「中々尻尾を出しませんね……」
ここは特異現象捜査部の部室。
その部屋の一角で一人の少女……超天才清楚系病弱美少女が、頭を悩ませていた。
ミレニアムで頻発するロボットや機械の故障。
ログには何も残っておらず証拠は現場に残された黒い霧のみ。
ヴェリタスが原因を突き止めているが彼女らの力があっても見つけることは不可能だった。
「ヒマリ部長、只今戻りました。」
自動ドアが開き二人の少女が部屋の中へと入ってくる。
「お疲れさまです、トキ、エイミ。」
「今回もダメ。霧しか残ってなかったよ。」
「ご期待に沿えず申し訳ございません……」
トレーニング室に侵入した形跡があるとヴェリタスに報告を受け、現場へと向かったトキとエイミだが、その場には地に倒れたレイと走り続けるスミレ、そして様子のおかしいランニングマシンだけだった。
「そうでしたか…」
ヒマリはモニターへ視線を戻す。
校内の監視映像をひとつずつチェックしていく。
「う〜ん……先程のメカワニとトレーニング室以外、特に反応は無いですね……」
「暑っ……部長、冷房強めていい?」
「これ以上は寒くなりますのでダメです。……あら?」
エイミの愚痴を受け流しながら、映像を追っていたヒマリが、小さく声を漏らした。
建物が、わずかに揺れた。
「地震でしょうか?」
「ん、でも大きくはなかったね。」
その直後――
エンジニア部の部室前にある監視カメラに、砂埃が一気に舞い上がった。
「……何でしょう?」
砂が晴れると、そこには黒煙を上げながら武器を構える黒いロボット。
「これは……」
「これってさっきのメカワニと似てる感じだけど...」
「はい。その線から考えると恐らく....。トキ、エイミ。対処をお願いします。…念のためトキはアビ・エシュフを。」
「了解」「かしこまりました。」
そう言い残し、二人はすぐさま部屋から出て行った。
「さて…私も準備をしておきますか…」
ヒマリは細く息を吐き、キーボードを叩き始めた。
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ゲーム開発部とウタハはその声に聞き覚えがあった。
「「「「ヒマリ先輩!!」」」」
「ヒマリ…助かったよ……」
『皆さん、怪我が無いようで何よりです。...そこのあなたも。』
物影に隠れていたマホロアにも声をかけた。
「バレテル!?」
『皆さんが校内紹介をしている時からずっと見ていましたので♪』
「え、じゃあさっきの二人は……?」
ミドリが振り返ると、影の中から姿を現したのは、アビ・エシュフを装備したトキと、銃を構えたエイミだった。
『エイミ、そのまま周囲のドローンを殲滅してください。トキはあのロボットの対処を。』
「「了解!」」
二人は軽やかに跳び出し、機械の群れへ次々と攻撃を仕掛けていく。
「って言っても部長、流石に数が多いよ…」
文句を言いながらもドローンを次々と墜落させていくエイミ。
『仕方ありませんね……ゲーム開発部の皆さん、そしてマホロアさん。少しだけ手を貸していただけますか?』
「「「「はい!!」」」」
「わ、分かったケド……メタルジェネラルはアノ子ダケでイイノカイ?」
『ええ、あの女の補佐をしていた子です。問題ありませんよ。』
(ア、アノ女……?)
「デ、デモ……見タ感じアレってロボットに乗ってるンジャ……」
『そこもご心配なく。この私が、しっかり対策を講じてありますので♪』
通信越しに微笑む声が聞こえる。
「ヒマリ。私にも何かできることはないかい?」
『そうですね……。先週作ったと言っていたアレを今すぐ持ってくることはできますか?』
「……アレかい?分かった。すぐ持ってこよう。」
ウタハが足早に部室の奥へ向かう。
何を取りに行ったのか、ゲーム開発部の面々は見当もつかない。
アビ・エシュフの三門のガトリングが火を噴いた。
高速で発射
トキはその挙動を見るや、すでに距離を測っていた。
「剣を回転させて防御……予想より器用ですね。」
メタルジェネラルはビームサーベルを回転し続けながらトキの方へと突進を開始する。
突進速度は高い。しかし――
トキはほんのわずかに脚部装甲を傾けると、推進力を最小限で横滑りさせる。
メタルジェネラルの攻撃を最小の動きで回避し、再度ガトリングを向ける。
鋭い火花を散らし突き抜けていくメタルジェネラル。
だが、メタルジェネラルの背中から――
≪回避確認 ミサイル発射≫
黒い小型ミサイルが複数、尾を引いて迫る。
「回避を読んでの追撃……良い判断です。ですが…」
だがトキの声は落ち着き払っていた。
バイザーが光り、軌道予測ラインが複数走る。
次の瞬間、肩部レーザー砲からほぼノータイムでレーザーが放たれた。
一瞬でミサイルが蒸発する。
「完璧なメイドの私には効きません。」
トキは淡々と呟いた。
ミサイルの煙が消えるより早く、ガトリングが再び火を噴く。
「――次はこちらですね?」
メタルジェネラルが反応するより早く、トキはガトリングの向きををわずかに変え、回避ルートへ先回りして射撃を行った。
≪ミサイルポッドノ損傷ヲ確認≫
放たれた弾丸がメタルジェネラルの背中を打ち抜いた。
『流石はトキですね。ですが...』
だがメタルジェネラルはこちらへとまだ向き直る。
そして左手をトキの方へと向けた。ドローンを乗っ取った時のように。
「アアッ!!マズイヨォ!」
その様子を横目で見ていたマホロアが声を上げる。
だが、アビ・エシュフの動きには変化が無かった。
≪CPUジャック失敗≫
『そう来ると思っていましたよ♪』
ヒマリの通信が入る。
「ヒマリ部長。これは一体?」
『先程あの機体がドローンに手を向けた際、手のひらから“電磁波”を発していました。それでドローンの命令権を奪っていたのでしょう。ですが――この“超天才清楚系病弱美少女ハッカー”にかかれば、そんな雑なジャックはさせません!』
「流石です、ヒマリ部長。」
『ふふん♪ しかもその電磁波、先程のランニングマシンのジャックと同じ周波数でした。……ということは、あの機体こそが、最近のミレニアムの不祥事を引き起こしている元凶かもしれません!』
「成程……では即座に破壊します!」
トキは再びガトリングを構え、火を放つ。
メタルジェネラルは再びビームサーベルを高速回転させ、弾丸を弾く。
『流石ですね……ですが、前方しか防げませんよね?』
ヒマリが言った瞬間――
メタルジェネラルの横と背後から、一斉に銃弾が飛び込む。
『さきほどの電磁波を解析しました。ならばこちらも同じ事をすればよいだけです。』
メタルジェネラルの護衛だったドローンたちが、今度は逆にメタルジェネラルへと銃撃を開始する。
「さすがヒマリ……ここまで読んでいたとは。遠隔起動用の機能を使って電磁波を操るなんてよく思いついたね。」
『ふふん♪もっと褒めても良いのですよ♪』
ドローンの後ろには小さな電子レンジを抱えるウタハの姿。
「まぁ…私の「温め君Mk-3」がこんな形でお披露目になるのは何とも言えないが…」
『エイミ!ゲーム開発部の皆さんとマホロアさん!もう大丈夫です。』
「え、私たちほとんど何もしてないんだけど……」
「終わったの……?」
メタルジェネラルの体から黒煙がさらに上がり、火花が散る。
「そろそろ終わりですね。これで、終わりです。」
トキが肩部のレーザー砲を展開し、メタルジェネラルへ発射。
流石のメタルジェネラルも、レーザーはビームサーベルでは防ぎきれず、直撃した。
遠巻きに見ていたモモイ達が息を呑む。
「や、やったか……?」
「お姉ちゃん、それ言ったらフラグになるよ。」
その瞬間――
ビームの中からメタルジェネラルが上空へ飛び出した。
「ほらそんな事言うから!」
「まだ動けますか…では」
トキは再度ガトリングを構える。
≪本体ニ甚大ナ損傷アリ 一時撤退≫
だが、メタルジェネラルは無機質な音声を残し、そのまま高速で飛んで行ってしまった。
「逃がしません!」
「逃がさない!」
トキがスラスターを起動させる。
そいてエイミがアビ・エシュフに捕まり飛んで行った。
「ボクも行くヨ!」
マホロアも後を追い、空へ消える。
「わ、私達も行こう!」
「でももうどっちに行ったか分かんないよ?」
「なっ……」
モモイが見上げるが、すでに空には何も残っていなかった。
「どうしよ……」
焦りながら周囲を見渡すモモイ。
そして――ある物が目に入る。
「いや、まだある……!皆ちょっと聞いて…」
モモイはそれぞれのメンバーに話をした。
モモイがウタハのもとへ駆け寄る。
「おや? どうしたんだい、モモイ。」
「ウタハ先輩!さっきのマシン、もう一度貸してください!!」
「さっきのって……エアライドマシンかい?」
「はい!!」
「うーん……まだ試作だし、耐久性もスピードも保証できないよ……」
ウタハが困ったように機体を見る。
「構いません!友達を助けたいんです!」
「出会って数時間でも、マホロアは友達です!」
「例えトロロアみたいに裏切っても構いません!」
「裏切りはさすがに今はしないと思うよ……」
無謀だと理解しつつも、一歩踏み出す強さが彼女たちの言葉と瞳に宿っていた。
「……やれやれ。そこまで言われたら“No”とは言えないな。――少し待ってくれ。」
ウタハは各マシンへ歩き、迷いなくいくつかのパーツを引き抜いていく。
「ウタハ先輩、何を?」
ミドリが問いかける。
「恐らくあのメタルジェネラルは、かなりの速度で飛んでる。ただ単に走っているだけでは追いつけないだろう。」
最後のひとつを取り外し、パチンと指を鳴らす。
「だから、リミッターを外した。――速度なら保証するよ。」
「大丈夫です!みんな、行こう!」
「「「おー!!!」」」
全員がマシンに飛び乗る。
「――発進!!」
次の瞬間、先ほどとは比べ物にならない加速で、四つのマシンが一直線に空へと飛び出した。
みるみるうちにその影は小さくなり、やがて見えなくなった。