する異常者に、常識が打ち勝つ日が来たのだ。

 

「へっ!この世には()の打ちどころがない人間もいるって教えてやんよぉ!」

 

「アンチ以外の人間は、普通燃やしたらダメ」

 

「アンチも物理的には燃やしたらダメだろ」

 

「……というか、まだ?」

 

 呆れた目線の示す先には、閉じたままのボール。簡単に克服できないからこそ、トラウマはトラウマなのだ。

 

「ま、まあ待てよ。夜は長いんだ。そう急ぐなって……」

 

「……ごー、よん、さん」

 

「なんッ……おいカウントやめろ!乱暴する気だろ!焼畑農業みたいに!」

 

「にー、いち」

 

 それでも人は戦わなければならない。生きるために。あと金のために。俺は大声で自分を鼓舞し、無理矢理ボールを放り投げた。

 

「ぐッう、おおおッ!俺を守れジュペッタァ!」

 

「ぜろ」





 続きは未定、かつ続いた場合でも順当に行けば長くても5話くらいで完結する予定。
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