桃色の軌跡   作:逆襲

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大王凱旋

(といっても、どうやってあいつの口元まで行くか、だが...)

 

カスミは頭を悩ませた。巨大なアイスドラゴンの口まで地面から10mはくだらないだろう。

 

周りを見渡す。

その時、地面にささった巨大なつららが視界に入った。

 

---カスミに電流走る---

 

「皆!一旦集合だ!あいつの敵視を取っている者はそのまま攻撃を続行!」

 

「呼んだ?」「なになに?」「作戦会議?」

 

散らばっていた部員たちが次々と集まってくる。

 

カスミは短く息を吸い、軽く拳を握った。

 

「手短に説明する! まず——」

 

彼女が作戦の概要を告げていくと、部員たちの顔に再び闘志が灯っていった。

 

-----------------

 

≪ぐわあっ!?≫

 

ヒナの放った弾丸がダークマターを撃ち抜き、黒い霧となって弾け散る。

 

「——次はあなた」

 

銃口が別の標的へ向けられる。

 

≪なんなんだこの女の強さは!?クソッ、これでも喰らえッ!!≫

 

ダークマターの目がギラつき、黒い稲妻のような光が迸る。

一瞬後、それはレーザーのように一直線にヒナへ射出された。

 

だがヒナは、ほんのわずか体をひねるだけでそれを回避した。

 

引き金を指で軽くなぞる。

 

≪ば、ばかなッ……ぎゃああッ!!≫

 

黒い球体が弾け飛び、空中へ霧散して消える。

 

(……やっぱり大半は雑兵ね。手応えがなさすぎる)

 

黒い靄の中、銃口がゆっくりと次の敵へ向けられる。

そして無慈悲な弾丸がダークマター達を襲う。

 

-----------------------------

 

「―という感じだ!」

 

「なるほど!」「部長やっぱ頭キレてる!」「これならいけるよ!」

 

「褒めるのは成功してからにしろ!全員、配置に付け! 敵視を取っている部員達にも伝達を!」

 

「「「了解!!」」」

 

「おい、俺様はどうする?」

 

その説明を聞いていたデデデがカスミに聞く。

 

「そうだな...キミはあの岩影へ...」

 

 

 

こうして反撃の段取りが一気に動き始めた。

 

 

 

「メグさん!こっちへ!」

 

「了解!!」

 

メグは全力で駆け、地面に刺さっていた巨大なつららの上に飛び乗る。

そして火炎放射器を構えた。

 

つららの根元では、複数の部員が根元へダイナマイトを手際よく並べていく。

 

 

 

「今そっち行くよ!!」

 

アイスドラゴンの敵視を取っていた部員が、凍った地面を滑りながらこちらへ帰投する。

 

 

 

「——起爆まで3、2、1……今っ!!」

 

スイッチが押された瞬間、爆音が洞窟に轟いた。

爆風がつららを真上へ弾き飛ばし、メグごと空へ高く打ち上げた。

 

 

 

「角度は完璧!!」

 

メグは射角を確保し、火炎放射器の噴射口をアイスドラゴンの口へ向けて構える――

 

だが。

 

 

 

アイスドラゴンは素早く異変に反応し、開いていた大口を閉じようとする。

このままでは攻撃が通らない。

 

炎はもう噴射寸前──だが口が閉じきれば、二度とこのようなチャンスはやってこないだろう。迷う時間は一秒も無い。誰かの一手がなければ終わる――そんな空気が全員の背筋を締めあげた。

 

 

 

 

だが……

 

「デデデ!今だ!」

 

カスミの声が洞窟内に響く。

 

「そう来ると思ったぜ!!」

 

大きな影が岩陰から飛び出した。

洞窟入口を叩き割った時とはまるで違う、腰を落とし全身を溜めた投擲姿勢。

 

 

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

筋肉がうなり、氷床を踏み砕く勢いで腕が振り抜かれる。

 

「ばくれつッ! デデデハンマーなげぇぇ!!」

 

その場で何回転もした後、デデデの手からハンマーが放たれた。

ハンマーは高速回転しながら空を裂き、アイスドラゴンの無防備な腹部へ――

 

 

着弾と同時に大爆発を起こす。炎と衝撃波が外皮を弾き返しながらも内部へ振動を通す。

 

 

 

「外からじゃ効かねぇのは知ってる! だがよ――中身は震えるだろ!!」

 

 

苦悶の咆哮が洞窟全体を震わせる。

アイスドラゴンは痛みに耐えきれず、大きく口を開けた。

 

そこへ──火炎放射器を構えたメグが近づいていく。

 

「喰らえぇぇぇッ!!」

 

噴き出した炎がアイスドラゴンの口腔へと激しく注ぎ込まれる。

肉の焼ける臭いと蒸気が立ちこめ、猛獣の表情が苦痛に歪んでいく。

 

アイスドラゴンは反射的に口を閉じようともがくが、激しすぎる熱に顎が痙攣し閉じきれない。つららを生成してメグを迎撃しようとするが──

 

「皆! メグに一発も届かせるな!!生成する前に砕け!!」

 

「「「了解!!!」」」

 

次々現れる小さなつららへ、部員たちの銃弾が集中砲火。

一本も完成させぬまま粉砕されていく。

 

アイスドラゴンの体が限界を迎えたように内部から膨張していく。

炎を飲み込みすぎた冷気の巨体は、もはや抑えが効かない。

 

──そして。

 

まばゆい光が迸り、

凍てつく巨躯は内部から爆ぜた。

 

氷片と白い蒸気が大きな波のように吹き荒れ、火口全体へ雪崩のように広がっていく。

 

---------------------

 

≪そ、そんな馬鹿なっ…!? アイスドラゴンがやられた!?≫

 

「余所見してて大丈夫なの?」

 

下の光景に気を取られていたダークマターに銃弾が容赦なく突き刺さる。

 

≪ぐあっ…!≫

 

黒い身体は一瞬で霧となって掻き消える。

 

(下は終わったみたいね)

 

「さぁ、あなたで最後よ」

 

残ったダークマターへ銃口を向ける。

 

≪くっ…舐めやがって…!こうなったら!!≫

 

ダークマターは急降下し、白い煙の中へ姿を消した。

 

「待ちなさい!」

 

ヒナも追って飛び込む。

 

 

 

 

 

≪あいつの身体を…再び乗っ取ってやる…!≫

 

白煙の中、一直線にデデデへ向かうダークマター。

あと一歩で届く、その瞬間。

 

 

 

 

≪ぐあっ!?≫

 

白煙を切り裂きハンマーが上から叩きつけられた。

 

≪な、なぜ俺のいる位置が…分かった…≫

 

 

「ケッ、どうせお前たちの事だ。俺様を操ろうなんて思ってたんだろ? 流石に四度目ともなればバレバレなんだよ。」

 

 

≪ば…か……な…………≫

 

 

 

かすれた声を残し、ダークマターは霧となって消え失せた。

 

 

 

そこへヒナが降り立った。

 

「ごめんなさい。そちらに一体だけ逃がしてしまった。」

 

「気にするな、こいつらにとどめをさせたと思えれば…ん?」

 

デデデがそう言いかけた瞬間、地面が大きく揺れた。

グラグラと揺れ幅はどんどん強くなっていく。

 

 

 

「なんだ?地震か?」「地震にしてはなんか真下で起きてる感じがすごいね。」

 

 

 

温泉開発部の部員達が話し合う。

 

 

 

「もしかして…寒波の原因を倒したお陰で火山が本来の活動を取り戻した、とか…?」

 

ヒナがそう言った途端、嫌な予感が全員の背中を走る。

 

 

 

 

次の瞬間、バキッと地面の氷に亀裂が入り、赤い溶岩が隙間から噴き出した。

 

「部長!!床から氷を割って溶岩があふれ出してきたよ!!」

 

「見ればわかる!ぜ、全員!!さっきの洞窟へ戻るんだ!!」

 

一行は一気に駆けだした。

 

 

背後から響く轟音、そして赤く煮えたぎる溶岩が、怒り狂った蛇のようにうねりながら迫ってくる。

 

「ひぃぃぃぃ!追ってきてる追ってきてる追ってきてる!!」

 

「振り返るな!死にたくなきゃ走るんだ!!」

 

背中を焼くような熱気が近づき、足がもつれそうになる。

それでも洞窟の入口が見えた瞬間、全員の足に一気に力がこもった。

 

「跳べぇっ!!」

 

デデデの叫びと同時に全員が入口へ飛び込む。

次の瞬間、激しい揺れによって崩れ落ちた岩や土砂が、まるで溶岩を遮断するかのように入口を塞いだ。

 

「……あ、危なかった……」

 

「ま、まじで死ぬかと思ったぞ……」

 

デデデが冷や汗を拭って体勢を立て直す。

 

「あと1秒遅かったら全員丸焼きだったわね。」

 

洞窟内には荒い呼吸だけがしばらく響いた。

 

「だが、まだ安心するのは早い!落石で生き埋めになる可能性はある!外に出るまでは警戒を怠るな!」

 

「「「了解!!」」」

 

 

 

 

デデデは荒い息を整えながら、ぼそっと漏らした。

 

「なんでこいつら、あの激闘のあとにこんな元気なんだ……?」

 

横でヒナが肩をすくめる。

 

「温泉が掘れるって思ってるからじゃない?」

 

「なるほどな……欲望ってのは強ぇわ……」

 

くだらないやり取りを交わしつつも、一行は慎重に進み続ける。

そしてついに、洞窟の出口へと辿り着いた。

 

 

 

 

まぶしい光の中へ踏み出した瞬間、広がった景色は――白銀でも極寒でもなかった。

緑が生い茂り、花々が揺れ、遠くで鳥が鳴いている。

見慣れた、いつものゲヘナの山だった。

 

 

「……戻ったのね。」

 

 

吹きつける風は優しく、もう凍える冷たさはない。

全員の体から一気に力が抜け、深く、安堵の息がこぼれた。

 

 

「やったーー!!」「戻ったぞーー!!」

 

 

温泉開発部の部員たちは歓喜の雄叫びを上げる。

 

「ハーーハッハッハ!よーし!!早速温泉開発に取りかかるぞ! 皆、ついてこ――」

 

勢いよく叫んだカスミの肩に、すっと誰かの手が置かれた。

振り向くとヒナが笑顔を浮かべている――が、目は笑っていない。

 

「協力してくれたことには感謝してる。本当に助かったわ。でもそれとこれとは別の話。また問題行動を起こすつもりなら……分かってるわよね?」

 

「ひっ、ひぃぃっ!!」

 

ヒナに背筋を凍らされて縮こまるカスミ。

そんな光景を余所に、山を包む風は穏やかに吹き続ける。

 

ゲヘナには――いつもの日常が戻っていた。

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