色んな事がありまして遅くなってしまいました...
羽田DJフェスの夜の部に参加したのですが、最高の一言でした。
新たに今回から始まるお話は百鬼夜行編2章以降のネタバレを含みます。
ご注意ください。
大樹の元へ
カービィ達がキヴォトスに迷い込む、少し前の事。
大きな時計が、部屋の中に重々しい音を響かせる。
「さて、と」
読んでいた本を閉じ、ぐっと背伸びをする。
椅子から降りると、本を手に取って本棚へと戻した。
ふと、机の上に置かれた小さな鏡に目を向ける。
鏡に映るのは、銀色の長い髪。
タランザは鏡の前に立ち、髪を丁寧に整えていく。
「……ヨシ」
満足したように頷くと、鏡を置き、ドアノブに手をかけた。
豪華に装飾された廊下を歩いていく。
やがて、その先にある巨大な扉の前で足を止めた。
「ふぅ……」
一度、深呼吸をする。
気持ちを切り替えるように小さく息を吐くと、扉を開いた。
「おはようございます!」
「おはようなのね」
部屋にいた花の民と、いつものように軽く挨拶を交わす。
自分の席へ向かい、椅子に腰掛ける。
すると、待ち構えていたかのように、机の上へ次々と書類が置かれていった。
そして、最後にほかほかと湯気が上がるマグカップが置かれる。
「ありがとう」
一番上の書類を手に取り、目を通す。
(ワイルドワールドで未発見の石板が発見……追加調査の可否、なのね)
内容を確認すると、判子を手に取った。
書類に判を押す。
続いて、次の書類へと手を伸ばした。
(オールドオデッセイでクラッコが行方不明……)
「……」
タランザは、わずかに眉をひそめる。
判子を置き、今度はペンを手に取った。
そして、隣で待機していた花の民へ書類を手渡す。
「待機中のセクトルディ部隊に指示を出すのね。他のエリアもしっかりと調査をするように」
「了解しました!」
書類を受け取った花の民は、ふわふわと音を立てながら部屋を飛び出していった。
「次は……」
タランザは、山積みになった書類へと視線を向ける。
それから、同じことを何度も繰り返して――
気が付けば、数時間が経っていた。
机の上に積まれていた書類は、いつの間にかすべて片付いていた。
「ふぅ……」
タランザは椅子の背もたれに体を預け、大きく息を吐いた。
机に置かれたマグカップを手に取る。
湯気はすっかり消え、ぬるくなった液体が喉を通っていった。
セクトニアがいなくなった、あの日。
圧政から解放された花の民は、タランザを責めることはなかった。
何故なのか。
何度尋ねても、彼には分からなかった。
デデデ大王とカービィが、何か手を回したのだろうか。
この国……いや、この星の住民は、どうにも危機感が足りない気がする。
そんなことを考えながら、タランザは綺麗になった机を見つめた。
気が付けば、自分はこの席に座り、書類仕事をするようになっていた。
昔、彼女の隣で同じようなことをしていたからだろうか。
仕事に対する抵抗感はなく、特に困ることもなかった。
まるで、あの日々の続きを過ごしているかのように。
タランザは、背後に広がる大きな窓へと目を向けた。
その向こうには、いつものようにワールドツリーが咲き誇っている。
変わらない、美しい景色。
それを見るたびに、タランザの胸はぎゅっと締め付けられるようだった。
だが、こうでもしないと忘れてしまう。
(セクトニア……)
そっと手を伸ばす。
届くはずもないその手を、窓の向こうに咲く花へと重ねた。
ガラスに映る、自分の姿。
その姿が、かつての彼女と重なって見えた。
その時だった。
ぐにゃり、と視界が歪む。
「え?」
いや、歪んだのはタランザの視界ではない。
空間そのものだった。
目の前に、星型のゲートが不気味な音を立てて開いていく。
「なっ!?」
突然の出来事に、反応する間もなかった。
抵抗することもできず、タランザの身体はゲートの中へと引きずり込まれていった。
「失礼します。先程の件について……あら?」
ドアを開いた花の民が、不思議そうに首を傾げる。
先程まで確かにそこにいたはずのタランザの姿は、どこにもなかった。
部屋の中には、ただ静かな空間だけが広がっていた。
「はっ!」
投げ放たれた手裏剣がスタタタッ!と小気味よい音を立てて、並んだ的に突き刺さる。
「「おお~!」」
傍らに立つ二人の少女が、ぱちぱちと拍手を送った。
「うんうん、いつも通りの使い心地だねぇ~。じゃあ、次は……」
少女は、足元に置いていた黒い袋をガサゴソと漁り始めた。
そして、中から何やら見慣れないものを取り出す。
「次はこっちの新作を使ってみるよぉ~!」
「こ、こちらはモモグループが開発した、子供でも使いやすい手裏剣……だそうです!」
傍に立つもう一人の背の高い少女が手元の資料を確認しながら説明する。
「部長!的の準備、OKです!」
「よーし!いっくよぉー!」
少女は大きく振りかぶり、勢いよく手裏剣を投げた。
手裏剣は一直線に的へと飛んでいく。
――その瞬間。
「ぐふぁぁっ!?」
轟音とともに、周囲一帯が土煙に包まれた。
「うわっ!?」
凄まじい衝撃に、ミチルは思わず尻餅をつく。
「えっ、えっ!? ただの子供用の手裏剣だよねぇ!?しかもなんか変な声したし!」
「な、何が起きたのでしょう...!?」
「何者かの襲撃でしょうか!?」
慌てふためく三人。
やがて土煙が少しずつ晴れ、視界が開けていく。
そこにあったのは――
地面に埋まった、何かだった。
その周囲には、手袋のようなものが六つ、ぽつぽつと落ちている。
「え、何これ……」
それは動くことなく、ぐったりと地面に刺さっている。
「人形でしょうか?」
「にしてはさぁ……な、なんかぁ……生き物って感じ、しない?」
得体の知れない何かを前に、三人は戸惑いを隠せなかった。
「いたた……」
そのとき。
地面の中から、くぐもった声が聞こえてきた。
「「「!?」」」
三人が身構える。
すると、地面に落ちていた手袋がふわりと浮かび上がり、何かを探るようにふよふよと動き始めた。
「ふんっ!!」
一対の手袋が地面をがっしりと掴み、踏ん張るように力を込める。
残る二対の手袋も、埋まった体を引き抜こうと、左右からぐいぐいと引っ張った。
「ふぬぬ……!!むぅ……!」
しかし、なかなか抜けない。
しばらく力を込めていたものの、とうとう動かなくなってしまった。
「どうしたんでしょう?」
「も、もしかして…抜けないんでしょうか…?」
三人は互いに顔を見合わせ、小声で話し合う。
「まいったのね……一人じゃ抜けないのね……うーん…」
困り果てたように呟くと、手袋たちは腕を組むような格好でふわりと浮かんだ。
その様子を見て、イズナがぱっと顔を輝かせる。
「お困りでしょうか!イズナがお手伝いします!」
「ちょ、イズナぁ!?」「イズナちゃん!?」
二人の制止もむなしく、イズナは謎の存在へと駆け寄った。
そして、地面に埋まった体を両手でがっしりと掴む。
「引きますよー! せーのっ!」
イズナは力いっぱい引っ張った。
しかし、体がびよーんと伸びるばかりで、地面から抜ける気配はない。
「抜けませんね……。部長!ツクヨ殿!お力をお貸しください!」
「ええっ……本当に手伝うのぉ?」
「はい!!」
イズナは振り返り、満面の笑みを浮かべた。
「どんな方であれ、困っている方をお助けするのは、忍としての使命ですので!」
その笑顔を向けられ、ミチルは言葉に詰まった。
怪しいから関わりたくない。
できれば、これ以上面倒ごとに巻き込まれたくない。
――そんな言葉は、もう口にできなかった。
「……そーだよね! ツクヨ! やるよー!」
「は、はい!」
二人も覚悟を決め、イズナの後ろに並んだ。
「「「せーのっ!!!」」」
三人は一斉に力を込めて引っ張る。
「いだだだだだ……!!!」
体がぐいぐいと伸び、地面からミシミシと不穏な音が響いた。
「だ、大丈夫なんでしょうか、これ……!?」
「大丈夫!……たぶん!」
「あと少しです! せーのっ!!!」
三人は精一杯力を振り絞る。
そして――
間の抜けた音とともに、埋まっていた体が勢いよく引き抜かれた。
反動で、三人はそろって後ろへとのけぞる。
「わわっ!?」
倒れそうになった三人を、ツクヨが慌てて抱き留めた。
「だ、大丈夫……ですか?」
「うん、大丈夫~」
ミチルは苦笑いを浮かべながら答えた。
「そ、それより……」
そう言って、前を向く。
「ふぅ……」
タランザは小さく息を吐いた。
ふよふよと手が近づいてきて、服や髪に付着した土埃を丁寧に払い落としていく。
「ありがとう、助かったのね」
「いえいえ!」
イズナはにっこりと笑顔を返した。
「え、えーっと……」
その様子をすぐ後ろで見ていたミチルは、思わず言葉に詰まった。
綺麗に整えられた銀色の長い髪。茶色い肌。
そこから生えている二対の角……までは、まだいい。百鬼夜行には角が生えている生徒は普通にいるし、日焼けしていれば肌色も変わるだろう。
ただ、明らかに胴体と繋がっていない腕。しかも、どう見ても本数が多い。
瞳孔すら見当たらない、真っ白な瞳。
髪にくっついている、黄色い何か。
――そもそも、脚が見当たらない。
(えっ……なに、この人……そもそも人なのぉ?)
どこからどう見ても、普通の人間ではない。
ミチルが頭の中で必死に考えを巡らせていると、タランザがふと思い出したように口を開いた。
「そうだ、まだ自己紹介をしていなかったのね」
イズナの手元から離れ、三人の方へと向き直る。
「ワタクシはタランザ。フロラルドの……まぁ、仮の代表という感じなのね」
キリッと決まった表情で、堂々と名乗るタランザ。
「フロラルド?」「代表……?」
聞き覚えのない地名と肩書きに、三人は揃って首を傾げた。
「気軽にタランザと呼んでくれなのね。そうだ、キミ達は……」
そこで、タランザは言葉を切った。
改めて三人の姿を見渡す。
独特な衣装に、頭に生えた輪のようなもの。
そして、先ほどから気になっていたことを口にした。
「キミ達は……ニンジャか何か…なのね?」
その瞬間。
三人の目の色が変わった。
「忍者について知っているのぉ!?」
ミチルが勢いよく身を乗り出す。
「い、いや、ワタクシの知り合いに君達と似たような格好をする者がいてね……」
予想外の反応に、タランザは思わず一歩後ずさった。
すると、ミチルは胸を張り、誇らしげに名乗りを上げる。
「私達は忍術研究部!」
「忍者の研究と、忍者の魅力をキヴォトス中に広めるために!」
「ひ、日々鍛錬を積んでいます!」
ミチルは「決まった!」とでも言いたげに、フフン、と鼻を鳴らす。
「忍術研究部……」
「私はミチル!」「ツ、ツクヨ、です…!」「イズナと申します!」
三人の自己紹介を聞きながら、タランザは改めて彼女達を観察した。
(種族的には…アドレーヌと似たような種族なのね? いや、それにしては背が大きいような……)
タランザは少し考え込んだあと、申し訳なさそうに尋ねた。
「すまないのね。さっき、キヴォトスと言っていたけれど……それについて、もう少し聞いても?」
「あれ、キヴォトスも知らない感じ~?」
ミチルは意外、という表情で答える。
「キヴォトスはねぇ~、たっくさんの学園が集まってできてるんだぁ」
「それぞれの地域を、それぞれの学園が自治しています」
「そして、ここは百鬼夜行連合学院の自治区です!」
「百鬼夜行…。他には、どういった地名があるのね?」
「えっとー……ゲヘナに、トリニティに、ミレニアム……」
ミチルが指を折りながら挙げていく。
「レッドウィンターに…あと何あったっけ…?」
「山海経にワイルドハント…地名と言っていいか微妙ですが、オデュッセイアもありますね」
「あっ!アビドスもありますよ!」
「うーん……なるほどね」
タランザは静かに頷いた。
(どれもこれも、聞いたことのない地名……ということは、やはり違う星に来てしまったのね?)
「タランザは、どうしてここに来たの~?」
ミチルの問いに、タランザは少し困ったように眉を下げた。
「ああ…それが、ワタクシにもよく分からないのね。急にゲートのようなものが開いたと思ったら、気が付いたときにはここに…」
「へぇ~……」
「まぁ、普段からこんなことばかりだから、今さら驚きはしないのね」
「そ、そうなんですね…」
そう言って、タランザは改めて周囲を見渡した。
見慣れない建物に、見慣れない景色。
ここが本当に別の星なのだとしたら、まずは少しでも情報を集めなければならない。
フロラルドに戻る方法も探さなければ。
そんなことを考えていた、その時。
ふと、視界の端に大きなものが映り込んだ。
「あれは……」
遠くからでも、はっきりと分かるほど巨大な影。
ワールドツリーにも勝るとも劣らない、見事な桜の木だった。
「あ、あれ?」
タランザの視線に気づいたミチルが、そちらへと顔を向ける。
「あれはねー、百鬼夜行の名物なんだぁ!自治区のどこからでも見えるんだよぉ!」
誇らしげに説明するミチル。
確かに、見事な木だった。
枝いっぱいに咲き誇る、桃色の花。
幾重にも重なった花弁が、遠目にも鮮やかな色彩を放っている。
風が吹くたび、枝先の花々がゆったりと揺れる。
ひとひら、またひとひらと舞い落ちた花弁が、日の光を受けながら宙を漂っていく。
その光景は、まるで一枚の絵画のようだった。
長い年月をかけて大地に根を張り、この地を見守り続けてきた。
そんな風格さえ感じさせる、壮大で美しい桜の木。
――だが。
「……」
タランザは、じっとその木を見つめていた。
枝いっぱいに咲き誇る、桃色の花。
遠くから眺める限り、見事な桜の木だった。
けれど――。
「……」
なぜだろう。
ただ眺めているだけなのに、胸の奥がざわつく。
美しいはずの光景を前にして、どうしても心が落ち着かなかった。
(……何なのね、この嫌な感じは……)
何かが見えたわけではない。
異常を示すものがあったわけでもない。
それなのに、目の前の桜の木から、どうしようもなく嫌な予感がする。
花はこれほどまでに咲き誇っているというのに、木そのものからは、生命の息吹が感じられなかった。
まるで、枯れゆく体に無理やり花を咲かせているかのように。
今はまだ、こうして見事な姿を保っている。
けれど、このままでは一週間後にさえ、その花を咲かせ続けていられるか分からない。
そんな印象を受けた。
(……何なのね、この嫌な感じは……)
タランザは、無意識のうちに目を細めていた。
言葉ではうまく説明できない。
何かが見えるわけでも、はっきりと異常を感じ取れるわけでもない。
美しいはずの光景なのに、目を離すことができない。
それどころか、見つめれば見つめるほど、言いようのない不安が膨らんでいく。
あの木が何かを訴えているのだろうか。
それとも――。
その時。
「っ!?」
タランザが咄嗟に飛び退く。
直後、タランザが立っていた(?)場所に、乾いた銃声が響き渡った。
地面に刻まれた、ひとつの弾痕。
「えっ!?」
突然の出来事に、三人が慌てて振り返る。
そこに立っていたのは――
赤い髪をなびかせ、銃を構えた一人の少女だった。
タランザ
長年同じ主に仕える魔術師「タランザ」。
大事な主の命によりデデデ城に乗り込み、
カービィの目の前で大事件を引き起こした。
実は大きな過ちがあったとも知らず、
タランザはただ闇雲に、自らの使命を果たしたのだが...