桃色の軌跡   作:逆襲

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更新が滞ってしまい申し訳ございません...
旅行に行ったり胃腸炎になったりトモコレやってたり色々とありました...



やみのさきには

通路を抜けると、バンダナワドルディは勢いのまま近くの部屋へと飛び込んだ。

背後を気にしながら扉を押し開け、そのまま中へ滑り込む。

 

そこは物置のような部屋だった。

雑然と積み上げられた箱や機材、見慣れない道具が所狭しと並び、足の踏み場も限られている。

 

(……とりあえず、ここに隠れよう)

 

息を潜めながら、部屋の奥へと進む。

入り口からの視線が通らない位置まで入り込むと、抱えていたシグレをそっと床に下ろした。

 

「……う~ん……」

 

かすかなうめき声。

まだ意識ははっきりしていないらしい。

 

短く息を吐く。

 

(さて、ここからどうしようか…)

 

武器も、攻撃を防ぐ手段も、手元には何もない。

 

この状態でダークマターと対峙すれば――勝つどころか、時間を稼ぐことすら難しいだろう。

逃げるにしても、シグレを抱えたままでは動きが制限される。

 

見つかるのも、時間の問題だった。

 

その現実を噛みしめながら、バンダナワドルディは視線を巡らせる。

積み上げられたがらくたの山。その中に、ふと見覚えのある形が混じっていることに気づいた。

 

手を伸ばし、一つずつ確かめるように拾い上げていく。

 

「ギコノコに……コピーのもと……それに、プリズムシールド……サイコウソク……?」

 

思わず目を見開く。

どれも、自分の世界では見覚えのある品ばかりだった。

 

だが、この場所は自分たちの世界ではないはずだ。

それなのに、目の前に並んでいるのは、見知った道具ばかり。

 

バンダナワドルディは、ふとある記憶を手繰り寄せる。

この世界へ来る前――街のあちこちで、そんな話を耳にしていた。

 

『なんだか最近、倉庫から物が無くなるんだよねぇ……』

 

『うちもだ。在庫が合わないんだよなぁ……隣町のタックに盗られたのかねぇ……?』

 

『最近できた裂け目とも関係してるのかな』

 

断片的な会話が、今になって妙に鮮明に蘇る。

 

(ダークマターが集めていたのかな……?)

 

視線を上げる。

目の前には、雑然と積み上げられた“それら”の山。

 

その時、胸の奥でひとつの仮説が形を成す。

 

ポップスターに突如として現れた、あの不気味な裂け目。

もしあれが、ダークマターによるものだとしたら――

 

この異様な状況にも、筋が通る。

 

無言のまま、積まれた品々へと視線を落とす。

 

確かに、ここにあるのはどれも比較的ありふれた道具ばかりだ。

それ自体がすぐに大きな問題になるわけではない。

 

だが――

 

(もし、あれが奪われていたら……)

 

脳裏に浮かぶのは、ポップスターの秘宝、「きらきらぼし」。

それを思い浮かべた瞬間、背筋に冷たいものが走る。

 

もし、それまでもがダークマターの手中に収まっているのだとしたら。

この事態は、すでに取り返しのつかない領域へと踏み込んでいるのかもしれない。

 

そのときだった。

 

背後から、不意に光が差し込む。

闇に慣れた視界が一瞬だけ白く滲み、思わず振り返る。

 

「バンダナ……くん……?」

 

か細い声。

そこに立っていたのは、スマートフォンの光をこちらへ向けるシグレだった。

 

「シグレ! 大丈夫!?」

 

反射的に声を上げ、がらくたの山から飛び退くように離れる。

そのまま駆け寄り、顔を覗き込んだ。

 

「うん……大丈夫、ではあるんだけど……ここって……どこ?」

 

シグレはまだ状況を掴みきれていない様子で、辺りを見回しながら言葉を続ける。

 

「私たち、確かシャーレに…」

 

「僕も、詳しくは分からないんだ」

 

バンダナワドルディは小さく首を振る。

 

「でも……たぶん、ダークマターの拠点みたいな場所に連れてこられたんだと思う」

 

「ダークマターの拠点……?」

 

その言葉に、シグレの表情がわずかに強張る。

不安を隠しきれないまま、視線が落ち着きなく周囲をさまよった。

 

「さっきまで牢屋の中にいたんだ」

 

バンダナワドルディは声を潜める。

 

「他にも捕まってる人がいて……その人のおかげで、なんとか抜け出せたんだ」

 

「他にも……?」

 

「うん。名前は思い出せないんだけど……紅茶を飲んでた人だよ」

 

その一言で、シグレの眉がわずかに寄る。

記憶の中の誰かと結びついたのか、はっとしたように顔を上げた。

 

「……ノドカと、先生……それに、他の皆は?」

 

問いは静かだったが、その奥にははっきりとした不安が滲んでいた。

 

バンダナワドルディは一瞬だけ言葉を詰まらせる。

脳裏に浮かぶのは、逃げる最中に覗いたいくつかの牢の光景。

だが、そこに人の影はなかった。

 

「逃げる途中で、他の牢屋も少しだけ見たんだけど……」

 

ゆっくりと首を振る。

 

「さっき言った人以外は、見かけなかったんだ」

 

短い答え。

だが、その重さは十分すぎるほど伝わる。

 

「そんな……」

 

シグレの声が小さく揺れる。

その場の空気が、わずかに沈み込んだ。

 

だが――

 

「とにかく、ここを早く出よう」

 

バンダナワドルディは、迷いを振り払うようにはっきりと言い切る。

 

「あの場にカービィはいなかった。だから……巻き込まれてはいないと思う」

 

「カービィって……君が言ってた、あの……?」

 

不確かさを含んだ問いに、バンダナワドルディはまっすぐに頷く。

 

「うん。……きっと、カービィならなんとかしてくれる。大王様も、メタナイト様も助けてくれるはず」

 

その言葉には、根拠を超えた確信があった。

 

小さな手が、そっとシグレの手を取る。

その温もりが、かすかに現実を引き戻した。

 

「わかった。でも、どうやって脱出しようか……」

 

「任せて。さっき良いものを見つけたんだ」

 

「良いもの?」

 

バンダナワドルディは身を翻し、再びがらくたの山へと飛びつく。

積み上がった品々をかき分けながら、何かを探すように手を動かした。

 

「どこにあったかなぁ……あ、これだ!」

 

勢いよく引き抜かれたそれは、白く透き通った水晶のような物体だった。

弾かれたように転がり、シグレの足元で小さく音を立てて止まる。

 

「なにこれ……?綺麗だけど……」

 

シグレがそれを見下ろす間に、バンダナワドルディも山から飛び降りる。

 

「よっと……ちょっと見ててね」

 

そう言うと、白い水晶へ手を伸ばし、頭上に掲げた。

 

その瞬間――

彼の体が、みるみる透けていく。

 

「えっ……!? バンダナ君!?」

 

驚きの声が上がる頃には、姿は完全に消えていた。

手にしていた水晶もまた、同じように消え失せる。

 

気配すら感じ取れない。

そこにいたはずの存在が、跡形もなく消えていた。

 

シグレは思わず周囲を見渡す。

 

「ここだよ」

 

不意に、すぐそばから声がした。

 

振り向いた先――

先ほどまで立っていた場所に、何事もなかったかのようにバンダナワドルディが姿を現す。

 

「えっ…!?」

 

「これは“とうめいクリスタル”。持っている間、姿を透明にできるんだ。持ってる人が何か言っても、気配自体が消えるから何も聞こえてないように感じるんだ」

 

「すごいね……」

 

思わず、シグレは小さく息を漏らす。

目の前で繰り広げられた一連の動きは、即興とは思えないほど的確だった。

 

「ここにある物は、ほとんどが僕たちの星にあったアイテムなんだ」

 

バンダナワドルディはそう言いながら、もう一度がらくたの山へと視線を向ける。

 

「とりあえず、これを使えば気づかれずに動けるはずだよ。……っと、その前に」

 

言い終えるより早く、再び山の中へと潜り込む。

小さな身体を器用に動かしながら、手当たり次第にアイテムを引き抜いていく。

 

見覚えのあるもの、用途の分からないもの。

それらを迷いなく選別し、次々と確保していった。

 

やがて、動きが止まる。

 

「……これでいいかな」

 

満足げに頷くバンダナワドルディを見て、シグレはふと違和感を覚えた。

 

「……バンダナ君、それってどこにしまってるの?」

 

明らかに彼の手のひらからものが消えている。

 

「え?ここだよ」

 

何の躊躇もなく、脇腹のあたりをぽんと叩く。

 

次の瞬間、そこから先ほどしまったはずのアイテムの一部が、ひょこりと顔を出した。

 

「……」

 

シグレは一瞬だけ言葉を失う。

だが深く考えないことにした。

 

「ありがと、じゃ、行こうか」

 

静かに立ち上がる。

気持ちを切り替えるように、視線を前へと向けた。

 

「うん!」

 

シグレが静かに立ち上がる。

その動きに合わせるように、バンダナワドルディはひらりと跳び、彼女の頭上へと乗った。

 

そして、とうめいクリスタルを掲げる。

 

淡い光が一瞬だけ揺らぎ――次の瞬間、二人の姿はゆっくりと輪郭を失い、やがて完全に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下は、どこまでも黒く沈んでいた。

足音すら吸い込まれてしまいそうな静寂の中を、二人は息を潜めて進んでいく。

 

「……すごい数のダークマターだ……」

 

バンダナワドルディの小さな声が、頭上からかすかに落ちる。

 

「さっき僕が逃げたせいで、警備が厳しくなったのかな……あの人も牢屋にいなかったし…」

 

壁際をなぞるように進むたび、すぐ目の前をダークマターが行き交う。

黒い影がいくつもすれ違い、そのたびに緊張がじわりと背筋を這い上がった。

 

「バレないように……気をつけないと……」

 

シグレも声を潜める。

そのまましばらく進んだ先で、ふいに視界が開けた。

 

暗闇が途切れ、そこだけ異質な光に満ちている。

 

「……あれは……?」

 

思わず足を止める。

 

青白い光が脈打つように空間を照らし、無機質な設備が無数に並んでいた。

蒼く発光する筒状の装置――培養ポッドのようなものがいくつも立ち並び、そこから伸びる管が複雑に絡み合い、巨大な機械群へと接続されている。

 

それまでの暗闇とはまるで別の世界だった。

 

「何かの……機械の光……?」

 

シグレが小さく呟く。

 

「エッガーエンジンズみたい……」

 

バンダナワドルディもその光景に違和感を覚えながらも、視線を奪われている。

 

 

そのとき――

ひとつのポッドの中に、かすかな影が揺らめいた。

 

「ねぇ、バンダナ君……あそこに、何か――」

 

言葉が、途中で途切れる。

 

視界に映ったものを理解した瞬間、呼吸が止まった。

 

「どうしたの……って――ええっ!?」

 

驚愕が、遅れてバンダナワドルディの声となって漏れる。

 

「ノドカっ!」

 

シグレは思わずその筒に近づく。

いくらばれないとはいえ、珍しく普段の彼女から冷静さは既に消えていた。

 

「奴ら...一体何を...?」

 

バンダナワドルディがよく知る操り方は、ただ単に体の中にダークマターが入る。

だが、このような方法は見たことが無かった。

 

青い培養液に満たされた筒の中で、力なく浮かびながら、苦しげに顔を歪めている。

無数の管が彼女へと繋がり、何かを送り込み、あるいは吸い出しているようにも見えた。

 

その前には、幾つかの影。

ダークマターたちが無機質な動きでモニターを操作している。

 

その光景を見た瞬間、シグレの胸に焦りが走る。

 

「とにかく早く助け出さなきゃ……バンダナ君!さっきのやつの中で使えそうなのは!?」

 

声を潜めながらも、抑えきれない切迫が滲む。

 

「えっと……えっと……!」

 

バンダナワドルディは慌てた様子で、自分がさっき確保しておいたアイテムの中から手探りで探る。

焦りに指先がもつれそうになりながらも、一つずつ確かめ――

 

「……これだ!」

 

取り出したのは、赤い筒状のもの。

バンダナワドルディはシグレの頭の上から降り、逆にそれを頭の上に掲げた。

 

狙いは、ノドカを閉じ込めているポッド。

一度だけ呼吸を整える。

 

そして…

 

「クラッカー、発射!」

 

軽い音とともに弾が放たれる。

一直線に飛んだそれは、ポッドの表面へと正確に命中した。

 

次の瞬間、ガラスに細かなひびが走る。

 

内側から圧を受けるように、そこから培養液がじわりと滲み出した。

 

≪なんだ!?≫

≪敵襲か!?≫

 

ダークマターたちが一斉にざわめく。

 

「邪魔だ!」

 

すぐさま体の向きを変える。

今度は、モニター前の個体へ。

 

引き金を引く。

弾が弾け、光が散る。

 

花火のような閃光が狭い室内を明るく照らし、視界を乱す。

 

≪ぐっ!?≫

≪ガアッ!?≫

 

爆発と光によってダークマターの体がのけぞる。

バンダナワドルディは再びポッドへ狙いを定め、一撃を放った。

 

すると、ひびは一気に広がりやがて耐えきれなくなったガラスが甲高い音とともに砕け散った。

同時に、クラッカーも役目を終え、鈍い音を立てながら黒い煙を吐き出す。

 

 

割れ落ちる破片。

床へと流れ出す培養液。

 

その中から――

ノドカの体が、糸の切れた人形のように力なく滑り落ちた。

 

「バンダナ君!これ持ってて!」

 

シグレは迷いなく、とうめいクリスタルを放る。

放物線を描いたそれは、正確にバンダナワドルディの手へと収まった。

 

同時にシグレはノドカへ駆け寄る。

絡みつく管を乱暴にならないよう素早く外し、その体を抱き上げた。

 

冷たい。

だが、わずかに温もりは残っており、鼓動も聞こえる。

安堵も束の間、そのままノドカをおぶり立ち上がった。

 

「ここを離れるよ!」

 

焦りを押し殺した声。

 

次の瞬間には、バンダナワドルディが再び彼女の頭上へと飛び乗っていた。

手にしたとうめいクリスタルを高く掲げる。

 

淡い光が、二人を包み込む。

視界から、存在が溶けるように消えていく。

 

背後では、砕けた音と警戒のざわめきが一層強くなる。

ダークマターたちの気配が一斉に動き出すのが、肌で分かった。

 

だが――

 

その追跡が形になるよりも早く。

二人の姿は、ノドカを抱えたまま、再び闇の中へと紛れ込んでいった。

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