本当にありがとうございます!
「ダ、ダークマター?」
聞き慣れない名前に、チェリノが首を傾げる。
「ダークマター……名前だけ聞くと、暗黒物質って意味だね」
「それが敵なの?」
ノドカが慎重に問い返す。
「うん」
バンダナワドルディは、はっきりと頷いた。
「僕らの国……いや、星全体を支配しようとして、攻めてきたことがあったんだ」
「……ちょっと待って」
ノドカが、今度ははっきりと言葉を止める。
「星……?」
今までも聞いたことのない国名や地名は出てきていた。
だが――“星”という単語は、さすがに次元が違う。
「うん。ボクらが住んでる星、ポップスターの事だよ。」
「じ、じゃあ……」
ノドカは、思わず息を呑む。
「バンダナ君……別の星から来たってこと?」
「うん!…そういえばさっき言ってなかったね。」
迷いのない即答だった。
その瞬間。
シグレ以外の二人が、言葉を失う。
「「…………」」
「あははっ!見たことない生き物の形をしてると思ったらそういうこと!」
焚き火の爆ぜる音とシグレの笑い声だけが、やけに大きく聞こえた。
「……ま、その話は、一旦置いておこうか。」
そう言ってから、視線をバンダナワドルディに戻す。
「それで、そのダークマターって……具体的にどういう存在?さっき言ってたけど、人を乗っ取れるって本当?」
「うん…。」
バンダナワドルディは、少しだけ表情を曇らせる。
「人の心の弱いところに入り込んで……その人が気づかないうちに操るんだ」
「操る……」
「君が言ってた、直接頭の中に響いてくるような声……あれも、たぶんダークマターの仕業だと思う」
「……なんと……」
「……もし」
バンダナワドルディは、ぽつりと続ける。
「ボク達の国の裂け目も、ダークマタが作ったものだったとしたら……」
その言葉と同時に、バンダナワドルディは立ち上がる。
焚き火の光を背に青いバンダナが揺れた。
「ボクはアイツらを、倒さないといけない!」
そう言い切ると同時に、バンダナワドルディは壁に立てかけられていた槍を手に取った。
きゅっとバンダナを締め直す仕草には、迷いがない。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
慌ててノドカが声を上げる。
「倒すって言ったって……さすがに無理じゃないかな……。その話を聞く限り、本校舎にいる生徒たちは、もうほとんど洗脳されてそうだし……」
一度言葉を区切り、現実的な不安を口にする。
「もしそうだとしたら人数差で、一瞬で押し潰されちゃうよ……」
「ノドカの言う通りだね」
シグレも頷き、焚き火の炎を見つめたまま続ける。
「このまま勢いで攻め込んでも、倒すどころか……たぶん、かすり傷ひとつ付けられない」
「う、う~ん……」
二人の言葉に、バンダナワドルディは槍を握ったまま唸る。
その様子を見て、シグレは少しだけ視線を和らげた。
「……ねぇ、バンダナ君」
考え込むように、ゆっくり問いかける。
「そのダークマターってのに乗っ取られた人を、元に戻す方法って分かる?」
「うん。一応はね。その人が、一度気絶するくらいの衝撃を受けると、元に戻るってことは分かってるんだけど……」
「……なるほど」
シグレは顎に手を当て、少し黙り込む。
焚き火の火が、ぱちりと音を立てた。
「……じゃあさ」
ふっと顔を上げ、軽い調子で言う。
「前にやったみたいに、レッドウィンターの各部活を回ってみるのはどう?」
「部活?」
チェリノが聞き返す。
「そう。簡単に言うと人を集めるんだ。」
シグレは指を折りながら説明する。
「本校舎に比べたら、各地に点々としてる部活の場所の人数は少ないはず。もし洗脳されてても、数人程度なら戦って気絶させれば元に戻せるんでしょ?」
「……あ」
ノドカが、はっとした表情になる。
「目を覚ましてもらって……そのまま協力してもらうってこと?」
「そ」
シグレは小さく笑う。
「で、でも……」
チェリノが不安そうに口を挟む。
「敵同士で連絡を取られたらまずいのではないか?その場所に増援を呼ばれたら元も子もないだろう?」
「そこは、多分そこまで気にしなくていいと思うな」
シグレは落ち着いた声で返す。
「さっきの会長の話を聞いてる限り、連絡手段は口頭だけみたいだし。……まぁ、それ以外を持ってる可能性もゼロじゃないから、警戒は必要だけどね」
シグレは続けて口を開く。
「何とかして味方を増やせれば、人数差の問題はだいぶマシになる。それに――」
少しだけ意味ありげに間を置く。
「工務部あたりが味方についてくれたら、正直かなり心強いね。」
「確かに…」
「まぁ……頭数だけで言ったら確かに工務部は心強いが……」
ノドカもチェリノも、少しずつ現実味を感じ始めた様子だった。
バンダナワドルディは、槍を握り直し、喜ぶように手をぱたぱたさせた。
「すごいよシグレ!頭良い!」
「褒めても何も出ないよ。」
そう言うシグレだが尻尾は左右にゆらゆらと揺れていた。
窓を叩く風の音が、次第に強まっていく。
吹雪が激しさを増しているのが、はっきりと分かった。
ノドカが口を開く。
「とりあえず、最初はどこに向かう?」
「う~ん……」
全員が考え込む中、チェリノが腕を組んだ。
「図書館へ向かうのはどうだ?知識解放戦線なら、前にオイラたちだけでもねじ伏せられただろ?」
「……でも今は多分、そのダークマターってやつに乗っとられて大分強くなってると思う…」
シグレが即座に返す。
「先生の指揮もないし、この前と状況も違う。正面から行って、簡単にどうこうできる相手じゃないと思うな」
「ううむ…」
「じゃあ…」
ノドカが提案しようとしたその瞬間――
窓ガラスが割れ、冷たい風が一気に教室へと吹き込んだ。
「うわあっ!?」
「な、なんだ!?」
焚き火が大きく揺れ、炎が一瞬、形を崩す。
揺らめく火越しに見えたのは、宙に浮かぶ黒い球体。
闇そのもののような質感。
そして、その中心には――
大きな“瞳”。
≪……見つけたゾ……≫
低く、直接頭に響く声。
「来たか……!」
バンダナワドルディが一歩前に出て、槍を構える。
「ダークマター…!」
「あれが……」
ノドカが息を呑む。
そして割れた窓から、さらにいくつもの黒い球体が滑り込むように侵入してくる。
≪……あのガキ……≫
≪先程のヤツか……≫
≪こんなところまで逃げていたとは……≫
「……お、お前ら……!」
チェリノの脳裏に、トモエの姿が浮かぶ。
「トモエを……トモエをどこへやった!!」
≪……貴様に答える義理などない……≫
次の瞬間。
黒い球体の一つが、一直線にチェリノへと突進した。
「うわっ!?」
反射的に腕を上げ、防御の姿勢を取る。
――だが。
チェリノに衝撃は来なかった。
恐る恐る目を開くと、目の前に迫るダークマターは槍に貫かれていた。
バンダナワドルディの槍が、正確に目を捉えている。
≪……ッ!≫
黒い影が弾けるように霧散する。
バンダナワドルディは一歩踏み込み、槍を構え直した。
「ボクが相手をしてやる! かかってこい!」
瞳を鋭く細め、正面のダークマターを睨み据える。
――だが。
槍に貫かれたダークマターが、ぶすぶすと黒い煙を上げ始めた。
だが、煙は完全に消えることなく、その場で渦を巻き――
再び球体の形を取り戻していく。
≪コ……コの程度……数秒もあレば……≫
「……っ!」
確かに、中心の“瞳”を正確に貫いたはずだった。
だが、呻くような振動を伴いながらも、ダークマターは崩れきらない。
そして、その再生を合図にしたかのように周囲の闇が動いていく。
気づけば、4人の周囲を複数のダークマターが間合いを測るように取り囲んでいた。
(まずい……!)
シグレは視線を走らせる。
(私達の武器はラックに立て掛けたまま……!)
「はあっ!!」
再び槍を突き出す。
一体、二体と貫くが――
どれも、煙から球体へと再生していく。
「……やばい!」
ノドカの焦りが、声に滲む。
「何か……私達にできることは……!」
だが、三人は攻撃を避けるので精いっぱいだった。
「くそ!こ、こっちに来るなっ!」
チェリノが、焚き火を囲っていた瓦礫を掴み、必死に投げつけた。
だが、ダークマターはそれを容易くかわしながら距離を詰めてくる。
(このままじゃ……!)
その場にいる全員が、同じ言葉を心の中で呟いた、その時だった。
焚き火を支えていた瓦礫のバランスが崩れ、炎が大きく揺れる。
それを見たバンダナワドルディの頭に、一つの打開策が走った。
そして次の瞬間には、もう声を張り上げていた。
「誰か!! 焚き火の火を、ボクの方に投げて!!」
「「「えっ!?」」」
あまりにも突飛な要求に、空気が一瞬固まる。
炎を――しかも敵ではなく、味方へ向けて投げろだなんて。
「な、なんで!?」
「お前がこちらに来るのでは駄目なのか!?」
飛んでくる声をよそに、バンダナワドルディは一歩も退かない。
その瞳には、焦りではなく、決意だけが宿っていた。
――その表情を、シグレは確かに見た。
(……何か考えがあるんだね)
それを理解した瞬間、体が先に動いていた。
「……任せて!」
焚き火へ駆け寄り、懐から先程のものとは違うカンポッドを引き抜く。
蓋を開けた瞬間、内部のアルコールの匂いが鼻を突いた。
一瞬のためらいもなく、カンポッドで炎をすくい上げる。
「……っ!」
爆ぜるように内部に火が走り、飲み口から炎が噴き出した。
熱が手のひらを焼くが、構っていられない。
「バンダナ君、受け取って!!」
燃え盛るカンポッドが宙を舞う。
「ありがとう、シグレ!」
バンダナワドルディは槍を高く掲げた。
その周囲に、淡い光が集まり始める。
やがて光は輪郭を持ち、ハートの形を描いた。
「ハ、ハート!?」
次の瞬間――
炎を宿したカンポッドが、槍へと叩きつけられた。
閃光が走る。
光と炎が絡み合い、槍全体を包み込んだ。
≪グッ……!?≫
教室の中が、一瞬、白く染まる。
ダークマターたちは一斉にのけぞり、後退した。
「眩しっ…!」
「何が起きたんだ!?」
光が収まると――
槍の先端から、勢いよく炎が燃え盛っていた。
槍を正面へ突き出し、身体ごと前へ乗り出す。
炎が応えるように爆ぜ、刃の先で渦を巻いた。
一歩、強く踏み込む。
「フレンズ能力――」
炎が槍から溢れ出す。
「メラーガスピア!!」
フレンズ能力
フレンズの力を かけ合わせて
コピー能力が さらにハデに 強力に進化!