桃色の軌跡   作:逆襲

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白い鬚とオレンジのわにゃ

少し暗みがかった教室に、外からの光が差し込む。

 

逆光の中、扉の前に立つ小さな影。

最初は輪郭しか見えなかったが、

目が慣れるにつれて、その姿が徐々にはっきりしていく。

 

白い服。

小柄な体格。

 

――見間違えるはずがない。

 

かつて、クーデターを起こされたからといって自分達に協力させたにも関わらず条件として提示された本校舎復帰をくだらない理由を並べ立てて話をうやむやにした、あの白いチビの姿だった。

 

「あっ……!!」

 

「……あれ? チェリノ会長?」

 

 

だが。

 

いつもの「絶対的支配者()」の雰囲気は、影も形もない。

帽子は雪でぐっしょりと濡れ、白い服は所々が裂け、汚れで灰色に染まっている。

 

口元の付けひげに至っては、原型を留めないほどズタズタだった。

 

「た、た……すけ……て……」

 

か細い声を残し、

チェリノはそのまま前のめりに倒れ込んだ。

 

「――っ!?」

 

「何事!?」

 

二人は慌てて駆け寄る。

シグレが体を抱え上げるが、反応はない。

 

「え……死んだ?」

 

「冗談でもない事言わないで。呼吸はしてるよ、生きてる。」

 

シグレはそう言いながら、チェリノの手に触れて眉をひそめた。

 

「……相当冷えてる。雪の中、ずっと歩いてここまで来たのかも。さっきの子と同じだね、完全に凍えてる。」

 

シグレはチェリノを軽々と担ぎ上げ、焚き火の方へ向かう。

 

「えっ……シグレちゃん?そんなやつそのまま放っておいても良いんじゃ……」

 

「………それはさすがに可哀想でしょ……」

 

少しだけ、現実的な笑みを浮かべて続ける。

 

「それにここで恩を売っとけば、本校舎に戻れる可能性、ちょっとは上がるかもよ?」

 

「う、う~ん……」

 

「いつものクーデターを起こされたにしては服もボロボロだし、何よりトモエさんやマリナを傍に付けてないのはおかしい…何かが本校舎で起きたのかも。本校舎の情報を知らない私達からしたら、事情を聞くためにまずは起きてもらわないと困るよ。」

 

ノドカは複雑そうな表情で、焚き火の前に運ばれるチェリノを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぱちぱち、と。

おぼろげな意識の奥で、火の爆ぜる音が聞こえる。

 

重たい瞼を、ゆっくりと持ち上げると――

揺らめく橙色の光。

目の前には、小さな焚き火が燃えていた。

 

「……ここは……」

 

掠れた声が、思った以上に弱々しく零れる。

 

「あ、目、覚めた?」

 

焚き火の向こう側から、少し戸惑ったような声が返ってくる。

 

「大丈夫? どこか痛いところとか、苦しいところはない?」

 

身体を確かめてみる。

全身が冷え切っていた感覚はあるが、致命的な痛みや、強い倦怠感はない。

 

 

ただ――

 

「…水を……」

 

喉が、焼けつくように渇いていた。

 

「うん、待ってて」

 

そう言うと、少女はすぐに立ち上がり、紙コップにタンクから水を注ぐ。

 

「はい、どーぞ」

 

差し出されたそれを受け取り、口元へ運ぶ。

一口、二口――

 

冷たく澄んだ水が、喉を滑り落ちていく。

 

「……ぷはぁ……」

 

思わず、息が漏れる。

 

「助かったよ……ありがとう……!」

 

身体の奥から、じわっと力が戻ってくる感覚。

凍えていた指先に、ようやく血が巡り始めた。

 

「それは良かった。…っと、まだ寒いでしょ?焚き火にあたってて。」

 

焚き火の向こうで、尻尾を揺らしながら少女が微笑む。

そう言うとその生き物は短い手を焚き火へと向ける。

 

 

「寒いねぇ……。ホワイトウェハースより寒かったよ……」

 

「ホワイトウェハース……?」

 

聞き慣れない言葉に、シグレは一瞬だけ首を傾げる。

 

「えっと……ボクの住んでるところにある雪山なんだ。」

 

「へぇ……」

 

シグレは曖昧に相槌を打ちながら、心の中で首をひねる。

 

(聞いたことない地名だなぁ……。先生みたいにキヴォトスの外から来た…って線は濃そうだけど)

 

 

そう思いつつも、深くは追及せず、シグレは自然な調子で話しかける。

 

「ねぇ、キミ」

 

シグレは少し姿勢を正して、焚き火越しに声をかける。

 

「名前、聞いてもいい?」

 

「ボクの?」

 

ワドルディは一瞬きょとんとしてから、胸を張る。

 

「ボクはワドルディ!みんなからは、バンダナワドルディって呼ばれてるよ!」

 

そう言って、いつもの癖で頭に手を伸ばし――

 

「あれ?」

 

空を掴む。

バンダナが無いことに、少しだけ目を瞬かせた。

 

「ああ、それならね」

 

シグレは焚き火のそばに置いていた布を手に取る。

湿っていた青いバンダナは、すっかり乾いて柔らかくなっていた。

 

「さっきまで濡れてたから、ここで乾かしてたんだ。ほら」

 

「わぁ……!」

 

「私はシグレって言うんだ。よろしくね。」

 

「ありがとう!シグレ!」

 

両手で受け取ったバンダナを、ワドルディは大事そうにぎゅっと握る。

 

「これ、ボクの大切なものなんだ。」

 

そう言って、バンダナを頭に巻き直した。

 

「うん、似合ってる似合ってる」

 

 

 

 

そのとき――

 

シグレの耳がぴくりと動いた。

 

 

外から、ぎゅっ、ぎゅっ、と雪を踏みしめる音が近づいてきた。

 

微かに、風に混じって息の白さと布の擦れる音。

 

(戻ってきたかな)

 

 

建付けの悪いドアがゆっくり開く。

冷たい空気が一瞬だけ流れ込み、焚き火の炎が揺れた。

 

 

「ただいま~新しい薪持ってきたよ~」

 

そしてドアの方から声がした。

 

「あ、ノドカ。任せちゃってごめんね。」

 

「大丈夫だよ…っと。」

 

薪を壁の隅に置いたノドカは二人の方を向く。

 

「あれ?目が覚めたんだ!」

 

「彼女…ノドカが君を助けてくれたんだよ。」

 

「そうなんだ!ありがとう、ノドカ!!」

 

バンダナワドルディは満面の笑みを浮かべ、短い腕をぱたぱたと振って喜びを表現する。

 

((可愛い…))

 

その様子を見ていた二人は少しだけ顔を緩ませた。

 

 

ノドカは焚き火の前に腰を下ろして両手をかざした。

 

「……あったかい……」

 

外の吹雪で冷え切っていた指先に、じんわりと熱が戻ってくる。

その様子を確認してから、シグレは改めてバンダナワドルディの方へ視線を向けた。

 

「……ねぇ、バンダナワドルディ」

 

声色は柔らかいが、どこか探るような響き。

 

「キミは…どうしてここに来たの?」

 

純粋な疑問。

そして、ほんの少しだけ混じる警戒心。

 

この場所――レッドウィンターは年がら年中雪に覆われている山。防寒具も身に着けずこんな装備で理由もなく迷い込める場所ではない。

 

 

だが、そんな空気を察する様子もなく、バンダナワドルディは首を傾げてから、素直に口を開いた。

 

 

「えっとね……」

 

焚き火を見つめながら、言葉を選ぶ。

 

「ボクたちが住んでたところに、ちょっと前から時空の裂け目ができたんだ……」

 

「ん?」「裂け目?」

 

「それで、仲間と一緒に調査しようと思って近づいたらその裂け目に吸い込まれちゃったんだ。」

 

「んん?」「ほうほう」

 

「それで気づいたらここに……」

 

そこまで言って、バンダナワドルディは二人を見上げた。

 

ノドカは完全に思考が追い付かない状態で固まり、シグレはその様子をどこか楽しそうに眺めている。

 

 

「ノ、ノドカ、大丈夫?」

 

バンダナワドルディは心配そうにノドカを見つめる。

 

「大丈夫大丈夫。ちょっと情報量が多かっただけだと思うから」

 

シグレはすぐに笑って、軽く手を振った。

 

 

そう言ってから、改めてバンダナワドルディの瞳をじっと見つめる。

 

 

迷いのない視線。

話を盛っている様子も、怯えをごまかす様子もない。

 

 

「……ふーん」

 

小さく息を吐く。

 

(嘘は、ついてなさそうだね)

 

少なくとも――

この丸くて、素直そうな生き物が悪意を持ってここに来たとは思えなかった。

 

「私の考えすぎ、かな……」

 

 

そう呟くシグレの声は、焚き火の音に紛れて消えていった。

 

 

「それで、バンダナワドルディ………ちょっとバンダナワドルディって言いづらいな…」

 

シグレが問いかけようと口を開く。

 

「ねぇ、バンダナ君って呼んでも良い?」

 

「ちょっとシグレちゃん…!いきなり慣れ慣れしすぎじゃ…」

 

小声でノドカが話すが、

 

 

「良いよ!!」

 

と満面の笑顔で返すバンダナワドルディ。

 

 

「良いじゃん良いじゃん、彼もこう言ってるんだし。」

 

「まぁ…良いって言うなら問題無いけど…」

 

 

 

「じゃあ改めてバンダナ君?君のお仲間はどこにいるかわかる?」

 

「うーん…。ごめん。わからない……。」

 

 

バンダナワドルディは目を細め記憶を手繰り寄せる。

 

「裂け目に吸い込まれた時ね……中がすごく変で……」

 

言葉を探しながら、ゆっくり続ける。

 

「途中で分かれ道みたいなのがあって……そこで、みんなとはぐれちゃったんだ」

 

 

「分かれ道……か」

 

シグレは顎に手を当て、焚き火を見つめる。

 

「ねぇノドカ。バンダナ君が落ちてた周囲に、同じような人はいなかった?」

 

「う、うん。バンダナ君だけだったけど……」

 

「そっか」

 

 

一拍、考える間を置いてから。

 

 

「二人の話を聞く限り……君の仲間たち、キヴォトスの各地に散らばった可能性が高そうだね」

 

「え?」

 

ノドカが首を傾げる。

 

「どうして?」

 

「もし全員が同じ行き先だったら、はぐれる理由がないでしょ?分かれ道があったってことは、少なくとも行き先が複数あったはず」

 

焚き火の火が、ぱちりと弾ける。

 

「君がレッドウィンターみたいな辺境に来たってことは……他の道は、キヴォトスの別の場所に繋がってた可能性がある」

 

少し考える間を置いてから、

 

「例えば……ゲヘナとか、トリニティとかね」

 

その名前を聞いて、ノドカが小さく息を呑んだ。

 

「なるほど……」

 

バンダナワドルディは仲間たちの顔を思い浮かべる。

 

「みんな……無事かな……」

 

その呟きは、焚き火の熱とは対照的に、ひどく小さく、心細かった。

 

 

 

 

一瞬、沈黙が落ちる。

 

「んー……」

 

ノドカが、空気を変えるように声を上げる。

 

「私たちだけじゃ、正直あんまり力になれなさそうだし……一回、先生に聞いてみようか」

 

 

そう言って、スマホを取り出し画面を確認する。

 

 

 

 

 

だが。

 

「あ……」

 

表示されたのは、無情な文字。

 

 

「……圏外だ……」

 

 

シグレも同じようにスマホを取り出し、画面を触る。

 

「私もだめだね、完全に圏外。この吹雪じゃしょうがないか…」

 

シグレは肩をすくめる。

 

「本校舎の方まで行けば、たぶん繋がるとは思うけど……」

 

「じゃあ、とりあえず明日…………」

 

 

二人がそんな話をしている間。

バンダナワドルディは、ふと落ち着かない様子で周囲を見渡していた。

 

 

ずっと持っていた槍が無い。

だが、銃と一緒に立て掛けられた自分の槍を見つける。

 

(……よかったぁ……)

 

ほっと胸(?)をなで下ろし、視線を焚き火の方へ戻す。

 

「……?」

 

 

自分の左側。

 

さっきまでノドカとシグレしかいなかったはずの人影が、もう一つ、小さなものが増えていることに気づいた。

 

 

毛布を肩からずり落とし、

焚き火にじっと手をかざしている、小さな人影。

 

「ねぇ……二人とも」

 

バンダナワドルディが疑問として声に出す。

 

「この人は……?」

 

「「え?」」

 

同時に振り向いた二人の視線が、焚き火の前でぴたりと止まる。

 

 

 

そこには――

いつの間にか目を覚まし、

何事もなかったかのように暖を取っているチェリノの姿があった。

 

「「……」」

 

一拍。

 

「いつから!?」

 

静かな部屋に、ノドカの声が響いた。




バンダナワドルディ

「ボクだって、カワイイだけじゃ ないんだよ!」
カービィシリーズ かいきんしょうっ。
ザコキャラの レジェンドが ヤリふるう!
頭のバンダナは ゆう気と 個せいの あかし、
のんきな パラソル持ちとは… ちがうのだっ!
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