本当にありがとうございます!!
巨腕がネルへ振り下ろされる。
ネルはギリギリの距離で横跳びし、コンクリートが粉砕される音が響いた。
「てめぇの相手はアタシだ!!」
≪対象確認 殲滅ヲ再開≫
ネルはわざと視界に入り、攻撃を誘う。
一撃でも食らえばキヴォトス人でも致命傷はまぬがれないが――そんな気配すら見せず、挑発するように笑う。
(動きは遅ぇ……避け続けるだけなら簡単すぎんだよ!)
ドリルが付いた右腕を振り抜く。
ネルはビルの壁を蹴って跳び上がり、回避しながら怒鳴る。
「その程度かぁ!?」
轟音と衝撃波がネルに降り注ぐ。
「「ネル先輩!!」」
背後からモモイとミドリの声が響く。
「んだよお前ら! 不用意に近づくんじゃねぇ、巻き込まれんぞ!!」
振り向きざまに怒鳴りかけ――ネルは目を見開いた。
少し離れた場所で、アリスがレールガンをチャージし、
その横でマホロアが魔力を圧縮しながら、ぐっと両手に力を込めている。
(……なるほどな。)
ネルは二ッと笑う。
「足引っ張んじゃねぇぞチビ共!!」
ネルの叫びを合図に、状況が一気に動き出す。
HR-D3が轟音を響かせながらネルへ拳を振り下ろす。
ネルは側転するように回避しつつ、地面を蹴ってさらに距離を広げた。
「ほら来いよ、デク野郎!!」
≪デストロイヤーパンチ≫
拳が電流をまとい、青白く輝く。
鈍重な動きだが、その威力はまさに一撃必殺。
地面は抉れ、爆ぜ、破片が雨のように飛ぶ。
だがその隙を縫うように、モモイ・ミドリ・ユズの三人が走り込んでいく。
「ミドリ、いける!?」
「う、うん……がんばる……!」
「ユズも右から回り込んで!!」
三人は分散し、HR-D3の視界をかき乱すように動き回った。
≪対象多数 ヘビーロボット・アイビーム≫
巨大ロボの“目”と思われる部分に光が凝縮していく。
明らかに危険な輝き。
「あ、あれ絶対やばいヤツ!!」
「やばいやばいやばい!!」
三人へ向け、光線が薙ぎ払うように放たれる。
「わっ――!!?」
モモイが足をとられ、前につんのめって倒れ込んだ。
「お姉ちゃん!!」
≪発射≫
直後、レーザーが地面を切り裂き、モモイの倒れた場所へ一直線に走る。
地面が爆発し、火柱が空へ吹き上がる。
瞬きする暇もないほどの惨劇。
だが――
「……ったく、足引っ張るなっつったろ」
ネルがモモイの腕を掴み、爆心地から抱え上げるように跳び退いていた。
モモイは息を荒げながら声を震わせる。
「た、助かったぁ……!!」
ネルはその腕をぱっと離すと、乱暴に頭を小突いた。
「集中しろ!!」
言葉こそ荒いが、その表情には明らかな安堵が滲んでいた。
――そして数分。
ネルとモモイ、ミドリ、ユズは息を合わせ、危なげなく時間を稼ぎ続けていた。
「こっちだよ!」
ミドリの攻撃が背後から飛ぶ。
HR-D3がそちらへ振り向いた瞬間、反対側から爆撃が叩き込まれる。
「こ、こっち!!」
ユズの弾幕が横合いから走る。
「オラァッ! どこ見てんだ!!」
そして気付けば、ネルが巨体の腕を駆け上がり、頭部に強烈な蹴りを叩き込んでいた。
破壊力は圧倒的なはずのロボットも、次々とヘイトが切り替わる標的に翻弄され、動きが明らかに乱れ始める。
そのとき――
戦場の空気を切り裂きマホロアの声が響いた。
「皆!!行けるヨ!!」
マホロアの叫びに、4人が即座に反応する。
「よ、よし! 後はあっちに……!」
「おら行くぞ!」
「きゃあっ…!?」
モモイとミドリは一気に後退し、ネルもユズの服を掴み退避する。
HR-D3は標的を失い、ゆっくりとマホロア達の方へと向き直った。
≪目標集中 ハル・レイ チャージ開始≫
頭部の外装がガシャガシャと変形し、巨大な砲口がせり出す。
口腔部に収まっていた光が、今までとは比べものにならない速度で収束していく。
まるで空気そのものが震えるほどのエネルギー密度。
同時に、アリスの光の剣が輝き始め、マホロアの両手にも圧縮された魔力が渦を巻き始めた。
「ほ、ほんとに大丈夫なんだよね!?」
モモイが叫ぶ。
「うるせぇ! 黙って信じやがれ!!」
ネルの怒声が、逆に背中を押す。
≪ハル・レイ 発射≫
轟音と共に、巨大砲が白光を吐き出す。
そして頭部が変形し熱を放出した。
「―――光よッ!!!」
アリスがレールガンを掲げ、収束したエネルギーを一直線に解き放つ。
「マホロア砲!! 発射ァッ!!!!」
マホロアの魔力砲撃が、アリスの光と共鳴するように放たれた。
二つの光条は一直線に伸び、巨大ロボの砲撃に真正面からぶつかっていく。
衝突点が白熱し、空間そのものが軋むように歪んだ。
「グッ……!!」
「んんぅ……!」
だが、二人の力を合わせても、じわじわと押し返されていく。
「や、やばい……押されてる!?」
モモイの叫びに応えるように、二つの影が飛び出した。
「出番だね」
「早く終わらせましょう」
瓦礫を蹴り、壁を踏み、二人は巨体を一気に駆け上がる。
金属装甲を足場にするたび、衝撃で火花が散った。
腕、肩――
そして、軋む音とともに装甲が強引にこじ開けられた頭部へ。
露出した操縦席。
内部では黒い霧が渦巻き、計器類が狂ったように点滅している。
二人は一瞬だけ視線を交わし、迷いなく、同時に銃口を向けた。
乾いた銃声が重なり、反動と共に、弾丸が操縦席内部へ雪崩れ込む。
火花が散り、装甲が抉れ、すでに黒煙を上げていたメタルジェネラルの機体が、悲鳴のように軋んだ。
≪ヘ ヘッド ミ ミサイルレイン≫
電子音声が途切れ途切れに鳴り響く。
次の瞬間、右手が変形し、内部から赤熱したミサイル群が、制御を失ったまま噴き出した。
警告灯が乱反射し、無数の推進炎が夜空を切り裂く。
そしてトキとエイミに向けてミサイルが向かってくる。
「へっ、そう来ると思ったぜ!」
その声と同時に、別方向から乾いた連射音が走る。
いつの間にか割り込んでいたネルが、瓦礫を蹴り、宙を跳び、爆風すら踏み台にするように空中へ躍り出ていた。
視線は一瞬でミサイル群を捉える。
「遅ぇんだよ!」
引き金が引かれるたび、銃口が閃き、飛来するミサイルが次々と空中で弾け飛ぶ。
一発、二発、三発――
連鎖する爆発が火花の輪を描いた。
「そんなモンで――」
ネルは落下しながら銃を回し、最後の一発を叩き込む。
「邪魔できると思うなよ!!」
直後、巨大な爆炎が連なり、
衝撃波が空気を揺らす。
爆風に煽られながら、ネルは軽やかに着地し、
肩越しに振り返って不敵に笑った。
警告音が、悲鳴のように連続して鳴り響く。
≪破損率……97……98……≫
メタルジェネラルの機体が、限界を超えた歪みを見せ始めた。
装甲の継ぎ目から黒い霧が噴き出し、内部では火花と炎が乱舞する。
「……来ます!」
トキの声が走った、その瞬間――
メタルジェネラルの胴体が、内側から大きく膨れ上がった。
金属が悲鳴を上げ、内部で何かが“弾ける”気配が伝わってくる。
「離脱するよ!」
エイミの短い号令。
三人は同時に地面を蹴った。
爆風が吹き荒れる直前、瓦礫を蹴り、装甲を滑り、反動を利用して跳躍する。
次の刹那――
操縦席を中心に、メタルジェネラルの体が内側から破裂した。
黒い炎と金属片が空へ噴き上がり、
衝撃波がビル群を叩きつける。
「やった……!?」
モモイが声を上げる。
操縦者を失ったHR-D3が、低く唸りを上げる。
≪出力低下……補正不可……≫
巨大ロボの砲口から放たれていたレーザーが、目に見えて細くなった。
「出力ガ落ちテル!!このまま押シ切ルヨ!!」
マホロアが叫ぶ。
「了解です!!」
アリスが光の剣を構え直し、さらに出力を引き上げる。
光が、より鋭く、より純度を増していく。
どんどんと押し返していく。
「「「行けぇぇぇぇ!!」」」
その叫びに応えるように、
アリスの光とマホロアの魔力が完全に一体化する。
それは一直線に、
HR-D3の頭部を貫いた。
次の瞬間――
内部から白熱した光が溢れ出し、
巨大な爆発が起こる。
轟音と衝撃波が巻き起こり、ビルの窓が一斉に砕け散る。
そして残った体は、ゆっくりと、まるで力尽きた獣のように崩れ落ちた。
煙が晴れ、静寂が戻る。
瓦礫の向こうで、巨大ロボは完全に沈黙していた。
「……終わった?」
モモイが、恐る恐る呟いた。
「ええ。完全に停止しています。」
トキの淡々とした報告に、張り詰めていた空気がようやく緩む。
「よ、良かったぁ……」
その一言を合図にしたかのように、
ゲーム開発部のメンバーがその場にばたりと倒れ込んだ。
「ほんと……死ぬかと思ったね……」
荒い息の合間に、ミドリが弱々しく笑う。
マホロアはその様子を見上げ、胸の奥に溜まっていた息を、ゆっくりと吐き出した。
「……ナ、ナンとか……勝てタネェ……」
その声には、安堵と疲労が滲んでいた。
少し遅れて――
瓦礫を踏みしめながら、ネルが近づいてくる。
肩で息をしながらも、どこか楽しげに口元を歪めた。
「……ったく。最初から最後まで、無茶な賭けしやがって。」
そう言いながらも、その視線はどこか誇らしげだった。
気がつけば、
曇っていた空はすっかり晴れ、
廃墟と化した街に、夕焼けの光が静かに差し込んでいた。
戦いの終わりを告げるように、赤く染まる空だけが、優しく世界を包んでいた。