桃色の軌跡   作:逆襲

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雪の中で出会ったのは

≪……なんだ、これは……!?≫

≪……報告には無かったぞ……!?≫

 

黒い球体が、明らかに混乱したように揺らぐ。

 

バンダナワドルディは、炎を纏った槍を構え、ダークマターに叫ぶ。

 

「お前たちがいない間に、僕たちだって強くなってるんだ!」

 

 

一瞬で間合いを詰める。

 

「まずは……お前だ!」

 

踏み込みと同時に、槍が一直線に突き出された。

 

≪ガアッ!?≫

 

瞳の中心を正確に貫いた瞬間、

ダークマターは先ほどのように霧へ変わることすらできず、そのまま光に焼き切られるように消滅した。

 

そこには黒い残滓すら残らない。

 

 

「……すごい!」

 

ノドカが息を呑む。

さっきまで何度刺しても再生していた相手が、嘘のように簡単に消えていく。

 

「まだまだぁ!」

 

バンダナワドルディは勢いを殺さず、そのまま床を蹴る。

炎の軌跡を引きながら、仲間たちの方へと一直線。

 

三体のダークマターが、死角から三人に襲いかかろうとしていた。

 

 

槍を大きく振りかぶる。

 

「ワドトリプルスロー!!」

 

手から槍が投擲される。

そして投擲された槍が三本に分かれた。

 

分身のように増えた槍が、ほとんど同時に空を裂く。

 

≪なっ――≫

≪ガアアッ―≫

≪ギャ―≫

 

三本の槍は、それぞれ寸分違わず標的を捉え、三体のダークマターを同時に貫いた。

 

爆ぜるような炎。

黒い悲鳴は、途中で途切れる。

 

 

槍が刺さった床には、焼けた空気だけが残った。

 

 

「次は誰だ!」

 

槍を構え直し、バンダナワドルディは仲間たちの前に立つ。

 

≪チッ....≫

 

≪ここは撤退だ...!≫

 

≪図書館組と合流するぞ...!≫

 

そう言いながらダークマター達は入ってきた窓から出ていった。

 

 

 

その場に残ったのは、

冷たい空気と、完全に消えてしまった焚き火の名残の煙だけだった。

 

 

「……す、すごいね、バンダナ君!」

 

最初に口を開いたのはノドカだった。

目を丸くしたまま、素直にそう言う。

 

「うん……正直、想像以上だったかも」

 

シグレも小さく頷きながら近づいてくる。

 

「い、いやいや……」

 

バンダナワドルディは照れたように頭をかく。

 

「シグレが火を投げてくれたからだよ。ありがとう!」

 

「ふふ、役に立ったなら良かった」

 

その時だった。

 

「素晴らしい!!」

 

背後から突然声がして、気づけばチェリノがバンダナワドルディをひょいっと抱き上げていた。

 

「うわあっ!?」

 

「お前!マリナに代わって、保安委員長になる気はないか!?」

 

「えっ!? いやいやいや!」

 

バンダナワドルディは慌てて手足をばたつかせる。

 

「そこまでのことはしてないよ!そ、それに僕には、もう仕えてる人がいるから!」

 

「む、むぅ……そうか。それは残念だ。」

 

チェリノは名残惜しそうにしつつ、床へと降ろす。

少しだけ空気が和らいだ、その直後。

 

「……で、これからどうしようか」

 

シグレが現実に引き戻すように口を開く。

 

「この場所が敵にバレた以上、ここに留まるのは危険だね。ここからは時間との勝負だ」

 

そう言いながら、シグレはラックから銃を取り出す。

 

「もう迷ってる暇はないね。とりあえず、さっき候補に挙がってた図書館へ向かおう」

 

「えっ、図書館?」

 

ノドカが不安そうに言う。

 

「さっきあいつら、逃げる時に“図書館組と合流”って言ってなかった?敵がいる場所にわざわざ行くの?」

 

「そ、そうだぞ!危ないんじゃないか?」

 

チェリノも腕を組んで頷く。

 

「逆に考えてみて」

 

シグレは落ち着いた口調で続ける。

 

「どうして、奴らはここを襲撃したと思う?」

 

「どうしてって……」

 

「たぶん、トモエさんを洗脳して情報を抜いたんだろうね。ここに、私たちが何人か集まってるって」

 

一拍置いて、さらに続ける。

 

「じゃあ、もう一つ。どうして“図書館”も同時に攻撃してるんだと思う?」

 

「……!」

 

ノドカが、何かに気づいたように目を見開く。

だが、それより先に――

 

「図書館に、まだ正常なやつがいるのか!」

 

チェリノが声を上げた。

 

「大正解」

 

シグレは即座に頷く。

 

「……なんかこのチビに先越されたの腹立つんですけど…」

 

「今は関係ないだろ!」

 

「つまりね」

 

シグレは全員を見回す。

 

「そこにいる人たちを先に助け出さないと、洗脳された戦力がどんどん敵側に回るってこと」

 

「……それはやばいね」

 

ノドカがごくりと唾を飲み込む。

 

「で、でも……」

 

チェリノが、不安そうに窓の外を指さした。

 

「お前達…この天候で出発するのか?」

 

 

窓の向こうでは、先ほどよりは弱まっているものの、相変わらず吹雪が荒れ狂っていた。

 

白い雪が視界を叩き、風が低く唸っている。

 

「いつもの吹雪に比べたら、まだマシでしょ」

 

ノドカは慣れた手つきで、いつものリュックを背負う。

 

「それともなに? おチビちゃんには難しかった?」

 

「オイラはこういう場所に来る想定をしていないんだ!」

 

チェリノが即座に噛みつく。

 

「それにチビって言うな! このエロガキ!」

 

「はいはい」

 

横でシグレが苦笑する。

 

「でも……確かに会長の服装だと、長時間は厳しそうだね」

 

「だったら、ボクに任せて!」

 

バンダナワドルディが一歩前に出て、

ぴょんと軽く跳び、チェリノの頭の上に乗った。

 

「お、おい!?」

 

 

次の瞬間――

チェリノの体を、じんわりとした温もりが包み込む。

 

「……なんだ?」

 

自分の手を見下ろし、目を瞬かせる。

 

「体があったかいぞ?」

 

「今のボクは、火の力を持ってるんだ。」

 

バンダナワドルディは、胸を張るように言う。

 

「だから、ボクの近くにいれば寒さなんてへっちゃらだよ!」

 

「おお……」

 

チェリノは感心したように声を漏らす。

 

 

 

「……チッ」

 

「今何か言ったか?」

 

「別にー?」

 

 

ノドカがそっぽを向く。

 

「絶対言っただろ!」

 

いつもの言い合いが始まりかけた、その時。

 

「はいはい、出発するよ」

 

シグレが手を叩く。

 

「吹雪がこれ以上強まる前に動こう。図書館でまだ助けられる人が待ってる」

 

その言葉に、不満の表情をしたメンバーがいつつも、全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごいぞ! コートも着ていないというのに、こんなに暖かいとは!」

 

吹雪の中、チェリノは感心したように声を上げた。

風は相変わらず強く、雪が視界を白く塗りつぶしているというのに、身体の芯は驚くほど冷えない。

 

一行は、知識解放戦線の拠点――図書館を目指し、雪道を進んでいた。

 

「なんかずるいなぁ……」

 

少し後ろを歩きながら、ノドカがぼそりと零す。

 

「そう言わないであげてよ、ノドカ」

 

隣でシグレが苦笑する。

 

「あそこに会長を置いていくわけにもいかないしさ」

 

「う~ん……それはそうだけど……」

 

納得しきれない様子で、ノドカは雪を踏みしめる。

 

「なぁ」

 

チェリノが、頭の上にいるバンダナワドルディへ声をかけた。

 

「バンダナ……と言ったか?」

 

「うん? 何?」

 

「いや、お前のその能力についてだ」

 

少し真面目な声になる。

 

「オイラたちにも使えるようになれば、雪など恐れる必要もなくなるのではないかと思ってな」

 

「う~ん……」

 

バンダナワドルディは少し考えるように首を傾げた。

 

「正直、ボクもはっきりとは分からないんだ。ただ……友達として心が通じ合った相手と協力すると、“フレンズ能力”が使えるようになる、ってことだけは確かで」

 

「友達として……?」

 

チェリノが聞き返す。

 

「うん」

 

バンダナワドルディは頷く。

 

「あの時、シグレはボクを信じて任せてくれたでしょ?だからフレンズとして、力を合わせることができたんだ」

 

「なるほどね……」

 

「シグレちゃん、よくあそこであんな判断できたよね」

 

ノドカが半ば呆れたように言う。

 

「カンポッドに火を入れて投げるとか、普通思いつかないよ」

 

 

「そういえば……」

 

チェリノが急に思い出したように声を上げる。

 

「あの時、なぜカンポッドから火が…………まさかお前!」

 

「何のことかな?」

 

シグレは肩をすくめて笑った。

 

「まぁもう過ぎた話でしょ。結果オーライってことで……お」

 

 

その言葉の途中で、ふっと空気が変わる。

 

吹雪の勢いが目に見えて弱まり、空を覆っていた雲の切れ間から、鈍い光が差し込んできた。

 

白一色だった視界に、少しずつ輪郭が戻ってくる。

 

 

「……っ!」

 

チェリノが息を呑んだ。

 

目の前に広がるのは、少し前に自分が命からがら逃げ延びた場所。

ダークマターに追われ、雪に埋もれ、恐怖の中で身を潜めていたあの現場。

 

 

 

雪に埋もれていた木々、荒れた地面、そして――

 

 

「あっ……!」

 

 

視線の先、雪の上に何かが転がっている。

 

 

「……オイラの……」

 

駆け寄り、拾い上げる。

それは熊に襲われ落としてしまったスマホだった。

だが、壊れてしまったのか電源が付かない。

 

「トモエ…カムラッド…」

 

 

小さく名前を呼ぶ声は、冷たい空気に溶けて消えた。

 

 

「ねぇ会長。ここがさっき言ってた場所?」

 

シグレが周囲を見回しながら尋ねる。

 

「う,うむ……オイラはあの木の根元に隠れていたのだが……」

 

チェリノはそこまで言って、ふと動きを止めた。

 

「……ん?」

 

視線の先。

木立の影が、不自然に揺れている。

 

「お前たち! あそこに……何かいるぞ!」

 

影は、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 

「て、敵!?」

 

ノドカとシグレが反射的に銃を構え、バンダナワドルディも一歩前に出て槍を握り締めた。

 

緊張が走る中――

影が、吹雪の薄れた空気の中で輪郭を持ち始める。

 

そして。

 

「あれ? ノドカちゃんにシグレも。それに……会長?一体どーゆう組み合わせ?」

 

間の抜けた、聞き覚えのある声。

 

「メルちゃん!?」「メル!?」

 

現れたのは、頭から足先まで雪まみれのメルだった。

 

「メルちゃんこそどうしたの!? こんなところで!」

 

 

「いやー、それがさぁ」

 

メルは苦笑しながら頭をかく。

 

「同人誌の背景に使えそうな良い感じの風景ないかなーって探しに来たら、足滑らせて崖から落ちちゃって…」

 

「崖から!?」

 

「でもね、雪がクッションになってくれて助かったんだよ。ただ……戻ってくるのがめちゃくちゃ大変でさ……」

 

 

ノドカが、はっとしたようにチェリノを見る。

 

「……って、それって……」

 

「さっき会長の話に出てた、崖から落ちた人……」

 

「……お前だったのか!」

 

チェリノは腕を組み、深く頷く。

 

「間接的に、オイラはお前に命を救われたというわけだな……」

 

「え? 何、何のこと?」

 

事情がまったく飲み込めていないメルに、シグレが一歩前に出る。

 

「ねぇメル。今モミジに連絡は取れる?」

 

「え? モミジに?」

 

メルは首を傾げながらスマホを取り出す。

画面を見た瞬間、目を見開いた。

 

「……うわ……何これ」

 

通知欄には、未読のメッセージがずらりと並んでいた。

 

「襲撃…?助けて…?」

 

「……やっぱり」

 

シグレが、小さく息を吐く。

 

「やっぱりって?」

 

「実はね……」

 

そこでシグレは、これまでに起きた出来事を簡潔に話す。

 

バンダナワドルディのこと、ダークマターのこと、洗脳のこと。

そして自分たちは図書館に向かっているということを。

 

 

「……私が崖から落ちてる間に、そんな漫画みたいな展開が……」

 

 

メルは呆然と呟いた。

 

「信じられないかもしれないけど」

 

ノドカが真剣な声で続ける。

 

「今、実際に起きてることなんだ」

 

「……まぁ」

 

メルは視線を上げ、チェリノの頭の上にちょこんと乗っているバンダナワドルディを見る。

 

「こんな見たことない生物見せられたら、信じるしかないよねぇ……」

 

 

「それより」

 

シグレが空気を切り替えるように言う。

 

「急ごう。モミジからの連絡、最後のやつは九分前だったでしょ?まだ持ちこたえてる可能性があるかも」

 

そう聞くと体に積もった雪を

 

「今行くよー!待っててみんなー!」

 

「ちょ、声大きいって!」

 

大声を上げるメルをノドカが慌てて止める。

 

 

こうして――

吹雪の中、さらに一人仲間を加えた一行は、図書館へと向かって再び歩き出した。




バンワド暖房はオリジナル設定ですがまぁあんな燃え盛ってる槍を持ってるなら暖かいでしょう()
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