白百合ランカは探求したい   作:Another2

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三人羽織

『敗北』と聞いて皆は何を思い浮かべるだろうか?

 

ある者はそれは『結果』と言い。

ある者はそれを『後悔』と言い。

ある者はそれを『屈服』と言い。

ある者はそれを『挫折』と言い。

ある者はそれを『恥』と呼んだ。

 

──私は『敗北』とは『糧』であると定義した。

著:エーデルワイズ


 

 あれは私がトリニティに入学して半年程経った辺りの休日早朝……

 特に予定を入れていなかったのもあって私は最早日課と化していた古書館に待つ子達と『対話』しに向かっていた。

 寮から古書館への道は何度も通ったので完全に暗記している、それだけじゃない、既にトリニティの地図は大凡頭に入っている。

 自慢じゃないけれど私は記憶力が良い方だと自負している、流石に何処ぞのセミナー書記のような記憶能力は持ち合わせてはいないのだけど、それでも周辺の地理は完全に頭に入っていた。

 

 ──だからこそ、だろう。

 通り道にあるはずのない地下への通路の存在に、私の視線は釘付けになったのは、仕方のない事だった。

 とは言え私に焦りは無く、また特に興味を惹かれるような事柄も無い、普通ならこの場合、まだ見ぬお宝や遺物の類を想像するのだろうが此処はトリニティである、こういった秘密通路は案外多いのだ。

 だから、私はこれもその一環だと思った。

 

 しかしこの半年間一度も開いている所を見たことがない通路が突如存在したというのは、私の地図記録(マッピング)に穴があった事を意味する、それがほんの少し、本当にちょっぴりだけ、腹が立った。

 だからこの先に何があるのか、『記録』する為に私はまるで吸い込まれる様にその通路へと足を運んだ。

 

 その通路を『奇妙』だと思ったのはすぐだった。

 繰り返すが時間は早朝、太陽が顔を出して辺りは既に明るい、だから多少暗い場所であったとしても外の光が差し込む筈なのだ。

 だけどもこの通路と来たらほんの『数m』進んだだけで光が届かなくなり周囲は暗闇に包まれた。

 私は、自分の体内時計の正確さにも自信がある、既に10分以上歩かされている、即ち私はこの時点でこのクソッタレな通路に数十分も浪費しておりその分のあの子達との『対話』の時間も擦り減って行っている事に憤慨した。

 

──過去のティーパーティーが放棄した脱出口?或いはシスターフッド?それともアリウス?なんにせよ益々この先に何があるのか気になってくるわね。

 

「───」

 

 更に進んだ際にふと声が聴こえてきた、男の声だ。

 

「───」

 

「───」

 

 更にもう二つの声……変わらず男の声、合計三人、最初に聴こえた声がやや厳格、次に聴こえたのが物腰柔らかな声──確か紳士口調とか言うやつ、最後の物は相槌を打つ様な声。

 

──密会?珍しい事でも無いか、幾ら三大校と言っても光の届かない陰の部分では後ろめたい事は平然と行われるのだから、だとしたら少し──期待外れね。

 

 この時は本当にそう思った、幾ら三大校とは言え、ティーパーティーのお膝元、正義実現委員会が目を光らせているとは言えこの様な事は珍しい事では無い、いや寧ろ目が届かないからこそ『こういった場所』は重宝されるのだ。

 元来から『重要』『取引』『会話』とは誰の目にも止まらない場所にて行われる物なのだ。

 

 先程期待外れと、そう評したがそれでもこの時私が踵を返さなかった訳は自分の中に存在していたほんの少しの、本当に取るに足らないプライドの為だった。

 

『こんな下らない事に私の時間を使わせやがって』

 

 言葉にするなら正しくこんな気持ちで溢れ返っていた、だからこそ埋め合わせる為にもせめて声の主が誰なのかだけでも突き止めなくてはならなかった、当時の私は──浅はかにもそう思った。

 

 一歩、また一歩と歩みを進めるその度に声が段々大きくなっていく、即ち声の主に近づいている、私は逸る気持ちを抑えながら気配を殺し道を進んだ。

 『奇妙』だったのは声の主に近づく度に発汗量が多くなっていった事……季節としては秋で尚且つ地下通路な事もあり冷えている──なんなら少し寒い位が正常なのだ、だがこの時はまるで炎天下の昼の外にいるかの様な汗の量、しかし冷たい汗だった。

 冷たい汗は元々精神的な不安や緊張からくる物とされている、不安や緊張……即ち『恐怖』つまり私はこの先の人物に対して恐怖心を抱きつつあったのだ。

 ──今思い返せばあれは逸る気持ちを抑えたというよりは湧き上がる『恐怖』を押し殺していたのだ。

 

 そして、今一歩踏み込んだ所で『ソレ』が居た。

 

 人影は『一つ』、妙な事に()()()は暗闇の中でもはっきりとした輪郭を目視出来た、今でも信じられないが、これは歴とした『事実』だ、()()()には生物にとって必要不可欠な『頭部』が存在していなかった。

 そして机……らしき物には『額縁』が二つ。

 

──首が……⁉︎まさかスリーピーホロウ⁉︎それにあの額縁の中身は……‼︎

 

 私はその額縁の中身を確かめる為にもう一歩、()()()()()とした。

 この踏み込もうとした、というのはつまりその直前で止められたからだ、つまり私は()()()()()()()()

 

「そのまま帰った方が良い……()()()()()()、そこから一歩でも踏み込めば、お前は死ぬ事になる」

 

──ッ⁉︎

 

 心臓を握られたんじゃないかと錯覚した、最初に聴いた厳格な男の声、それが私を引き留めたのだ。

 いやそれよりも、私が真に『恐怖』したのはその声の出所だ、なんと『額縁』の方から声がしたのだ、左右どちらから声がしたのかはどうでもいい、とにかく『額縁』だ、『額縁』から声がしたのだ。

 

「おや、迷い人ですか……お嬢さん、我が身を案じるならば来た道を戻られると良いでしょう」

 

 もう一つの、声──しかも二つ目に聴こえた紳士口調な声の主もまた『額縁』から聴こえたのだ‼︎

 

「そういうこったぁ‼︎」

 

 そして最後に相槌を打つ声、それこそが唯一身体らしい身体を持つ『頭部の無い人間』から聴こえた物。

 その声が響いた瞬間額縁は消えていた、何方が消えたのかまではわからない。

 だが私はその忠告を聞き入れ脇目も降らず来た道を戻った、あのままあの場に居たなら確実に死んでいたという確信があったからだ。

 

 そして入り口に戻った私は呼吸を整え、精神を無理矢理落ち着かせた。

 『敗北』の二文字が脳に過る、いや実際に私は敗北したのだ、肉体的という意味ではなく精神的に、あの時私は『恐怖』に屈した、私の魂が、精神が『敗北』を認めたのだ、だからあの場から逃走を選んだのだ。

 命を拾ったと言えば聞こえは良い、だが実際は見逃されただけに過ぎない、取るに足らない存在であると評されただけなのだ。

 

 だが、それだけで事は終わらなかった、私は一旦落ち着かせる為に腕時計で時間を確認しようとした。

 既に20分近く経過していると認識していた私はその針が刻んでいる時を見て目を疑った、なんと針が僅かにしか動いていないのだ、本の1、2分程の動きしか刻んでいなかった。

 念の為に携帯端末の時間を見ても同じ結果だった、しかし私は──間違いなく20分近くあの通路に、確かに居たのだ。

 瞬間湧き上がってきたのはそれまで自身を包んでいた『恐怖』『敗北』を打ち消す程の『未知』への『探究心』

 結果からしてあの場所は時間が少し歪んでいる物と推測した。

 あの男はあの場で『ナニカ』『観測』していたのだろうと今なら推察は立てられる。

 

──この『敗北』は、自らに刻む『戒め』であり何れ乗り越え成長する為の『糧』だ。

 

 それが私の起源(ルーツ)……そこから私は『未知』を探求し始めた、キヴォトスにはミステリーゾーンやパワースポットが各地に点在して居るというのは知っていたから、行動に起こさなかったのは当時の私は眉唾物として受け入れなかっただけ。

 しかし、私はもう『体験』してしまった、あの現象、あの男の正体、そしてキヴォトス各地に在るであろう私の『未知』

 それらを『探求』する為にも私は古書館に向かい『対話』を行うのだった。




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