「さて……これで全員、揃いましたね」
ナギサの静かな声がロビーに響く。
寮の広いロビーには、トリニティの主要組織が一堂に会していた。
正義実現委員会。
救護騎士団
シスターフッド。
ティーパーティー。
そしてトリニティ自警団。
通常であれば、これだけの顔ぶれが揃うことなど滅多にない。
だが、今は全員が真剣な表情でナギサの言葉を待っていた。
「お休みのところをお呼び立てして申し訳ありません。
皆さんに集まっていただいたのは、一つの重大な理由があります」
ナギサは深く頭を下げたあと、顔を上げて告げた。
「現在、本校舎に“敵”が現れ、被害が発生しています。状況の説明を──ナイトさん……いえ、メタナイトさん。お願いします」
「うむ、承った。……とその前に今一度名乗っておこう。」
メタナイトは椅子から立ち上がり、ゆっくりと生徒たちの前へ進み出る。
その凛とした佇まいにロビーの空気が変わる。
「我が名はメタナイト。プププランドの騎士だ。訳あってこの地に来たところナギサ殿やミネ殿に助けていただいた。」
その説明を聞き、トリニティの生徒たちがざわめきだす。
「な……何あれ……?」
「見たことがない……何の生物でしょう……?」
「本当に……その者の言葉を信用するのでしょうか?」
不安、戸惑い、恐れ。
そんな小声があちこちから漏れた。
そのざわめきを、ひとつの低い声が鋭く断ち切る。
「静かにしろ。会議中だ」
ツルギがわずかに視線を向けただけで、ロビー中が水を打ったように静まり返る。メタナイトはその静寂を確認してから、ゆっくり口を開いた。
「……では説明しよう。現在、校舎内に無数に出現している黒い塊──あれは“ダークマター”という生命体だ。過去に我々の星、プププランドを侵略しようとした存在でもある」
ざわめきが漏れそうになるが、皆必死に口を閉じる。
「ダークマターは他者の心に忍び込み、精神を乗っ取る能力を持つ。先ほどのハスミ殿が、その最たる例だ」
ミネが小さく息を呑む。
「……やはり、あれが」
「うむ。一体ごとの力は大したものではないが……群れることで真価を発揮する。包囲し、増え続け、対象を洗脳していく。気づけば戦況をひっくり返される厄介な敵だ」
メタナイトは一度視線を窓へ向けた。
外は相変わらず激しい雨と雷に包まれている。
「そして……天候も敵の味方をしている。この地を覆う雷雲。あれも、私の世界から来た生物だ」
ナギサが思い出すように問いかける。
「それが……先ほどおっしゃっていた雲の生物でしょうか……?」
「うむ。その者の名は“クラッコ”。雨と雷を自在に扱う雲のモンスターだ」
「雲の……生物……!?」「そんなもの、実在するのでしょうか……?」
再びざわめきが広がるが──
ツルギがギロリと生徒たちを一瞥すると、全員が凍りついたように黙り込んだ。
メタナイトはそのまま続ける。
「本来、クラッコは自ら他者を侵略するような者ではない。基本的には、自分の縄張りへ踏み込んだ者にのみ敵意を示す……つまり、今回の行動は不自然なのだ」
「……となると……そのクラッコも……」
ツルギがメタナイトに問い返す。
「うむ。クラッコ自身も、ダークマターによる“洗脳”を受けている可能性が高い。恐らく、敵の将はクラッコを操り、雷雨によって校舎内にいる人数を減らし、指揮系統を担うナギサ殿やミネ殿といった要人を狙って洗脳する。それにより、トリニティ全体を混乱させ、最終的には手中に収めようとしているのだろう」
その分析に、ロビーの空気が一気に重くなった。
静寂の中、ナギサは席から立つと、胸に手を添えて深く頭を下げた。
「――だからこそ、この状況を打開するために……皆さまのお力をお借りしたいのです。どうか、ご協力をお願いします!」
ナギサの必死の訴えに、まず応えたのは正義実現委員会のツルギだった。
「事情は理解した。……言われずとも、我々は手を貸す」
凛とした声がロビーに響く。
続いて、サクラコとミネも椅子から立ち上がる。
「私たちシスターフッドも、微力ながらお力添えいたします」
「怪我をした方が出たなら私達の出番です。」
そして、自警団のスズミたちが力強く頷いた。
「私たちも協力します!非公式の活動であっても、この場に参加している以上……見過ごすわけにはいきません!」
隣のミカから勢いよく声が上がる。
「ナギちゃん!私もいるからね!」
その瞬間、ロビーの空気が“恐怖”から“決意”へと変わった。
組織の垣根を越え、全員の意思がひとつにまとまっていくのが感じられる。
ナギサは胸に込み上げるものを噛みしめながら、皆へ向き直った。
「皆さん……!! 本当に……ありがとうございます……!」
(信頼されているのだな……良い目をしている。)
そのナギサの様子を横目で見ていたメタナイト。
ナギサは深く一礼したあと、表情を引き締める。
「それでは、対策に移ります。まずは――人員の配置を行いましょう」
ナギサの声に、全員の視線が集中する。
「ではまず、校舎内の対応についてです。正義実現委員会、そしてシスターフッドの皆さんにお願いしたいと思います」
ナギサは二つの組織へ向き直る。
「正義実現委員会の指揮は──ハスミさんの代わりにイチカさん。シスターフッドの指揮はサクラコさん、お願いします」
「りょ、了解っす!」
「了解しました」
それぞれが力強く頷き、会議の空気が一段引き締まる。
ナギサは続けて、自警団に目を向けた。
「次に、自警団の皆さんには寮の警備をお願いします。敵がこちらへ侵入しないという保証はありません。……スズミさん、指揮を」
「了解しました!」
スズミも迷いなく頷いた。
「救護騎士団の皆さんには、自警団との協力と負傷者の手当てをお願いします。ミネさん、お願いできますか?」
「はい。お任せください」
ミネの返答に安心し、ナギサは次の議題へと移る。
ナギサは次に議題を移した。
「続いて……クラッコ。雲の生物についてですが……あれは倒せるのでしょうか?」
問いかけられたメタナイトは、静かに答える。
「普段のクラッコは“目”を露出しているため、そこを攻撃すればダメージを与えられる。……だが、今のように雲が多いと、雲の奥へ目玉を隠してしまうのだ」
ミネが不安そうに眉を寄せる。
「そ、それでは……討伐は難しいのでは……?」
「雲そのものへの対処なら、私に策がある。だが……雲が近くにある限り、クラッコは目を隠し続けるだろう。問題は──“一撃で仕留められるかどうか”だ」
ナギサは少し考え、すぐに決断した。
「……一撃が強ければいいのですね?なら──ミカさん、ツルギさん。お願いできますか?」
「任せて!」
「……任せろ」
ナギサは胸元に手を当て、そっと息を整える。
(……大丈夫。皆さんがいます。必ず乗り越えられる……)
ほんの一瞬、誰にも悟られないように自分を鼓舞すると、
再び堂々と顔を上げた。
「以上で作戦会議を終了します。各員、配置に着いてください!」
ナギサが席を立ち皆に言う。
ロビーの空気が、ついに“反撃に転じる緊張感”へと変わった。