地面が悲鳴を上げた。
ひび割れが一瞬で蜘蛛の巣のように広がり、粉塵が爆ぜる。
常識外れの踏み込み。その巨体に似合わぬ速度で、デデデ大王は一直線にカービィへと迫る。
振るわれるハンマーは、縦に、横に。
逃げ場を塞ぐように、執拗に、間断なく。
空気が裂ける。衝撃波が走る。
カービィはそのたびに、紙一重で身をひねり、跳ね、転がる。
桃色の残像だけが、その場に幾重にも描かれていく。
それが数秒、数十秒、数分と続けられ、お互いがお互いに攻撃を決めることができずにいた。
すると、デデデ大王がぴたりと動きを止めた。
ハンマーを両手で構え、ゆっくりと振り上げる。
空気が重く沈み込むような感覚。
振り上げられたハンマーの周囲で、大気が歪む。
圧縮された空気が唸り、低い振動が地面を伝っていく。
≪ガァァァアアアッ!!≫
次の瞬間、獣のような咆哮とともに、ハンマーが振り下ろされる。
ハンマーには黒いオーラが纏われ、それに触れた砂塵は消え去った。
直撃すれば、ただでは済まないだろう。
カービィは咄嗟に身体を横へ弾いた。
ほんの紙一重。
ハンマーは桃色の残像をかすめ、轟音とともに地面へと叩きつけられる。
カービィが隙ありとデデデ大王に注視を向けた途端。
ハンマーが地面に叩きつけられた衝撃で、アスファルトが爆散した。
砕けたコンクリート片が噴き上がり、衝撃波が円状に広がる。
その衝撃は目に見えるほどだった。
地面が波打ち、空気が震え、近くの瓦礫がまとめて跳ね上がる。
「ぽよっ!?」
回避したはずのカービィも、その余波までは避けきれず、黒い衝撃波に煽られ、小さな身体がふわりと宙へ打ち上げられる。
軽い体がくるりと回転し、空中を舞う。
一瞬、無防備な姿勢へとなる。
デデデ大王は、すでに次の一手へと身体を移していた。
地面にめり込んだハンマーを力任せに引き抜くと、その反動すら推進力に変えるように大きく踏み込み、砕けた足場を踏破しながら一直線に駆ける。崩れたアスファルトが弾け飛び、重い体躯からは想像できない速度で間合いを詰めていく。
そのままカービィに向け跳躍した。
空気が圧し潰されるような音とともに巨体が宙へ躍り上がり、体勢を立て直しかけていたカービィへと近づいていく。
正面から来る――そう判断したカービィは、とっさに両腕を構え防御の姿勢を取った。
だが、デデデ大王の巨体が視界から消える。
デデデ大王はカービィの横をかすめるように通過し、そのままわずかに軌道をずらした。
斜め後方――視界の死角とまではいかない、だが対応が一瞬遅れる絶妙な位置。
空中で体をひねり、重力すら味方につけた軌道で滑り込むと、振りかぶったハンマーを容赦なく振り下ろす。
唸りを上げた質量が、カービィに叩き込まれる。
鈍く重い音が空間を打った。
空気が圧縮され、爆ぜる。
衝撃波が弧を描くように広がり、黒煙が舞い上がる。
小さな身体では、その衝撃をまともに受け止めることなど出来ない。
カービィはバットで撃たれたボールのように弾き飛ばされた。
地面へと激突し、地面がひび割れ、衝撃が弾む。
弾力のある身体は衝撃を吸収しきれず、再び跳ね上がる。
アスファルトの上を火花を散らしながら跳ねていく。
そして向かうは校舎の端に積み上げられていた資材の山。
バリケードを破壊し、そこへカービィの身体が突っ込んだ。
木箱が砕け、金属箱が跳ね上がり、工具が四方へ散乱する。
鈍い衝撃音と共に積み荷は崩れ落ち、砂煙と共に崩壊した。
崩れた荷物の中心で、資材に半ば埋もれるようにしてカービィは止まる。
板材が遅れて地面へ倒れ、カラン、とレンチが転がる音が響く。
その瓦礫の中、丸い身体がわずかにぴくりと動いた。
デデデ大王が着地し、すぐさまカービィが落下した方を見据える。
巨大な足が地面を踏みしめる。その一歩だけで砕けた足場がさらに陥没し、瓦礫が跳ね上がる。重心を落としたかと思うと、次の瞬間にはその巨体は再び跳躍していた。
空気が押し潰されるような衝撃音。
跳び上がった影が、荷物置き場一帯をすっぽりと覆う。
木箱、鉄骨、積み上げられた資材の山。掘削用の道具やスコップ、束ねられたロープ――雑然と置かれたそれらすべてが、落下地点にある。
デデデ大王は空中でわずかに体勢を整え、両足を揃える。
狙いは一点。
瓦礫の山の奥、埋もれたカービィのいる場所。
そのまま、重力に身を任せるように落下を開始した。
落下速度が加速するにつれ、空気が唸りを上げる。巨体が落ちてくるだけで、周囲の砂塵が吸い寄せられるように巻き上がり、渦を作る。
次の瞬間。
轟音が鳴り響く。
踏みつけという言葉では到底足りない、質量と速度が合わさった純粋な、そして暴力的なまでの一撃。
資材の山が一瞬で潰れ、木箱は粉々に砕け、鉄骨は歪み、スコップは金属音を響かせながら弾き飛ばされる。地面は深く陥没し、衝撃波が同心円状に広がって周囲の瓦礫を吹き飛ばしていった。
遅れて、爆ぜるように砂埃が舞い上がる。
瓦礫は原形を留めず、荷物置き場だった場所は巨大なクレーターへと変わっている。
中心には、デデデ大王が両足を深く地面にめり込ませたまま立っていた。
だが――
足元に、あの丸い桃色の姿は無かった。
代わりに、地面には何か所も土が盛り上がっていた。
自分が作ったものではない。
円状に抉られた、規則的な土の盛り上がり。
まるで何かが地中を泳いだ痕のように。
違和感。
デデデ大王が足を引き抜こうと、力を込めたその瞬間。
地面が震える。
足元の土が崩れ、亀裂が走る。
そして――
「グラウンドーン!!」
くぐもった声が地中から炸裂する。
直後、足元が爆ぜた。
土砂と岩片を巻き上げながら、下から突き上げる衝撃がデデデ大王の巨体を真正面から捉える。
予想外の一撃に、体が浮き上がった。
そのわずかな隙を見逃さないように。
再び地面が裂ける。
今度は、はっきりと姿を現しながら。
螺旋状に回転する鋭い刃。
砕けた地面を巻き込みながら高速回転する巨大なドリル。
「つきあげドリル!!」
叫びと同時に、ドリルの回転がさらに加速する。
空気が焼けるような高音を引き裂き、土砂を螺旋に巻き上げながら一直線に空中のデデデへと突き進む。
だが――
デデデ大王は空中で無理やり体勢をひねり、片腕だけでハンマーを投げる。
ゴウと風を裂いて放たれる鉄塊。
高速回転するドリルと、投げ放たれたハンマーが正面衝突する。
火花が散り、甲高い金属音が空を震わせた。
ドリルの先端がハンマーの打撃面に深く食い込む。
めりめりと鉄を削る嫌な音。
しかし完全に貫くには至らない。
衝突の反動が、回転するカービィの小さな体を震わせる。
激しい振動が内部に伝わり、ほんの数度、わずかに軌道がぶれた。
だが、それで十分だった。
ドリルはデデデ大王を捉えきれず、その頭上をかすめて通過する。
巨体のすぐ上を掠め、空へと抜けていった。
一方――
無理な姿勢から全力でハンマーを投擲したデデデ大王もまた、空中で体勢を崩していた。
重心を失い、そのまま腹から地面へと激突する。
鈍い衝撃。
瓦礫が跳ね上がり、地面には放射状の亀裂が走った。
一瞬、呼吸が止まる。
だが腕を地面につき、無理やり体を持ち上げる。
落ちてくるカービィに対し迎撃をしようと頭を上に上げようとした――
その時だった。
視界の端で、何かが光った。
上空から、小さな星のような物体が落ちてくる。
側面には、見覚えのあるドリルのマーク。
それは地面に落ちると、甲高い音を立てて跳ねた。
一度、二度、三度。
まるで意思を持つかのように、周囲を弾み回る。
≪……何だ?≫
理解が追いつかない。
その一瞬の隙を突くように。
ヒュン、と空気を裂く音。
「だいしゃりん!」
次の瞬間、後頭部に凄まじい衝撃。
視界が白く弾け、世界が回転する。
回転しながら突っ込んできたカービィが、
その小さな身体ごと質量に変え、ハンマーに遠心力を乗せて叩き込んだ。
視界が震える。
デデデ大王は、再び顔面から地へと倒れ込んだ。
土埃が舞い上がる。
体が上手く動かない。
それでも。
デデデ大王は、ゆっくりと顔だけを上げた。
その視線の先――
そこに立っていたカービィは、先ほどのドリルを装備していなかった。
ねじり鉢巻きをきゅっと締め、
小さな手でハンマーを掲げ構えを取っているカービィ。
その周囲の空気が、じわりと揺らぐ。
「おにごろし……」
低く、静かな宣言。
ダークマターの本能が叫ぶ。
≪――避けなければ≫
だが、さきほどの後頭部への直撃で。視界が揺れ、力が上手く入らない。
「かえん!ハンマァァーーー!!!!」
爆ぜるような叫びと共に、カービィが踏み込む。
地面が砕け、破片が跳ね上がる。
そして、アッパーをするように振り抜かれる炎を纏った一撃。
ハンマーがデデデ大王の顎を打ち抜いた。
衝撃と同時に、爆炎が弾ける。
巨体が再び宙へと打ち上げられる。
炎の尾を引きながら、空高く。
そしてデデデ大王の体から、もやのような黒い霧がゆっくりと剥がれ落ちていった。
禍々しい気配が、煙となって空へと昇り、淡くほどけながら消えていく。
黒いガウンは赤を取り戻し、皮膚も青色へと戻っていく。
さきほどまで場を支配していた圧が、嘘のように薄れていった。
空中で力を失ったデデデ大王は、わずかに四肢を揺らしながら重力に従う。
どさり、と鈍い音を立て――
そのまま地面に頭から突き刺さった。
土煙がふわりと舞い上がり、やがて静まる。
巨体はぴくりとも動かない。
「……ぽよ」
小さく息を吐き、カービィは肩を落とす。
だが、安堵に浸る暇はない。
はっと顔を上げ、視線を戦場の向こうへと向ける。
さきほどまで別の戦いが繰り広げられていた場所。
煙がゆっくりと晴れていく。
崩れた壁、抉れた地面、散乱する弾殻。
その奥に――
瓦礫に寄りかかるように崩れ落ちているイオリの姿があった。
片手に持っていた銃は、力なく垂れ下がっている。
そして、そのすぐ前。
銃口を突きつけられ、膝をつかされているシロコ。
冷たい鉄の先端が、迷いなく額へと向けられている。
脚や腕に力を込めても、指先ひとつ動かない。
地面に押しつけられた身体は、自分のものではないみたいに重い。
額を伝う血が、視界の端を赤く染める。
鼓動は遠く、音もどこか水の中のようにくぐもっている。
――強い。
ただ、それだけがはっきりしていた。
こんなにも、圧倒的に。
抗うことすら許されない差。
上には上がいる。
そんな言葉が、皮肉のように脳裏をよぎる。
ぼやけた視界の奥で、皆の顔が浮かぶ。
ノノミの笑顔。アヤネの慌てた声。セリカの不機嫌そうな横顔。ホシノの気だるそうな表情。
そして――それを笑顔で見ている先生の顔。
これが、走馬灯というものなのだろうか。
カチリと、やけに鮮明な音が、すぐ頭上で鳴った。
冷たい銃口が、額に食い込む。
(ごめん……皆………………ごめん……先生……)
ヒナの指が、静かに引き金へとかかる。
一切の躊躇も、感情もない。
その指が、わずかに動いた次の瞬間。
「……っ!?」
凄まじい衝撃とともに、何かが二人の間へ叩きつけられる。
地面が爆ぜ、砂煙が噴き上がり、衝撃波が周囲を薙ぎ払った。
ヒナの身体がわずかに浮き、数歩分、後方へと弾き飛ばされる。
衝撃の余波でシロコの身体も転がるが、体に痛みは無かった。
重い瞼を必死にこじ開ける。
何が起きたのか視界を探す。
砂煙の向こう。
ゆっくりと立ち上がる影がひとつ。
大きな盾を地面に深々と突き立て、それを引き抜く影。
盾の縁から、ひび割れた地面に向かって亀裂が放射状に伸びている。
その人物は、片手で盾をひょいと持ち上げると、肩を小さく回した。
逆光の中で、ゆるく揺れる長い髪。
淡く光るヘイローが、砂煙の中で静かに滲む。
その背中は小さかった。
けれど――
今この瞬間、シロコの視界を埋め尽くすその背中は、誰よりも大きく、揺るぎなく感じられた。
コピー能力:ドリル
コピー元:風紀委員会が押収した資材置き場にあった誰かの小型ドリル
ドリル ホリホリ 地中をすすんで、
てきの こうげき もぐって かわせそう!
もぐって すすめば イケナイ場所にも
スルリとつにゅう しちゃいます!
コピー能力:ハンマー
コピー元:デデデ大王が投げたハンマー
でかいハンマー 大王ゆずり。
カタいモノも ふんさいし、
クイもうちつけ ペッタンコ!
炎さくれつ ひっさつワザだ、
トドメいちげき おにごろし!