桃色の軌跡   作:逆襲

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剣とツルギ

(今日のは中々良かったな……)

 

恋愛小説を読み終え、ご機嫌で寮の廊下を歩くツルギ。

脳裏に残る甘いシーンを思い出し、つい口元が緩む。

 

休憩しようとロビーへ降りていくと、

彼女の無自覚な狂気に気づいた周囲の生徒たちは

蜘蛛の子を散らすように逃げていったが――もちろん本人は気づかない。

 

(何にしようかな……)

 

自動販売機の前で飲み物に悩んでいると、

横の非常口のほうから、カチャ、と小さなドア音が聞こえた。

 

寮と校舎をつなぐ最短ルートなので、生徒が出入りするのは珍しくない。

ツルギは気にも留めず自動販売機を眺め続ける。

 

――だが、その直後。

 

「どなたか……どなたかいらっしゃいませんか!?」

 

聞こえたその声に、ツルギの表情が一瞬で変わった。

 

(……ナギサ?)

 

自動販売機の横から顔を覗かせると、非常口の前に倒れ込むようにして座り込んだナギサがいた。制服は雨と泥、そして……何か黒いものに汚れている。

 

「ツルギ委員長!! 良かった……っ!」

 

ナギサはツルギの姿を見て、ほっとしたように息を漏らす。

ツルギはすぐに駆け寄り、肩を支えた。

 

「何があった……?」

 

荒い息のまま、ナギサは必死に言葉を絞り出す。

 

「敵襲です! 校舎に……黒い塊のような敵が……!至急、正義実現委員会の方々に連絡をお願いします!」

 

ツルギの目つきが、ほんの数秒でいつもの目に切り替わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「新手か!?」

 

メタナイトが反射的に剣を構える。

しかしミネがすぐにその腕を押さえた。

 

「いえ!味方です!」

 

その少女に向かってミネが状況を叫ぶ。

 

「ツルギ委員長!ハスミさんが洗脳されています!気絶させるほどの衝撃でしか解除できません!」

 

その声に、砂煙の中でツルギの瞳がぎらりと光る。

ツルギはわずかに頷き、ショットガンを握り直す。

 

「……了解。」

 

その低い声が、戦場の空気を一変させた。

 

 

 

 

そこからは、ツルギの独壇場だった。

 

起き上がろうとするハスミに、銃撃、拳、蹴り、体当たり――

容赦のない連撃が叩き込まれる。

 

だがその攻撃に“憎しみ”はない。

ツルギはハスミを信頼している。だからこそ、一刻も早く取り戻したいだけ。

 

 

 

 

 

 

……とはいえ、傍から見れば

完全に一方的にボコっているようにしか見えない。

 

 

 

「……何か……私の仲間に似たものを感じるな……」

 

 

 

メタナイトはその光景を見つめながら、

ぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

だが、いくら殴られ、蹴られ、撃たれようとも、ハスミはふらつきながら立ち上がり続ける。

 

洗脳の黒い靄が、彼女の意志を完全に封じていた。

 

 

ツルギは静かに息を吐く。

 

「……仕方がないな」

 

気配が変わり、ツルギが地を蹴った。

ハスミが反射的に銃を構え、数発の弾丸を撃ち放つ。

しかしツルギは体をひねり、わずか数センチをかすめる射線を紙一重で抜けながら肉薄した。

 

 

次の瞬間――

ツルギはハスミの肩を掴み、勢いのまま押し倒す。

 

 

 

「……お前が昨日食べていたパフェ。あれ、三千キロカロリーだぞ」

 

 

 

耳元で低く囁かれたその瞬間。

ハスミの目がカッと開き、全身がびくりと震える。

すると、黒い煙がまるで悲鳴を上げるように身体から抜け落ち、霧散していった。

 

 

意識を失いぐったりとしたハスミを、ツルギはひょいと担ぎ上げる。

 

 

メタナイトが思わず声を漏らす。

 

「な、何をしたのだ……?」

 

ツルギはそっけなく言い放つ。

 

「機密事項だ」

 

そしてツルギはミネの方へ振り返る。

 

「私は一度ハスミを寮へ運ぶ。お前たちも一旦撤退しろ。状況の整理が必要だ」

 

言うなり、ツルギは破壊された壁を越えて去っていった。

メタナイトは剣を収め、小さく肩をすくめる。

 

「ここはツルギ殿の判断に従うとしよう」

 

「は、はい……!」

 

ミネもすぐに頷き、ツルギが来た道から二人は戦場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

……そして数分後、ミネとメタナイトは寮へと戻ってきた。

 

「良かった……! お二人とも無事でしたか!」

 

寮に足を踏み入れた瞬間、ナギサが駆け寄るようにしてミネとメタナイトを迎えた。

その表情には疲労も焦りも混じっているが、二人の姿を確認するやほっと息をつく。

 

ミネは胸に手を当て、かすかに微笑んだ。

 

「ナイトさんに助けていただいて……なんとか無事です。ですが……ハスミさんは……」

 

言葉の終わりが沈み、ミネの顔に陰が落ちる。

 

ナギサの視線がメタナイトへ向いた。

 

「私もナイトさんに助けていただきました。……と、そういえば、先ほど記憶が戻ったとおっしゃいましたよね?」

 

メタナイトは静かに頷き、改めて二人の前へ一歩進む。

戦闘直後とは思えぬほど、背筋は伸び、動きは凛としている。

 

「ああ。ナギサ殿、ミネ殿、ハスミ殿の協力のおかげで、ようやく思い出せた。この場で、改めて名乗らせていただこう」

 

マントをはためかせながら、メタナイトは二人へ視線を向ける。

その立ち姿は凛とし、戦士としての誇りを感じさせた。

 

「私の名はメタナイト。プププランドの剣士だ。救われた恩……必ず返させていただく」

 

ミネが少し驚いたように瞬きをする。

 

「名前はメタナイトさんでしたか。では……“ナイトさん”も、あながち間違いではなかったんですね」

 

ナギサが首を傾げる。

 

「それにしても、プププランド……。聞いたことのない土地の名です……」

 

三人が言葉を交わしていると、

背後から控えめな足音が近づき、ナギサの後ろからツルギが姿を現した。

その後ろには正義実現委員会のメンバーが整列している。

 

「……戻ったか」

 

メタナイトが一歩前に出る。

 

「ツルギ委員長、ハスミ殿は……?」

 

ツルギは短く答えた。

 

「今は自室で眠っている。命に別状はない」

 

「そうですか……良かった……」

 

ミネはほっと胸を撫でおろし、緊張が解けたように息を吐いた。

 

ツルギは周囲を見渡し、場を引き締めるように言葉を続ける。

 

「それで……これからどう動く?」

 

ナギサが一歩前へ進み、この場にいるメンバーに答える。

 

「はい。これより、この件に関する作戦会議を開きます。敵の正体、洗脳の原因、そしてまだ見ぬ敵の可能性……すべてを洗い出し、対策を立てましょう」

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