黒い星を歩くにつれ、空気に混じる嫌な気配が、少しずつ濃くなっていく。
まるで星そのものが、生き物のようにこちらを見ている。
そんな錯覚すら覚えるほどだった。
カービィだけは何も気にした様子もなく、てとてとと前を歩き続けている。
だが、後ろを歩く面々は違った。
モモイやミドリ、ユズだけでなく、シロコも、ヒナやミカでさえも。
気付けば、皆うっすらと額に汗を浮かべていた。
風もない。
音もない。
気配だけが、じわじわと増えていく。
その異様な空気を誤魔化すように、ミカが口を開いた。
「そういえばこの星、
「そういえばそうね」
ヒナも気づかなかった、という感じで答える。
「まぁ、恐らく人質を生かすためだろうな、ワシらと同じで奴は宇宙でも生きられるだろうし」
恐ろしいことだが、逆にそれに助けられている事実もある。
「……それにしても……怖いくらいに何もない星だね…」
モモイが乾いた笑みを浮かべながら、周囲を見回す。
「てっきり、この星中にダークマターがうじゃうじゃいると思ってたんだけど……」
「あの警備隊のようなダークマターが存在していた以上、“いない”という訳ではあるまい」
メタナイトが低く答える。
マントを揺らしながら、鋭い視線を闇へ向けた。
「……先程の攻撃は、間違いなくゼロの仕業。ドラグーンが墜落した事も、奴らには把握されているはずだ」
鋭い視線が、黒い地平線の先を睨む。
「……にもかかわらず、追撃に来ない。何故だ?」
その声には、警戒だけでなく、確かな違和感が滲んでいた。
短く息を吐き、続ける。
「何か別の事へ戦力を回しているのか……あるいは――」
そこまで言いかけた、その時だった。
「ぽよ」
先頭を歩いていたカービィが、不意に足を速める。
「あっ、カービィ!」
「…ったく世話が焼けるぜ」
シロコとデデデ大王が慌てて後を追う。
それに釣られるように、一行も歩調を早めた。
やがて。
黒い地平線の先に、巨大な影が浮かび上がる。
「……あれか……」
デデデ大王が小さく息を呑んだ。
そこにあったのは、巨大な建造物だった。
見慣れない、異様な工場。
何本もの煙突が林立し、巨大な歯車が鈍く回転している。
金属音にも似た低い駆動音が、地の底から響くように鳴り続けていた。
煙突からは、黒い煙が絶え間なく噴き出している。
だが、この黒い
闇の中へ、さらに濃い闇を垂れ流しているようだった。
他のメンバーも、次々と足を止める。
誰も言葉を発さない。
だが、全員が同じ感覚を抱いていた。
この星を覆っていた“嫌な気配”――
その発生源が、目の前の建物なのだと。
自然と空気が重くなる。
「ここが……?」
「魔王の城!ってのを想像してたけど、想像と違ったかも…」
「どっちかっていうと
「た、確かに似てる…」
そう話していると、カービィが再び駆け出した。
「あっおい!待てよ!」
デデデ大王も走り出す。
それに続き、全員後に続いた。
カービィは、巨大な建造物の前で足を止めた。
目の前にそびえるのは、黒鉄で作られた巨大な扉。
何度も開閉を繰り返してきたのか、表面には無数の傷と錆が刻まれている。
その圧迫感に、自然と全員が見上げていた。
「……どうやって入るの?」
モモイの問いにデデデ大王が腕を組みながら唸る。
「わしのハンマーでも壊せるかどうかだな」
「ん……」
シロコが小さく周囲を見回した――その時だった。
突如。
鈍く重たい駆動音が響き、巨大な扉がひとりでに動き始める。
「!?」
全員が身構える。
扉は長い間放置されていたのか、金属が擦れ合う不快な音を響かせながら、ゆっくりと開いていく。
開き切るまで、異様に時間がかかった。
やがて現れたのは――
奥の見えない暗闇だった。
ミカがスマホのライトを向ける。
だが、白い光は途中で闇へ飲み込まれ、先を照らし出せない。
「なんも見えないね…」
まるで、光そのものを吸い込んでいるようだった。
「……どうして開いたのかしら?」
ヒナが眉をひそめる。
「わ、罠……かも……?」
ユズが自信なさげに呟く。
「その可能性が高いな」
メタナイトが低く答える。
「だが、他に入り口らしい場所も見当たらん。このまま進むしかあるまい」
すると、デデデ大王が「ふむ」と顎を撫でた。
「なら、あれを使うか」
そう言って、ガウンの下をゴソゴソと漁り始める。
「あったあった」
「それは……電球?」
シロコが目を丸くする。
「おう。カービィ、これコピーしな」
「ぽよ!」
デデデ大王はそれを軽く放り投げた。
カービィはぱくり、と口を開けて吸い込む。
次の瞬間。
カービィの身体がふわりと光に包まれた。
いつものコピー能力と同じ現象。
だが――
光が消えても、帽子や見た目に大きな変化はない。
身体が白く点滅している程度だった。
「あれ……?」
シロコが首を傾げる。
「失敗したの? いつもみたいに帽子とか被ってないけど……」
「ちゃんと成功しとるぞ。見てな」
デデデ大王がニヤリと笑う。
カービィはそのまま、てとてとと暗闇の中へ歩いていった。
数歩進んだところで立ち止まる。
そして、ぴょんと小さく跳ねた。
「ぽよ!」
その瞬間。
掲げた手の先から、花火のような光が撃ち上がる。
乾いた破裂音が響いた。
直後――
真っ暗だった通路が、一瞬にして照らし出された。
「うわっ……!」
眩い閃光が廊下全体へ広がる。
壁。
天井。
無数の配管。
奥へ続く長大な通路。
この工場の内部構造が浮かび上がった。
「コピー能力『ライト』」
メタナイトが静かに口を開く。
「一時的ではあるが、暗闇を強烈な光で照らす能力だ。さて――見えたな」
静かに剣へ手を添える。
配管の裏。
天井の陰。
通路脇の暗闇。
そこには、無数のダークマターが潜んでいた。
光に照らされた事で、その異様な姿がはっきりと露わになる。
まるで最初から待ち伏せしていたかのようだった。
ダークマターたちも、自らの存在が露見したことを理解したのか、一斉に蠢き始めた。
低い唸り声。
滲む殺気。
空気が、一気に張り詰める。
「カービィ、これを」
メタナイトはマントの内側から一本の剣を取り出し、カービィへ差し出した。
「ぽよ」
カービィは真剣な表情でそれを受け取り、そのまま剣を飲み込んだ。
光が弾ける。
カービィの頭へ緑色のナイトキャップが現れ、手には剣が握られていた。
それを確認すると、メタナイトもマントを大きく翻した。
黒い布は翼へと変化し、その身体を包み込む。
「では……行くぞ!」
メタナイトの号令と同時に、一行が一斉に駆け出した。
その瞬間。
暗闇が牙を剥いた。
配管の隙間という隙間から、ダークマターが飛び掛かってくる。
だが――
誰一人として、近くへと寄せはさせない。
「おらぁっ!!」
デデデ大王のハンマーが、轟音と共に横薙ぎに振るわれる。
衝撃だけで周囲のダークマターが吹き飛び、黒い煙となって霧散した。
「くらえーっ!」
「えいっ!」
モモイとミドリは背中合わせに立ち、それぞれ別方向から迫る敵へ弾幕を叩き込む。
光弾が暗闇を切り裂き、次々とダークマターを撃ち落としていった。
だが、その弾幕の間を縫うように撃ち漏らした影が飛び込んでくる。
その直後、光のような速さで影は消える。
「遅い」
メタナイトの剣閃が闇を裂く。
踏み込んだ瞬間には既に斬り終えており、切り裂かれたダークマターが後方で崩れ落ちる。
そして、そのさらに前方。
「ぽよっ!」
カービィが小さな身体で跳び上がる。
『スピニングソード!』
振るわれた剣が弧を描き、飛び掛かってきたダークマターをまとめて両断した。
工場内へ、激しい戦闘音が響き渡る。
一行の勢いは止まらず、まるで黒い波を真正面から切り裂くように、彼らは工場の奥へと突き進んでいった。
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「はぁ……はぁ……」
暗闇の通路をひたすら駆け抜け、ようやくダークマターの気配が薄い場所まで逃げ延びる。
シグレは壁へ背を預けるように立ち止まり、腕の中のノドカへ視線を落とした。
「ノドカ……」
脈はある。
呼吸もしている。
だが、目を覚ます気配は一向になかった。
ぐったりと力の抜けた身体は、まるで深い眠りへ沈んでしまったかのようだった。
「ダークマターの影響なのかな……」
バンダナワドルディが、不安そうにノドカを見つめる。
「ほんの少しだけど……ノドカの中から、ダークマターの気配を感じるんだ」
「……侵食されてるってこと?」
シグレの声がわずかに強張る。
「うん、多分だけどあの装置の中で、少しずつ……」
言いながら、バンダナワドルディは小さく唇を結んだ。
ノドカの表情は、今もどこか苦しげだった。
眠っているというより、何かと戦い続けているようにも見える。
その時――
ズンッ、と。
足元を突き上げるような衝撃が走った。
「うわっ!?」
通路全体が激しく揺れる。
天井からパラパラ、と砂のようなものが落ちてくる。
だが揺れは数秒で収まり、再び静寂が戻った。
「じ、地震……?」
シグレが息を呑む。
バンダナワドルディは耳(?)を澄ませるように顔を上げた。
遠くの方で、わずかに金属が軋むような残響が響いている。
「奴らが何かしてるのかも……とにかく、早くここから出よう」
「……うん」
シグレはノドカを抱え直し、再び暗い通路を走り出す。
天井や壁に埋め込まれた小さな照明だけが、ぼんやりと道を照らしていた。
その薄暗い通路を進んでいた、その時。
「おおっと!」
シグレの足が何かへ引っかかった。
「うわっ!」
体勢が大きく崩れる。
頭の上に乗っていたバンダナワドルディもバランスを失い、ころん、とノドカの上へ転がり落ちた。
「わっ――」
「危ない危ない……バンダナ君、大丈夫――」
シグレが視線を落とそうと、わずかに頭を下げた――その瞬間。
頭上を、何かが凄まじい勢いで通り過ぎた。
空気そのものを切り裂くような鋭い風圧。
反射的に、シグレはその場へ身を伏せた。
「っ!?」
遅れて、背後の壁へ深い斬撃が刻まれる。
激しい火花が散り、痛々しい傷が壁に現れる。
壁へ埋め込まれていた照明が断ち切られ、チカチカと不規則に点滅を繰り返す。
明滅する光が、暗闇を断続的に照らし出していた。
耳障りなノイズ音が、静まり返った通路へ響く。
冷たい汗が背筋を伝う。
――もし、あの瞬間に頭を下げていなければ。
脳裏に浮かびかけた想像を、シグレは無理やり振り払った。
すぐさま背後を振り向き、暗闇の奥を注視した。
そこには、“何か”が立っていた。
姿ははっきり見えない。
だが、点滅するライトと散る火花のおかげで、その輪郭だけは辛うじて浮かび上がる。
人影とは言えないような黒いシルエット。
闇へ溶け込むように佇みながら、それだけが異様な存在感を放っていた。
《外したか》
低く、不気味な声。
感情の欠片すら感じさせない声音だった。
シグレはごくり、と生唾を飲み込む。
今、自分達は姿を消している。
目で見えているはずがない。先程のダークマターもそうだった。
それなのに、あの斬撃はまっすぐ自分を狙っていた。
気配を読まれたのか。
それとも――透明化そのものを見破っているのか。
その直後――
闇の中で、白い刃が怪しく光を放つ。
それは床を踏むことなく、音も立てずにこちらへ滑るように近づいてくる。
紫色のマントが、ゆらりと揺れる。
剣の淡い光を受け、銀色のゴーグルが鈍く反射した。
ゴーグルの奥の紫色の瞳だけが、はっきりとこちらを見据えている。
まるで獲物を追い詰めた捕食者そのものだった。
「お、お前は……!」
バンダナワドルディの声が強張る。
その姿には、見覚えがあった。
かつて虹の島々を襲撃し、プププランド全域を闇へ沈めようとした存在。
剣を振るい、執拗に獲物を追い詰める闇の剣士。
「剣士ダークマター……!」
コピー能力:ライト
コピー元:デデデが持ってきていた電球
くらいところでは こいつがいちばん!
ぱっとあかるい はなびをあげよう!
でも あかるいばしょでは
いみがないよね
コピー能力:ソード
コピー元:メタナイトが渡した剣
ぶきの王さま つるぎのコピー。
ドリル 下づき 回てんぎり!
トドメに はなつメテオエンド!
天にかかげて ウォーッとさけび、
緑のけんしが 世界をせいす。