ありがとうございます!!
廊下を走る中、モモイは隣を走るユズとミドリへ声を掛けた。
「ねぇミドリ、ユズ……気のせいかな……」
「いや……多分、気のせいじゃないと思う」
ミドリも真剣な表情で頷く。
先程よりも濃い瘴気のような気配。
それと同時に、どこか懐かしい感覚も近付いてきていた。
「で、でも……アリスちゃんも近くにいるような気がする……」
ユズが不安そうに呟く。
「うん……私もそう思う」
モモイは力強く頷いた。
「アリス!今助けるからねー!!」
そう言うと、自然と足に力が入る。
しかし――
「あいたっ!?」
力んだせいか、モモイは床のわずかな段差に足を取られ、そのまま前につんのめった。
「いたたた……」
「わっ、大丈夫?」
ユズが慌てて駆け寄り、手を差し伸べる。
立ち上がる拍子に、モモイのポケットから何かが転がり落ちた。
「ん?」
ミドリがそれを拾い上げる。
「お姉ちゃん、何か落とした……ってこれは……」
「え?」
ミドリの反応に思わずモモイが顔を上げる。
その手の中にあったのは、小さなロボットのストラップだった。
「あれ……これって……」
見覚えのあるデザインだった。
忘れるはずがない。
アリスがいつも大切に持っていた、小さなロボットのストラップ。
かつて消えてしまったと思っていた"ケイ"の名残。
だが、モモイのゲーム機に残っていたデータが、それを否定した。
だからこそアリスは、そのストラップを肌身離さず大事(?)に持ち歩いていたのだ。
「こ、これって……アリスちゃんの……」
ユズが目を丸くする。
「なんでお姉ちゃんが持ってるの?」
「私にも分かんないよ!」
モモイも慌てて首を振った。
どうしてそれが自分のポケットに入っていたのか。
モモイにも全く心当たりがない。
三人が揃って首を捻っていると、前方からデデデ大王の声が聞こえてきた。
「おーい!早く行くぞ!」
「は、はーい!」
モモイは慌ててストラップをポケットへしまい込む。
三人は顔を見合わせると、再び通路の奥へ向かって駆け出した。
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白く照らされた通路に、それ以上の激しい光が刺す。
壁や床には無数の斬撃痕が刻まれ、断線したケーブルがバチバチと不気味な音を立てていた。
「はぁっ!!」《ふんっ》
一帯に金属音が轟く。
互いの剣がぶつかり合い、火花が弾ける。
一歩も譲らない、一進一退の攻防。
互いの攻撃を避け、受け、反撃を幾度も繰り返していた。
剣士ダークマターの姿がふっと掻き消えた。
「何度やっても同じことだ!」
メタナイトが即座に反応する。
「メタクイック!」
身体が青白い光を纏い、一瞬で加速する。
駆け抜けた軌跡には幾重もの残像が残り、その直後、先ほどまでメタナイトが立っていた場所へ鋭い斬撃が走った。
床が大きく裂け、火花が激しく舞い上がる。
『シャトルループ!!』
メタナイトは大きく弧を描き、その勢いのまま剣士ダークマターへ斬り返す。
しかし、剣士ダークマターの姿は再び霧のように掻き消え、少し離れた場所へと現れた。
その手に握られていた剣が、音もなく消える。
(……何をする気だ?)
警戒した、その直後だった。
少女の両腕が大きく裂け、巨大な口のような姿へと変貌していく。
「なっ……!」
そして壁や床へ食らいつくと、金属片や瓦礫を次々と飲み込み始めた。
それだけではない。
壁や床に潜んでいた小さなダークマターまでも、一匹残らずその口へ吸い込まれていく。
喰らうたびに両腕は異様なほど膨れ上がり、不気味に脈打った。
(まさか……)
嫌な予感が全身を駆け巡る。
剣士ダークマターは膨れ上がった両腕をゆっくりと持ち上げ、その照準をメタナイトへ定めた。
「……っ!」
《消し飛べ》
轟音と共に、両腕から凄まじい勢いで瓦礫が吐き出される。
まるでマシンガン。
言うなればカービィの吐き出し攻撃を何十倍にも凶悪にしたような暴風だった。
さらに瓦礫の隙間を縫うように、先ほど飲み込まれたダークマターが弾丸に紛れて飛び出してくる。
意思を持った追尾弾。
回避したと思った軌道を無理やり曲げ、メタナイトへと襲い掛かる。
「くっ……!」
メタナイトは剣で弾き、床を蹴り、壁を蹴り、宙を舞う。
青白い残光を幾重にも残しながら、紙一重で弾幕を潜り抜ける。
一歩。
また一歩と距離を詰めていく。
しかし距離が縮まるほど、弾幕はさらに濃さを増した。
逃げ場そのものが消えていく。
その時だった。
身体を包んでいた青白い光が、不意に揺らぐ。
(……時間切れか!)
残光が音もなく霧散する。
加速を失った、その一瞬。
《終わりだ》
待っていたかのように、瓦礫とダークマターの豪雨が一斉に襲い掛かった。
「ぐっ……!」
メタクイックを使ってなお紙一重だった猛攻。
通常の速度で、その全てを避け切れるはずがない。
剣で受け流した瓦礫の隙間から、次の一撃、そのまた次の一撃が容赦なく身体へ叩き込まれる。
衝撃が全身を貫き、メタナイトの身体は大きく吹き飛ばされた。
何度も床へ叩きつけられ、そのたびに鈍い衝撃が全身を襲う。砕けた金属片や瓦礫を巻き上げながら長く滑り続け、最後は積み上がった瓦礫へ背中から激突した。
苦しげに身体を起こし、剣を杖代わりにしてようやく膝をつく。
その姿を見た剣士ダークマターは、ゆっくりと膨れ上がっていた両腕を元の形へ戻しながら、小さく笑みを漏らした。
《ふむ……やはりこの世界の人間の力は素晴らしい。聞けば、この娘は特筆すべき能力も持たぬ、ごく平凡な人間らしいが、それでいてここまで我に抗えるとは……ますますゼロ様がその力を欲した理由が理解できる》
やがて何もない空間から剣が音もなく現れ、その手へと吸い込まれるように収まる。
《さぁ……これで終わりにしよう》
剣を真っすぐメタナイトへ向けると、漆黒の刀身へ濃密な闇が集まり始める。
その圧力だけで周囲の空気が震え、足元へ力を込めた瞬間には、ひび割れていた床が耐えきれず蜘蛛の巣状に砕け散った。
《とどめだ》
次の瞬間、剣士ダークマターは蓄えた力を一気に解放し、黒い残像だけを残してメタナイトへ一直線に駆け抜ける。
(こいつを始末した後は、次はこいつの体を乗っ取ってやる。ゼロ様の御手を煩わせるわけにはいかん)
勝利を確信したまま放たれた一閃が、メタナイトの喉元へ吸い込まれるように迫る。
あと僅か。
剣先が届こうとした、その瞬間だった。
「終わるのは……貴様の方だ!!」
《……!?》
その一言に、剣士ダークマターの表情が初めて揺らぐ。
確かに満身創痍だったはずのメタナイトは、静かに剣を構え、鋭い眼差しでこちらを見据えていた。
『ギャラクティックカウンター!!!』
《なっ……!?》
真っすぐと向けていた剣は、寸前で弾き飛ばされる。
剣士ダークマターの身体は大きく跳ね上げられ、一瞬で体勢を崩した。
何が起きたのか理解するより早く手から剣が離れ、無防備なまま腹部を晒してしまう。
そこへ、大きく翼を広げたメタナイトが一直線に飛び込んできた。
《くっ……!》
このまま貫かれれば終わる。
これまで積み重ねてきた計画も、ゼロへの忠誠も、すべて泡に帰す。
焦燥と恐怖が頭の中を駆け巡る中、一つだけ生き残るための答えへ辿り着いた。
剣士ダークマターは防御を捨て、自ら両腕を大きく広げる。
《やるならやるがいい! だが、この小娘も道連れだ!!》
誇りなど、もはやどうでもいい。
勝つことだけが目的ではない。
どんな手段を使ってでもゼロのもとへ向かうこと、それだけが今の剣士ダークマターを突き動かしていた。
《先程、大王へあれほど綺麗事を並べていたではないか! まさか罪もない人間ごと斬れるとは言うまい!?》
メタナイトは一瞬だけ目を閉じる。
そして、小さく息を吐いた。
「……そう来ると思っていたさ」
その言葉と同時に、構えていた剣を迷いなく鞘へ収める。
代わりに両手を空へ掲げると、その掌へ眩い光が集まり始めた。
「貴様にはこれをくれてやる」
光はみるみる一つの形を成していく。
《なっ……!?》
剣士ダークマターの瞳が大きく見開かれた。
優しい桃色の輝きを放つ大きなハートへと姿を変えていく。
それは以前、自らも調査していた力。
しかし、あれはカービィだけが扱える特別な能力だと結論付けていたはずだった。
《フレンズハート……!?》
「ノドカ殿から出ていけ!!」
放たれたハートは、激しい攻撃とは正反対に、ゆっくりと剣士ダークマターの身体へ近付いていく。
《や、やめろ……!》
ハートが体へと触れる。
剣士ダークマターは、自分の存在そのものを身体の奥底から無理やり引き剥がされるような感覚に襲われた。
身体はまるで自分のものではなくなり、意識は急速に遠のいていく。
《ぐっ……あぁぁぁぁぁっ!!》
断末魔にも似た叫びとともに、ノドカの体から黒い煙が勢いよく噴き出した。
煙は空中で後方に移動しながら渦を巻き、やがて一つの影となる。
その一方で、力を失ったノドカの身体はふらりと倒れた。
メタナイトは素早くその身体を受け止めると、静かに床へ横たえた。
そしてゆっくりと立ち上がり、剣士ダークマターへ視線を向ける。
その瞳は、先ほどまでの黄金色ではない。
深紅に染まった双眸が、冷たく敵を見据えていた。
大きく広げられていた翼も、いつの間にか黒いマントへと戻っている。
「これでもう、貴様を守るものは何もない。」
静かな声だった。
だが、その一言には戦場を凍らせるほどの殺気が込められていた。
「罪を償え」
《戯言を…!まだ私は…!》
『見るが良い』
言葉を遮るようにそう呟くと、メタナイトは静かにマントを翻す。
その瞬間だった。
周囲の光という光が、一瞬にして呑み込まれていく。
カービィのライト能力によって白く照らされていた壁や床は跡形もなく消え失せ、通路全体が底の見えない漆黒へと染め上げられた。
《馬鹿め……! 暗闇こそ我が――》
そこまで言いかけた時だった。
《……なっ?》
小さな違和感を感じる。
視界が揺れる。
いや、揺れているのではない。
景色そのものが、まるで紙を横へずらしたように食い違って見えていた。
身体を動かそうとしても動かない。
剣を取り戻そうとしても、それがどこにあるのかさえ分からない。
《何…だ……これは……》
自分の身体が、音もなく幾つもの断面へ分かれていく。
そこでようやく理解した。
見えていた景色がずれていたのではない。
――斬られていたのは、自分自身だと。
《ば……かな……》
それだけ理解した瞬間、剣士ダークマターの身体は音もなく黒い霧へと崩れ去り、その存在は跡形もなく消滅した。
闇が晴れ、通路に再び白い光が戻る。
静まり返った空間の中央で、メタナイトはなおもギャラクシアを構えたまま立っていた。
「……はぁ……はぁ……」
仮面の奥から荒い呼吸が漏れる。
メタクイック。
ギャラクティックカウンター。
そして、ギャラクシアダークネス。
短時間で立て続けに放った大技は、限界を超えた身体へ容赦なく負荷を与えていた。
腕は震え、足にはほとんど力が入らない。
視界も揺れ、今にも膝をつきそうになる。
それでも最後まで視線だけは、倒れたノドカから逸らさなかった。
「……」
剣を静かに納めると、震える腕でゆっくりとマントの内側へ手を伸ばす。
取り出したのは、カービィから託された薬だった。
「……っ」
掌に残ったのは、一本だけ。
先ほど瓦礫へ叩き付けられた衝撃で、残りの瓶はすべて砕け散ってしまっていた。
その一本を見つめる。
これを飲めば、まだ少しは動けるかもしれない。
この先には、まだ多くの仲間が戦っている。
自分も加勢しなければならない。
だが――
迷いは、一瞬たりとも生まれなかった。
メタナイトはノドカの身体を静かに抱き起こした。
まだ意識は戻らない。
呼吸も弱々しい。
震える指で瓶の蓋を開けようとするが、思うように力が入らず、何度も指先が滑った。
「……くっ……」
ようやく栓を抜くと、ノドカの口元へ瓶を運び、こぼさないよう慎重に薬を流し込んでいく。
最後の一滴まで飲ませ終えた頃には、心なしかノドカの顔色が良くなっているような気がした。
乾いた音を立てて床へ転がる小瓶。
その音を聞いた瞬間だった。
「……ぐっ」
身体から一気に力が抜ける。
視界がぐらりと揺れ、足の感覚が消えていく。
それでも最後の力を振り絞り、ノドカを床へぶつけないようゆっくりと横たえた。
その隣へ、自分も崩れ落ちる。
もう指一本動かす力すら残っていなかった。
薄れていく意識の中、メタナイトは小さく呟く。
「……後は……頼んだぞ……カービィ……」
その言葉を最後に、メタナイトの意識は静かに闇へと沈んでいった。
――数秒後。
「ん……」
ノドカの眉がぴくりと動く。
「にがっ!!」
舌いっぱいに広がる強烈な苦味に思わず顔をしかめ、勢いよく目を開いた。
「げほっ……げほっ!」
何度も咳き込みながら上半身を起こす。
だが次の瞬間、その動きがぴたりと止まった。
「……え?」
見覚えのない通路。
大きく抉られた壁。
辺り一面に散乱した瓦礫。
まるで激しい戦闘が繰り広げられた直後のような光景だった。
「……あ、あなたは確か……」
自分の隣には、一人の騎士が倒れていた。
バンダナワドルディやシグレと共にシャーレを訪れた際、一度だけ顔を合わせたことがある人物。
名前までは思い出せない。
目覚めたばかりで、頭がまだうまく働いていなかった。
その人物が、自分のすぐ隣で力尽きるように倒れている。
体を持ち上げ、膝の上に乗せる。
「な、何が起きたんですか……?」
話しかけても返答は無い。
自分の記憶を辿ろうとしても、思い出せるのはシャーレにいた所まで。
その先が、まるで切り取られたように何もない。
状況を理解できないまま、ノドカは呆然と辺りを見回すことしかできなかった。