桃色の軌跡   作:逆襲

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それぞれの目的

腕部のアーマーが低く唸り、内部回路を奔る電流が装甲の継ぎ目から青白く滲み出す。

同時に、背中のジェットが獣の息遣いのような音を立て――次の瞬間、灼熱の火を噴いた。

 

「インパルスナックル!!」

 

カービィは地面を蹴り砕く勢いで踏み込み、そのまま拳を突き出す。

電撃を纏った一撃が命中した刹那、衝撃と稲妻が弾け、ダークマターの黒い身体は形を保つことすらできず、悲鳴を上げる間もなく霧へと砕け散った。

 

その直後だった。

 

背後から、死角を縫うように別のダークマターが襲いかかる。

影が伸び、黒い刃が振り下ろされ――

 

「させない!」

 

その動きを予測していたかのように、シロコは既に次の一手を終えていた。

時間調整を済ませた手榴弾を、迷いなく投げ放つ。

 

緑色の弾体は、山なりの放物線を描いて宙を舞い、

ちょうどダークマターの眼前へと吸い込まれるように落ちていく。

 

一拍。

 

次の瞬間、爆音と閃光が空気を引き裂いた。

衝撃波に呑まれたダークマターは耐えきれず、黒い霧となって四散する。

 

「ぼさっとしてんじゃねぇぞ!!」

 

怒号と同時に、ネルの銃口が火を噴く。

動揺したダークマターたちを、迷いなく、正確に撃ち抜いていく。

 

その光景を境に、戦況は完全に反転した。

 

押し込まれていた防衛線は息を吹き返し、

数に頼っていたダークマターの動きは乱れ、連携も見る影もない。

 

 

もはや陣形も戦術もなく、ただ数だけで――

ダークマターはカービィを取り囲み、一斉に襲いかかった。

 

 

カービィの腕部装甲が展開し、火花が散る。

それに呼応するように、肩のキャノンが形を変え、内部でエネルギーが唸りを上げた。

 

一瞬、スラスターが点火される。

カービィの身体は軽々と宙へと跳ね上がり、ダークマターたちは一直線に追いすがる。

 

 

 

「メラバリッカバースト!!」

 

 

 

叫びと同時に、腕部の開口部から灼熱の炎が噴き出し、肩のキャノンからは高密度のプラズマが奔流となって周囲一帯に放たれた。

 

 

炎とプラズマに呑み込まれたダークマターたちは、抵抗する間もなく霧へと変わり、次々と消滅していく。

 

 

――そして、霧が晴れたとき。

 

そこに立っていたのは、ただ一つ。

機械の鎧を纏った、カービィだけだった。

 

気づけば、この一帯からダークマターの姿は消え失せていた。

生き残ったわずかな影は、空へと浮かび上がり、逃げるように去っていく。

 

「チッ……」

 

ネルは舌打ちし、空を睨みつける。

 

「どうやら撤退したみたいね」

 

後方から、リオとセイアが近づいてくる。

 

「良かった。見たところ、大きな怪我は無さそうだ」

 

セイアは三人を見渡し、ほっと息をついた――が、

次の瞬間、カービィの姿に目を留め、わずかに目を見開く。

 

「……怪我ではないとは思うが……キミのそれは、一体……」

 

「ん。これがカービィの力。何かを吸い込むと、その力を使えるみたい」

 

淡々とシロコは続ける。

 

「前に手榴弾を吸い込んだら、手から爆弾を出せるようになってた」

 

「はぁ?」

 

ネルは露骨に胡散臭そうな顔をする。

口には出さないが、他の二人も内心では同じ反応だった。

 

「じゃあ、そのロボみたいな装備も何か食ってそうなったってことか?」

 

「ん。壊されたロボットを吸い込んだ」

 

「……私はそれを目の前で見ていたけれど……正直、理解が追いつかないわ……」

 

リオは片手でこめかみを押さえ、すぐに気を取り直す。

 

「とりあえず、情報を整理しましょう。シロコ、あなたがカービィの中で見たもの――教えてくれるかしら」

 

「ん。わかった」

 

短く頷くと、シロコは記憶を辿るように言葉を紡ぎ始めた。

カービィの内側で見た“ゼロ”の存在。

断片的で、しかし明確な悪意を感じさせる光景。

 

話を聞く三人の表情は、次第に引き締まっていく。

誰一人として「理解できない」と口にする者はいなかった。

それが意味するものの重さを、全員が本能的に感じ取っていたからだ。

 

「……私が見たのは、だいたいこんな感じ。それと……」

 

そこでシロコは、ふっと言葉を切り、空を見上げた。

 

「関係あるかは分からないけど……シャーレが爆破された、あの日」

 

静かな声が、夜気に溶ける。

 

「空に、黒い星が浮かんでるのが見えた」

 

「黒い…星?」

 

その言葉に、セイアが即座に反応する。

聞き返す声には、わずかな緊張が滲んでいた。

 

「ん。私たちは気づかなかったけど、カービィは確かにそれを見てた。

……何か、関係があるのかも」

 

「星、か……」

 

ネルも同じように空を仰ぐ。

ダークマターが撤退していった方向も確かに空だった。

 

今の空は、厚い雲に覆われている。

星の有無など、確認できるはずもない。

 

「エンジニア部なら、望遠鏡はあるんじゃないかしら?」

 

リオの提案に、ネルは小さく頷いた。

 

「だな。ウタハの野郎に連絡してみるか……」

 

そう言いながら、ネルはスマホをポケットから取り出す。

 

 

――だが、その瞬間。

 

まるでこちらの動きを見透かしていたかのように、スマホが震え出した。

画面に表示された名前を見て、ネルは眉をひそめる。

 

「……悪い、ちょっと外すぞ」

 

 

その場から少し距離を取り、通話ボタンを押す。

 

「アカネ?」

 

『部長……! よかった……!』

 

電話越しに聞こえてくるのは、切羽詰まりながらも、安堵を含んだアカネの声。

その声色だけで、嫌な予感が背筋を走る。

 

「…何があった?」

 

『つい先ほど、謎の黒い球体のような生物が現れ、ミレニアムの校舎全体を囲みまして……!』

 

「……なんだと!?」

 

思わず声が荒くなる。

 

『校舎に残っている生徒たちで抑えていますが……!セミナーの機能が麻痺している以上、あまり長くは持ちそうにありません……!』

 

「……チッ」

 

ネルは歯を鳴らし、即座に答える。

 

「分かった。アカネ、もう少しだけ持ちこたえろ!今からそっちに向かう!」

 

ネルは急いで4人がいる方に戻る。

 

 

 

「おい、お前ら!」

 

先ほどまでとは明らかに違う、切羽詰まった声音でネルが戻ってくる。

表情は険しく、息もわずかに荒い。

 

「校舎の方にも、ダークマターの野郎が現れやがった!」

 

叫ぶように告げられたその一言で、場の空気が一気に張り詰めた。

 

「アタシは今から校舎に向かう!お前らも来い!」

 

それだけ言い放ち、踵を返して走り出そうとするネル。

 

(どうしてここを特定できたか、ずっと気になっていたけど……まさか……)

 

「待ってちょうだい!」

 

鋭く、しかし理性を帯びた声が飛ぶ。

 

「んあ!?」

 

思いがけない制止に、ネルは勢い余って足をもつれさせ、あやうく転びそうになる。

 

「なんだよ!」

 

振り返るネルに、リオは一歩前に出て続けた。

 

「これは、あくまで推測よ。でも――ダークマターは、ミレニアムだけじゃない。他の自治区にも、同時に出現していると考えるべきだわ」

 

その言葉に、シロコとセイアの表情が一瞬で引き締まる。

 

「セイアとシロコから得た情報を見る限り、敵は相当な戦力を保有している。先生という抑止力を失った今、敵が攻め込む絶好の好機ではないかしら」

 

リオは続けて口を開く。

 

「私たちは、今この状況を正確に把握している数少ない人物。……先生が不在の今、誰かが全体を繋がなければならない」

 

一拍、間を置いてから。

 

「だから、私たちが他校と連絡を取る必要があると思うの」

 

ネルはすぐには返事をせず、リオの表情を見た。

リオのセミナーの会長としての責任が、以前とは違う覚悟が、確かにそこにあった。

 

 

「……分かったよ。合理的だ。ムカつくくらいにな」

 

リオはそれを確認すると、セイアとシロコの方を振り向く。

 

「私とネルで、ミレニアムのダークマターを対処するわ。あなたたちは、他校との連絡と状況共有をお願い」

 

「ん。了解」

 

「任せておきたまえ」

 

短く、しかし迷いのない返答。

 

役割は分かれた。

だが、それぞれが戦っていることに違いはない。

 

こうして四人は、迫り来る脅威に対し、それぞれの持ち場へと動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………因みに、私はドローンで行こうと思ってるのだけど……」

 

「ダメに決まってんだろ!お前も来い!」

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