桃色の軌跡   作:逆襲

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ブルアカふぇすお疲れ様でした!
いやー……二日参加しましたがもう驚きの連続でした……

今週から通常ペース(2~3日に更新)に戻ります。





全てを"ゼロ"に

シャーレの建物前に、黒い車が静かに停車する。

 

後方の黒いドアが開き、

大きさの異なる三つの影が、順に地面へと降り立つ。

そしてその影は運転席側へと歩いていく。

 

「ごめんね、セナ。足として使っちゃって……」

 

「お気になさらず。先生の必要とあらば、いつでもお呼びください」

 

落ち着いた口調でそう答えながら、セナは軽く一礼する。

 

「ワシからも感謝するぞ。まさかワシの体が入る車が無いとは思わなんだ。ガハハ!」

 

デデデは腕を組み、豪快に笑った。

 

「丁度セナの車両が空いていて助かったわ」

 

「ありがとう、セナ。このお礼は、また会った時にでも」

 

先生の言葉に、セナは一瞬だけ目を細め、ほんのわずか、柔らかな笑みを浮かべた。

 

「はい。それでは」

 

そう言い残し、セナは運転席の窓を閉める。

 

黒い車はゆっくりと走り出し、やがて角の向こうへと姿を消した。

その余韻が残るように、シャーレの前には短い静寂だけが漂っていた。

 

車の音が完全に聞こえなくなった後、デデデ大王は目の前にそびえるビルを見上げる。

 

「ほぉ……ここがおぬしらが言っていた、シャーレというやつか」

 

「はい。立ち話も何ですから、中にどうぞ。」

 

先生に促され、デデデ大王とヒナはシャーレの建物の中へと足を踏み入れていった。

 

 

 

 

 

執務室のドアが開く。

 

その瞬間、二つの人影が視界に飛び込んできた。

 

「あ、先生。おかえり~」

 

「先生!お帰りなさい!」

 

一人はいつもの調子で、もう一人は真面目そうな――どこか取り繕った挨拶をする。

 

「待たせてごめんね。シグレ、ノドカ」

 

先生がそう声をかけながら部屋へ入る。

続いてヒナ、そしてデデデも執務室へと足を踏み入れた。

 

「大王様ーー!!」

 

その瞬間、丸い何かが一直線にデデデの顔めがけて飛んでくる。

だがデデデは慌てることもなく、腕を広げそれを難なく受け止めた。

 

「バンダナワドルディ!よく無事だったな!」

 

「大王様も……ご無事で……!」

 

互いの声が、重なる。

その光景を少し離れたところから眺めながら、シグレがぽつりと呟いた。

 

「お~……感動の再会って感じだねぇ…」

 

(やっぱり、他の自治区にいたっていう読みは合ってたみたいだね)

 

バンダナワドルディの嬉しそうな表情を見て少しだけ尻尾が揺れる。

そのままシグレは先生とヒナに視線を移した。

 

「…何かしら」

 

その視線に気が付いたヒナはシグレの方に近づいていく。

 

「いや?特に何もないですよ~」

 

「…そう」

 

(とは言え…ゲヘナの風紀委員長さんが来るとは……もしかしてトリニティとかのお偉いさんも来るのかな?)

 

 

 

 

日も沈みかけ、空が暮れ色から暗い青に染まり始めた頃。

シグレの読みが当たるようにシャーレの建物前に一台の白い車が滑り込むように停まった。

 

「さあ、着いたよ」

 

セイアはサングラスを上げ、助手席のメタナイトの方を見る。

 

「セイア殿、感謝する」

 

メタナイトはドアを開け、スッと地面に降り立った。

 

「ナ、ナギちゃん……大丈夫?」

 

ミカが慌てて声をかける。

後部座席から降りようとしたナギサは、明らかに顔色が悪かった。

 

「……」

 

揺れる視界を誤魔化すように、ナギサは一度深く息を吸う。

 

(どうして……どうしてメタナイトさんは、あんな運転で平然としていられるんですか……?それとも……私の感覚の方がおかしいのでしょうか……)

 

ふらり、とナギサの視界が揺れる。

 

「ナギサ殿。無理は禁物だ。体調が優れぬのなら――」

 

「い、いえ……問題ありません……」

 

言葉とは裏腹に、ドアを開けて地面に降り立ったナギサの足取りは、どこか心許なかった。

 

すぐさまミカが肩に手を回し、そっと体を支える。

 

「ナギちゃん、ほら、ゆっくりでいいから。」

 

「……すみません」

 

二人は歩幅を合わせ、シャーレのエントランスへと向かっていく。

 

「私は駐車場に車を停めてくる。君も、ナギサたちと先に行っていてくれたまえ」

 

「うむ」

 

短く答え、メタナイトはマントを翻しながら歩き出す。

 

やがて、

ナギサとミカ、そしてメタナイト――

三人分の足音が、シャーレの建物の中へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

――だが、その静けさは長くは続かなかった。

 

直後、今度はまったく違う調子の足音が、ドタドタと勢いよく近づいてくる。

 

「はぁ、はぁ……とうちゃーく!!」

「パンパカパーン!アリス達は目的地に到着しました!!」

 

勢いよく飛び込んできたのは、モモイとアリス。

そのすぐ後ろから、息を整えながらミドリが追いついてくる。

 

「ちょ、ちょっと……二人とも早すぎるって……!」

 

「そう?……ってあれ? ユズは?」

 

モモイが周囲を見回した、その瞬間。

 

「お姉ちゃんたちが早すぎるから、ほら……!」

 

ミドリが後方を指差す。

 

そこにいたのは――

マホロアに抱え上げられ、完全に力尽きた様子のユズだった。

 

「チョットー!皆、速すぎるヨォ!」

 

マホロアはユズを頭上に抱えたまま、三人の前でぴたりと足(?)を止める。

 

「えー?そうかなー?」

「ソウダヨ! モモイとアリスっタラ、電車のドアが開いタ瞬間、すぐ走っテいっチャウんだモノ!」

 

「ユズちゃん……大丈夫?」

 

ミドリが心配そうに声をかける。

ユズは荒い息を整えるのに精一杯で、言葉を返す余裕はない。

 

「だ…大丈夫…」

 

それでも、ユズは必死に親指を立てた。

 

「……よ、よし!じゃ、さっそくシャーレに行こう!」

「はい! マホロア! こっちです!」

 

「ちょ、ちょっと待って――ユズちゃんが一度落ち着いてから……!」

 

ミドリの制止も虚しく、モモイとアリスはすでに建物の奥へと歩き出していた。

 

「もう……」

 

ミドリは小さくため息をつき、マホロアの方を見る。

 

「悪いけど、マホロア……ユズちゃんをそのまま運んでもらってもいい?」

 

「ウン。構わないヨ」

 

そう答え、マホロアはユズを抱え直す。

 

ミドリとマホロアは、ドタバタとした余韻を残したまま、シャーレの中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舗装された道を、自転車が軽快に進んでいく。

いつもの通学路とは違い砂はない。だが、この道もシロコにとっては走り慣れたものだった。

 

(……見えてきた)

 

少し顔を上げる。

周囲の建物よりもひときわ高くそびえるビル――シャーレが、視界の先に姿を現す。

 

執務室があるであろう階層には、はっきりと明かりが灯っていた。

ここからでは見えづらいが執務室があるであろう階層の窓には人影がいくつも見える。

 

 

歩行者信号が赤を灯す。

横断歩道の前で彼女は一度立ち止まった。

 

 

「ぽよ?」

 

自転車が止まったのに反応して、バッグの中からカービィがひょこっと顔を出す。

 

「ん。あと少しで着く」

 

シロコは一瞬カービィへと視線を向け、すぐに前へ戻す。

 

「もう少し待ってて――」

 

 

 

 

 

……そう言っている最中だった。

胸の奥を撫でるような、ぞくりとした感覚。

空気が、一瞬だけ歪んだ気がした。

 

「……!?」

 

視線の先。

ついさっきまで、確かに何もなかった場所。

 

シャーレのビルの正面――

そこに、“それ”は浮かんでいた。

 

輪郭は不明瞭で、白く、空間そのものを汚しているかのような存在。

ただ浮いているだけなのに、周囲の光が吸い取られ、音さえ遠のく。

 

「なに……あれ………」

 

人でも無い、獣でもない、機械のようでもあり天使のようなそれの異形な姿に思わず言葉が漏れる。

バッグの中にいたカービィも同じようにそれを見ていた。

 

 

 

 

 

次の瞬間。

 

それの前にあったはずのシャーレのビルが、轟音とともに砕け散った。

 

衝撃波が地面を揺らし、空気が爆ぜる。

壁は、窓は、床は、形を保つ間もなく瓦礫となって吹き飛んだ。

 

 

 

それを目にした瞬間、シロコの脳裏をひとつの嫌な予感が駆け抜ける。

 

「先生!!」

 

信号が赤のままだということなど、もう視界に入らなかった。

シロコは反射的にペダルを踏み込み、自転車を前へと走らせる。

 

背後から、いくつものクラクションが鳴り響く。

だが、今はそんなものに構っている余裕などなかった。

 

 

 

 

必死にペダルをこぎ続け、気がづけばシャーレの建物があった場所の目の前に立っていた。

 

先ほどまで、確かにそこに浮かんでいた白い姿はもう無い。

 

 

今ここに残されているのは――

数分前までシャーレだった“何か”だけだった。

 

「……先生!」

 

バッグからカービィを取り出すことすら忘れバッグを放り出し、シロコは瓦礫の山へと駆け出す。

 

 

 

先生は、銃で撃たれただけでも致命傷になりかねない。

それでも不思議な力で、銃で撃たれた時もシャーレのビルが爆発した時も生きていた。

 

 

 

 

無事だ。

 

 

 

 

無事なはずだ。

 

 

 

 

そうであってほしい、という願いを、必死に“確信”へと変えようとしながら、彼女は瓦礫をどかし始めた。

 

「ぽよ…」

 

カービィは放り出されたバッグの中からシロコの後ろ姿を心配そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

「……な……なんだい、これは……」

 

掠れた声が、崩れた空間に響く。

 

目の前に広がる惨状。

つい先ほどまで、確かに存在していた建物は、見る影もなく崩れ落ち、瓦礫の山と化していた。

 

 

常識では考えられない光景だった。

 

その上で瓦礫の山に縋りつき、まるで何かに取り憑かれたかのように掘り続ける少女。

 

制止するべきだと、頭では理解している。

だが、その背中から伝わってくるのは、理屈を拒絶するほどの必死さだった。

 

少女は無我夢中で、石を、鉄骨を、壊れた壁を手当たり次第にどかしていく。

 

「き、君! 一体、何が――!」

 

セイアは、その異様な光景に息を呑みながら、少女のもとへと駆け出した。

 

 

 

「何があったんだ!」

 

声をかけても、反応はない。

まるで、自分の声だけではなく周りの音自体が届いていないかのようだった。

 

「先生……!先生……!」

 

少女は、震える声で名前を呼び続ける。

 

「おい!」

 

セイアは一歩踏み込み、少女の肩を掴み無理やりにでもこちらを向かせようとする。

 

「邪魔……しないで……!」

 

掠れた声が、拒絶するように吐き出された。

 

「邪魔をするつもりはない!だが、ここで何があったのかを聞かせてくれ!」

 

 

 

その言葉に、少女の手が止まった。

 

次の瞬間、堪えきれなかったものが、頬を伝って零れ落ちる。

 

涙だと気づいた時には、すでに何粒も、瓦礫の上へ落ちていた。

 

 

 

 

遠くで、サイレンの音が聞こえる。

誰かが消防や救急に連絡を入れたのだろう。

 

 

 

 

少女は、震える声で言葉を探す。

 

「シャーレの前に……巨大な、白いのが……出てきて……」

 

一度、言葉が途切れる。

 

「……気がついたら……シャーレが……爆発して……」

 

そう話すと少女は再び瓦礫の山をどかし始める。

自分の存在など気にすることも無く。

 

 

 

「……な……なんだって……」

 

にわかには信じ難い。

だが、今の現状がそれを物語っていた。

 

セイアは、言葉を失ったまま、

瓦礫の山と、涙を流しながらそれをどかしていく少女を見つめるしかなかった。

 

 

 

 

 

サイレンの音は、次第に大きくなっていった。

 

ほどなくして、消防車と救急車がシャーレの前に滑り込む。

赤色灯が瓦礫の山を照らし、粉塵の中に無機質な光が走った。

 

「こちら消防!現場を確保する!」

「危険です!下がってください!」

 

防護服に身を包んだ隊員たちが、手際よく規制線を張り始める。

 

 

セイアの肩に、強い手がかけられた。

 

「待ってくれ!この下に人がいるかもしれないんだ!」

 

「分かりますが、二次崩落の恐れがあります!まずは離れて――」

 

「くっ…!」

 

セイアはそのまま、半ば強引に瓦礫から引き離される。

 

「ほら、あなたも!」

 

シロコの肩に手が置かれる。

 

 

だが――

 

「……嫌」

 

短く、低い声。

 

「離れない」

 

シロコは、救急隊員の制止を振り切るように、再び瓦礫へと手を伸ばした。

 

「やめなさい!」

 

「まだ……!」

 

声は震えていた。

理屈ではなく、ただ一つの思いだけが、彼女を動かしていた。

 

二人がかりで止めようとしても、シロコは頑なに首を振る。

 

「先生が……ここにいる……!」

 

その様子を見ていた消防隊長が、シロコの言葉を聞くと顔色を変え無線機に向かって指示を飛ばした。

 

「重機は使えない!人力で行くぞ!全員、瓦礫をどかせ!先生の救助を最優先にしろ!」

 

 

 

 

そこからは、的確に瓦礫がどかされていった。

鉄骨が外され、崩れた壁が持ち上げられ、積み重なった瓦礫が、次々と別の場所へ移されていく。

 

 

 

指先が痛い。

いや、痛いという感覚すら、もう曖昧だった。

 

鋭い瓦礫が皮膚を裂き、血が滲んでいるのが見えても、シロコの手は止まらなかった。

 

 

 

止まった瞬間に、“探す理由”まで失ってしまいそうで。

 

 

 

だから、ただ黙々と、掻き分ける。

そこに意味があるかどうかなど、考えなかった。

 

 

 

夕日が隠れ完全に闇夜が辺りを包む。

まぶしすぎる程のライトで近辺を照らし、シロコと消防隊員達は次々と瓦礫を片付け、やがて――

 

 

 

「……見えました!」

 

最後の瓦礫が取り除かれる。

そこにあったのは、人の形跡も、血の跡も、何なら衣服の切れ端すらもない、ただの床。

 

 

 

「……誰もいない?」

 

救急隊員の内の誰かが、呟いた。

 

「生体反応なし」

「要救助者、一名も確認できません」

「付近にも人がいた形跡は見当たりませんでした」

 

冷静な報告が、淡々と続く。

 

 

 

「いないだと!?そんなはずは無いだろう!?先生だけじゃない!他の生徒だっていたはずだ!!」

 

滅多に出すことのないセイアの大声が周囲に響き渡る。

 

「で、ですが!瓦礫はすべて撤去しました!姿が見られないとなると……!」

 

 

 

シロコは、その場に立ったまま、動かなかった。

 

いや、動けなかったと言う方が正しいだろうか。

 

 

 

あの時確かに人影は見えた。

だが、片づけられたその現場には誰一人として姿は残っていなかった。

 

 

「先……生……」

 

 

そんな中、カービィはシロコのバッグからずっと空を見上げていた。

星がいくつも輝いている。だが、そのうちの一つは黒く、淀んでいるような気がした。

だが、カービィ以外の誰も、それに気づくことは無かった。

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