「また負けタァ……」
マホロアがその場にぱたんと倒れ込む。
「でも、初めてにしては本当に上手だよね?」
モモイが感心したように言う。
「私たち、全く手が出なかったからね……」
ミドリも苦笑いしながらコントローラーを置く。
「もう一試合です!!」
アリスが元気よく手を挙げた、その時――
勢いよく部室のドアが開いた。
全員がそちらを振り向く。
そこにあった姿はアリス達と身長が同じくらいのメイド服を着た少女だった。
「よぉチビども、ゲームしようぜ!」
「ネ、ネル先輩!?」
アリスが驚く。
「最近やれてなかったからな! 久々に――」
ネルは言いかけたところで、座布団に座っているマホロアに気づき、眉をひそめる。
「……んだ、その人形?」
マホロアは手をひらひらと振る。
「ニンギョウじゃナイヨ?」
「しゃべりやがった?エンジニア部のロボットのテストかなんかか?」
ネルが目を見開く。
「あーえっとねぇ……」
モモイが困ったように笑いながら、マホロアの事情をネルに説明した。
「はぁ? 他の星から来た? んなアホな……」
「まぁそんな反応になるよね……」
モモイが淡々と頷く。
ネルはしばらくマホロアをじーっと見つめ――
「……まぁいいか。ホントかウソかなんて知らねぇが……」
ネルは軽く頭をかきながら言い切る。
「そんなこたぁどうでもいいんだよ。とりあえずゲームやんぞ!」
そう言ってアリスの隣にどっかりと座り、コントローラーを握った。
「おいチビ、タイマンやんぞ」
「は、はい!」
ネルの視線を感じてか、アリスが少し緊張しながらうなずく。
「タイマン?……って言うト1on1カイ?」
「うん。スマシスはモードを変えるとガチの対戦ゲームにもなるんだ。」
マホロアの疑問にミドリが答える。
(これダケの自信があるンダ……相当の実力者なのカナ……?)
お互いのキャラが決まり、戦いの火蓋が切られる。
マホロアはゴクリと唾を飲み込む。
ーーだが他の3人はいつも通りの表情をしていた。
三分後――。
アリスが圧勝した。
(……ナンカ……スッゴイアッサリ終わったネェ……)
「クッソ! もう1回だ!!」
「は、はいっ!」
少し怒気の混ざったネルの声に、アリスがびくりと肩を震わせながら返事をする。
二分後――。
再びアリスが圧勝していた。
(もしかして……彼女ッテあんまり強くナイ……?)
「クッソ!! まだだ!!」
「はいぃ!!」
そこから何十戦もネルとアリスのタイマンが続いた。
しかし結果は、あまりに残酷と言っていいレベルで――
アリスの圧倒的勝利。
ネルはというと、半ば自棄になりながらコントローラーを構え直す。
「クソ! まだまだ!!」
「いえ、もう終わりですよ」
「ン?」「あれ?」
聞き覚えのない声に、全員が同時に振り向いた。
そこには、柔らかな笑顔を浮かべたメイド姿の女性が立っていた。
だがその空気は、どう見ても“笑っているようには”感じられない。
その視線はマホロアに向かずネルだけに向けられている。
「ア、アカネ先輩……こんにちは……」
「こんにちは♪」
「んだ? もう時間か?」
ネルが顔を向ける。
アカネは変わらぬ笑顔のまま告げた。
「いえ。既に予定の時間より――1時間ほど遅れています」
「は?」
ネルが慌ててスマホを取り出し、画面を確認する。
「…………あ」
「では皆さん、失礼しますね」
「は、はい……」
アカネは静かに歩み寄ると、ネルの首根っこをつかみ――
容赦なく部屋から引きずり出していった。
扉が閉まったあと、部室にはしばしの沈黙が落ちた。
「コノ学校には、アーユウ人達タクサンイルのカイ?」
マホロアがぽつりと沈黙を破る。
「うん……。まぁ、良くも悪くも“個性的”な人達がいっぱいだよ」
ミドリが苦笑しながら答えた。
するとそれに反応しモモイがぱっと顔を明るくする。
「そうだ! 次はマホロアに他の部活を案内してあげようよ!」
「賛成です!」
アリスが手を挙げて笑顔になる。
「ホント!? ヤッタァ!」
マホロアは跳ねるように喜んだ。
さっきのメカワニを見て、この学校の技術力にはかなり興味を持っている。
「でもマホロアのことを一々説明してくのめんどくさいね...」
ミドリが少し疲れたような顔をする。
「じゃあマホロアはぬいぐるみに扮してアリスに持ってもらおう!」
「はい!お任せください!」
(…チョット不本意ダケド、まぁイッカ…)
「わ…私も行かなきゃだめ…?」
ユズがいつものロッカーに手をかける。
「ダメです!皆で行きましょう!」
「ひぃ…」
アリスがユズの手をひく。
「じゃあ早速行こう!」
モモイが立ち上がると、部室の空気が一気に明るくなる。
そしてその勢いのまま部屋から出て行った。
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「ここがトレーニング部の部室だよ。…と言っても、ただのトレーニング室だけどね」
モモイがそっと扉の隙間から覗く。
そこには――
「まだですレイさん!! もっと、もっとです!!」
「さ、流石に……もう……無理です……!」
ものすごい速度で回るランニングマシンの上で、必死に走るレイ。
その横ではスミレが涼しい顔で走り続けていた。
「スミレ先輩っ……! さっきからなんか速度が上がってませんか……!?」
「気のせいです! 心が折れなければ大丈夫です!!」
「またやってるよ……」
モモイが肩をすくめる。
「大変そうダネェ……」
「バレないうちに移動しようか……」
ユズがそっと扉を閉めた。
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「ここがヴェリタスの部室です!」
「ヴェリタス?」
「簡単に言うとハッカー集団。悪い人たちじゃない……うん、悪い人たちじゃないよ」
ミドリが自信なさげに説明する。
そのとき――部室のドアが開き、ハレが現れた。
「……あれ? ゲーム開発部の皆……?」
ハレの目の下にはひどいクマが浮かんでいる。
「うわっ……ハレ先輩……何徹目……?」
モモイがその顔を見て思わず声を出した。
「5くらいから数えてないかな……最近忙しくて……」
その後ろから、同じくクマを浮かべたコタマが顔を出す。
「こんにちは……」
「そ、そんなになるまでどうして……」
ミドリが思わずこぼした。
それにハレが弱々しく反応した。
「最近、ミレニアムのシステムに頻繁に何かが侵入していて……でも全然尻尾を掴めないんだ……」
コタマも重く頷く。
「残っている情報といえば…監視カメラの映像に残ってる黒い霧くらいで……」
「そりゃ大変だ……」
モモイが眉を寄せる。
「だから……すみません……とてもおもてなしは……」
コタマがぺこりと頭を下げた。
「いやいや! 大丈夫大丈夫! 近く寄っただけですから!」
「頑張ってください!」
アリスも笑顔で応援する。
そう言い残し、ゲーム開発部のメンバーは静かに部室を後にした。
「私はちょっと……トイレに……」
ふらふらとした足取りで、ハレも別の方向へと消えていく。
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コタマが部室へ戻ると――
薄暗い部屋の中、ひときわ明るいモニターの前で、
マキが焦りの色を浮かべながら猛烈なスピードでキーボードを叩いていた。
「マキ? どうしたのですか……?」
コタマが声をかけると、
「――あっ、コタマ先輩! 大変!!」
マキは目を離さずに叫ぶ。
「トレーニング室のシステムに、また侵入されてる!!」
「……今度こそ絶対に尻尾を掴みます!!」
コタマは椅子を引き寄せると、すぐさま隣に座り、キーボードを叩き始めた。
薄暗い室内を“侵入警告”を示す赤いウィンドウが照らしている。
警告音が低く鳴り響き、画面には断続的に流れる黒いノイズが走っていた。