桃色の軌跡   作:逆襲

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あけましておめでとうございます。
2026年もよろしくお願いします。

こちらを清書している途中でイロハの「お時間いただけますか」が始まりました...。もう働く気になれません...。


終章:ゼロ
シャーレの夜とゲヘナの朝


「ふぅ……」

 

日が傾き始めた頃、一人の男性が椅子の背にもたれ、軽く伸びをした。

今日の業務は当番の生徒の手際の良さもあって一段落ついた。

だが、それとは別に机の上に書類が積み重なっていた。

 

部屋の中に、夕焼けの光が差し込む。

照明の白と夕日の橙が重なり合い、壁や書類をまだらに染めていた。

 

「……さてと」

 

先生は、目の前に並べられた資料へ視線を落とす。

 

――ゲヘナ:季節外れの大雪。

 

――トリニティ:記録的な豪雨と雷害。

 

――ミレニアム:原因不明の機械暴走の多発。

 

 

「…………」

 

偶然で片づけるには起きた時期や現象が似すぎている。

どれも単独犯で引き起こせる規模ではない。

 

 

そして――

まだ正式な報告が上がっていない地域。

アビドス、レッドウィンター、百鬼夜行、山海経…etc。

何も起きていないと考える方が、むしろ不自然だった。

 

 

当番のノアから聞いた話では、ミレニアムの機械が暴走している原因はヴェリタスや特異現象捜査部ですら、決定的な原因は掴めていないという。

 

先生は小さく息を吐き、机の上の資料を見つめた。

 

他校の問題解決を、他校の生徒に相談するわけにはいかない。

ノアとはミレニアム自治区の件についてだけ簡単に話し合ったものの、得られた情報は「黒い煙が出ていた」程度。

原因も目的も掴めず、進展は芳しくなかった。

 

「……一回、皆に連絡してみるかな」

 

スマホを手に取り、電源を入れる。

その瞬間、モモトークの通知音が鳴った。

 

「……ヒナ?」

 

ちょうど連絡しようとしていた相手の名前が、通知欄に表示されている。

 

-------------------------

 

<先生、少し時間をもらえるかしら。

 

 

大丈夫だよ>

 

 

<実は――

 

-------------------------

 

ヒナからの連絡を要約すると、こうだ。

 

ゲヘナの大雪の原因は、別の星から来た生物によるものだった。

さらに、その生物と敵対していたらしい「デデデ大王」と名乗る、また別の星の存在と協力し、それを撃退したことで大雪は収まったという。

 

一緒に送られてきた写真には、赤いガウンを羽織った青い肌の巨大なペンギン――

そんな表現しかできない生物が、イブキと親しげに会話している様子が写っていた。

 

 

 

……にわかには信じ難い話だ。

 

だが、ヒナは少なくともこういった状況で嘘をつくような生徒ではない。

もとより生徒によるものなら嘘であろうと信じるのだが。

 

 

そして何枚か追加で写真が送られてきた。

それには何かの絵?のようなものが書かれていた。少なくとも見覚えは無い。

 

-------------------------

 

<先生、もしこの絵に描かれてる生物がいたら教えて。

 

<さっき言ったデデデ大王の仲間らしいわ。はぐれてしまったらしいの。

 

わかった。明日ゲヘナに行く用事があるから、その時にでも話そうか。>

 

<!!

 

<え、えぇ。待ってるわ。

 

--------------------------

 

モモトークを閉じ、現在の時刻を確認する。

それからスマホを机に置き、先生は再び資料へと視線を戻した。

 

シャーレの照明は、日が完全に落ちてからもしばらくの間、

変わらず静かに室内を照らし続けていた。

 

 

--------------------------------------

 

 

 

 

 

「ふぁああ……」

 

カーテンの隙間から差し込む光に、思わず声が漏れる。

ゆっくりと目を開くと、そこには見慣れない天井があった。

 

「……よく寝たわい」

 

そう呟き、壁際のハンガーに掛けてあったガウンを手に取る。

 

「さて……今日はどうするか」

 

カーテンを開け、窓の外へ目を向ける。

窓枠に止まっていた鳥たちは、気配を察したのか一斉に羽ばたいて空へ散っていった。

 

(あいつらを探すついでに、カスミたちが作った温泉にでも行ってみるか……?)

 

ガウンに袖を通し、腹巻をぐいと締め直す。

すると、そのタイミングを待っていたかのようにぐぅとお腹の音が鳴った。

 

(…その前に腹ごしらえだな。確か、嬢ちゃんの話では食堂があると言ってたか)

 

 

 

ドアノブを回し、廊下へ出る。

 

そこには、数人の生徒たちの姿があった。

立ち話に花を咲かせる者、観葉植物に水をやる者。

光景は実にまちまちで、どこか穏やかだ。

 

昨日は、情報が行き届いていなかったせいで不審者扱いされ、ちょっとした騒ぎにもなったが今では、誰も彼のことを気に留めていない様子だった。

 

「あ、デデデ大王さんだ!!」

 

と背後から何か声がした。

 

「む? この声は……」

 

振り返ると、満面の笑みで手を振る少女と、その手を引くようにして立つ、もう一人の少女の姿があった。

 

「おはよう、イブキ。それと……確か、イロハと言ったか。」

 

イブキは小走りでこちらへ駆け寄ってくる。

その後ろを、イロハがゆっくりと付いてきた。

 

「おはようございます!」

 

「……おはようございます」

 

元気よく頭を下げるイブキと、

形だけながらも丁寧に会釈するイロハ。

 

「お部屋に何か問題はありませんでしたか?」

 

「うむ。特に困ったことはなかったぞ」

 

「それは良かったです。本日のご予定は?」

 

「街を探索してみるつもりではあるが……とりあえず腹が空いてな。食堂に行こうと思っているぞ」

 

「えー! イブキたちも食堂に行こうとしてたんだよ!一緒に行こ!!」

 

「おお、奇遇だな。それなら、ご一緒させてもらうか」

 

イブキはそのまま、デデデの手を取った。

 

「食堂はこっちだよ!」

 

そう言って、二人を引っ張るように歩き出した。

 

 

 

 

 

 

イブキに案内されるまま、廊下をいくつか曲がる。

進むにつれて人の気配が濃くなり、ざわめきが次第に大きくなっていった。

 

「もうすぐだよ!」

 

扉の向こうから、明らかに朝とは思えない騒音が漏れてくる。

 

「……ずいぶんと賑やかだな」

 

「いつもは朝ですともう少し静かなんですが……今日は少し騒々しいですね…」

 

イロハがそう言い終える前に、

イブキが勢いよく扉を開けた。

 

「なんだこの味!!」

「昨日より薄くなってない!? 水かよ!!」

「こんなの食えるか!!」

 

怒号が一斉に飛び交う。

 

その声にびっくりしたようにイブキはイロハの後ろに隠れてしまった。

 

食堂の中は、想像以上の光景だった。

広大な食堂には、生徒が隙間なく詰め込まれている。

長机は端から端まで埋まり、通路には立ち食いしている生徒までいた。

 

奥では、配膳口を囲むように人だかりができている。

 

「給食部出てこい!!」

「味をどうにかしろ!」

 

トレーを叩く音。

椅子を蹴る音。

 

 

一触即発――

いや、すでに半分は火がついていた。

 

「……なるほど」

 

デデデは腕を組み、食堂全体をゆっくりと見渡す。

 

給食部のカウンター奥には、その暴動に戸惑う二人の生徒の姿があった。

 

「人数が多すぎる上に、作る側の人手は二人。これで味を保てという方が無茶だろうな…」

 

 

だが、その事情などお構いなしに、不満と怒りは膨らみ続ける。

やがて、一人の生徒が天井へと銃口を向けた。

 

「もう我慢できねぇ!!」

 

乾いた発砲音が鳴り響く。

それを合図に、食堂の空気は一気に荒れた。

 

 

 

 

 

だが、その騒動も十秒と持たなかった。

 

次の瞬間――

その空気を、別の“圧”が上書きした。

 

「……」

 

背後で、靴音が一つ。

 

それだけだった。

イロハの視線が、はっと後ろへ向く。

 

「あ、お疲れ様です。」

 

イロハと一緒に振り向いたイブキが目を見開く。

 

「ヒナ先輩だ!」

 

その名前が食堂内へと漏れた途端、食堂の空気が一気に凍りついた。

 

 

黒い制服に身を包み、いつもより引き締まった視線で、食堂全体を見渡す少女。

 

「……」

 

何も言わない。

ただ、ゆっくりと歩を進める。

 

デデデ達は何も言わず道を開け、その間をヒナが通っていく。

 

 

 

「……や、やべぇ……」

 

暴動を起こしていた生徒が後ずさる。

 

先ほどまで怒号を上げていた生徒たちが、

まるで波が引くように距離を取っていく。

 

天井へ向けられていた銃口が、震えながら、下がった。

 

「こ……これは、その……」

 

言い訳にならない言葉が宙に消える。

 

ヒナは立ち止まり、ただ一人、銃を構えたままの生徒へ視線を向けた。

 

 

 

――次の瞬間、

その生徒は銃を取り落とし、踵を返して走り出した。

 

それを合図に、堰を切ったように人が散る。

 

「逃げろ!!」

「風紀委員長だ!!」

 

椅子が倒れ、トレーが床に落ち、さっきまでの騒乱が嘘のように、生徒たちは蜘蛛の子を散らすように消えていった。

 

残ったのは、荒れた食堂と立ち尽くす給食部の二人。

だが、二人はすぐにヒナの姿に気づき、ほっとした表情でこちらへ駆け寄ってくる。

 

「ありがとう委員長!助かったわ!」

 

「……こ、怖かったです……」

 

「いつもお疲れ様、フウカ、ジュリ。天井の修理費はこちらで万魔殿に連絡しておくわ」

 

ヒナも嫌そうな顔をして答えた。

 

「……お互いに苦労するわね……」

 

「そうね……」

 

そう言ってから、ヒナはふと思い出したように視線を上げる。

 

「……っと、そうだ」

 

そのまま、デデデの方へ向き直った。

 

「デデデ。今日はあなたに用があるわ。昼過ぎくらいに、風紀委員室に来てちょうだい」

 

「お、おう。わかった」

 

「それじゃ」

 

用件はそれだけと言わんばかりに、ヒナは踵を返し、その場を離れようとする。

 

 

 

だが――

 

「待って!」

 

イブキが、その手をつかんだ。

 

「ヒナ先輩も朝ごはん一緒に食べよ?皆で食べた方が美味しいよ!」

 

「え、あ……いや、私はまだ事後処理が……」

 

ヒナがそう断ろうとした、その時だった。

 

『ヒナ委員長!』

 

通信越しに、聞き慣れた声が割り込む。

 

『事後処理はこちらで進めておきます!ですから、ちゃんと食事を取ってください!昨日もカロリーマッチしか口にしていないでしょう!?』

 

「ア、アコ!?というかなんでそれを……」

 

『委員長が倒れたら、それこそ大問題ですから!しっかりと食べてくださいね!』

 

言うだけ言って、通信は一方的に切れた。

 

「ちょうどさっき出来たものがあるから!それで良かったら、食べていって!」

 

フウカも、少し照れたようにしながら笑顔を向ける。

 

「……まぁ、そういうこった!」

 

デデデは大きく声を上げると、

ヒナの背中を軽く押した。

 

「皆で食べるぞ!」

 

「食べよー!」

 

イブキも便乗するように、もう一押しする。

 

「まあいいじゃないですか、風紀委員長。しっかり食べて、しっかり風紀を守ってもらわないと」

 

「……イロハまで…」

 

ヒナは小さく息を吐き、観念したように肩を落とした。

 

「……はぁ。分かったわ」

 

そう言って、ヒナはデデデたちと並び、再び食堂の中へと足を踏み入れた。




お疲れ様枠でセナかヒナが来ないかずっと待ってます
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