桃色の軌跡   作:逆襲

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最近お仕事がすっごい忙しくなって金曜までは二日に一話投稿になります...
申し訳ございません...


粛清だ!粛清!!

≪どうしますか!?あの保安委員とかいうやつを出動させますか!?≫

 

≪それはできない。そいつらを出してしまえば、私達を守る最後の盾が無くなる≫

 

ダークマターは宙で身をよじるようにして考え込む。

 

≪……そうだ≫

 

ひとつの答えが、黒い霧の奥から浮かび上がった。

 

≪おい。確か整備室に“アレ”が残っていたな?そいつを出撃させろ≫

 

≪りょ、了解しました!≫

 

二匹のダークマターはそそくさと部屋から出ていく。

 

≪ククク……≫

 

≪アレなら、全員を殲滅するのに大した時間もかからんだろうよ……≫

 

 

 

-----------------------------

 

 

 

「……あ、あれは……!」

 

煙が晴れ、姿を現したのは白い車体に、やけに長い砲身。

下部にはキャタピラ、そして雪を押しのけるためのドーザー。

 

間違いない。

 

「粛清君2号!?」

 

「「……粛清君?」」

 

チェリノの叫びに皆が首をかしげる。

 

「あ、そういえば……」

 

シグレが、記憶の底から引っ張り出すように呟く。

 

「前に会長が温泉郷を壊そうとした時、これに似たのがあったような…?」

 

「そういえば!!……って、それがなんでここにあるの?」

 

 

 

 

「みんな、気を付けて……!あの戦車から、ダークマターの気配を感じる!」

 

バンダナワドルディの声が響いた、その瞬間だった。

 

 

 

空気が変わった。

 

吹き荒れていたはずの雪の音が、ふっと遠のく。

まるで世界全体が一瞬だけ息を止めたかのように。

 

この場にいる全員の背筋を、氷水が流れ落ちるような感覚が走った。

 

「……っ!」

 

言葉にならない違和感。

寒さとは違う、肌の奥を撫でられるような、不快な冷え。

 

視線が、自然と同じ一点へ吸い寄せられる。

 

エンジン音でもなければ、砲身の動きでもない。

 

 

それなのに――

 

 

 

誰かに“見られている”感覚だけが、はっきりとそこにあった。

 

 

 

 

その直後だった。

 

砲塔が、ぎこちなく、だが迷いなく旋回する。

砲身の奥が、不気味に白く発光した。

 

「来る!」

 

次の瞬間、耳を裂くような轟音と共に砲弾が放たれる。

 

バンダナワドルディは地面を蹴り、紙一重でそれを回避した。

背後で爆発が起こり、雪と瓦礫が舞い上がる。

 

「やあっ!!」

 

そのまま勢いを殺さず、戦車へ一直線に突っ込む。

炎をまとった槍が、装甲へと何度も叩き込まれる。

 

「ワド百れつスピア!」

 

鈍い音が何重にも重なって響く。

突き立てるたび、装甲の表面が赤く焼け、炎が這うように広がっていく。

 

「きゅうしょつき!!」

 

最後の一突きを放ち、爆炎が戦車を包む。

槍を突き出した衝撃でバンダナワドルディは後方へ跳んだ。

 

 

 

 

だが――

 

炎が消えたその先にあったのは、

焦げ跡こそあれど、致命的な損傷のない白い車体だった。

 

「……ええっ!?」

 

次の瞬間。

戦車の砲身が再びこちらを向く。

 

「っ、危な――」

 

 

至近距離で放たれた砲弾が地面に着弾し、凄まじい爆風がバンダナワドルディを吹き飛ばした。

 

「うわあっ!?」

 

直撃は免れたものの、衝撃で身体が宙を舞い、床の上を転がる。

 

「気をつけろ!」

 

叫んだのはチェリノだった。

 

「その粛清君2号は、弾丸や爆発で内部をやられないようにとにかく装甲を分厚く作ってある!外から叩くだけじゃ意味が無いぞ!」

 

 

 

「くそっ!」「くらえっ!」

 

他の生徒たちも一斉に銃を撃ち始める。

だが、火花を散らすだけで、分厚い装甲には傷一つ付かない。

 

次の瞬間――

戦車の砲塔が、ゆっくりとその生徒たちへ向いた。

 

「やばっ……!」

「逃げろーっ!!」

 

無慈悲な砲撃が放たれ、爆炎が雪を巻き上げる。

衝撃波が建物を揺らし、悲鳴が混じった。

 

「まずい……このままじゃ……」

 

ノドカが、歯を噛みしめる。

 

「あれ!何か弱点とか無いの!?」

 

「う、う~む……」

 

チェリノは腕を組み、顎に手を当てた。

必死に、記憶を探る。

 

 

 

 

「……確か……」

 

チェリノは素早く周囲を見渡す。

そして、あるものに目を留めた。

 

「……これなら……!」

 

 

 

 

ノドカ達の視線の先では――

相変わらず、前線でバンダナワドルディが戦車を引き付けていた。

 

砲撃をかわし、槍を振るう。

だが致命打には至らない。

 

完全に、時間稼ぎの戦い方だった。

 

「バンダナ!!」

 

その時、背後からチェリノの声が響く。

 

振り返ったバンダナワドルディの視界に飛び込んできたのは、

両手いっぱいに抱えられた、大きな雪玉だった。

 

「それっ!!」

 

投げる、というより叩きつける勢い。

 

意味を理解するのに、時間は要らなかった。

 

「……!」

 

バンダナワドルディは、即座に槍を高く掲げる。

 

キラリ――

槍身が光り、ハート型の紋様が空中に集束していく。

 

次の瞬間。

 

投げられた雪玉が、槍の穂先に触れた。

 

 

何かが弾けるような眩い光。

 

白い光が室内を染め、視界が一瞬、塗り潰される。

 

「うわっ!?」

 

「この光は…!」

 

 

やがて光が収束したその先にあったのは――

 

先ほどまで燃え盛っていた炎ではない。

 

穂先に、鋭く凝縮された氷塊が纏わりついていた。

 

冷気が、空気を軋ませる。

 

 

バンダナワドルディは、その感触を確かめるように槍を握り直し、

力強く叫んだ。

 

「ブリザスピア!!」

 

 

「おおっ!氷の槍だ!」

 

「これもさっきのフレンズ能力とか言うやつ?」

 

驚きと疑問を浮かべる二人をよそにチェリノは叫んだ。

 

「バンダナ!キャタピラの車輪を狙え!!」

 

「了解!」

 

バンダナワドルディは即座に跳び出した。

砲身の動きを読み、砲撃を紙一重でかわしながら、戦車の側面へ回り込む。

 

「お前達!バンダナに攻撃が集中しないよう牽制しろ!」

 

 

「会長に指揮してもらう日が来るとはねぇ~」

 

「……なんかムカつく」

 

「うるさいエロガキ!黙って撃て!!」

 

「何ですって!?」

 

 

言い合いながらも、二人の動きは止まらない。

ノドカのサブマシンガンとシグレのグレネードランチャーが火を吹き、別方向から攻撃が叩き込まれる。

 

『各員!二人に続け!』

 

ミノリの指示もあり様々な方向から銃弾が襲い掛かる。

 

 

多方向からの攻撃に、戦車の砲身が迷うように揺れた。

バンダナワドルディへの敵視が、明らかに散る。

 

「そりゃあっ!!」

 

バンダナワドルディは、滑り込むように接近し――

キャタピラの隙間へ、氷を纏った槍を深々と突き立てた。

 

 

金属音と同時に、氷が一気に侵食する。

 

槍を引き抜く間もなく、再び突き刺す。

そして、もう一度。

 

間髪入れずに、連続で打ち込まれる氷槍。

キャタピラの内部で、嫌な音が鳴り始める。

 

 

氷の棘が瞬く間に生成され、車輪と車輪の間に噛み込み、絡み付き、逃げ場を塞いでいく。

 

車輪が虚しく空回りし、

戦車の巨体は、その場で完全に身動きを失う。

 

だが――

それでも、終わりではなかった。

 

異変に気付いたのか、戦車は無理やり片輪だけを回し、

ぎこちなく車体を軋ませながらその砲身をバンダナワドルディへと向ける。

 

「あっ……!」

「危ないっ!!」

 

砲身が鈍く光る。

 

「させるか!!」

 

バンダナワドルディは跳び、一直線に砲身のへと槍を突っ込んだ。

砲口の奥深くへと槍が突き刺さる。

 

瞬時に――

氷が炸裂するように広がった。

出口は分厚い氷塊によって完全に塞がれる。

 

 

次の刹那。

砲弾が発射された。

 

だが、出口を失った砲弾は、氷の栓に深々と突き刺さり推進力を失う。

 

 

そして――

内部で、眩い光が膨張した。

 

 

砲身ごと、凄まじい爆発が起こる。

 

 

衝撃波が広がり、白い戦車の前部がひしゃげるように歪んだ。

 

「すごい…!」

 

「おぉ…!」

 

シグレとノドカは、その洗練された動きに思わず息を呑む。

 

(くっ……分かってはいる……分かってはいるのだ……だが、目の前で粛清君が…)

 

チェリノの胸に、複雑な感情が渦巻く。

 

 

 

次の瞬間、爆煙の中から重く、濁った駆動音が響いた。

 

 

砲身は吹き飛び、その衝撃でドーザーも大きく歪んでいる。

それでも戦車は、なおも動こうとしていた。

 

「……まだ…!」

 

バンダナワドルディが叫ぶ。

 

 

車体の奥――

ダークマターの気配が、はっきりと残っていた。

 

 

その様子を見て、ミノリは一切の迷いもなく拡声器を握り締めた。

 

『爆発物を持っている者!今すぐあの戦車の内部に放り込め!!』

 

「「「了解!!」」」

 

ミノリの指示を受けた工務部の部員たちが、待っていましたとばかりに動き出す。

数人が戦車を取り囲み、慣れた動きで車体によじ登る。

 

「なんか硬いな」「これ使おう」「せーのっ!」

 

固定されていたハッチがバールのようなもので無理やりにこじ開けられた。

空いたハッチからは機器が出したのかダークマターのものかわからない黒煙が上がった。

 

その中へと次々に放り込まれていくのは、爆薬、手榴弾、ダイナマイト。

 

 

『着火!』

 

一人が手榴弾のピンを抜き、

 

一人がダイナマイトに火を点け、

 

一人がグレネードランチャーを構える。

 

 

 

――そして。

 

それらすべてが、戦車の内部へと吸い込まれた。

 

『退避ーーー!!!』

 

その声と同時に、戦車の上にいた部員たちが蜘蛛の子を散らすように飛び退く。

 

 

 

数秒の、異様な静寂。

 

次の瞬間――

 

 

戦車は、内側から完全に吹き飛んだ。

 

金属片と黒煙が空へと舞い上がり、白かった車体は無残な残骸へと変わる。

どろりと立ち上った黒煙は、風に流されるようにして、壁の破壊跡から出ていった。

 

「……お、終わった…のかな」

 

ノドカが、恐る恐る呟く。

 

バンダナワドルディは槍を下ろし、残骸となった戦車をじっと見つめてから、ゆっくりと頷いた。

 

「うん……この戦車にいたダークマターの気配は、もう無いよ。」

 

「良かったぁ……」

 

周囲から、ほっと息を吐く音が重なる。

 

「おぉ…粛清君…」

 

その中で一人だけ残骸を見つめ涙を流すチェリノの姿があった。

 

 

 

 

その時だった。

 

パタパタ、と雪を踏みしめる足音。

 

「いたいた! すごい音だったけど皆大丈夫!?」

 

「無事ですか!?」

 

建物の影から現れたのは、メルやモミジが率いる知識解放戦線のメンバーたちだった。

 

「モミジ!メルちゃん!」

 

「良かった。そっちには何も行ってなかったんだね。」

 

互いの無事を確認するように、声が交わされる。

 

「洗脳されてた人たちも、みんな正気に戻ったよ!ほら!」

 

メルが後ろを向くと知識解放戦線に加え給食部やその他大勢の生徒達がいた。

 

「丁度襲撃されたタイミングがお昼どきだったから皆食堂にいたみたい。」

 

「私達の手にかかればこの程度朝飯前です!」

 

モミジが少し誇らしげに言う。

 

レッドウィンターの中でも指折りの大所帯――知識解放戦線。

噂に違わぬ物量だ。

 

「流石だね、知識解放戦線……」

 

そう呟きかけて、シグレは一瞬だけ言葉を切る。

視線の先では、戦線のメンバーたちがやけに目を輝かせていた。

普段以上に動きが軽く、声もやたらと大きい。

 

「……いや、これは……」

 

「うん……」

 

ノドカが小さく笑う。

 

「報酬が効いてるね……」

 

「聞いた瞬間の目の色、完全に別人だったもんね……」

 

士気、というよりもはや執念。

だがそれが、今はこれ以上なく頼もしい。

 

 

 

「こちらも問題なく片付いた。」

 

気づけば、その場にはかなりの人数が集まっていた。

 

工務部。

知識解放戦線。

環境美化部にレッドベア編集部、唐揚げにレモンをかけることを許さない革命家集団……その他多数。

 

 

それぞれが武器を手にし、

同じ方向を向いて立っている。

 

 

シグレが周囲を見回し、静かに言った。

 

「……これだけいれば、大丈夫そうだね」

 

「うん」

 

ノドカも頷く。

 

「やっと、反撃のタイミングが生まれた。」

 

その時。

 

チェリノが、ゆっくりと前に出た。

 

雪に汚れた服のまま、

だがその視線は、いつものように真っ直ぐだった。

 

「――皆の者」

 

全員の視線が、自然と集まる。

 

チェリノは、本校舎の方角を指差した。

 

遠くに見える、巨大な校舎群。

その上空には、まだ無数のダークマターが漂っている。

 

「我々をこんな目に合わせたダークマターとかいう奴を、オイラ達の手で殲滅するのだ!!!」

 

 

「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

その号令に誰も異を唱えない。誰も迷わない。

 

 

「普段だったら嘘のような一致団結具合だね…」

 

「そう?この前のイワン・クパーラの時もこんなじゃなかった?」

 

ノドカとシグレが言葉を交わす。

 

 

 

その前でバンダナワドルディは槍を握り直し、前を見据える。

 

「行こう!!」

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