なんやかんやでバスの囚人に転生したぞー!   作:青い方のカンテラ

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「よっと。うん、良い焼き目だな。」
「依頼完了!これでもう書類とのにらめっこも…え、報告書?」
――00 南部セブン協会6課 ガリバー


ダンジョン内部−2

「私、初めて見ます。こういうのは…。」

 

 ユーリが口が生えている花のような生物を見て呟いた。

 

「暴食大罪! へぇ、なるほど……。」

 

 ガリバーが管理人…いや、そこですらない何処かを見つめる。

 

「ここからは集中戦闘ってんだ。オートがあんま役に立たなくて面倒だが…図書館に慣れてるならむしろこっちの方が分かりやすいと思うぜ。」

 

「つまり普通にボコせばいいんだな?」

 

 ヒースクリフが棍棒を握りしめる。

 

「命令するなら、やるだけだ。」

 

 ムルソーの言葉を皮切りに、囚人たちは各々の武器を振りかざして大罪に突っ込んでいく。

 同様に大罪もギチギチと牙を鳴らし、大きく口を開いて突進してきた。

 

「ぐっ…! コイツ、植物のくせに動くのかよ!」

 

 すんでのところでヒースクリフは突進を躱した。しかし僅かにかすったらしく、腕には赤い線が刻まれていた。

 

「厄介ですね…! 私が一体引き受けます!」

 

「じゃあ俺も拘束してみるよ。数が減りゃ少しは楽だろ?」

 

 彼らがそう話し合っていると、後ろからチクタクという音が鳴り響く。

 

<人格を被せるよ! イシュメール、イサン、それからガリバーはこっちに!>

 

「分かりました。」

 

「ふうむ…。」

 

「分かった!」

 

 彼の言葉に三者三様の返答と共に頷いて、一処に集まる。

 彼らがダンテを見つめるとすぐにパリン、と鏡の割れるような音がした。

 

「セブン協会との合同依頼ですか。久しぶりですね。」

 

 シ協会の人格を被ったイシュメールが二人にペコリとお辞儀して、その手に握っている刀を構えた。

 

「だな。せいぜい足を引っ張らないよう頑張りますよ〜。」

 

「あの化生の分析はこちらに任されり、シは例様なることをせよ。」

 

 緑のスーツを身に纏ったガリバーは軽く手を振り、腰に下げているエストックをすらりと抜き放つ。

 

 彼をちらりと横目で見たイサンも同じように鞘から素早く抜いて構え、まず大きく一歩を踏み出して突き出した。

 

 斬撃に沿う形で花弁が散る。喰える獲物が現れたことに歓喜の方向を響かせる暴食大罪が我先にとガチガチ歯を鳴らしてイサンに接近した。

 

「ほっ。」

 

 しかし、その行動はガリバーによって防がれる。カィンと快音を鳴らして弾かれた暴食大罪は苛立たしげにガリバーを見つめている。

 

「見抜けたか?」

 

 目配せするとイサンはすぐに頷いた。

 

「うむ。奥に隠れたり目玉と思しき。シの者よ!」

 

「聞こえてます!」

 

 赤い一閃。花弁が散り、暴食大罪が漂わせている腐った葉の臭いが周囲に飛び散った。

 刀を一振して花を散らし、再びイシュメールがするりと姿を薄暗い支部の闇に溶け込ませた。

 

「いつ見てもすげーな、あの隠形。俺たちも真似できるかね?」

 

 ガリバーがヒソヒソとイサンに耳打ちした。

 

「安くんぞ必要あらんや?」

 

「ですよねー…。」

 

 ガリバーはがっくりと項垂れた。

 しかしそうこうしている場合でもないらしい。二人の耳にポーッという汽笛のような音が飛び込んできたからだ。

 

<イサン、ガリバー、12時方向から敵が近づいてる! 迎撃して!>

 

 二人はお互い顔を見合わせ、どちらからともなく再び暴食大罪に剣をついては突撃を躱す作業に戻った。

 

 

 

「やはり…赤い視線様の手下だと言えるくらいには、侮れない実力ですね。」

 

「…手下だって?」

 

 いなしきれなかった攻撃や噛みつきで手傷を負いつつも、どうにか一段落ついた頃。

 ホプキンスが下手でいやらしい愛想笑いを浮かべながら囚人たちにすり寄った。

 

「あらら、うちのホプキンスが失言しちゃって…私が代わりに謝りますね〜えへへ。ところで何でそんなノロノロしてるの、ホプキンス? 痔でも再発した?」

 

「な、何言ってるんだ? 俺がいつ…。」

 

「おやぁ?」

 

 ガリバーがニヤリと笑う。

 

「そーだったのかぁ、気が利かなくてすまなかった。ほら、薬やるよ。」

 

「要らない!」

 

 その場で暫くの間何かを拾うような仕草をしていたホプキンスが顔を真っ赤にしてガリバーを睨みつける。彼は素知らぬ顔で休憩所の扉を開けた。

 

「まあ、これくらいなら十分でしょう。」

 

 そして扉を開けて入るなり、ファウストがダンテの前に駆け寄って彼に色々と指図し始める。

 彼女の言葉が止んですぐにダンテが時計を回すと、囚人たちの怪我はみるみるうちに治っていった。

 

「あ〜すっきりした。」

 

「サンキュ、ダンテ管理人!」

 

<…どういたしまして。>

 

「その時計本当に不思議ですね〜ほんとに見たことも聞いたこともない技術ですよ。」

 

 アヤがまじまじとダンテの頭を見つめた。その傍らではホプキンスがどろりとした目で彼の頭を見聞していたものだから、ダンテは自分の頭を押さえながら一歩、一歩と後退りしている。

 

「ホプキンス、管理人にどうこうしたら流石にヴェルギリウスが黙っていないぞ。」

 

 ガリバーの注意でハッとしたように目を見開くホプキンス。ダンテはホッと肩を撫で下ろした。

 

「ファウスト嬢、管理人の持給う時計は彼の命を助けられぬか?」

 

 彼の様子を見ていたイサンがぼそりとファウストに耳打ちする。いや、彼にそんなつもりは毛頭なかったのだろうが、あまりに声が小さすぎて耳を寄せないと聞こえないほどの声量だった。

 

「時計は囚人にのみ作動します。」

 

 ファウストがそう断言した後の反応は三人全員違った。

 ホプキンスは肩を落とし、ユーリは表情を暗くさせたものの、アヤはいつもと変わらないのほほんとした表情のまま軽く言った。

 

「あぁ〜むしろそれで良かったよ。お腹に穴がポッカリ空いたのに、死ねずに生き返ったらそっちの方がもっと怖いでしょ?」

 

 そして何かを思い出すように目を伏せる。

 

「いや、お腹なら運が良いか。数秒で死ぬから……。」

 

 彼女がそう言い終わるか終わらないかのうちに、彼女の背後で何かが蠢いた。

 

「危ない!!」

 

「え? ちょ、うわっ!」

 

 咄嗟にガリバーが腕を引かなければどうなっていたか。

 壁から飛び出してきた頑丈な触手は獲物を引っ捕らえることが出来なかったからか、悔しそうに奥へと引っ込んでいくところだった。

 

「一般的な攻撃の形態を取っておりませんね。幻想体である確率が高いです。」

 

「そんなん見りゃ分かる! ユーリさん、アイツの正体は知ってるか?」

 

 グレゴールがユーリの方に振り向くと、彼女はすぐに応じた。

 

「黒壇女王の林檎です。地面や壁を這うツタに注意しながら、あの林檎を落としてください!」

 

 ユーリの叫びにウーティスが頷いて答え、ダンテの方に向き直る。

 

「管理人様。ご命令をお願いします。」

 

<…ユーリ、ホプキンス、アヤ。あの三人を私が蘇生することはできない。今回は運が良かっただけ…これ以上彼ら危険に晒したくなければ、今すぐ戦う準備をしないと駄目だ。>

 

「懸命な判断でございます。」

 

「あのチクタクって音が意味を成してはいるのか…?」

 

 ウーティスが刺すような目つきでホプキンスを睨みつけた。

 ビクッと震えて背筋を伸ばした彼に溜息を吐き、そして囚人たちに向き直る。

 

「…管理人様の命令だ、手下ども! 包囲陣形を構築する。目標は、前方の挙不者!」

 

「どー見ても人外なのに挙不「者」か? そんな間違っちゃないけどさ。」

 

 ケラケラ笑いながらガリバーがカンテラを構える。そして前を睨みつけながらもどこか面白そうに口角を上げた。

 

「さあさあお前ら、お待ちかねの幻想体だ! やり方はだいたい大罪ん時と同じだが、ギミック戦闘なことに注意しろよ。耐性や部位数と混乱区間の確認、それからパッシブにも気をつけろよな!」

 

 徐々に近寄る木の枝、人間の数倍はありそうな影。見る者に恐怖を与える姿の怖ろしげな姿とは対象的に、囚人たちは意気揚々と武器を振りかざして突っ込んでいった。

 

 

 

「なんだよ。終わりか?」

 

「ハハ、三乙してたけど…元気そうで何よりだ。」

 

 どうにか林檎を落とし終わった囚人一行。細かいことは観察日誌に記載されていたので省くが、とりあえずその後のことを記しておく。

 

 まず、ガリバーが笑いながらヒースクリフに手を伸ばした。しかしその手は伸ばされる最中でガシッと掴まれる。

 笑顔のまま硬直した灰色の男。ギギギと軋むような音を立てて振り向くヒースクリフ。ヒェッという声がどこからか漏れ聞こえてくる。

 

「そのうちの一回は誰のせいだと思ってやがる?」

 

「あーっ! すみませんでした! だから髪を掴むのはおやめください!」

 

 ガリバーは慌てて手を振りほどこうと暴れまわったが、しかし喧嘩慣れしている者には敵わない。生まれた一瞬の隙を突かれてぶんぶんと頭部を振り回される。グルグルと目を回している彼とヒースクリフのやりとりは、こんな下らないことで時計を回したくないとダンテが仲裁に入ったことでようやく終結を迎えた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「厄介だったね〜。人以外を相手するのは初めてかも?」

 

 その傍らでは肩で息をしているホプキンス、アヤが枯れた蔦の上に腰掛けて休んでいる。ユーリだけは先ほどから何かを探しているようにキョロキョロと周囲を見回しているが、三人とも無事だったようだ。

 

<思ったよりも弱かったな。一体これはどういうことだ?>

 

 視線を向けられたガリバーはゲホゲホと咳き込むのにご執心で、ダンテの質問に反応する暇もない。代わりに一連の流れを呆れた目で傍観していたファウストが答えた。

 

「クリフォト抑止力のせいです。」

 

「は? コーヒーポッドよく拾う?」

 

 ヒースクリフが素っ頓狂に返す。頭が痛そうに蟀谷を押さえつつもファウストは続ける。

 

「…幻想体たちを弱化させる力です。隔離室にて、より安全に幻想体を管理するために使われます。」

 

 そこに復活したらしいガリバーが補足した。

 

「幻想体を無理矢理()()()な状態にさせるんだ。だから奴らは弱いんだけど、抑止力もやっぱ万能ってわけでもないからな。黄金の枝っつー刺激があるとだんだん目覚めて活動的になるんだ。つまり…。」

 

「後の方になってくると、100回くらい死んで目覚めてもきついこともあるってことですね。」

 

 ガリバーがイシュメールの回答にしたり顔で頷く。

 

「ご明察。ま、そん頃には俺たちもずいぶん強くなってるだろうから悲観する必要はないさ。」

 

 ダンテがハッとしたように慌ててキョロキョロ、ユーリと同様に周囲を見回す。焦ったようにチクタク時計を激しく鳴らしている。

 

<ところで、幻想体の死体はどこへ行った? さっき死んだ気がするけど…。>

 

「おそらく息の根は止まっています。管理人様の卓越した指揮のおかげです。」

 

 ウーティスが平然と答えた。身に刻まれているのだろう。

 

<天に登ったわけじゃないだろうし…。>

 

「さすが管理人様です。その可能性も排除することはできませんね。」

 

「…お前らの目にはこの固そうな地下の天井が見えないのか?」

 

 グレゴールが呆れたように天を指した。

 そこにはコンクリートで固められたいかにも頑丈そうな天井が、ジジと音を鳴らして明滅する蛍光灯と共にただただその場で沈黙していた。

 

「じゃあ地面に沈んだとか。」

 

「節・穴」

 

 良秀が赤い目を更に深くしてガリバーを睨みつけた。いや、もしかしたら単なるジト目のつもりなのかもしれないが、刺々しい雰囲気も相まってどうにもおっかない。

 

「辛辣! っと、まあボケるのもこんくらいにしとくか。ほれ。」

 

 ガリバーは彼の足下に転がっている卵型の何かをひょいと持ち上げた。

 その上部は白い林檎のようで、縁を蔦が這っている。そしてその下部には紫色の宝石らしきものが埋め込まれている。

 

<卵?>

 

 ダンテが首を傾げる。ファウストが当たり前だろうというような表情でダンテをちらりと見た。

 

「幻想体の核ですね。適切に制圧した場合、このような核の形態で還元されます。」

 

「そしてやがて孵化します。この空間で一定時間過ぎるとです。」

 

 ユーリがガリバーから卵を受取って、そっと優しく抱えた。

 彼女はこの卵を通して何かを思い出しているらしく、懐かしいものを見るような瞳で卵を眺めていた。

 

「じゃ、倒しても死なないの〜? 大変だねぇ。」

 

 つい先ほど殺されかかっていたアヤがまるで他人事のように呟いた。

 

「幻想体は死にません。だからL社の生産エネルギー量がとてつもなかったような感じがします。」

 

 そんなファウストの言葉で目を白黒させたのはホプキンスだ。彼はファウストの外套の裾を掴んでぶんぶん揺さぶる。

 

「そ、そんなことを言っている場合か! もしかしたら今にもさっきの奴が復活するってことなんだろ!? どうにかする手立ては無いのか?」

 

「そんな焦らなくても大丈夫です。復活には時間がかかりますから。」

 

 ユーリが落ち着かせるように彼の手を掴み、そっとファウストから離れさせた。どうやらファウストは自分の服装に無頓着なのだろう、皺がよっていても直そうとする気配はない。

 

「卵が孵化する前に僕たちがやるべきことって何ですか?」

 

 シンクレアは良くないことを思い出したようにさあと顔色を青くさせていたものの、すぐに持ち直してファウストに尋ねた。

 

「リンバスカンパニーにはこのような幻想体を担当する部署が別途で存在します。彼らが回収していくはずです。」

 

「その…アフターチームですか? 案内されたときに聞きました。」

 

 ユーリが口を挟む。後ろでアヤとホプキンスも頷いていることからして、どうやら三人とも依頼された時に教わったらしい。社員にも伝えていないことをフィクサーに伝える、というのは報連相としてどうかとは思うが。

 

「じゃあモタモタしてないで早く呼んだら?」

 

 ファウストは目を逸らしながら気まずそうに答えた。

 

「連絡は…メフィストフェレスから可能です。」

 

「…ま、そんな気はしてたな。」

 

 グレゴールは苦笑いを浮かべる。彼の様子に慌てたのか、しかし表情を一切変えなかったので真意は分からないが、ファウストは口を開いた。

 

「そこまで心配する必要はありません。黄金の枝さえ見つかれば嫌でも帰ることになりますから。」

 

 黄金の枝を見つけて無事に帰れるかの心配はしていないらしい。

 行く過程がいちばん大変なのだろう。

 

 

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