(といっても、どうやってあいつの口元まで行くか、だが...)
カスミは頭を悩ませた。巨大なアイスドラゴンの口まで地面から10mはくだらないだろう。
周りを見渡す。
その時、地面にささった巨大なつららが視界に入った。
---カスミに電流走る---
「皆!一旦集合だ!あいつの敵視を取っている者はそのまま攻撃を続行!」
「呼んだ?」「なになに?」「作戦会議?」
散らばっていた部員たちが次々と集まってくる。
カスミは短く息を吸い、軽く拳を握った。
「手短に説明する! まず——」
彼女が作戦の概要を告げていくと、部員たちの顔に再び闘志が灯っていった。
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≪ぐわあっ!?≫
ヒナの放った弾丸がダークマターを撃ち抜き、黒い霧となって弾け散る。
「——次はあなた」
銃口が別の標的へ向けられる。
≪なんなんだこの女の強さは!?クソッ、これでも喰らえッ!!≫
ダークマターの目がギラつき、黒い稲妻のような光が迸る。
一瞬後、それはレーザーのように一直線にヒナへ射出された。
だがヒナは、ほんのわずか体をひねるだけでそれを回避した。
引き金を指で軽くなぞる。
≪ば、ばかなッ……ぎゃああッ!!≫
黒い球体が弾け飛び、空中へ霧散して消える。
(……やっぱり大半は雑兵ね。手応えがなさすぎる)
黒い靄の中、銃口がゆっくりと次の敵へ向けられる。
そして無慈悲な弾丸がダークマター達を襲う。
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「―という感じだ!」
「なるほど!」「部長やっぱ頭キレてる!」「これならいけるよ!」
「褒めるのは成功してからにしろ!全員、配置に付け! 敵視を取っている部員達にも伝達を!」
「「「了解!!」」」
「おい、俺様はどうする?」
その説明を聞いていたデデデがカスミに聞く。
「そうだな...キミはあの岩影へ...」
こうして反撃の段取りが一気に動き始めた。
「メグさん!こっちへ!」
「了解!!」
メグは全力で駆け、地面に刺さっていた巨大なつららの上に飛び乗る。
そして火炎放射器を構えた。
つららの根元では、複数の部員が根元へダイナマイトを手際よく並べていく。
「今そっち行くよ!!」
アイスドラゴンの敵視を取っていた部員が、凍った地面を滑りながらこちらへ帰投する。
「——起爆まで3、2、1……今っ!!」
スイッチが押された瞬間、爆音が洞窟に轟いた。
爆風がつららを真上へ弾き飛ばし、メグごと空へ高く打ち上げた。
「角度は完璧!!」
メグは射角を確保し、火炎放射器の噴射口をアイスドラゴンの口へ向けて構える――
だが。
アイスドラゴンは素早く異変に反応し、開いていた大口を閉じようとする。
このままでは攻撃が通らない。
炎はもう噴射寸前──だが口が閉じきれば、二度とこのようなチャンスはやってこないだろう。迷う時間は一秒も無い。誰かの一手がなければ終わる――そんな空気が全員の背筋を締めあげた。
だが……
「デデデ!今だ!」
カスミの声が洞窟内に響く。
「そう来ると思ったぜ!!」
大きな影が岩陰から飛び出した。
洞窟入口を叩き割った時とはまるで違う、腰を落とし全身を溜めた投擲姿勢。
「うおおおおおおおっ!!」
筋肉がうなり、氷床を踏み砕く勢いで腕が振り抜かれる。
「ばくれつッ! デデデハンマーなげぇぇ!!」
その場で何回転もした後、デデデの手からハンマーが放たれた。
ハンマーは高速回転しながら空を裂き、アイスドラゴンの無防備な腹部へ――
着弾と同時に大爆発を起こす。炎と衝撃波が外皮を弾き返しながらも内部へ振動を通す。
「外からじゃ効かねぇのは知ってる! だがよ――中身は震えるだろ!!」
苦悶の咆哮が洞窟全体を震わせる。
アイスドラゴンは痛みに耐えきれず、大きく口を開けた。
そこへ──火炎放射器を構えたメグが近づいていく。
「喰らえぇぇぇッ!!」
噴き出した炎がアイスドラゴンの口腔へと激しく注ぎ込まれる。
肉の焼ける臭いと蒸気が立ちこめ、猛獣の表情が苦痛に歪んでいく。
アイスドラゴンは反射的に口を閉じようともがくが、激しすぎる熱に顎が痙攣し閉じきれない。つららを生成してメグを迎撃しようとするが──
「皆! メグに一発も届かせるな!!生成する前に砕け!!」
「「「了解!!!」」」
次々現れる小さなつららへ、部員たちの銃弾が集中砲火。
一本も完成させぬまま粉砕されていく。
アイスドラゴンの体が限界を迎えたように内部から膨張していく。
炎を飲み込みすぎた冷気の巨体は、もはや抑えが効かない。
──そして。
まばゆい光が迸り、
凍てつく巨躯は内部から爆ぜた。
氷片と白い蒸気が大きな波のように吹き荒れ、火口全体へ雪崩のように広がっていく。
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≪そ、そんな馬鹿なっ…!? アイスドラゴンがやられた!?≫
「余所見してて大丈夫なの?」
下の光景に気を取られていたダークマターに銃弾が容赦なく突き刺さる。
≪ぐあっ…!≫
黒い身体は一瞬で霧となって掻き消える。
(下は終わったみたいね)
「さぁ、あなたで最後よ」
残ったダークマターへ銃口を向ける。
≪くっ…舐めやがって…!こうなったら!!≫
ダークマターは急降下し、白い煙の中へ姿を消した。
「待ちなさい!」
ヒナも追って飛び込む。
≪あいつの身体を…再び乗っ取ってやる…!≫
白煙の中、一直線にデデデへ向かうダークマター。
あと一歩で届く、その瞬間。
≪ぐあっ!?≫
白煙を切り裂きハンマーが上から叩きつけられた。
≪な、なぜ俺のいる位置が…分かった…≫
「ケッ、どうせお前たちの事だ。俺様を操ろうなんて思ってたんだろ? 流石に四度目ともなればバレバレなんだよ。」
≪ば…か……な…………≫
かすれた声を残し、ダークマターは霧となって消え失せた。
そこへヒナが降り立った。
「ごめんなさい。そちらに一体だけ逃がしてしまった。」
「気にするな、こいつらにとどめをさせたと思えれば…ん?」
デデデがそう言いかけた瞬間、地面が大きく揺れた。
グラグラと揺れ幅はどんどん強くなっていく。
「なんだ?地震か?」「地震にしてはなんか真下で起きてる感じがすごいね。」
温泉開発部の部員達が話し合う。
「もしかして…寒波の原因を倒したお陰で火山が本来の活動を取り戻した、とか…?」
ヒナがそう言った途端、嫌な予感が全員の背中を走る。
次の瞬間、バキッと地面の氷に亀裂が入り、赤い溶岩が隙間から噴き出した。
「部長!!床から氷を割って溶岩があふれ出してきたよ!!」
「見ればわかる!ぜ、全員!!さっきの洞窟へ戻るんだ!!」
一行は一気に駆けだした。
背後から響く轟音、そして赤く煮えたぎる溶岩が、怒り狂った蛇のようにうねりながら迫ってくる。
「ひぃぃぃぃ!追ってきてる追ってきてる追ってきてる!!」
「振り返るな!死にたくなきゃ走るんだ!!」
背中を焼くような熱気が近づき、足がもつれそうになる。
それでも洞窟の入口が見えた瞬間、全員の足に一気に力がこもった。
「跳べぇっ!!」
デデデの叫びと同時に全員が入口へ飛び込む。
次の瞬間、激しい揺れによって崩れ落ちた岩や土砂が、まるで溶岩を遮断するかのように入口を塞いだ。
「……あ、危なかった……」
「ま、まじで死ぬかと思ったぞ……」
デデデが冷や汗を拭って体勢を立て直す。
「あと1秒遅かったら全員丸焼きだったわね。」
洞窟内には荒い呼吸だけがしばらく響いた。
「だが、まだ安心するのは早い!落石で生き埋めになる可能性はある!外に出るまでは警戒を怠るな!」
「「「了解!!」」」
デデデは荒い息を整えながら、ぼそっと漏らした。
「なんでこいつら、あの激闘のあとにこんな元気なんだ……?」
横でヒナが肩をすくめる。
「温泉が掘れるって思ってるからじゃない?」
「なるほどな……欲望ってのは強ぇわ……」
くだらないやり取りを交わしつつも、一行は慎重に進み続ける。
そしてついに、洞窟の出口へと辿り着いた。
まぶしい光の中へ踏み出した瞬間、広がった景色は――白銀でも極寒でもなかった。
緑が生い茂り、花々が揺れ、遠くで鳥が鳴いている。
見慣れた、いつものゲヘナの山だった。
「……戻ったのね。」
吹きつける風は優しく、もう凍える冷たさはない。
全員の体から一気に力が抜け、深く、安堵の息がこぼれた。
「やったーー!!」「戻ったぞーー!!」
温泉開発部の部員たちは歓喜の雄叫びを上げる。
「ハーーハッハッハ!よーし!!早速温泉開発に取りかかるぞ! 皆、ついてこ――」
勢いよく叫んだカスミの肩に、すっと誰かの手が置かれた。
振り向くとヒナが笑顔を浮かべている――が、目は笑っていない。
「協力してくれたことには感謝してる。本当に助かったわ。でもそれとこれとは別の話。また問題行動を起こすつもりなら……分かってるわよね?」
「ひっ、ひぃぃっ!!」
ヒナに背筋を凍らされて縮こまるカスミ。
そんな光景を余所に、山を包む風は穏やかに吹き続ける。
ゲヘナには――いつもの日常が戻っていた。