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バンダナワドルディはシグレの腕から飛び降りると、彼女を庇うように前へ出た。
《先程、脱走者が出たと報告を受けたが……貴様らだったとはな》
剣士ダークマターは剣先をこちらへ向けたまま、冷たく言い放つ。
その言葉を聞き、シグレは確信した。
とうめいクリスタルの効果が、こいつには通用していない。
姿を消しているはずの自分たちを正確に認識している。
「大王様をどこへやった!」
《答える義理はないな》
言葉が終わるのと同時に、剣士ダークマターの姿が掻き消えた。
「っ!?」
シグレとバンダナワドルディは反射的に身構える。
次の瞬間。
鋭い殺気が走った。
バンダナワドルディは咄嗟に飛び退き、シグレも後方へ身を引く。
その直後。
先程まで立っていた床へ、鋭い斬撃が突き刺さった。
金属を裂くような音が通路に響き、床へ深い切れ込みが刻まれる。
《よく反応できたな》
声だけが聞こえる。
姿は見えない。
《ただの雑兵というわけではないようだ》
どこから声が発せられているのかも分からない。
シグレはノドカを抱え直しながら周囲へ視線を巡らせる。
《だが……どこまで耐えられるかな?》
声と共に、剣士ダークマターが一瞬だけ姿を現した。
だが次の瞬間には再び消える。
「来る!」
銀色の刃が閃く。
バンダナワドルディが身を伏せ、シグレが跳ぶ。
空振った斬撃が壁を深々と裂いた。
その直後。
「シグレ!」
振り向くより早くシグレが身を投げ出す。
髪を掠めた刃が数本の髪を宙へ舞わせる。
さらに頭上。
真上から斬撃が落ちてくる。
二人は左右へ飛び退き、なんとか回避する。
床が抉れ、破片が飛び散った。
壁が裂ける。
床が抉れる。
照明が砕ける。
通路に埋め込まれたライトは次々と破壊され、火花を散らしながら明滅する。
暗闇と光が入り混じる中、二人は必死に攻撃を避け続けた。
反撃する暇などない。
姿を捉えたと思った瞬間には、もうそこにいない。
まるでこの空間全体が敵になったかのようだった。
どれほど時間が経ったのか。
実際は数分だったのだろうが、二人には何時間も追い詰められ続けているように感じられた。
神経が擦り減っていく。
常に死角を警戒し続ける緊張が、体力以上に精神を削っていた。
何度目かも分からない斬撃を避けた頃には、二人の呼吸は既に荒くなっていた。
いつ現れるか分からない相手へ神経を張り続けるのは、それ以上に体力を削る。
《どうした? もう終わりか》
剣士ダークマターが嘲るように笑う。
「くっ……」
ノドカを抱えながら攻撃を避け続けるシグレは、バンダナワドルディ以上に体力を消耗していた。
その時だった。
剣士ダークマターの視線が止まる。
見ているのは、目の前のバンダナワドルディでも、倒れたシグレでもない。
シグレの腕に抱えられているノドカだった。
《……なるほど》
紫色の瞳が細められる。
《良いことを思いついたぞ》
不気味な笑みを浮かべた次の瞬間。
再び、その姿が消えた。
「来る!」
バンダナワドルディは叫ぶ。
シグレもすぐに立ち上がり、二人は背中(?)合わせになる。
前後左右へ視線を走らせる。
だが――どこにもいない。
気配すら掴めない。
「どこ……?」
張り詰めた沈黙。
その中で、二人の声ではないものが二人の耳に届いた。
「……ん」
微かな声が聞こえた。
シグレの腕の中。
ノドカの指先が、ぴくりと動く。
「ノドカ!?」
思わず顔を向ける。
ゆっくりと瞼が開いていく。
「よかっ…」
だが――
そこにあった瞳は、いつもの温かな色ではなかった。
底知れない闇。
光を映さず、全てを飲み込むような漆黒。
「えっ…」
シグレの声が途切れる。
その瞬間。
バンダナワドルディの顔色が変わった。
「シグレ! ノドカから今すぐ離れて!」
バンダナワドルディの叫びが通路に響く。
だが、シグレの反応は一瞬遅れた。
ノドカの腕の周囲に黒い靄が集まり始める。
靄は瞬く間に形を持ち――
先程、剣士ダークマターが手にしていたものと同じ剣へと変わった。
「っ!?」
気付いた時には遅く、黒い刃が真横へ振り抜かれる。
シグレは咄嗟に身を引いたが――
「きゃあっ!」
肩口を斬り裂かれ、体が大きく吹き飛んだ。
床を転がり、何度も跳ねる。
遅れて激痛が襲いかかった。
「シグレっ!」
バンダナワドルディの声が遠く聞こえる。
焼けるような痛みが肩から腕へと走っていた。
「ぐっ……!」
傷は浅い。
最後の瞬間に体を反らしたおかげで、致命傷だけは免れていた。
だが、あと少し反応が遅れていれば、首を断ち切られていた。
そう理解できるだけの鋭さが、その一撃にはあった。
「シグレ!」
バンダナワドルディがシグレの元へ駆け出そうとする。
しかし、その足が止まった。
「――なっ!?」
思わず声が漏れる。
つい今しがたまで目の前にいたはずのノドカの姿が、そこに無かった。
次の瞬間には、吹き飛ばされたシグレのすぐ傍に立っていた。
まるで最初からそこにいたかのように。
シグレも目を見開く。
ノドカは無表情のまま、黒い瞳でこちらを見下ろしていた。
そして、その手に握られた剣の切っ先が、ぴたりとシグレの喉元へ突き付けられる。
《さて……》
ノドカの口から、剣士ダークマターの声が響く。
《この娘がどうなってもいいのなら、こちらへ来るがいい》
「くっ……!」
バンダナワドルディは歯(?)を食いしばる。
下手に動けば、シグレだけでなくノドカをも傷付けるだろう。
そんな状況で飛び込めるはずがなかった。
《さぁ……どうする?》
声が薄暗い通路に響く。
バンダナワドルディは歯を食いしばった。
飛び込めばシグレが危険だ。
だが、このままでは何もできない。
(どうする……?)
バンダナワドルディは必死に考える。
今持っているアイテムで、この状況を打開できるものはないか。
マキシムトマト。
シグレの傷は治せるだろう。
だが、近付く前に剣士ダークマターが動く。
ゴルボール。バルーンボム。
どちらも威力は十分だ。
だがシグレやノドカまで巻き込んでしまうだろう。
(駄目だ……)
焦りだけが募っていく。
ノドカ(剣士ダークマター)はその様子を楽しむように、喉元へ突き付けた剣をわずかに押し込んだ。
※これ以降剣士ダークマターと表記します。
「っ……」
シグレが苦しそうに息を呑む。
(何か……何かないのか……!)
その時だった。
突如、通路全体が白く染まった。
「っ!?」
あまりの眩しさに思わず目を覆う。
「な、なんだ...!?」
その時、どこか遠くで、鈍い音が響いた。
音は一度では終わらない。
何かが壊れるような音。
何かが吹き飛ばされるような音。
それが少しずつ近付いてきている。
《……》
剣士ダークマターがわずかに視線を動かした。
通路の奥。
暗闇の向こうから、騒がしい音だけが近付いてくる。
まるで何かが一直線にこちらへ向かっているかのように。
次の瞬間だった。
《ギャアッ!?》
悲鳴と共に、一体のダークマターが通路の奥から吹き飛んできた。
壁へ激突し、轟音と共に叩き付けられる。
その身体はひしゃげるように歪み――
次の瞬間、黒い霧となって消滅した。
「うわっ!?」
バンダナワドルディは何が起きたのか理解できなかった。
だが、さらに奥から衝突音が聞こえる。
何度も、何度もドカドカと音が鳴り、少し騒々しいくらいだった。
そして、聞き覚えのある声が、通路に響いた。
「ぽよーっ!」
《来たか…》
バンダナワドルディの目が大きく見開かれる。
その直後、桃色の影が通路を一直線に飛び込んできた。
まるで流れ星のように通路を駆け抜ける。
《――!》
シグレの喉元へ向けていた剣を持ち直し、振り向きざまに横薙ぎの一閃を放つ。
現れた影は跳び上がり手に持った銀色の刃が振り下ろした。
『メテオエンド!』
激しい金属音が辺り一帯へ轟き、二本の剣が真正面から衝突する。
眩い火花が爆発するように散り、明るい通路を更に照らした。
衝撃で床が軋む。
《ぬっ……!》
剣士ダークマターの身体がわずかに後ろへ押し込まれる。
だが、そのまま力任せに剣を振り抜いた。
互いの刃が弾かれ、カービィは後方へ軽やかに飛び退き着地する。
剣士ダークマターもまた数メートル後方へ滑るように距離を取った。
火花の残光が消え、そこには剣を構えたカービィと、剣士ダークマターが向かい合っていた。
背後から続々と他のメンバーが駆けつける。
「大王様! メタナイト様まで!」
「おぉバンダナ! 無事だったのか――って、貴様は!?」
デデデ大王の表情が一変する。
その視線の先にいるのは、一人の少女。
だが、その手には見覚えのある剣が握られ、忘れようのない禍々しい気配を放っていた。
《……》
その気配を感じ取った瞬間、デデデ大王の脳裏に過去の記憶が蘇る。
プププランドや虹の島々を闇に包んだあの日。
仲間達を苦しめた存在。
そして今もまた、目の前で一人の少女の身体を乗っ取っている。
「貴様……あの時の……!」
握り締めたハンマーが軋む。
その目には怒りが宿っていた。
一方で、シロコも眉をひそめる。
「……この気配」
アビドスで見た黒い煙。
カービィと喋っていた、あの異質な存在。
目の前の相手からは、それと全く同じ気配が漂っていた。
(間違いない……あの時の)
《ハッ……随分と大人数で来たものだな》
剣士ダークマターが嘲るように笑う。
「黙れ!」
デデデ大王が一歩踏み出した。
「今度こそ叩き潰してやる!」
だが、その前へ黒い翼が広がる。
「待て」
影が剣を横へ伸ばし、デデデ大王を制する。
メタナイトだった。
「ここは私に任せろ」
「何だと!?」
「敵はノドカ殿の身体を利用している」
メタナイトは剣士ダークマターから目を離さない。
「力任せに戦えば、傷付くのはノドカ殿だ」
「ぐっ……だが…」
「大王、お前は先へ行け。カービィ達の援護を頼む」
デデデ大王は悔しそうに歯を食いしばった。
だが反論は出ない。出来なかった。
しばらく睨み合った末、舌打ちを漏らす。
「……やられるんじゃねぇぞ」
「ああ」
短く答えるメタナイト。
「バンダナ!そこの倒れてる嬢ちゃんを連れて来い!」
「は、はい!」
「カービィ!突っ立ってないで行くぞ!」
デデデ大王はカービィを掴み背中に乗せる。
そうして横を通り過ぎようとした、その瞬間。
《行かせると思うか》
剣士ダークマターの姿が掻き消える。
次の瞬間には、デデデ大王の真横へ現れていた。
振り下ろされる刃。
だが――
鋭い金属音が通路へ響き渡る。
怪しく光る刃を受け止めたのは、金色の剣だった。
火花が激しく散る。
メタナイトは一歩も退かない。
剣を押し返しながら静かに告げる。
「私に構うな、行け」
デデデ大王達が駆け抜けていく。
そして、メタナイトは後ろへ引き剣先を向け直した。
「貴様の相手は――私だ」