桃色の軌跡   作:逆襲

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長い間お待たせしてしまって大変申し訳ございません...
異常なまでの大雪とそれに伴うテレワークなどで執筆にかけられる時間があまり取れませんでした…しばらくこれが続くと思いますが首を長くしてお待ちいただけると幸いです。

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ありがとうございます!!


ダクマとアクマ(?)

ここはゲヘナ学園、風紀委員長室。

机の上に山のように積み上げられた書類の中に、一人の影があった。

 

「ヒナ委員長……」

 

魂が抜け落ちた、抜け殻のような少女。

 

 

シャーレの爆破事件。

そして、先生の行方不明という報道。

だが、ヒナの情報は何も報道されなかった。

 

昨日、デデデ大王と先生と共にシャーレへ向かって以降、ヒナからの返信は一切無い。

 

自分がヒナに送ったメッセージの数は、すでに百を超えている。

既読すらつかないモモトーク。

それを見るのも、もう辛かった。

 

 

 

――そう思った、その瞬間。

 

手元のスマホから、通知音が鳴り響く。

うなだれていた体を弾かれたように起こし、慌ててスマホを手に取った。

 

待ち受けに表示されたヒナの写真。

その上に重なった通知には――

 

ヒナの名前はなかった。

代わりに表示されていたのは、意外な人物の名前。

 

(……カヨコさん?)

 

今さら、どうして。

そんな疑問を抱きつつ、メッセージ欄を開く。

 

------------------

 

<ちょっと伝えたいことあるんだけど

 

------------------

 

(伝えたいこと?)

 

そう思っていると次々とメッセージが送られてくる。

 

 

今、キヴォトス全域に「ダークマター」と呼ばれる生物が出現していること。

…以下略

 

 

こちらが情報を整理する暇もないほど、

メッセージは一方的に送りつけられてくる。

 

その様子に、アコは苛立ちを抑えきれず、通話ボタンを押した。

 

「ちょっと! 何のつもりですか!?」

 

『何って……さっき送った通りだけど』

 

電話口の向こうで、カヨコはさも当然のように答える。

その軽い調子が、アコの神経を逆撫でした。

 

「あなたに構っている暇は無いんです!ヒナ委員長もいないのに……っ!あっ…」

 

思わず口が滑ってしまった。

 

『……そっちでも何かあったみたいだね』

 

いつもなら、怒りに任せて言い返していたはずだった。

だが、今のアコにはそれを支える“拠り所”がなかった。

 

「……ヒナ委員長が、デデデとかいうやつと先生と一緒に

シャーレに向かった、その後……連絡が取れなくなったんです……」

 

声が、わずかに震える。

 

「シャーレの爆破事件と、何か関係があるんでしょうけど……」

 

『デデデ? こっちでは、カービィって名前を聞いた気がするけど』

 

「……カービィ?」

 

その名前に、引っかかるものがあった。

 

(……あ)

 

そういえば。

デデデ大王が探している仲間の名前の中にあった。

 

 

アコに電流走る…

その瞬間、アコの頭の中で、ひとつの方程式が出来上がっていく。

 

ヒナと先生は、デデデと共に姿を消した。

→ それがダークマターの仕業だと仮定する。

 

ダークマターの情報が必要。

→ デデデ大王から得られた情報は断片的だった。

しかし、デデデ大王の仲間なら―より詳しい情報を持っている可能性がある。

 

(……その、カービィとかいう存在に話を聞ければ)

 

胸の奥で、はっきりとした答えが形を成す。

 

――委員長(とついでに先生)を、助けられる。

 

 

 

 

そうわかった途端アコの脳内エンジンがギアを急速に上げる。

 

『…大丈夫?』

 

しばらく返答が無かったのでカヨコは少し心配そうに聞く。

 

「ええ!大丈夫です!ありがとうございました!」

 

勢いのまま、通話終了ボタンを押した。

 

(まずは……万魔殿に報告を)

 

そう考えながら思考を巡らせていると、ドアを叩く音が響く。

 

「どうぞ」

 

返事をすると、ドアが開き、二つの影が姿を現した。

 

「こんにちは!」

「……どうも」

 

いつも通り元気いっぱいのイブキと、

その隣には、いつもより少し元気がないように見えるイロハ。

 

「あなたたちでしたか」

 

イブキはきょろきょろと部屋の中を見渡す。

 

「ここにも、デデデ大王さんいない……アコ先輩、デデデ大王さんがどこにいるか知ってる?」

 

その様子から察するに、昨日の事件については知らないようだった。

――いや、正確には「知らされていない」のだろう。

 

「……すみません、イブキ。私も――」

 

そう言いかけた、その瞬間。アコの脳裏に、再び電流が走った。

 

「……実は」

 

一拍置いてから、アコは言葉を選ぶ。

 

「デデデ大王さんが、何者かに連れ去られてしまって……現在、ゲヘナの外にいる可能性が高いんです」

 

「えぇ~っ!?」

 

イブキは目を丸くする。

 

「大変! すぐに助けに行かないと!」

 

「その件も含めて……」

 

アコは表情を引き締める。

 

「今から、たぬ……いえ、マコト議長のもとへ向かい、そちらを相談するつもりでした」

 

わざとらしく言い直しながらも、声色は真剣そのものだった。

 

「そーなの? じゃあ今すぐ行こう!」

 

事情を深く考えるよりも先に、イブキはぱっと明るい顔になり、勢いよくドアの方へ歩いていく。

 

その背中を見送りながら――

イロハは何も言わず、静かにアコの方へ歩み寄った。

 

「……今朝から姿は見ませんが」

 

低く、抑えられた声。

 

「もしや、風紀委員長も……?」

 

問いは最後まで言い切られない。

 

アコは答えなかった。

ただ、ほんのわずかに視線を伏せる。

 

それで十分だった。

 

「……そうでしたか」

 

短い返答。

それ以上の説明は、必要ない。

 

沈黙の中に、状況の重さだけが静かに沈んでいく。

 

イロハは目を細め、小さく息を吐いた。

 

「急いだ方が良さそうですね」

 

感情を抑えた、いつもの落ち着いた声音。

だが、その奥に焦りが滲んでいるのを、アコは感じ取っていた。

 

イロハは踵を返し、イブキの後を追う。

 

アコもまた、背筋を伸ばす。

迷っている暇はない。

 

三人の足音が、廊下に静かに重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

窓の外を眺めるマコト。

 

空一面に重たい雲が広がっている。

いつもなら、風紀委員会への嫌がらせでも考えている時間だが、

今日はどうにも気が乗らなかった。

 

コンコン、と扉が叩かれる。

 

「入れ」

 

扉が開き、三つの影が部屋に入る。

 

「ただいま戻りました」

「戻りました~!」

 

窓際に立っていたマコトが振り返る。

 

「おお、戻ったか――」

 

そこで視線が止まる。

 

「……アコ行政官?」

 

「失礼します、マコト議長」

 

イブキの帰還に水を差す存在。

そんな顔を隠そうともせず、マコトは鼻を鳴らす。

 

「フン、お前からここに来るとは珍しいな」

 

「私も来たくて来たわけではありませんが……」

 

小さく咳払いをしてから続ける。

 

「現在来賓中のデデデ大王について、ご報告があります」

 

「報告?」

 

マコトの目が細くなる。

 

アコは横目でイロハを見る。

イロハはすぐに察し、イブキの肩に手を置いた。

 

「イブキ、そういえば買っておいたお菓子があるんです。あちらで食べませんか?」

 

「わーい! 食べる!」

 

二人が部屋の隅へ移動するのを確認し、アコは声を落とす。

 

「……先日の、シャーレ爆破事件についてです」

 

「……続けろ」

 

普段ならマコトは風紀委員会が持ち掛けた話なんてまともに取り合わない。

だが“シャーレ”の一言で、空気が変わった。

 

「来賓中だったデデデ大王が、その事件に巻き込まれた可能性が高いと判明しました」

 

「……ほう」

 

「さらに、犯人と思しき勢力が現在キヴォトス各地で同時多発的に襲撃を開始しています。ゲヘナはまだ被害を受けていませんが……時間の問題かと」

 

部屋の空気が、ひときわ重くなる。

 

「それで?」

 

低い声。

 

「空が赤くなった、あの時のように――他校と協力体制を築く必要があります」

 

一瞬の沈黙。

そして、

 

「キキキッ!」

 

乾いた笑いが室内に響いた。

 

「何を言い出すかと思えば!」

 

マコトは椅子にふんぞり返る。

 

「ミレニアムやレッドウィンターならまだしも……トリニティと手を組むだと?」

 

鼻で笑う。

 

 

 

「まっぴらごめんだな」

 

その拒絶は、ほとんど反射だった。

だがアコは、それを予測していたかのようにほんのわずか口角を上げる。

 

「……了解しました」

 

あまりにも素直な返答に、マコトがわずかに眉をひそめる。

 

(申し訳ございません、イブキ)

 

心の中で一言だけ詫びてから、アコはわざとらしいほど整った声で、室内全体に届くように言った。

 

「では――デデデ大王の救出は行わない、という方針でよろしいのですね? マコト議長」

 

一瞬の静止。

 

「ああ……」「ええっ!?」

 

反射的に答えかけたマコトの声と、部屋の隅から上がった甲高い驚きの声が重なる。

 

「そんなのダメっ!」

 

イブキが勢いよく駆け寄ってくる。

 

「イブキ、まだまだデデデ大王さんとお話したい!いっぱい聞きたいことあるし、まだゲヘナのことも全然教えてない!」

 

小さな拳をぎゅっと握りしめ、真っ直ぐにマコトを見上げる。

 

「ゲヘナに来てくれたお客さんなんでしょ?」

 

その言葉に、マコトの口元がわずかに引きつる。

 

「マコト先輩…お願い……」

 

イブキの目はどこか潤んでおり、今すぐにでも泣いてしまいそうだった。

子どものまっすぐな視線ほど、逃げ場を奪うものはない。

 

部屋の空気が変わる。

マコトはアコの顔を見る。

それに気が付くと、アコは表情を崩さないまま、静かに言葉を重ねた。

 

「議長のご判断に任せます。」

 

逃げ道は残している。

だが同時に、退路もきれいに塞いでいる。

マコトは歯ぎしりをした。

 

「ぐ……」

 

イブキの正論。

来賓の扱い。

議長としての体面。

そして、外に向けたゲヘナの威信。

 

その全てが、同時にのしかかる。

 

「……敵の情報は?」

 

ようやく絞り出した声は、先ほどより低かった。

 

「ほぼ皆無です。ですが――こちらに他校からの協力者が向かってきている、との情報が」

 

「協力者だと?」

 

マコトは目を細める。

 

しばし沈黙。

 

(むぅ……イブキの言うことも一理ある。だがトリニティと仲良しこよしなど冗談ではない……)

 

腕を組み、思考を巡らせる。

その時、マコトに電流走る…

 

(そうだ!風紀委員会に全部任せてしまえばいい!奴らが勝手に動き、何かあったら責任を取らせればいいのだ!)

 

結論が出た。

マコトは椅子を回転させ、三人の方を向く。

 

「他校との協力を許可する!」

 

わざとらしく大きな声。

 

「ただし! 対応はすべて風紀委員会に一任する! 万魔殿は直接動かん!」

 

責任は回避。

建前は維持。

外聞も守れる。

 

完璧な判断だと、本人は思っている。

 

アコは一礼した。

 

「承知しました。お任せください」

 

その声には、わずかな勝算が滲んでいた。

 

イロハはやれやれとため息を吐く。

イブキはぱっと顔を輝かせた。

 

それぞれの思惑を乗せたまま、ゲヘナは静かに動き出す。




デデデ大王<わし便利なように扱われ過ぎじゃないか…?
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