桃色の軌跡   作:逆襲

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ゲヘナてんてこまい

風紀委員会の委員会室のドアが開かれた。

 

部屋の中では、ヒナの代わりに書類仕事を進めていたアコ達が顔を上げる。

 

「お疲れ様、今戻ったわ。」

 

「あ、ヒナ委員長! お疲れ様です!」

 

「委員長おつかれ〜」

 

「ヒナ委員長、お疲れ様です。」

 

部屋の空気はいつも通り。全員それぞれの自然な口調で返す。

 

「そういえばヒナ委員長、一時間ほど前に雪が突然溶けた件で、万魔殿から――」

 

アコが書類を手に近づきながら説明しようとした、その時だった。

 

 

ヒナの後ろに立つ“誰か”の存在に、違和感が胸を刺す。

 

 

 

 

ふわりと揺れる白い髪、黒く鋭い羽――

 

……そしてその奥に、青い肌、巨大な体躯、黄色い唇。

 

 

「ヒ、ヒナ委員長? そ、その方は……?」

 

 

思わず声が上ずるアコ。

ヒナは軽く息を吐き、肩をすくめた。

 

「はぁ……それを今から説明するところよ。」

 

 

 

青い巨体を見て一番早く見覚えを思い出したのは、現地にいたイオリだった。

 

「……待って委員長。そいつ、今朝の騒動にいたヤツだよね?」

 

イオリの視線は警戒そのもの。手も半分武器に伸びかけている。

 

 

ヒナは手のひらを軽く上げ、みんなを落ち着かせた。

 

「安心して。敵じゃないわ。むしろ――今回の寒波の件を収めるのに協力してもらったの。」

 

「えっ!?」

 

 

「自己紹介が遅れてすまんな。ワシはプププランドの大王、デデデ大王である!」

 

デデデはカッコつけて鼻を鳴らした。

 

 

だが、ヒナを除いた他の3人は茫然としていた。

 

「はぁ……まぁそこの所も説明するから皆座って。」

 

 

 

 

 

「――で、そういうわけで彼がここに来たのよ。」

 

事情を話し終えると、三人はまだ頭に情報を詰め込めていない顔で固まっていた。

 

「えっと……つまりデデデさんは他の星からやってきて……」

 

「色々あって温泉開発部と委員長と協力して……」

 

「原因を倒した……で、合ってます?」

 

「そう。」

 

デデデがヒナにこそこそと耳打ちをする。

 

「なぁ……この説明、もう何回目だ?」

 

「数えてないから知らないわ。……というか、あなたが話をややこしくしている原因の半分を占めているって事、まだ気が付かないの?」

 

「え? ワシがか?」

 

 

二人が前を向くと頭を抱えていた三人がどうにか理解したようだった。

 

「だ…大体理解はできました。では、どうしてデデデさんはこちらにいらっしゃったのでしょうか?」

 

チナツが顔を上げて質問をする。

 

「あぁ、その話だったな!」

 

デデデは腕を組みながらうなずいた。

 

「ワシの星で、空に奇妙な裂け目が現れてな。仲間たちと調査しようと近づいたら…気づいたらここに飛ばされていたんだ。だが、どうやら仲間とはぐれてしまったようでな……そこで嬢ちゃんに、仲間探しを手伝ってほしいと頼んだってわけだ。」

 

ヒナがそれに続けて説明する。

 

「今回の雪騒動については、表向きには“温泉開発部が勝手にやらかした”ってことにしてあるわ。でもデデデ大王に助けられたのは事実。だから――風紀委員会として、仲間探しを手伝うことにしたの。」

 

「は、はぁ……」

 

アコたちはまだ飲み込みきれない様子だったが、とりあえず理解はしているようだ。

ヒナが話を次へ進める。

 

「じゃあ、その仲間の特徴を教えてもらえる?」

 

「任せろ! ……っても、口で説明するより絵で描いた方が早いな。紙とペンはあるか?」

 

「あっ、はい。こちらに。」

 

チナツがメモ帳とペンを差し出す。

デデデは豪快に受け取り、勢いよく描き始めた。

 

「よし、まず一人目は――」

 

描けば描くほど、アコ・チナツ・イオリの表情はだんだんと険しくなっていく。

ピンクの丸、剣持ちの仮面、バンダナを付けたオレンジの丸、浮いている青い服の丸……三人にはあまりにも情報がカオスだった。

 

それでも三人は気力で最後まで聞き終えた。

 

「と、まぁこんな感じだ。」

 

ヒナは軽くため息をつきつつ指示を出す。

 

「じゃあこの四人を見かけたら、すぐ私に報告。風紀委員のみんなにも共有しておいて。」

 

「は、はい。承知しました……」

 

委員会室には、得体の知れない新しい任務と、それを背負わされた風紀委員たちの静かな困惑が漂っていた。

 

 

 

「さてと……次は万魔殿に説明しないと……はぁ」

 

ヒナは頭を押さえながら深いため息をついた。

 

 

そのタイミングで、扉をノックする音が響く。

 

「失礼しま~す、いつものチェックに来ました~」

「失礼します!!!」

 

勢いよくドアが開き、現れたのは万魔殿のイロハとイブキ。

 

「おや、来客中でしたか――」

 

イロハの言葉が、ヒナの横に座るデデデを見た瞬間に止まった。

 

 

 

「わー!おっきな人!!」

 

イブキは一瞬の躊躇すらなくデデデへ駆け寄る。

 

 

「はじめまして! 万魔殿所属の、イブキです!」

 

「おぉ、丁寧にどうも。ワシはプププランドの王、デデデ大王だ。」

 

その名乗りにイブキの目がさらに輝いた。

 

 

「えー!王様!?本当に!?すごい!!」

 

「ガッハッハ!嬢ちゃん見る目があるじゃないか。よかったらワシの国の話でも聞くか?」

 

「聞く聞く!!」

 

イブキはデデデの横にぴたりと座り、期待いっぱいで身を乗り出す。

 

 

 

 

その様子を見ながら、イロハは小声でヒナに尋ねた。

 

「あ、あれは……なんですか風紀委員長……」

 

「先ほど彼がイブキに言った通りよ。訳あって彼はしばらくゲヘナに滞在するわ。」

 

「は、はぁ……」

 

納得したのか諦めたのか判断に困る返事を残し、イロハはそっと視線を戻した。

 

 

その後――

 

イブキはキラキラした目でデデデの国の話を延々と聞き続け、

デデデはまるで自分のファンに囲まれた王様のように得意満面で語り続けた。

 

そして――

隅で静かに同席していたアコとイオリは、完全にキャパを超えて頭を抱えていた。

 

 

 

 

二時間後──

 

「おい!イロハとイブキをどこにやった!!」

 

委員会室のドアが勢いよく開き、マコトが飛び込んできた。

その視線がデデデの姿を捉えた瞬間、動きが止まる。

 

「……は?」

 

「あ!マコト先輩だ!」

 

デデデの話を聞いていたイブキが元気よく手を振る。

 

「デデデさんのお話を聞いてたんだ!デデデさんってすごいんだよ!!」

 

満面の笑顔で説明され、マコトの停止がようやく解除される。

 

「そ、そうかぁ~イブキが楽しそうで何よりだ。だ、だがそろそろ下校の時間だぞ~?」

 

口調こそ穏やかだが、マコトの目は状況を読みきれていない混乱に満ちていた。

そこでヒナが立ち上がり、話を切り出す。

 

「マコト。話す順番は逆になってしまったけど、諸事情あって彼――デデデ大王はしばらくゲヘナに滞在することになったわ。」

 

「…………な、何だと!?」

「えええーー!!」

 

イブキとマコトが同時に叫ぶ。

 

 

マコトはデデデを見て小さくつぶやいた。

 

(こ、こんな得体の知れない生物を我がゲヘナ学園に置いておくなんて許可できん!)

 

 

 

否定を言いだそうとした瞬間、ふと横を見るとイブキが喜んでいた。

 

「やったー!!明日もお話聞ける!!」

 

その姿を見た瞬間、マコトの考えは音もなく折れた。

 

「キキッ……構わん!寮に来客用の個室があるからそこを使うと良い!」

 

勢いのまま宣言すると、マコトはイブキとイロハを引き連れて部屋を出ていった。

 

 

 

 

(なんかあっさり話が片付いたわね...)

 

ヒナの心配なんてお構いなしに、デデデはゲヘナに滞在することを許されたのだった。

 

 

 

 

その後、寮で会った生徒に変人や怪物扱いをされて一悶着あったのはまた別のお話。

 

 

 

 

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≪チッ……≫

 

「惜しかったですねぇ。あと一歩でしたのに。」

 

黒服の男は指でリモコンを弾き、モニターの電源を落とす。静かな電子音だけが室内に残った。

 

「もう少しで、ゲヘナ全土があなた方の“負のエネルギー”で満たされたはずでしたのに。」

 

≪クソ……計画が狂った……≫

 

「フフッ……ですが、“次”があるのでしょう?」

 

≪当然だ。あのお方を復活させるためなら、手段は選ばん。≫

 

「ええ、では――それを見せていただきましょう。」

 

黒服の男はリモコンで別のモニターの電源を入れた。

 

 

 

 

――ゲヘナ編 完




ゲヘナ編が終了しました。
続いては仮面の騎士様が出ます。
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