「はぁ……やぁ〜っと埋め立て作業、終わったぁ〜……!」
大きく伸びをしながら、ミカがテラスの扉を押し開ける。
先日まで空を覆っていたあの黒雲と豪雨はどこへやら、今日は抜けるような青空。
校舎と寮の復旧は朝から本格的に始まり、トリニティの生徒たちはそれぞれの担当場所で汗を流している。
銃撃で穴だらけになった壁の補修。
吹き飛んだ窓ガラスの交換。
そして――グラウンドにぽっかり開いたクレーターの埋め戻し。
「お待たせー!」
ミカの声と共に、テラスからさわやかな風が廊下へ流れ込んむ。
「あら、ミカさん。お疲れさまです。」
ナギサは淹れたてのお茶の香りをまとわせながら、柔らかく微笑む。
「おや、埋め立ては終わったのかい?」
セイアが穏やかに問いかける。
普段ならミカを含めた三人の場所だが――
今日は、もう一人の影があった。
「ミカ殿、ご苦労だった。……本来なら私も手を貸すべきなのだろうが……」
テーブルの端で、メタナイトが少しばつの悪そうにナギサの方を向く。
すると、隣のナギサがぴしっと姿勢を正し、毅然と言い放った。
「いえ、お客様に雑務をお願いするだなんて、とてもできません。」
「……と、このように言われてしまってな。」
メタナイトは小さく肩をすくめ、どこか居心地悪そうにしながらも、ほんの少しだけ表情を緩めた。
ミカが椅子に腰を下ろした瞬間、
机の上に見慣れない紙切れがあることに気づいた。
「ん?これなに?」
それは手描きのイラストとメモが並んだ紙――
ピンク色の丸っこい何かに、顔と手足だけがぺたっとついているキャラ。
さらには赤い服を着た青い肌のキャラや、他にもいくつかの人(?)が描かれている。
「そちらはメタナイトさんのお仲間についての情報です。」
「へぇ〜……」
ミカは手元のメモをじーっと観察する。
「なんかさ、絵本とかゲームの世界から出てきたみたいな人達だよね、これ。」
「……確かにこういったものはゲームで見たことがあるような気がするが…」
二人がメモを前にわいわい話し始めると――
「ちょ、ちょっと! 二人とも……失礼ですよ……!」
ナギサが慌てて注意する。
「いや、構わないさ。ナギサ殿。」
メタナイトは落ち着いた声でそう言い、仮面の下から器用にロールケーキを口に運ぶ。
その様子を見たナギサは、ふと疑問を口にした。
「ところでメタナイトさん……食事をされる時、仮面は外されないのですか?」
その瞬間――
メタナイトの肩がビクリと微妙に揺れた。
「そ、そうだな……普段から、外すことは滅多にないが……」
なぜか目を逸らし、声もどこかぎこちない。
「あっ……す、すみません! もしかして触れてはいけないことを……!?」
「い、いや……気にしないでくれ。」
(ねぇ、ナギちゃんの質問の方が失礼じゃなかった?)
(ミカの言う通り……こういうところだけ鈍感だな……)
セイアとミカは目を合わせ、同時にため息をついた。
「それで?この人達がどうしたの?」
ナギサがそっと説明する。
「それがどうやら、こちらへ来られる際にお仲間とはぐれてしまったようで……」
「……あぁ。」
メタナイトが低くうなずく。
「空に浮かんでいた狭間に飲み込まれたあと、私にダークマターが襲いかかってきてな。反応が遅れて傷を負い……そのまま、気づけばこの地にいた、というわけだ。恐らくここは私がいた星とは別の星だろう。」
「へぇ~…そういえば前にポップスター?ってところの騎士って言ってたね。」
「キヴォトスの外――と言っても、本当に星の外からとは…。先生もそうだが……キヴォトスの外には、我々とは違う存在が多いようだ。」
「…話を戻しますね。」
ナギサが資料を整えつつ言葉を続ける。
「そこで、トリニティとしてもメタナイトさんのお仲間の捜索を開始しました。
もし他の自治区にいらっしゃる場合は、先生を通じれば連絡も取れますのでご安心ください。」
「……感謝する。」
メタナイトが深く礼をする。
「右も左もわからぬ異郷では、仲間を探すどころではなかったからな……助かる。」
「もちろんです。」
ナギサは穏やかに微笑む。
「お仲間が見つかるまでは、どうぞ寮の来客用の個室をお使いください。必要なものがあれば、何でもお申し付けくださいね。」
「ねぇねぇ、メタナイトさんがいた星って、どんなところなの?」
ミカが体ごと乗り出す勢いで唐突に問いかける。
「む? 私の故郷のことか?」
メタナイトが少し首をかしげると、すかさずセイアが乗ってきた。
「……確かに興味があるね。違う星の話など、滅多に聞けるものではないだろうし。」
珍しくテンションの向いたセイアに、ミカは「だよね!」と嬉しそうに頷く。
メタナイトは一度だけ軽く息を整え、真面目な声で続けた。
「お茶会に相応しい話かはわからないが……望まれるのなら話そう。ナギサ殿が私にしてくれたように。」
ナギサはふわりと笑みを浮かべる。
「ええ、是非とも教えてください。」
メタナイトは姿勢を正し、静かに語り始めた。
「私の故郷――ポップスターは、実に多彩な世界だ。緑の大地が果てしなく続く草原。夕焼けに照らされオレンジ色に染まるビーチ。雲を貫くほど巨大に伸びる花々……」
「わーお…」
「是非とも一度は見ておきたい光景だね」
「なんと…」
「そこで起きた出来事もまた、実に騒がしいものばかりだった。大王が国中の食料と秘宝を奪い去ったこともあった……太陽と月が大喧嘩してそれを画策して星を乗っ取ろうとした奴が出たこともある。かと思えば、星全体がとある企業に機械化されかけたこともあったな。私も一度機械にされたぞ。」
彼は淡々と話すが、その内容はどれも想像を超えている。
ミカとナギサは「えぇ…?」と困惑したような笑顔を浮かべ、
セイアだけが妙に落ち着いた表情をしている。
「……ずいぶん賑やかな星なんだね……」
ミカがぽつりと漏らすと、メタナイトは小さく肩をすくめる。
「あぁ。静かになった試しがないな。だが――私の大切な故郷だ。」
彼の声はどこか誇らしげで、優しかった。
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≪……あいつめ。まさかしくじるとはな……≫
黒い霧が、低い唸り声のように愚痴をこぼす。
「おや、何かありましたか?」
黒服の男は軽く首をかしげる。
しかし霧は吐き捨てるように返した。
≪貴様には関係のない話だ。≫
「またまた。そんな言い方をしなくてもいいでしょう?」
黒服は肩をすくめ、モニターへと視線を戻す。
「しかし……こちらの方々は実に面白い。神秘という言葉では推し量れないほどです。」
≪……フン。≫
短く鼻を鳴らすと、霧はゆっくりと形を揺らす。
その奥にある感情は読み取れない。
(――まぁよい。貴様らの動きで、負のエネルギーは着々と満ちつつある。……好きに騒がせておいても害はあるまい。)
≪せいぜい、我らの“舞台”をかき乱さないよう努めることだ。≫
黒服は口元をわずかに歪め、まるで喜ぶように画面を眺めた。
「それは楽しみです。まだまだ面白くなりそうですねぇ……」
霧は答えず、ただ静かに揺れ続けた。
その奥で何かが、確実に“動き出している”。
――トリニティ編 完
トリニティ編が終了しました。
なんか書きなれてくると話数が伸びてきますな...
次はあのイカサマタマゴが出ます。